3月9日 A.A.が方針転換 
Source :A Letter to Employees (American Airlines)
Chapter 11で再建中のA.A.がDBプランの扱いについて、大きな方針転換を示した。これまで、すべてのDBプランを廃止(terminate)しPBGCに移管するとしてきたが、ここにきて、一部のプランを除き、"凍結(freeze)"する方向で検討するという。もちろん、最終決定は、債権者会議や破産裁判所との協議を経なければならない。

凍結の方向で検討することにならなかった「一部のプラン」とは、パイロットを対象とした"pilot A plan"というプランである。A.A.の説明(Letter)によれば、ただちに凍結対象とすることができない理由は次の通り。 従って、このプランについては廃止以外の代替案としてどのようなものが考えられるか、さらに検討することとしている。

少し脇道にそれるが、当websiteでは、昨年10月に、A.A.の年金プランに一時金受け取りのオプションが用意されていて、大量の退職者を誘発していることを紹介している(「Topics2011年10月6日 AAのDBに危機説」参照)。

さて、こうしたA.A.の方針転換について、当然のことながら、PBGCは歓迎の意向を表明している(Press Release)。しかし、それが糠喜びに終わる可能性も残されている。

  1. "Pilot A plan"について、廃止以外の代替案が見つからない場合、PBGCに移管される可能性が残されている。

  2. Chapter 11による再建策を検討する中で、年金プランの凍結では労働コストの削減が充分に行えないとの結論に至った場合、改めて廃止にする可能性が残されている。

  3. 最後に、これはPBGCにとっての悪夢だが、年金プラン凍結のままChapter 11から再生したとしても、コスト削減が充分に行えなかったために、A.A.が再びChapter 11に戻ってくる可能性も残されている。
3点目は重要である。なにせ、他の航空会社の多くは、Chapter 11により年金債務を降ろして再生してきているのだから、競争条件が同じになっているとは言えないかもしれない。PBGCにとってみれば、気の抜けない年月が続くことになろう。

※ 参考テーマ「PBGC/Chapter 11

3月7日 NY州公務員年金の課題解決策 
Source :How to Pay for Pensions (New York Times)
全米中の自治体が、年金債務問題に直面している。今回は、あくまでNY州に限った話だが、同様の議論は各地で行われている。そのNY州の課題解決策のポイントは次の通り。
  1. 州、各自治体等は、今年の拠出金を負担し、残りの積立不足額については、10年かけて分割払いとする。その際、利払い分も負担する。
  2. 将来的には、拠出金を増額する。また、新規採用者については退職年齢を引き上げる。
  3. 給付水準(30年勤続)を現行の60%から50%に引き下げる。
  4. 時間外勤務の悪用を規制する。
NYT紙は、これで仕方ないだろう、と結論付けているが、NY州公務員が受け取る年金の実態は、とても甘いと言わざるを得ない。NY州の自治体関係者で結成している"NY Leaders for Pension Reform"という団体ですら、NYC職員の年金制度は大甘だと批判し、改革を進めるべきと主張している(Analysis of Most Recent Data on New York City's Pensions)。

その一端を紹介すると、 これでは、州政府が打ち出している案で「仕方ない」では収まらないのではないだろうか。

※ 参考テーマ「地方政府年金

3月6日 レジュメの行方 
Source :Why the Job Search Is Like 'Throwing Paper Airplanes into the Galaxy' (Knowledge@Wharton)
就職難を裏付けるようなエッセーである。

職を求めてレジュメを提出しても、答えが返ってこない。どうしてだめだったのかの理由もわからない。そうした状況を『銀河に向かって紙飛行機を飛ばすようなもの』と例えている。実際、Fortuneの働きたい職場ベスト100についてレジュメを出してみたところ、27の企業からしか、「他の人間を採用した」との通知が来なかったという。逆に言えば、73の企業からはなしのつぶてであったということだ。働きたい職場ベスト100でもその程度の対応なのである。

企業側からすると、 など、簡単には対応できない理由がある。

しかし、そうした事態を看過してはいけない、という動きもあるようだ。採用活動が応募者に悪い印象を残すと、企業活動に影響を及ぼす可能性があるからだ。遠い昔になってしまうが、自分の就職活動の時に持った企業の印象とは、なかなか抜けないものである。

上記sourceで紹介されている2つの試みは次の通り。
  1. Candidate Experience Awardsに応募し、客観的に外部から採用活動を評価してもらう。

  2. 社員の紹介を重視する。
どんなに技術が発達しても、「就職活動/採用活動」は人間社会・企業にとって永遠の課題であろう。

※ 参考テーマ「人事政策/労働法制

3月5日 "Super Commuters" 
Source :The Emergence of the "Super-Commuter" (The Rudin Center for Transportation Policy and Management)
上記sourceによれば、"Super Commuters"とは、次のように定義されている。
"a person who works in the central county of a given metropolitan area, but lives beyond the boundaries of that metropolitan area, commuting long distance by air, rail, car, bus, or a combination of modes."
この"Super Commuters"が急速に増え、かなりの規模になっているというのである。その一端は次の通り。 "Super Commuters"の生活様式は、この記事(BusinessWeek)に詳しい。地域における職のミスマッチ、住宅バブル崩壊による影響、家族生活への考え方、交通手段の多様化など、様々な背景がありそうだ。

※ 参考テーマ「人口/結婚/家庭/生活

3月4日 PBGCは誰のため? 
Source :Pension Insurance Data (PBGC)
上記sourceで2010年版のPBGC Data Bookが公表されたので、ちょっと遡って調べてみた。PBGCに移管された年金プランBig 10の変遷である。

1985〜1996年
1975〜2001年
1975〜2010年
これを見て、気付きの点をいくつか。
  1. 昔から鉄鋼会社と航空会社からの移管が多かった。

  2. 2000年までと2001年以降で、移管される年金プランの規模ががらりと変わり、大型化した。

  3. これにAMRが加われば、さらに巨大な移管となる。PBGCが必死に食い止めようとするのも頷ける。
※ 参考テーマ「PBGC/Chapter 11

3月3日 NH州:同性婚に逆風 
Source :As Gay Marriage Gains Ground in Nation, New Hampshire May Revoke Its Law (New York Times)
WA州、MD州と、同性婚認可法案が成立し、全米的には同性婚に順風が吹いているが、NH州では逆風が吹いているとのことである。

NH州では、2009年6月に同性婚認可法案が可決、成立し、その後、約1900組の同性婚が認可されている。その時は州議会が民主党が多数を占めていた。しかし、2010年の州議会選挙で、上下両院とも共和党が圧倒的多数を占めている。
NH州議会共和党民主党空 席
上 院2931052
下 院195-
州議会共和党は、選挙後、虎視眈々と法案提出、審議のタイミングを計ってきたが、上院への送付期限が3月29日とあと1ヵ月というタイミングで攻勢を仕掛け始めたようだ。現在、州議会下院に提出されている同性婚認可法廃止法案では、これまでに同性婚を認めたものを失効させることはしないが、新規の認可はしないという内容である。 州知事(D)は、これまでの経緯から法案が例え上下両院で可決されたとしても、拒否権を発動すると見られている。問題は、議会共和党が州知事の拒否権を覆すことができるかどうかだ。党派別の数だけ見れば、拒否権を覆すだけの充分な議席数は整っている。

しかも、議会共和党は、今回失敗したとしても、州知事は今年限りの任期であるため、次の州知事選に全力を傾けるとのことである。

理念や社会の価値観を論争するのはいいが、実際には州内に2,000組近い同性婚者が誕生している。同性婚認可法が廃止になると、これらのカップルの法的ステータスは極めて脆弱なものとならざるを得ない。これは、CA州で起きていることと同様の混乱である。

※ 参考テーマ「同性カップル

3月2日 加州版国民年金基金? 
Source :Dems seek state-run pensions for private workers (AP)
2月23日、CA州議会上院に、州政府が運営する年金プランを設立する法案(SB 1234Status, History))が上程された。同法案の提案内容は次の通り。
  1. "Golden State Retirement Savings Trust"を設立する。

  2. 運営委員会の構成は6人。State treasurer, controller, director of finance and an appointment each by the governor, Senate and Assembly。

  3. 従業員5人以上の企業は、その従業員を「個人年金プログラム」に加入させなければならない。

  4. 従業員が非加入を選択しない限り、自動的に報酬の3%をtrustに拠出する。

  5. 同プログラムはDB型で、退職時の給付額を保証。

  6. CalPERSなどの年金基金と契約。

  7. 対象企業は、独自の年金プランを提供するか、同プログラムへの加入機会を提供しなければならない。両方とも怠った場合には、従業員一人当たり$1,000の罰金を科す。

  8. 法案上、企業拠出は求めていないが、他の法案により求める可能性がある。
給付額を保証するといっても最終的に運用がうまくいかなければ税金を突っ込むことにならないか、$75Bもの積立不足を抱えているCalPERSに任せて大丈夫か、など、まだまだ議論すべき課題はたくさん残されており、実現までには時間がかかると見込まれる。

ところで、制度概要を読んでいて、これは日本の国民年金基金ではないか、と思った。ただし、国民年金基金の場合、企業への提供義務が課されていない。この点は、むしろアメリカの医療保険改革法の考え方に近い。

※ 参考テーマ「企業年金関連法制

3月1日 医療費抑制は可能か 
Source :Single-Payer Health Care Is Coming To America-Are We Ready? (Forbes)
Can Massachusetts Lead The Way On Controlling Health Costs? (Kaiser Health News)
全く別々のアプローチから、医療費抑制は難しいのではないか、との悲観的な見方が紹介されている。 第1のアプローチは、「民間保険会社の存続は難しく、政府が管理する単一保険制度への移行すべき」と提唱する立場からの見方である(Forbes)。そのポイントは次の通り。
  1. 最大の民間保険会社のCEOが、『株式会社等の利益追求型の保険会社は存続の危機を迎えている』と述べている。その理由は次の2点。

    1. 医療保険改革法で、リスクによる加入者の選別を禁止された。

    2. MLR規制が入った。

  2. 民間保険会社では、これまで管理費用と称して多額の搾取が行われていたために、医療費の抑制は図れなかった。公的管理の単一保険制度になれば、当初はこうしたコストが吐き出されて費用は一旦低下するが、自己負担や免責制がしっかりと組みこまれなければ、再び医療費は増加していくことになる。

  3. 単一保険制度における医療費抑制策が明確にならなければ、今の民間保険会社の下と同様、保険料の上昇、無保険者の増加が続いていくことになる。
第2のアプローチは、医療保険改革法に先行して医療保険加入を義務付けたMA州における経験と予測に基づくアプローチである(Kaiser Health News)。これについては、4人の専門家の意見を表形式にまとめてみる。
質 問 事 項 Stuart Altman
Brandeis University
David Cutler
Harvard University
Jonathan Gruber
MIT
Meredith Rosenthal
Harvard School of Public Health
MA州の保険料の伸びが低下しているが、将来もこの傾向は続くか 対策は講じてきたが、長期的には伸びが高まる。 診療費の伸びを考慮して保険料が設定される仕組みになっている。まだまだ課題は多い。 早計である。経済成長と同様の伸び率になったと確信するには数年かかる。 まだ課題の解決には至っていない。
過去に較べて保険料の伸びが抑制されている理由 医療機関、保険会社が批判を恐れて自粛している。問題はこれが続くかどうかである。 過剰診療の抑制を図っている。院内感染、不必要な再入院などを回避している。 景気後退、患者負担増、医療機関の連携強化、保険会社・医療機関に対する政治圧力の高まり。 景気後退、所得の低下、高額診療の当局への報告
"Global payment"に対する評価
「Topics2011年10月21日 民主党州知事達の試み」参照)
医療費抑制効果はある程度ある。アクセスを制限される患者の反発を懸念。 ある程度評価する。コスト意識の高まりが期待できる。州政府からの圧力が重要。 まったく評価できない。 当面の保険料の抑制効果については懐疑的だが、長期的な医療費抑制には重要。
医療費増加目標値を設定すべきか 市場機能により価格は低下する。政府は何もする必要はない。 州民所得の伸びの範囲内にすべき。 実現は難しいし、それほど賛成ではないが、なんらかの手立ては必要。 ゆるやかな目標設定は必要だが、その水準についてもっと議論が必要。
目標値を上回った保険会社、医療機関をどうするか 市場の規律に任せるべきだが、必要があれば規制を設けることも選択肢の一つ。全米で同様のルールを設定しなければ意味がない。 診療価格や罹患率が予想よりも高まったり、新技術が開発されたりして、結果責任は問えない。 保険料の一部返還をすべき。 継続的に目標値を上回るような診療機関や保険会社への資金を削減すべき。
医療費抑制策については、まだまだ議論が必要なようである。これが実現しなければ、連邦レベルでの医療保険改革法も、MA州の皆保険制度も、無保険者対策としての実効はあがらない。

※ 参考テーマ「医療保険プラン