9月10日 Game-time's over 
Source :Game-time's over (The White House)
9日夜、予定通り、Obama大統領の医療保険改革を推進しようというスピーチが行われた。いろいろな形容は省き、実質的な意味のある提案と思われるポイントは次の通り。
  1. 3つの改革目的(テキスト該当部分)
    1. 今保険加入している人に安心と安定を約束する。
    2. 保険加入していない人に保険プランを提供する。
    3. 医療費増加を抑制する。

  2. 現在保険に加入している人に関しては、何も変更がないことを約束する。(テキスト該当部分)

  3. 病歴によって保険加入を拒否することは禁止する。(テキスト該当部分)

  4. 保険給付に何らかの形で上限を設けることを禁止する。逆に、自己負担の上限を設ける。(テキスト該当部分)

  5. 個人、小規模企業のために、4年以内に新たな保険市場"Exchange"を創設する。(テキスト該当部分)

  6. それでも保険プランを購入できない個人、小規模企業のために、税額控除制度を用意する。(テキスト該当部分)

  7. 個人に基礎的な保険プランへの加入を義務付ける。また、企業には"Pay-or-Play"ルールを適用する。ただし、保険購入が困難な個人、95%の小規模企業については免責とする。(テキスト該当部分)

  8. 非営利の公的プランを創設し、"exchange"で購入可能にする。公的プランは保険料のみを収入源とし、独立採算とする。(テキスト該当部分)

  9. 改革の財源($900B/10Y)(テキスト該当部分)
    1. 財政赤字を拡大させない。(テキスト該当部分)
    2. 現行の財政支出の合理化(Medicareを含む)により、必要な財源のほとんどを捻出する。(テキスト該当部分)
    3. 各保険会社が提供する最も高額の保険プランを対象に課税する。(テキスト該当部分)
正直な感想として、この段階での大統領スピーチとしては物足りない気がする。アメリカ連邦議会でこれだけのことを話すことは大変なことなのだろうか?改革の枠組みを提供しただけで、"details"にまでわたって大統領が必要と思われる事項を国民に説明したとは思えない。それとも、大統領スピーチというのはこの程度の一般論で済ませるのが当たり前なのだろうか。夏の間に全米で混乱を招いたのに、この程度の説明で国民は納得するのだろうか。

この大統領スピーチを受けて、Baucus上院議員は、『共和党の協力の有無に拘わらず、2週間以内に財政委員会で法案を審議し、可決する』と宣言した。やはり、彼の法案を勉強しておかなければならないかもしれない。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

9月9日 大統領スピーチ前夜 
Source :Baucus presents healthcare overhaul plan (Los Angeles Times)
8日、Baucus上院議員は、「公的プラン」に代わる「共済プラン」を盛り込んだ法案を上院の超党派6人組に提示したが、結局、誰からもコミットメントは得られなかった。他の5人は、大統領スピーチの内容を見極めたい、との姿勢を貫いたようだ。これで、Baucus上院議員が法案作成をリードする、という形にはならないことが明らかになった。

上院共和党は、今晩の大統領演説を聞いたうえで、Baucus上院議員が提示した法案を「たたき台」にするという考え方のようだ。つまり、まだまだ譲歩を求める部分がある、という訳だ。

一方、民主党内は依然として混乱している。Pelosi下院議長をはじめとするリベラル派は「公的プラン」が不可欠と主張し、Blue-Dogsはもはや「公的プラン」は支持できない、とそれぞれのこれまでの主張を繰り返している(Washington Post)。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

9月8日 心許ないタッグ 
Source :As Obama Speech Nears, Details on a Compromise (New York Times)
あくまでもNew York Times紙の論調なので、記者の取材や編集者の見立てが間違っていればそれまでである。それにしても、上記sourceに含まれる次の2つのフレーズは気になる。 Obama大統領とBaucus上院議員の関係がこんな状態では、二人の間に連携プレーが存在する訳もない(「9月7日(1) Baucus上院議員も始動」参照)。

ところで、管理人自身も気付いていて大丈夫かな、と心配していることがある。お気付きかもしれないが、"source"として引用する媒体がNew York Timesに偏っているのである。ちなみに、8月1日から今日までをカウントしてみると、医療保険改革関係のコメントが24本。うち、17本でNYTを引用している。3分の2以上の割合である。

それでも、そうしたくなるくらい、このところのNew York Times紙のHealth Careに関する取材は突出している。とにかく早い。それに、関心のあるところを深掘りしている。どうしても引用したくなる。それに対して、情けないのがWashington Post紙である。お膝元で議論が進んでいるのに、ほとんど追い切れていない。切れ味もさっぱりである。

なお、主な論点について、下院案、上院案、コスト推計、賛成意見、反対意見をまとめている記事(Los Angeles Times)があったので掲載しておく。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

9月7日(1) Baucus上院議員も始動 
Source :Health care bill expected soon from Senate panel (BusinessWeek)
今週9日の大統領議会演説を前に、Baucus上院議員が活動を再開した。4日(金)に超党派6人組(「Topics2009年7月29日 上院議員6人案」参照)で電話会議を2時間にわたって行なったなかで、同議員は、「共和党の譲歩を長くは待っていられない」と発言したそうだ。これは、同議員がこれまでの超党派による法案作成に拘ってきた方針を転換し、Obama大統領の演説を受けて速やかに法案作成を行う、という意思表示と受け取られている。

当sebsiteでも紹介した通り、超党派6人組に入っているGrassley上院議員は、民主党の議論の進め方に対して公式に反発しており、超党派の合意に前向きではなくなってきていると言われている(「Topics2009年8月20日(2) 民主党首脳が単独採決を模索」参照)。Enzi上院議員も同様である。

こうした共和党の動きを踏まえ、Obama大統領とBaucus上院議員の間で連携プレーができていて、9日の大統領演説がセットされているとしたら、大したものである。法案可決に向かって民主党内も動き出すのかもしれない。

そこで重要になってくるのが、民主党内リベラル派の動向である。上記sourceによれば、リベラル派議員達は、3日(木)に「公的プラン創設が盛り込まれていない法案は支持できない」とのレターを大統領に送付した。その後、大統領と電話会談を行なったが、大統領は公的プランについて確約はしなかったと伝えられている。リベラル派がどこまで主張を貫くのか、大統領がリベラル派に配慮するのか(「Topics2009年9月2日 中道派の価値観」参照)。どうもこのあたりが法案推進のカギとなりそうである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

9月7日(2) Baucus試案 
Source :New Fee on Health Insurance Companies Is Proposed to Help Expand Coverage (New York Times)
そうこうしているうちに、New York Times紙は、Baucus上院議員が他の超党派6人組のメンバーに試案を回付したとの記事を掲載した。上記sourceで触れているポイントは次の通り。
  1. 民間保険会社と競合するような「公的プラン」の創設は含まない。

  2. 保険会社に新たな税を課す。各保険会社が提供する最も高価な保険プランを課税対象とする。2010年から課税を開始し、初年度の税収見込みは$6B。
     「Topics2009年8月5日(1) ベテラン議員の知恵」参照)

  3. FPL 300%未満の低所得者層に、保険料、自己負担、免責額を対象とした補助金を給付する。FPL 300〜400%の層にも一定の保護を設け、保険料等の負担が所得の13%を超えないように抑える。

  4. 自己負担(免責額を含む)に上限を設ける(家族で年間$11,900、単身で年間$5,950)。
Baucus上院議員は、Obama大統領の両院議会演説(9日予定)の前に、6人組の間だけでもコンセンサスを作り上げようとしているらしい。これが、Obama大統領スピーチへのレッド・カーペットとなればよいが、自らの功績を得るための焦りとすれば、むしろ障害ともなり得る「Topics2009年6月25日 Baucusがキーパーソン」参照)。

一方、同じNew York Times紙で、大統領側近達の差し迫ったコメントが掲載されている(New York Times)。
  1. 大統領が最優先政策課題に掲げてしまったために、(国民が)信頼できる案を成立させなければならなくなった。それができなければ、大統領としての信頼が揺らぐことになる。

  2. 統治するとは、選択するということである。

  3. Obama大統領は、引き続き「公的プラン」の創設を訴えるだろうが、それが含まれていない法案に拒否権を発動することはないだろう。
微妙な神経戦が繰り広げられているようだ。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

9月6日 退職後所得奨励策を提案 
Source :President Obama Announces New Initiatives for Retirement Savings (The White House)
Labor Day(今年は9月7日)を前に、Obama大統領は、退職後所得の奨励策を提案した。

その提案のポイントは次の通り(Fact Sheet)。
  1. 401(k)ほか退職所得勘定の自動加入制度を拡充する。
    1. 自動加入の手続きを簡素化する。
    2. 年々の拠出額の増加を予め決めておくことができるようにする。
    3. SIMPLE-IRA(IRSPublication 590, P.71)への自動加入を認める。

  2. 退職所得勘定を新たに開設しなくてもよいように、税額還付を政府貯蓄債券(US savings bonds)で受け取れるようにする。

  3. 使い残した有給休暇等の換金額を401(k)等に振り込むことを可能とする。

  4. IRSに関する説明書を簡易にする。

  5. 雇用主が退職所得プランを提供していない場合、従業員が天引きによりIRAに拠出できるようにする。

  6. Savers Tax Credit(IRSPublication 590, P81)を拡充し、低中所得者層を対象に、401(k)またはIRAへの拠出の半額をtax creditsにより直接マッチング拠出する。上限額は一人当たり$500/Y。

401(k)プラン、IRA奨励については、大統領選中の選挙公約でも謳っており、特に目新しいものではない(「Topics2008年9月14日 Obamaの企業年金改革案」参照)。最後のtax creditによるマッチング拠出は、クリントン候補も主張していた(「Topics2007年10月13日 減税でマッチング:ヒラリー提案」参照)もので、民主党の政策としては充分ありうるものと思われる。

ただし、これだけ財政赤字が膨らんだ段階で、実現可能かどうかは疑問である。

※ 参考テーマ「企業年金関連法制」、「DB/DCプラン」、「大統領選(2008年)

9月5日 MA州は今 
Source :Massachusetts Health Care Reform: Three Years Later (Kaiser Family Foundation)
Kaiser Family Foundationが、MA州の医療保険改革をレビューしている。2006年に皆保険法を成立させ、3年たったところでその成果と教訓は何か、ということである。上記sourceは、その中のFact Sheetと呼ばれているものだが、コンパクトにまとまっていて、MA州の医療保険改革を理解するのには最適である。そのポイントは次の通り。
  1. 改革の主要項目

    1. 個人の加入義務
      2007年7月1日に保険加入義務化。加入しなければ最高$912のペナルティ。

    2. "Pay-or-Play"ルール
      2007年7月1日より、従業員11人以上の企業に"Pay-or-Play"ルールを適用。医療保険を提供しない場合には、従業員一人当たり$295の拠出義務。従業員の保険購入のためのカフェテリア・プラン(§125)提供の義務化。

    3. MassHealthの拡充
      MA州のMedicaidの対象者拡大(FPL300%未満の家庭の子供)

    4. Commonwealth保険プラン
      FPL300%未満を対象とした保険プラン(補助金付)の提供。

    5. Commonwealth Connector
      個人、小規模事業者が購入できる保険プランの選択肢を用意。現在、6社がプランを提供。

    6. 個人保険プランと小規模グループ保険プランの市場統合

  2. 新規保険加入者

    1. 2006年後半以降、43万人が新たに保険に加入。

    2. MA州推計では、無保険者割合2.6%(2008年6月30日時点)。

    3. 新規加入者の56%が公的プラン(Commonwealth保険プラン+MassHealth)を利用。

    4. 企業提供保険プランの加入者は14万9,000人増加。

    5. 19,000人がConnectorを通じて、22,000人が統合された個人市場を通じて新規加入。

  3. 医療へのアクセス

    1. 概ね医療へのアクセスは改善しており、成人の90%以上は医療機関へのアクセスを保持している。

    2. しかし、21%の州民が費用を理由に必要な医療を受けていない。

    3. 従って、依然としてコミュニティ医療センターをはじめとした地域の医療セーフティネットの役割は大きい。

  4. 医療の質の向上とコスト抑制

    1. 2008年、MA州の医療改革は第2段階に入った。ここでは医療の質の改善とコスト抑制に焦点を当てている。法案は2008年8月10日に成立している。
      1. 2015年までに全州で医療情報をデジタル化する。
      2. 診療報酬請求の様式を統一する。
      3. 医療機関を対象とした公開ヒアリングを毎年開催し、コスト増の要因、コスト抑制策を探る。同時に、"never events"への償還払いを禁止する。
      4. 製薬会社から医師への贈答品禁止。医療機関を対象に、処方薬の効率的な利用方法に関する研修の実施。
      5. プライマリーケアの推進

    2. 診療報酬特別委員会の設置。今年7月に、出来高払い制度からグループ診療報酬制度への移行を提言。

  5. 景気後退期の改革継続努力

    1. 改革が成功し、公的保険プランへの加入者が増えたため、財政支出抑制策を採っている。

    2. 3万人の合法移民に対する医療提供を停止したが、今年7月に$40Mを用意し、MassHealthその他の公的プランを通じて合法移民に医療を提供している。

    3. 民間企業に追加拠出を求め、$100Mを徴収した。

    4. タバコ税を$1/pack引き上げることにより、2009年$160M、2010年$145Mの増収を確保した。
また、別の研究論文では、こうしたMA州皆保険改革から得られる教訓として、次の5点を挙げている。
  1. 「公的プラン」により、低所得者層の医療へのアクセスを改善させ、購入可能な医療保険プランを提供することができた。

  2. しかし、州の補助対象になっていない所得層の中には、依然として医療保険プランを購入できない人たちがいる。

  3. 慢性症を持っている人達の中には、費用負担が重いために医療を受けられない人たちがいる。

  4. 制度が複雑なために、所得変動が大きい人などは補助プランからこぼれてしまう場合がある。

  5. 自己負担が重くなることを懸念して、必要な医療が受けられない場合がある。
1点目は、現在連邦レベルで行われている医療保険改革にとっても意味のある教訓になり得る。

※ 参考テーマ「無保険者対策/MA州」、「無保険者対策/連邦レベル

9月4日 弱小労組の悲哀 
Source :Union: GM agrees to pay $50M more for Delphi retiree health care (The Detroit News)
GM破綻後の退職者医療を巡る交渉は、まだまだ続いているようだ。上記sourceは、GMがDelphi退職者5万人に対して総額$50Mの医療費を支払うことで合意した、と伝えている。合意内容のポイントは次の通り。
  1. 65歳未満の退職者でGMの医療保険に加入している者に対しては、加入プランを改善する。元々提供されていた高免責制に伴う負担を軽減するため、総額$50Mを新たに拠出する。保険料軽減額は不明。

  2. Medicaid加入資格者については、GMによる医療保険提供をやめる。

  3. 対象者は、United Steelworkers(USW)の組合員6,200名、IUE-CWAの組合員41,000人。

  4. 65歳以上の退職者については、GMが$1Bの給付債務を負っているが、最終的に負担する金額は、依然交渉中。

IUE-CWA、USW両組合によれば、所属のDelphi退職者達は、年金、退職者医療合わせて総額$3.5Bものベネフィットを失っており、退職者達の生活は極めて不安定になっているという。こうした状況に危機感を強めているのが、Ohio州選出の連邦議会下院議員達である。多くのDelphi退職者達が同州に居住しているからである。

その下院議員達が主張しているのは、「どの組合員も同等に扱え」というものである。何が言いたいのかというと、UAWの退職者医療は手厚いのに、これら弱小労組の取り扱いはひどいじゃないか、という訳である。確かに、UAWとの交渉は、政治舞台の中心に据えられ、結果としても他の債権者に比べて厚遇された感がある。他方のこれら弱小組合は、いまだに交渉を続けている状況にある。

こういう世界がアメリカの労使交渉の現場なのであろう。

※ 参考テーマ「PBGC/Chapter 11」、「VEBA/Legacy Cost」、「労働組合

9月3日 医療改革は仕切り直しか 
Source :Obama to push Congress on health (FT.com)
上記sourceによれば、Obama大統領は、来週9日(水)、連邦議会両院議員を前に、医療保険改革についてスピーチを行い、議論を進めるよう促す予定だ。そこでは、明確な言葉で彼が法案に盛り込むべきと考える内容を伝えることになる。

当websiteでは、再三、この点を指摘してきた。Obama大統領の明確な指示と具体的な盛り込むべき内容が明らかにならなければ、議会も国民も混乱する。いや、すでにしてしまっている。 ただし、言うは易し、で、その具体的な提案内容によっては、政治的混乱が増す可能性がある。

「公的プラン」創設について、大統領は断念する可能性が高まっているそうだが、これは、リベラル派からの猛反発が予想される。

また、審議手法として、大統領は"reconciliation process"は利用したくないようだ(Kaiser Health News)。上下両院とも、民主党が優に過半数を押さえてはいるものの、下院には"Blue Dogs"、上院には例の超党派6人組に加え、民主党保守派であるBen Nelson上院議員が、「医療については超党派での合意が必要だ」と早々と宣言してしまっている(New York Times)。

昨日紹介したコラムでもそうだが、こうしてみると、中道派の納得感を得なければ改革は進められないとの認識が広まりつつある。

来週水曜日を楽しみにしておきたい。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

9月2日 中道派の価値観 
Source :Op-Ed Columnist - The Obama Slide (New York Times)
いよいよ議会再開まで1週間となった。この夏、アメリカで最も暑かったのは、全米で展開された"town hall meetings"であろう。中でも、Spector上院議員が開催した会合の模様は、NHKの海外ネットワークでも紹介され、多くの日本人も目にしたことであろう。最後に「裏切り者」と吐き捨てて参加者が会場を出ていく場面は、なかなかアメリカでは見られない状況だと思う。実際、Specter上院議員も、「こんなことは初めての経験だ」とコメントしていた。

少し話はそれるが、件のSpecter上院議員は、地元で屈辱的な扱いを受けているようだ。Specter上院議員は、来年、選挙の洗礼を受けることになっている。当然、選挙で争う相手がいる。一人は、身内の民主党で予備選を戦う相手。もう一人は、本選で争う共和党候補者である。これらSpecter上院議員の競争相手となる予定の二人が、Specter上院議員抜きで、医療改革に関する公開討論を予定しているそうだ(New York Times)。

話を戻して、この「裏切り者」という発言は、よく考えてみると、二つの意味がありそうだ。この場面をテレビで見た時は、かつての支持者が、「"民主党に寝返った"裏切り者」となじったのだと思っていた(「Topics2009年4月29日(2) Filibuster回避」参照)。もちろんそういう可能性もあるだろうが、それほどまで熱い支持者だった人が、参加人数を絞った会合にわざわざ出掛けるだろうか、という疑問も生じる。

そこで、もう一つの意味合いとして、国民を代表して連邦議会に出ているはずなのに「"国民の価値観とは異なる政策を掲げている"裏切り者」ということかもしれない、と思えてきた。

上記sourceは、New York Times紙に掲載されたDavid Brooks氏のコラムである。Brooks氏は、2003年から同紙に寄稿しているコラムニストである。

コラムの要旨は次の通り。
  1. 昨冬には、2つのうねりがあった。"Obama"といううねりと、"中道派(Independents)"といううねりである。

  2. Obama大統領にとっての命題は、39%にも膨れ上がった中道派の支持を得ながら、民主党主導の議会で政策課題を推し進めていくことであった。

  3. しかし、連邦政府にはそれができなかった。景気対策で財政赤字は膨らみ、権限はWashingtonに集中するようになった。

  4. 結果は、Obama大統領への信認の急落である。懸念ばかりが広がり、国民の59%が「間違った方向に進んでいる」と考えている。

  5. 議会民主党に対する見方も急変しており、手のつけられない状況となっている。来年の下院選挙で、民主党は20議席以上を失う可能性がある。Reid院内総務でさえ、地元の共和党候補に大きく後れをとっている。

  6. 国民はObama大統領の政策提案に厳しい視線を注いでいる。個々の政策提案についてぼんやりとしたイメージしか持てず、大統領が主張すればするほど、その政策は支出拡大、大きな政府、伝統的なアメリカ社会からの乖離を招くのではないかと考えるようになっている。

  7. 今や医療改革に対する国民の反対は強固なものになりつつある。それはクリントン大統領時代の様相とそっくりだ。

  8. 議会民主党は"reconciliation process"により押し切ろうとしているが、これは自殺行為だ。これにより、Obama大統領は決定的に「リベラル」の立場に立つことになり、中道派を説得することができなくなる。大統領は、35%の(リベラル派)国民の大統領に過ぎなくなる。

  9. 財政支出の抑制は中道派にとって重要な政策課題であり、財政赤字が膨張していることに怒っている。

  10. 国民の多くは、依然としてObama大統領に成功してもらいたいと考えているが、アメリカ国民の基本的な価値観にそぐわないようなら、阻止する方法を考えざるを得ない。

  11. Obama大統領は信頼の急落を止めなければならない。政策提案の内容を、中道派の価値観(財政の健全性、個人の選択肢、分権)に合わせるべきである。

  12. ここまでの出来事は、Obama大統領を左側に寄せてしまった。バランスを回復すべき時である。

「裏切り者」と吐き捨てた参加者は、中道派だったのかもしれない。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「政治/外交

9月1日 MA州特別選挙の日程 
Source :Kennedy’s Seat: Mass. Governor Sets Date for Special Election (New York Times)
8月31日、MA州知事は、来年1月19日に、MA州上院議員選出のための特別選挙を実施することを公表した(「Topics2009年8月27日 Kennedy上院議員の遺言」参照)。同時に、後継上院議員選出までの間、臨時上院議員を選出するという考えを支持する旨、繰り返し強調した。

州議会は、これに応じて、今後、公聴会を開催し、州民から意見を聴取する考えであることを表明した。おそらく、立法手続き等を考慮すれば、相当に急ぐスケジュールとなろう。

州議会民主党内には、自らルール変更した選出方法を改めて変えることに躊躇する向きもあるが、州知事は、「私はその時にはいなかったもんね。それよりも、連邦議会での重要法案審議に、MA州として2票を投じて意思表明することが重要でしょ」と突っぱねている。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「政治/外交