11月10日 州知事達の決断 
Source :Governors Wrestling With Decision On Health Insurance Exchanges (Kaiser Health News)
昨日も紹介したように、州立"Exchange"創設の申請期限は1週間後の16日になっている。大統領選後、時間が極めて限られている中、早々に州立"Exchange"の創設を断念するとの発言が相次いでいる。上記sourceで紹介されているのは、次の知事達。
MissouriGov. Jay NixonD
VirginiaGov. Bob McDonnellR
KansasGov. Sam BrownbackR
こうした事態を受け、HHSは、州立"Exchange"創設の意思がある州については、申請期日を延期することも検討しているようだ。時間切れできってしまうと、創設したいと考えていた州も諦めてしまうかもしれない。そうなった場合、連邦政府にとっての負担は極めて重くなる。そもそも、連邦立の"Exchange"が効果的な機能を持ちうるのかが不確実な中、PPACAの目玉がワークしないといった事態に陥りかねない。

Obama政権は、再選早々、厳しい行政運営を迫られている。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル

11月9日 PPACA本格施行準備 
Source :Fate of Health Law Now Clear, States Rush to Meet Deadlines (New York Times)
上記sourceにある通り、今回の選挙で、"Obamacare"の是非に関する議論は、連邦レベルでは終了した。2014年の本格実施を前に、2013年は州レベルでの施行準備を急ぐ年になる。しかし、ある出口調査で示された通り、国民の半分は、『医療保険改革法は修正または廃止すべきだ』との意見を持っている。そのような社会情勢の中で、具体的な制度設計を進めるのは容易ではない。

州レベルでの検討が急がれる主な項目は、次の3つである。
  1. "Exchange"創設

    @州立、A州/連邦共同立、B連邦立のいずれかを選択しなければならない。これは11月16日(来週!)までに州政府が意思決定しなければならないことになっている(「Topics2012年5月19日 Exchange申請期日」参照)。

  2. Medicaid加入資格の拡大

    連邦最高裁判決で、「加入資格をPL100%から133%に拡大しない州に対し、根っこから連邦負担を削減することは認められない」とされた(「Topics2012年6月30日 医療保険改革法に合憲判決」参照)。これにより、財政負担増を嫌う州政府にとって、加入資格拡大を拒否しやすくなっている。

  3. 保険加入義務の扱い

    PACAで保険加入義務とペナルティがセットになっているが、州政府レベルでは保険加入義務をはずしているところも多い(「Topics2012年11月8日 2012年秋選挙結果」参照)。PPACAは連邦法なので、一応執行力はあるものとは思うが、問題は州民の意識の問題である。州民にとって生活に身近な法律は州法である。そこを超えて連邦政府が執行力を担保できるかどうか、という問題であろう。
※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル

11月8日 2012年秋選挙結果 
Source :Election 2012 (New York Times)
当websiteの関心にそって結果(11月8日時点)をまとめておく。 これで、PPACAは安泰となるが、州レベルでの判断が必要になる"Exchange"の創設と、保険加入義務を課さないことを決めている州でのPPACAの執行やペナルティの扱いも課題となろう。

Source : State Legislation and Actions Challenging Certain Health Reforms, 2011-2012 (NCSL)
また、連邦議会のねじれは続くため、財政の崖問題をはじめとした連邦レベルでの懸案(不法移民、同性婚など)はなかなか解決の道筋がつかないのではないか。

最後に、同性婚の状況は次のようになる。
同性カップルの法的ステータス
MarriageCivil UnionDomestic Partnership他州の法的ステータスの承認
施行日州 法州最高裁判決
Massachusetts2004.5.17A@Same-sex marriage
Connecticut2008.11.10A@Same-sex marriage
Iowa2009.4.24Same-sex marriage
Vermont2009.9.1Same-sex marriage
New Hampshire2010.1.1Same-sex marriage
Washington, D.C.2010.3.3○ (1992.6.11)Same-sex marriage
New York2011.7.24Same-sex marriage
Washington2012.12.62009.7.26〜2014.6.30:異性間は62歳以上のみ
2014.7.1〜:同性間、異性間とも62歳以上のみ
異性婚配偶者と同等権利賦与
Same-sex marriage
Maryland2013.1.1Same-sex marriage
Maine2013.1.1○→×→○**○ (2004.7.30)Same-sex marriage
California2008.6.17〜11.4○→×(→○)*○ (2005.1.1)
異性間は62歳以上のみ
異性婚配偶者と同等権利賦与
Domestic Partnershipとして認知
New Jersey○ (2007.2.19)(同性間のみ)
異性婚配偶者と同等権利賦与
○ (2004.7.10)
同性間、異性間とも62歳以上のみ
同性婚を含めて認知
Illinois○ (2011.6.1)
異性婚配偶者と同等権利賦与
同性婚を含めて認知
Rhode Island○ (2011.7.2)(同性間のみ)
異性婚配偶者と同等権利賦与
同性婚以外は認知
Hawaii○ (2012.1.1)
異性婚配偶者と同等権利賦与
同性婚以外は認知
Delaware○ (2012.1.1)(同性間のみ)
異性婚配偶者と同等権利賦与
同性婚を含めて認知
Oregon○ (2008.2.4)(同性間のみ)
異性婚配偶者と同等権利賦与
-
Wisconsin○ (2009.8.3)(同性間のみ)認知しない
Nevada○ (2009.10.1)
異性婚配偶者と同等権利賦与
同性婚以外は認知

* CA州最高裁判決○ → Proposition 8× → 連邦地方裁判所○ → 連邦第9控訴裁判所小法廷○
** ME州法成立→2009年州民投票不承認→2012年州民投票承認
※ 参考テーマ「大統領選(2012年)」、「無保険者対策/連邦レベル」、「同性カップル」、「移民/外国人労働者」、「労働組合」、

11月7日 Compton市屈服 
Source :Compton chips away at its CalPERS debt (Sacramento Bee)
CalPERSへの支払い($2.7M)が滞っていたCompton市は、6日までに$2.07Mを支払ったそうだ(「Topics2012年10月31日 CalPERSの提訴続く」参照)。残る不払い金は$600,000で、期限は今週10日となっている。

やはり、一般的な債権債務関係の履行を迫るような訴訟(州地方裁)では、同市に勝ち目はないと見たのだろう。CalPERSの訴訟は強力な武器であることが実証されたことになる。

もちろん、これでCalPERSが安泰という訳ではない。
  1. 自治体の資金繰りが苦しいという理由だけで不払いとなることは回避できるが、CalPERSへの拠出が重荷となってChapter 9に入ってしまう自治体が増加する可能性がある。

  2. 既にChapter 9に入った自治体から支払われるべき拠出金を回収できるかどうかは、依然として不透明である。
CalPERSにとって憂鬱な日々が続くことであろう。

※ 参考テーマ「地方政府年金

11月6日 カナダ経済の弱点 
Source :Is Canada Suffering from the 'Dutch Disease'? (Knowledge@Wharton)
久し振りのカナダネタである。

など、国境一つ越えたアメリカ人にとっては羨望の的となっているカナダだが、抱えている課題も沢山あるという。内容は上記sourceを読んでいただきたいが、課題を列記すると次のようになる。 意外なのは、『州際取引の規制緩和が進んでいない』点である。1990年にアメリカとの間で自由貿易協定を結び、NAFTAの一角を占めるカナダでありながら、州間の取引については自由化が進んでいないという。British Columbia州とAlberta州は、2010年になって、ようやく貿易・投資・労働移動協定を締結した。最大州であるQuebec州とOntario州とは、依然として自由商取引協定について協議中という。 各州とも、国境を接しているアメリカとの間では自由貿易を享受しながら、隣り合う州との間ではそれが実現していない。より現実的に言えば、国境を跨いだビジネスは盛んだが、州境を跨いだビジネスはあまり行われてこなかった、ということである。

少し話題は逸れるが、夏の旅行でカナディアン・ロッキーからSault Ste. Marieまで国境に沿ってハイウェイを車で走ったことがある。ハイウェイ自体はいい道路なのだが、そこから南北に延びる道路がかなりシャビーであったことを記憶している。自然条件を考えれば当然のことなのかもしれないが、このハイウェイを利用してモノが動いているという実感は得られなかった。

※ 参考テーマ「カナダ事情

11月5日 州際保険購入法の効果 
Source :Selling Health Insurance Across State Lines : An Assessment of State Laws and Implications for Improving Choice and Affordability of Coverage (The Center on Health Insurance Reforms : Georgetown University Health Policy Institute)
当websiteでも時々取り上げてきた州境を越えた医療保険プランの購入についてである。上記sourceでは、実際に州際保険購入を認める、または進めようとしている州法を取り上げて、その効果を見極めようとしている。
  1. 実際に州際保険購入に触れている州法を持つのは、全米で6州のみである。
    州際保険購入を認める州共同保険市場の創設を促進する州際保険購入導入のための調査研究を実施する
    Georgia
    Maine
    Wyoming
    Kentucky
    Rhode Island
    Washington
  2. 州際保険購入を認めようとする理由は次の通り。
    • 共通しているのは、『保険購入をしやすくする』こと
    • 『保険料嵩上げの要因になりやすい義務的給付を嫌って無保険になることを防ぐ』、『近隣州の保険市場と同等にする』といった目的もあることを、当局者は認識している

  3. 州際保険購入の実施が可能かどうかの調査研究を行っている3州のうち、Kentucky、Washington両州は『実施には障害が大きい』との結論を出している。

  4. 州際保険購入法を施行している3州のうち、Georgia、Wyomingでは、州際を越えて保険プランを販売してきた保険会社は一つもなく、その意向を示している保険会社も皆無である。Maine州では、まだ実績はないものの、市場参入を検討している意向を伝えてきた保険会社がある。

  5. 州境を越えて保険プランを販売することが難しい理由としては、次のようなものが挙げられている。
    • 州外の保険会社にとって、州内の医療機関とのネットワークを新たに構築することが難しい。

    • 州によって規制や義務的給付の内容が異なることへの懸念が大きい。

    • 州境を越えて保険を販売することによるコスト上昇が見込まれる。

  6. 各州の保険当局者にとっても課題が多い。
    • 他州の認可を受けた保険会社に保険プラン販売を認めることで、州民の保護ができるかという疑念が大きい。

    • 隣接する州の保険当局がほとんど関心を示さない。

    • 複数州による共同保険市場の創設は、複雑で課題が多く、実施に至るまでにはさらにかなりの時間が必要である。

  7. 州際保険購入を求めているのは、州議会議員、シンクタンク、一部の中小企業などで、実際の当事者である患者団体や保険会社はほとんど関心を示さない。

  8. こうした状況で、連邦立法レベルで州際保険購入を認める法律を施行させたところで、保険プラン市場に選択肢を増やすという目的は達成できないだろう。
ここで注目しておかなければならないのは、上述ポイントの7.と8.である。州際保険購入推進派は、選択肢の増加とコスト抑制を目的に導入を求めているが、実際の州レベルではほとんど現実味がない、と結論しているのである。要するに、州際保険購入は、まだまだ机上の空論レベル、ということである。

そうすると、PPACAで、"Exchange"を複数州で共同運営することを認めている(「Topics2012年5月19日 Exchange申請期日」参照)が、これも実現できる州はないかもしれない、ということになる。実際、上記の6州は、地理的に隣接しているところはなく、逆に見れば各州とも隣接州の関心を得られる段階にまでは来ていない。

なお、NCSLにも"Allowing the Purchase of Health Insurance from Out-of-State Insurers"の現状を解説しているページがある。ここには、何故かWashington州の記述は一切掲載されていない。

※ 参考テーマ「無保険者対策/州レベル」、「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/ME州」、「無保険者対策/GA州

11月4日 SRI/ESGの実態 
Source :Trends in Environmental, Social, and Governance Investing (BNY MELLON)
上記sourceは、BNY MELLONという投資サービス会社が、顧客を対象に行った調査の結果である。"SRI/ESG"は、Socially Responsible Investing (SRI) or Environmental, Social, and Governance (ESG)のことで、投資を行う際に、こうした分野を考慮しているかどうか、という調査である。

ポイントは次の通り。
  1. 投資主体の中では、州政府等の地方政府年金(例えばCalPERS)が35%が考慮している。しかし、民間企業年金ではそれほどそのウェイトは高くない(16%)。
  2. SRI投資と伝統的な投資では、パフォーマンスに大差はない。
  3. 考慮していない理由では、『関心がない』が最も多い。民間企業年金の中には、ERISAの受託者責任に触れるのではないか、との懸念が示されている。
  4. 『今後SRI/ESGの重要性は高まる』と考えているのは、約1/3にとどまる。
  5. SRI/ESGを考慮する場合、投資対象に含める方針よりも排除する方針を採用している場合が多い。
  6. SRI/ESGの中で最も重視する分野として挙げられているのは、人権問題。そのあと、武器、タバコ、地雷と続く。やはり、これらの分野に関連する投資対象は排除する、という方針が多いのであろう。それにしても、武器と地雷の間にタバコが入ってくるのか、と少し驚く。
年金資産運用の世界では、まだまだ位置付けが難しい課題のようである。

※ 参考テーマ「DB/DCプラン」、「地方政府年金

11月3日 GM & A.A. 
Source :GM Reports Third Quarter Net Income of $1.5 billion as EBIT-adjusted increases to $2.3 billion (GM)
Statement from PBGC Director Josh Gotbaum on American Airlines Announcement of Plan Freezes (PBGC)
GMは退職年金プランの一時金選択(「Topics2012年6月6日 一時金払い:GM先行」参照)を募集していたが、今回の決算発表で、その結果を公表した。それによると、応募資格者のうち約30%が一時金を選択した。この結果は、経営側が予測していた水準を少し上回ったようだ(Pension & Investments)。

また、今回一時金を選択しなかった応募資格者に関する年金給付はPrudentialに移管される。この結果、GMが削減できる将来給付債務は、予測よりも若干増額され、$28.7Bとなる。
こうした一連のpension buyoutによって、GMの給与所得者を対象とした年金プランは、次のような姿に変身する。
このようにわずかに残った年金プランについても、将来的には廃止する考えであり、その時点で、GMの"pension de-risking"は完了する。

一方、Chapter 11による再建を目指しているA.A.は、予定通り、4つの年金プランを凍結する旨を発表した(「Topics2012年3月9日 A.A.が方針転換」参照)。これに対し、上記sourceのように、PBGCは複雑なコメントをしている。『受給権を確保できたのはよかったが、将来分がもうないのは残念』と。PBGCの保険料収入も失われた。

アメリカ企業における"pension de-risking"は着実に進んでいる。

※ 参考テーマ「DB/DCプラン」、「PBGC/Chapter 11

11月2日 スケジュール管理ソフト 
Source :A Part-Time Life, as Hours Shrink and Shift (New York Times)
小売業や飲食業でpart-timerの比率が高まっている。その中で、強力なスケジュール管理ソフトが開発され、part-timerの働き方が一変しているという。代表的なスケジュール管理ソフトのメーカーとして、上記sourceでは、DayforceKronosの2社が紹介されている。

では、こうした企業が開発したスケジュール管理ソフトで、どのようなことができるようになったのか。 こうした管理により、雇い主側は労働コストの4〜5%を節約できるということだが、part-timerの働き方は一変してしまった。

  1. Part-timerのシフト予定が週単位で組まれるようになった。

  2. 一回のシフトが2〜3時間単位に短縮化された。

  3. 顧客の流れによっては直前になって呼び出される可能性が高まった。

  4. 有能なpart-timerを効率よく利用するようなシフトが組めるようになった。
こうしたツールを雇い主側が持つことにより、雇い主のpart-timerに対する指図力は高まる。有能で呼び出しに的確に応じられるpart-timerを優先的に使うことができるようになるからである。逆に、part-timer側は、能力が低ければ少ない時間しか割り当てられなくなり、収入は低水準となる。また、大学の授業や子育てなどでまとまった時間が必要となる場合にも割り当ては少なくなる。

こうした状況は、雇い主のための"flexible worker"であり、働き手のWLBを実現するための"flexible work"とは程遠い。

余計な話だが、このようなスケジュール管理ソフトであれば、各part-timerの週間労働時間を30時間未満に抑えるように管理することは簡単だろう。これでPPACAに基づくペナルティを回避することができる。

労働時間を短く区切って徹底的に労働コストを管理する。そんな意図が透けてくるようである。

※ 参考テーマ「人事政策/労働法制」、「Flexible Work」、「無保険者対策/連邦レベル

11月1日 MD州の医療費抑制策 
Source :Yes, we do know how to control health cost inflation (Washington Post)
今まで知らなかったのだが、MD州は独自の医療費抑制策を講じている。それは病院の診療報酬の公定化である。1976年に病院の診療報酬を公定化した結果、当時の病院医療費は全米平均に較べて26%高かったのが、2008年には全米平均にまで下がって来ている。

この動きを他州も真似、1990年代には30州が診療報酬を公定化したが、(病院側に)あまりにも不人気なため、徐々に廃止されていき、コスト抑制策としてはHMOに移行していった。その結果、現時点で診療報酬を公定化しているのはMD州だけとなっているそうだ。

おそらく、次はVT州になるだろう。VT州は、MD州を超えて、単一保険プランを目指している。従って、自動的に診療報酬は公定化されることになる。

ところで、上記sourceによると、先進国の中で、2000年代の一人当たり医療費の平均伸び率が最も低い国として、Luxembourgが挙げられている。10年間の平均伸び率はわずか0.7%である。同国民は自由に医療機関を選択できるが、すべての診療報酬は政府が決定するという。
日本も同じシステムであるはずなのに、平均伸び率は2.4%とかなり上回っている。むしろ、アメリカの3.3%に近いくらいだ。同じシステムでも、決定者が国民生活の方を向いているのか、医療機関の方を向いているのかで、異なる結果に至るのであろうか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/MD州」、「無保険者対策/VT州