9月20日 企業の医療保険戦略 
Source :Employer Survey on Purchasing Value in Health Care 2012(Towers Watson)
上記sourceは、大企業が医療保険を提供していくうえで、どのような戦略を考えているのかを探る調査である。当websiteとして関心を持った事項についてまとめておく。
  1. 2012年の従業員一人当たりの医療費は$11,664で、前年比6.2%と物価上昇率を大幅に上回っている。
  2. 保険料負担を5年前と比較すると、企業側は34%増、従業員側は40%増となっている。
  3. PPACAが本格施行となる2014年以降も、現役従業員に対して医療費を補助していくことは重要だと考えているが、退職者への補助はほとんど重要だとは考えていない。
  4. ただし、その際、現在の保険プランを単純に継続するという訳ではなさそうである。すぐに医療保険プランの提供を止めてしまおうというところは少ないものの、加入資格を一定の社員に限定し、その他の従業員はExchangeにはいってもらう、とか、ペナルティが最小限になるように医療保険プランを見直す、といった考え方が多くなっている。
  5. さらに、10年以上先になれば、必ずしも医療保険プランを提供しているかどうかわからないというところが圧倒的多数になっている。
  6. また、退職者については、2014年に稼働するExchangeが有効と考え、企業からの補助、プラン提供などはしないとするところが半数近くになっている。
  7. 従業員の健康増進策については、ますます関心が高まっている。
  8. 個人勘定型の支援策が広まっており、中でもHSAの利用はひと際高まっている。
Exchnageの始動により、企業は、パートタイマーや退職者について医療保険プラン提供のあり方を考え直そうとしている。やはり、PPACAは、企業が提供する医療保険プランの中身を大きく変えていくようである。

※ 参考テーマ「医療保険プラン」、「無保険者対策/連邦レベル」、「HSA

9月19日 杜撰な指紋管理 
Source :Fingerprint records reveal 825,000 immigrants with multiple names, inconsistent birth dates (Nextgov.com)
アメリカに入国する際には指紋をとられるが、Homeland Security Departmentの内部調査によると、>82万5,000個の指紋について、複数の人間のものとして登録されている。これは登録指紋数の0.2%に相当する。小さいように思われるが、入国管理を行っているUS-VISITでは外国人の個人を特定できないことになる。1,000個の指紋うち2つは、個人を特定できない訳だから。

この事態は、当websiteではお馴染みの"E-Verify"の信頼性に影響を及ぼす。US-VISITは、E-Verify運営にも利用されているからだ(Federal Register)。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

9月18日 医療費抑制の試み 
Source :Health Care Where You Work (New York Times)
タイトルだけ読むと、"on-site clinic"のことかな、と思ったが、本文を読んでみると、これまで当websiteでも取り上げてきた課題が、複合的な視点から盛り込まれていて、大変勉強になる事例であることがわかった。少し丁寧にまとめておきたい。

上記sourceで取り上げているのは、Bellin Healthという非営利医療機関だが、医療サービス提供機関としての側面と、雇用主としての側面の両面で、医療費抑制の試みが行われていることを紹介している。
  1. 医療サービス提供機関として

    1. 事業規模

      • ベッド数:178床(中規模)
      • プライマリーケア・スタッフ中心:医師95人
      • 近隣の医療提供ネットワークと提携関係

    2. 医療の質

      • 心臓発作に伴う死亡率の低さは全米で16位
      • 心臓発作での入退院後、30日以内の再入院率の低さは全米で9位
      • 心臓疾患での入退院後、30日以内の再入院率の低さは全米で23位

    3. 企業との医療提供契約

      • 企業と直接契約を結び、"on-site clinic"を開設する。
      • 主にパートタイム看護師、ナース・プラクティショナー、医療補助者が軽度の怪我や病気に対応するとともに、生活指導、予防検査などを行う。
      • 患者は当日予約で診療を受けられる。

    4. Medicare ACO


    5. 医療費抑制実績

      • 生前2年間の医療費抑制については、全米医療機関のうちトップ4%に入る。
      • Medicare加入者一人あたりの医療費は、全米平均よりも20%少ない。

    6. 医師の報酬

      • 医師に対しては、出来高払いで報酬を支払う。
      • プライマリー・ケアに重点を置き、不必要な診療行為を抑制するガイドラインを徹底している。

  2. 雇用主として

    1. 診療所での受診

      • 従業員には、地元のShopKoというショッピングセンターに設けてあるFastCareという診療所での受診を推奨している。
      • 外来基本料の$56は全額事業主(Bellin Health)が負担する。従業員負担はゼロ。

    2. 医療費抑制実績

      • 2003〜2011年の従業員一人当たり医療費の伸びは、全米平均をかなり下回った。
      • 4年間で$52Mの経費削減ができた。
こんなに素材がテンコ盛りの記事はそう滅多にあるものではない。素晴らしい取り組みだ・・・。ただ、一つ疑問が残ってしまった。この医療提供機関は、地域住民に対してまったくオープンなのだろうか。企業との契約を前面に出したビジネスモデルという印象であり、裏返せば、患者、被保険者が特定集団だけなのかもしれない。Medicareについても、そのOB・退職者だけ、とか。

仮に、そのようなクローズドのグループが対象ということであれば、プライマリーケア、予防、健康指導に重点を置くことでACOとして活動しやすくなるだろう。医療費抑制も実現しやすい。

その辺りは、websiteを見ていてもよくわからなかった。

なお、今回、HHSのwebsiteの中に、ACOsに関するサイトがあったので、記録しておく。

※ 参考テーマ「医療保険プラン」、「ACO

9月17日 ソーダ規制は"nanny state"? 
Source : The Soda Tax Gamble: Will It Really Make Us Healthier? (Knowledge@Wharton)
Voting 8 to 0, Health Panel Approves Restriction on Sale of Large Sugary Drinks (New York Times)
New York approves supersize drinks ban (Financial Times)
9月13日、NY市の健康委員会(Board of Health)は、Bloomberg市長が5月に提案した炭酸飲料の販売制限案について、承認を下した。

まず、Bloomberg市長の提案内容は次の通り。 なお、市の健康委員会は、構成員11人全員がBloomberg市長の指名で就任している。うち、一人は退任して空席、一人は欠席、一人は棄権で、残る8人全員が賛成票を投じた。つまり、市長に対して反対を言えない委員会であり、形式的な票決に過ぎない。司法から施行停止命令が出なければ、来年3月12日に施行となっている。 本件は、日本でも報道されたように、注目度は高い。

賛成派は、次のような論拠を挙げて、ソーダ飲料の販売を規制しようとしている。 一方、反対派、特に飲料メーカーは、次のような主張をして強く反発している。 ソーダ課税が新たな財源として魅力的に映るのは、医療保険改革法(PPACA)の検討過程でも紹介したことがある(「Topics2010年2月10日 Soda Taxの行方」参照)。

ところで、反対派の主張の最後の点は、大げさではないか、と思うが、NY市長の提案に最も強硬に反対活動を行い、訴訟も検討している団体の一つに、"New Yorkers for Beverage Choices"がある。この団体は、NY市内の飲食業者が中心になっているようだが、こうした活動が広く支援を得ている背景には、『行政や法律が人々の飲食を左右しようとするのは、人々の自由意思を束縛しようとしている』と感じているアメリカ人が多い、ということらしい。

こうした人々の自由意思を束縛しようとする国のことを、"nanny state"と呼ぶそうだ。Longmanによると、
"a government which tries to control the lives of its citizens too much"
とある。こうした政府の口出しを嫌うところが、アメリカ人気質のようである。何か医療保険の個人加入義務を嫌うところと通じているような気がする。

※ 参考テーマ「人口/結婚/家庭/生活

9月16日 企業提供プランへのこだわり 
Source :Health Care Changes Ahead Survey Report (Towers Watson)
上記sourceは、Towers Watsonが440の中堅・大企業を対象に医療保険プランに関する調査を行った結果である。ポイントは次の2点。
  1. 2013年の従業員一人当たり医療コストは、$11,507、伸び率は5.3%と見ている。

  2. 将来的にも従業員に医療保険プランを提供し続けると確信している割合は、88%と異様に高い。これは、2011年の調査時よりも17%ポイントも高い。
もちろん、従業員に医療保険プランを提供することのメリットは、従来から認識されている(US News and World Report)。しかし、それだけでは、この17%ポイントの上昇は説明できない。

管理人が想像する理由は、次の2点。
  1. 医療保険プランを提供しなくなることで、コスト面では有利になるかもしれないが、医療保険改革法の『ペナルティ』を課されることは、企業ブランドに傷がつく。

  2. 労働者の需給に一部ミスマッチが生じており、事業継続に必要な人材を的確に確保するためには、医療保険プランの提供が前提条件となっている。
確かに、MA州でも、皆保険法施行後、企業が提供する医療保険プランへの加入者は増えている(「Topics2009年9月5日 MA州は今」参照)。全米でも同様の動きとなるかどうか、結果が待ち遠しいところである。

※ 参考テーマ「医療保険プラン

9月15日 無保険者割合低下 
Source :Census: Uninsured Numbers Decline As More Young Adults Gain Coverage (Kaiser Health News)
2011年のセンサスが公表され、無保険者数、割合とも前年から低下した。
上のグラフからもわかるように、下がったと言っても、リセッションに入る前の水準よりはまだ高い。

上記sourceでは、前年に較べて低下した理由を2点挙げている。
  1. Medicaidのような公的医療保障プログラムへの加入者が増えた。
    2010年2011年
    Medicaid加入者数48.5M50.8M
    加入者割合15.8%16.5%
    公的医療保障全体加入者数95.5M100M
    加入者割合31%32%
  2. 民間保険の加入者が、最近10年間で初めて下がらなかった。中でも、PPACAにより、19〜25歳の加入者が増えた。
これで、Obama政権の成果と評価してもらえるだろうか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

9月14日 退去猶予承認始まる 
Source :Quick Start to Program Offering Immigrants a Reprieve (New York Times)
一定の要件の範囲内で若い不法移民の国外退去措置を2年間停止する措置に基づいて、今週からその承認が始まった(「Topics2012年6月17日 若い不法移民を保護」参照)。申請者にはメール等を通じて迅速に連絡されている。

申請手続きが始まってから1ヵ月弱が経ったところだが、申請総数は72,000人強と、予想を下回っているそうだ(「Topics2012年8月16日 国外退去延期手続き開始」参照)。その理由として挙げられているのが次の諸点である。 予てから指摘しているように、最後の点は重要である。この行政措置が廃止されれば、今回の申請者リストは、即座に不法滞在者リストに転じるのである。法律と行政執行が矛盾している状況を、そう長く続けるわけにはいかない。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

9月13日 IRSは関与せず 
Source :IRS Clarifies Health Law Role to Skeptical Republicans (New York Times)
11日に開かれた連邦議会下院のsubcommittee of the tax-writing Ways and Means Committeeで、IRSMiller副委員長が次のように証言した。
  1. 保険未加入に伴うペナルティ(税)について、IRSが果たすべき役割はない。税務調査も行わない。

  2. ほとんどの納税者は、納税申告書に保険加入の有無を記載し、ペナルティ(税)を支払う。IRSとしては、それより先の関わりは必要とされていない。
つまり、ペナルティの支払いはあくまで納税者個人の善意に任せ、税務調査等による精査、追徴は行わない、というのである。

PPACAでは、2014年以降、個人に保険加入義務を課すとともに、加入しない場合には、次のようなペナルティ(税)を課すこととなっている。
しかも全米が注目していた連邦最高裁の判決で、このペナルティ(税)について、明確に"Tax"である、と解釈して、加入義務は合憲と判決した(「Topics2012年6月30日 医療保険改革法に合憲判決」参照)。

ところが、IRSがペナルティ(税)の実効性を担保する行動を取らないということになると、「加入義務」というのはどういう意味合いを持つことになるのだろうか。

実は、PPACA自体が、IRSの差し押さえ等罰則の実効性を担保する行動を禁じている(「Topics2012年7月8日 ペナルティにならない」参照)。従って、冒頭のIRS副委員長の証言は、当然の帰結なのである。

個人加入義務とペナルティ(税)とは表裏一体の関係であるはずなのに、実はそうではない、という実態がどんどん明らかになっている。『税なのに強制力が及ばない。』そんな矛盾した制度が施行されようとしているのである。

それにしても、連邦最高裁の判決は杜撰だ。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

9月12日 Medicaid:厳しい給付抑制 
Source :Sharp Cuts in Dental Coverage for Adults on Medicaid (New York Times)
Medicaidの給付抑制措置が次々と採られている(「Topics2010年10月12日 Medicaid縮小策:AZ州」参照)。財政均衡義務、連邦政府負担の引き下げ、Medicaid加入資格の変更禁止、といった環境の中では、やむを得ない措置である。

そうした中で、最も大きくしわ寄せを受けているのが、歯科診療だという。 加えて、可能であれば、診療報酬の引き下げも検討されているだろう。そうなると、Medicaidを提供してくれる医療機関も少なくなる。

低所得者にとって厳しい状況が続いている。

※ 参考テーマ「解雇事情/失業対策

9月11日 州政府債務 
Source :State Budget Solutions' third annual State Debt Report shows total state debt over $4 trillion (State Budget Solutions)
上記sourceでは、いろいろな調査統計を組み合せて、州政府としての債務全体を試算している。

まず、50州全体の債務総額とその構成は次の通り。

Debt Factor

State Total
(in thousands)

Outstanding Debt

$631,358,746

Unemployment Trust Fund Loans

$24,617,078

FY 2013 Total Budget Gap

$54,983,000

OPEB UAAL

$627,234,633

AEI Pension UAAL

$2,860,967,581

Total State Debt

$4,199,161,038

総額は4.2兆ドルと気の遠くなりそうな金額であり、その中でもとりわけ大きいのが年金プランの積立不足(2.9兆ドル)である。

また、債務の大きい方、小さい方5州は次の通り。

States

Highest Total State Debt
(in thousands)

States

Lowest Total State Debt
(in thousands)

California

$617,620,709

Vermont

$5,846,189

New York

$300,066,114

North Dakota

$6,116,162

Texas

$286,999,196

South Dakota

$6,536,680

New Jersey

$282,393,641

Wyoming

$6,927,767

Illinois

$271,111,148

Nebraska

$7,829,117

債務の大きい方5州は、いずれも当websiteでよく登場してくる州である。財政バランスを義務付けられている州政府としては、必死に汗をかかざるを得ない状況がしばらく続くものと思われる。

※ 参考テーマ「地方政府年金」、「自治体退職者医療/GAS 45