7月31日 経営者報酬改革:財務省提案 
Source :New Independence for Compensation CommitteesSay-On-Pay (Department of Treasury)
今月16日、財務省は、経営者報酬改革案として、報酬委員会の独立性の確保と、株主による投票に関する提案概要を公表した。これは、先にGeithner財務長官が示した改革の方向性にそって提出されたものである(「Topics2009年6月11日(3) 経営者報酬五原則」参照)。

概要は以下の通り。
  1. "Say-On-Pay"

    1. すべての上場企業について、経営者報酬に関する年1回の非拘束株主投票を義務付ける。

    2. 投票に付す報酬には、経営者首脳の給与、ボーナス、株式付与、ストック・オプション等すべての報酬と、golden parachute、年金プランの概要を含める。また、報酬委員会の決定内容について、文章で説明を加える。

    3. M&A時のgolden parachuteについては、それ単独の株主投票を義務付ける。その際、受取総額について明確かつ単純な開示を求める。

  2. New Independence for Compensation Committees

    次の3段階を踏む。

    1. 第1段階:SOX法を参照し、新たな独立性基準に見合う報酬委員会委員構成とする。

    2. 報酬委員会が契約した報酬コンサルタントや弁護士が、経営陣から独立していること求める。

    3. 報酬委員会の決定が株主にとっての最大の利益となるよう、独立した報酬コンサルタント等を雇う権限と財源を報酬委員会に付与する。報酬コンサルタントを利用しない場合には、その旨株主に対して説明することを求める。
アメリカ社会は、当事者同士が確認しあうのではなく、第三者が保証することでよしとする文化があると思う。上記にある通り、SOX法の時には公認会計士であったし、今度は人事コンサルタントである。この人事コンサルタントは、法的資格を有しているわけではないだろうから、どこまでそのアドバイスの正当性を認知するのか、結構大きな問題を含んでいるような気がする。

※ 参考テーマ「経営者報酬」、「SOX法

7月30日 夏休み前の仕上がり 
Source :House Panel Restarts Health Talks (New York Times)
下院は、今週末で実質審議を終え、夏休みに入る。夏休みは8月3日(月)〜9月4日(金)となっているが、Labor Dayが9月7日(月)なので、審議再開は9月8日(火)となる。一方、上院の夏休みは、8月10日(月)〜9月7日(月)となっており、夏休みまでにはあと1週間ある。

こうしたスケジュール感の中、夏休み前にどこまで議論が進んだか、が、連邦議会議員にとって重要となる。議員達は、ほぼ1ヵ月間、地元に戻って選挙民と相対することになるからである。

結論からいえば、民主党幹部は、『法案の具体的内容は明らかにしないものの、医療保険改革は前進している』というメッセージを持たせて、議員達を見送るようである。

その仕上がり状況の見せ方であるが、まず、下院では、ストップしていたEnergy and Commerce Committeeでの議論を、29日に再開したようである。実は、その確認をしようと思って、同委員会のwebsiteにアクセスを試みたのだが、アクセス件数が過剰となっているため開けない、とのことであった。みんな、どのような取引が行われたのか、確認しようとしているのだろう。

上記sourceによれば、Blue DogsとObama大統領との間では、Medicareの支出を抑制する権限を付与した独立委員会の設置を法案に盛り込むことで合意が得られたようだ。Blue Dogsの立場からは、歳出抑制のメカニズムを埋め込んでおきたい、ということであろう。

しかし、これは、お互いがどこまで本気で合意しているのか、疑わしいところである。特に、Obama大統領は、28日、AARPとの会合で『Medicareは削減しない』と公言したばかりである。本当にBlue Dogsと合意しているのであれば、『二枚舌』もいいところである。

また、同委員会再開前日には、大統領府、Blue DogsとPelosi下院議長ほか下院関係者が会合を持っている。ここで、Pelosi議長は、何とか「前進している」という形をつけたいということで、協力を求めたのであろう。その結論は、『委員会は再開するが、下院全体の投票は夏休み前には行わない』というものであった。従って、何も具体的には決まっていないという状況は変わっていない。

他方、上院では、Baucus上院議員が、法案の具体的な内容は示さずに、次のようなアナウンスメントを行っている。
  1. CBOから新たな推計結果を受け取った。
  2. 現在検討中の法案内容であれば、改革に要するコストは、10年間で$900B以下に抑制できる。
  3. 2015年までに、保険加入率は95%にまで上昇する。
  4. 財政赤字は拡大しない。
いいことずくめである。最後の財政赤字の件について、New York Timesの記事では、おそらくMedicare支出の削減と新たな税で見合いの財源は確保できるのだろうと推測されている。ここでもMedicareの歳出削減が予定されているようだ。

要するに、両院とも法案に落とし込めるほど具体策が詰め切れていないのである。

こうした状況に対し、アメリカ国民はObama大統領の改革推進力に疑問を呈し始めている(New York Times/CBS New Poll)。加えて、医療保険改革が実行されることにより、受信できる医療の質の低下、自己負担の増加、増税、医療機関・医療内容の選択肢の制限などを懸念しているようである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

7月29日 上院議員6人案 
Source :Health Policy Now Carved Out at a More Centrist Table (New York Times)
Pelosi下院議長の熱意にも拘らず、下院Energy and Commerce Committee審議日程はまったく立っていない

そうした下院での行き詰まりをよそに、上院では、超党派による法案作成に向けた議論が続いている。その法案作成作業を担っているのが、次の6人である。
所属委員会
民 主 党
共 和 党
Finance Committee
Max Baucus
(Chairman)
Charles E. Grassley
Olympia J. Snowe
Health, Education Labor and Pensions Committee
Jeff Bingaman
Michael B. Enzi
Budget Committee
Kent Conrad
(Chairman)
-
そして、その超党派法案の内容として議論されている概要は、次の通り。
  1. 連邦政府医療保険プランの創設は見送り、民間非営利共済組合のネットワークを提案。

  2. 所得加算税は見送る。代替案として、共和党3人は医療分野での増税、民主党3人は$25,000以上の価値のある保険プランへの課税を提案している。

  3. 企業の医療保険プランの提供義務付けを見送る。

  4. 病歴等による保険加入拒否を禁止する。
これを見ると一目瞭然で、やはり財源の手当てがほとんどできていない。

さて、上院がこのような議論を超党派で進めていることに対し、Obama大統領はどのようなスタンスを取るのであろうか。Pelosi下院議長が強行に推し進めようとするリベラルな下院案を取るのか、超党派のモデレートな上院案を取るのか。

従来のpragmaticなObama大統領の政治スタンスであれば、間違いなく上院案であろう。しかし、自分がこれまで最重要政策課題として提案してきたことが一つも取り入れられていないような案を採択することに、大統領選で支持してくれた国民の負託に応えられる、と判断できるであろうか。何よりも、上院の、つまりは古いワシントンの政治の言いなりではないか、と糾弾されることを恐れるのではないだろうか。

大統領として様々な想いが胸をよぎる夏となりそうである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

7月28日 3割が凍結 
Source :Pension Freezes Continue Among Fortune 1000 Companies in 2009 (Watson Wyatt Insider)
Fortune 1000の企業の中で、DBの凍結がどんどん進んでいる。上記sourceによれば、2009年、DBプランを運営している企業が607社あるが、そのうち31.3%の企業が凍結されたDBプランを持っているという。

当websiteとして注目したのは、上記sourceの図表3である。

これをみると、解説では2003年から凍結が顕著になった、とあるが、やはり、2006年、2007年の凍結数の増加が目立つ。2006年8月に成立したPPAが大きな影響をもたらしたと考えざるを得まい。

※ 参考テーマ「DB/DCプラン」、「 企業年金関連法制

7月27日 あと20%? 
Source :Pelosi Vows Passage of Health-Care Overhaul (Washington Post)
White Houseの医療改革担当者は、皆口をそろえて、「法案に関して80%は固まった。あと20%について詰めるだけだ」と話しているそうだ。しかし、その20%に懸念を抱いているのが、Blue Dogsと新人議員達である。Blue Dogs達は、さらに歳出の抑制を求めており、新人議員達は、加算税に懸念を抱いているという。

こうした状況にも拘わらず、Pelosi下院議長は、今週中に下院の採決に持ち込みたいとしている。改革への動きを止めないため、という。もちろん、下院で可決できれば民主党としては一歩前進であり、上院での議論を後押しすることができる。しかし、負ければObama大統領、下院民主党リーダー達にとっては、取り返しのつかない大きな失点となる。

まさに、賭けというべき政治行動である。というよりも、採決に持ち込みたいと発言した段階で、既に賽は投げられている。採決に持ち込めなければ、やはりPelosi下院議長の指導力の後退となるからである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

7月26日 上院が法案可決を断念 
Source :Senate Won't Vote on Health Reform Before Recess (New York Times)
23日、上院のReid院内総務が、「夏休み前の医療保険改革法案の投票はない」と明言した。上院Finance委員会の法案作成作業が大幅に遅れていることに加え、下院民主党の中で、下院の医療改革法案の内容に対する反対、懸念が高まっているためである。

議会の法案作成過程が遅れれば遅れるほど、下院議員達は浮き足立ってくる。来年の中間選挙日程が目の前に迫ってきているからだ。このため、Obama大統領は、10月までに署名したいとしてタイムラインを区切って議会に圧力をかけてきたのだが、それは難しい情勢になってきた。Obama大統領は、それならと、国民に直接訴えかける得意の戦法に出ているようだが、これも功を奏していない。

当然、議会夏休み中も、大統領と議会関係者達は、法案形成に向けて、水面下で激しく動くものと思われる。約1ヶ月の間にどれくらいのコンセンサスが形成できるのか、しばらく様子見ということになりそうだ。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

7月25日 Delphi年金はPBGCへ 
Source :PBGC To Assume Delphi Pension Plans (PBGC Press Release)
Delphiの年金プランがPBGCへ移管されることになった。Delphiの再建計画では、同年金プランはGMが引き取る予定であったが、そのGMが経営危機に瀕し、GMの再建計画でDelphi年金プランの引き取りを拒んだ。

充分想定された範囲内のことなので、そう大きな混乱はないと思うが、実質上、Big 3のレガシーコストが初めてPBGCのお世話になったことになる。

同社の年金プランの状況は次の通り。
年金プラン加入者数資産額給付債務額積立不足額PBGCが引き継ぐ給付債務額
Delphi Hourly Pension Plan47,000人$3.7B$8B$4.4B$4B
Delphi Salaried Pension Plan20,000人$2.4B$5B$2.6B$2.2B
その他(4プラン)2,000人---$50M
この移管措置により、PBGCの債務は、約$3.5B増える見込みとのことである。

※ 参考テーマ「PBGC/Chapter 11

7月22日(1) Blue Dogsの反乱 
Source :Conservative Democrats Push Health Bill Changes (New York Times)
下院3委員会法案の審議で唯一議決をしていないEnergy and Commerce Committeeが、20日、21日の二日間、委員会開催を見送ることとした(「Topics2009年7月20日 風が変わった?」参照)。

同委員会の構成は、民主党36、共和党23と、圧倒的に民主党が多数を占めている。ところが、この民主党36議員のうち、Blue Dogsが7名を占めている。この7名のBlue Dogsが、3委員会法案を支持できないとの態度を明らかにした。同委員会で採決を行ない、言葉通りに民主党7議員が反対票を投じた場合、"29 vs 30"で否決されてしまうのである。他の2つの委員会でも、民主党議員から反対票は出たものの、可決はできていたので、これは深刻な事態である。

Blue Dogsの主張は次の通り。
  1. 審議日程を人為的に切るべきではない。

  2. 新たな地方機関を設け、Medicare診療報酬を決定する権限を与えることにより、支出を抑制すべき。

  3. 医療保険改革に要する財源、小企業に及ぼす影響、連邦政府医療保険プランについて、もっと議論を深めるべき。
Blue Dogsの意向を取り入れて、法案が修正されるのかどうか。しかし、修正されたらされたで、またその修正に対する反対も民主党内から出てくるであろう。この間、共和党は一致団結してだんまりを決め込んでいる。政治的なメッセージの強さでは、共和党に軍配が上がっている。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

7月22日(2) EFCAの骨抜き
Source :Democrats Cut Labor Provision Unions Sought (New York Times)
労働組合が最優先課題に位置づけている"Employee Free Choice Act(EFCA)"法案(H.R. 1409)の修正が検討されているという。詳細は明らかになっていないが、上記sourceによると、次のような修正案となる見通しである。
  1. 記名投票の強制条項は削除する。

  2. 従業員のうち30%が組合結成に賛成(記名)すれば、5〜10日以内に労働組合結成のための投票(無記名)をしなければならない。

  3. 労働組合に事業所内施設の利用を認める。

  4. 従業員に反労組集会への参加を要請してはいけない。
2〜4は、いずれも1の代償である。企業側は、2〜4についても反対するだろうが、肝の1がはずされれば、矛先を収めるかもしれない。一方、労組側では、1が削除されることに対する猛反対が予想される。

こうした修正は、民主党穏健派の意向、つまり『記名投票強制に反対』との考え方を反映したものである。また、上院民主党も、「今は医療保険改革法案に注力しており、EFCAに関する投票は、早くとも9月以降となる」としている。

さて、Obama大統領は、どのようなスタンスを示すのであろうか。

※ 参考テーマ「労働組合

7月21日(1) 支持率も低下
Source :Poll Shows Obama Slipping on Key Issues (Washington Post)
Washington Post-ABC News Poll
20日の紙面で、Washington Post - ABCの世論調査が公表された。当websiteで注目したのは、次の3点。
  1. Obama大統領への信認設問1

    信認は59%と相変わらず高いものの、2月、4月時点からは10%ポイントほど落ちている。中身を見ると、「強く支持する」との回答が5ポイント落ちている。
    他方、信認しないという回答が12%ポイント増えており、その中でも「強く支持しない」が11%ポイント上昇している。

  2. Obama大統領の医療改革への取り組み設問2-b

    「支持する」が49%と初めて50%を切った。そのうち、「強く支持する」は半分程度である。
    一方、「支持しない」も44%と高まってきており、中でも「強く支持しない」が4分の3を占めている。「強く支持する」と「強く支持しない」を比較すれば、支持しないが上回っている。
    上記sourceによれば、中間層(independents)がObama離れしているとの分析がなされている。

  3. Obama大統領の財政赤字への取り組み設問2-c

    財政赤字への批判はかなり強まっており、「不支持」の方が上回っている。こちらの方は、かなり危険水域に達しているのではないだろうか。
まさに医療保険改革は、医療改革と財政赤字の組み合わせの問題になりつつある。こうした問題に対して、国民の目が次第に厳しくなりつつあることを示しているようだ。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「政治/外交

7月21日(2) 加算税縮小?
Source :Democrats May Limit Tax Increases for Health Care Plan (New York Times)
Pelosi下院議長が、医療保険改革3委員会案に盛り込んだ『加算税』の規模縮小を示唆し始めた(「Topics2009年7月15日 下院3委員会案」参照)。下院民主党議員達の理屈は、次のようなものらしい。
上院財政委員会の案が固まらない。
しかも、加算税はほとんど考慮されそうもない。
上院案に盛り込まれないような増税案を採決したくない。
加算税の規模を縮小するか、法案の採決を遅らせたい。
しかし、1兆ドルとも言われる医療改革法案に必要な財源のうち、加算税はほぼ半分を賄うこととしている。すると、仮に、加算税を縮小するとしても、他の財源を見つけてこない限り、財政赤字は膨らむことになる。また、他の財源をあてにしようとすると、これ以上の譲歩はいや、と関係者(診療機関、製薬会社、保険会社など)は一斉に拒否するであろう。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル