8月10日 経営者報酬規制法案への批判 
Source :Imperfect Politics of Pay (New York Times)
夏休み前に滑り込みで下院が可決した経営者報酬規制法案(HR 3269)だが、上記sourceでは、本当に実効性があるのかね、と厳しく批判している(「Topics8月4日 経営者報酬規制法案:下院可決」参照)。以下、批判点の概要。
  1. 機関投資家の経営者報酬に関する投票内容を開示するよう求めているが、なぜ経営者報酬だけなのか。例えば、報酬委員会メンバーに関する投票内容もかいじしてもいいのではないか。

  2. M&Aの際に経営者幹部が得られる総額を開示するよう求めているが、現金なのか、株式なのか、それ以外なのか、詳細も開示してもいいのではないか。経営者報酬について拘束力のない株主投票を行ってきたのであれば、M&Aの際の報酬については、拘束力を持たせてもいいのではないか。

  3. 報酬コンサルタントの独立性の定義について、SECに丸投げしている。これまで役員報酬のあり方について放置してきたSECによい規制ができるのか。

  4. 利益相反の可能性のあるものはすべて開示させることにより、株主の判断を仰ぐ方が、役所の規制よりも望ましい。

  5. 報酬政策については、報酬委員会メンバー自らが責任を持つ方が望ましい。
おそらく、このままの内容では上院は通過しないだろう。

面白いのは、この記事がNew York Timesというところである。NYTといえば、民主党に近い考え方が強いような印象を持っている。従って、市場万能よりは規制に重点を置くことを支持するのではないか、と漠然とした予想を持っていた。一方で、NYは金融市場で成り立っている街であり、そこが規制だらけになることへの懸念もあるのだろう。そうした懸念が上記指摘につながっていると思われる。

もちろん、たった一本の記事で新聞社のスタンスが決まる訳ではない。法案の行方とともに、NYTのスタンスも追っていきたいと思う。

※ 参考テーマ「経営者報酬

8月7日 上院財政委員会案 
Source :Senate Committee's Bipartisan Health-Care Reform Talks Move Toward Cente (Washington Post)
上院の財政委員会案(超党派6議員案)が漏れ伝わってきている。上記sourceで制度設計に関係のありそうなところをまとめておく。
  1. 連邦政府医療保険プランの創設に代えて、非営利共済組合のネットワークを創設。政府からの補助を受けた医療保険プランで、中絶に関する償還払いを認めるかどうかも検討課題。

  2. Medicaidの対象を、FPL133%まで拡大する(Kaiser Health News)。

  3. Medicareの支出合理化を図る。
    1. 比較的裕福な高齢者については、Medicare処方薬等の自己負担割合を引き上げる(10年間で$20B)。
    2. MedPACの権限強化

  4. 個人・企業の加入義務
    1. 保険未加入者にペナルティを課す。
    2. 従業員が"Exchange"を通じて企業提供保険プランから政府補助プランに転入した場合、雇い主(企業)が連邦政府に政府補助分を拠出する。
    3. 両施策を講じることで、10年間で$43Bを捻出する。

  5. 財源対策
    1. 所得加算税は課さない。
    2. 保険会社に新加算税(excise tax)を課す。
      1. 税率は最高35%
      2. 極端に贅沢な保険プランを販売している保険会社が対象。
        1. 家族保険:年間$21,000以上(の価値のある保険プラン)
        2. 個人保険:年間$8,000以上
      3. 約7%の納税者がそのような保険に加入している。保険会社は加入者個人に新税を転嫁するため、企業はそのような高額の保険プラン加入は見直すことになろう。それが結果的には医療費の抑制につながる。また、保険プラン見直しにより浮いた金額は給与に反映され、所得税の増額(10年間で$180B)が見込める。
    3. FSAの上限を$2,000とする(現行無制限)。

  6. 医療保険改革に要する費用は、10年間で約$900B。

  7. 無保険者割合は、6%に低下。
このような財政委員会案だが、下院3委員長案に近付いている部分もある。簡単に比較表を作ってみたので、参照されたい。

6日午前中、上院議員達はObama大統領と面会しているはずだ。上述のような案の概要を持って行って、『いい加減に具体的な方針を明示しろ』と迫っているのであろう。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

8月5日(1) ベテラン議員の知恵 
Source :"Crunch Time", "What now for Obamacare?", "Blue Dog days"(The Economist)
医療保険改革に関して、夏休み前の議会活動がほぼ終了したことから、Economistがこれまでの総括と今後の見通しを示している。じっくりと読んでいただきたい。

その中で、気になったポイントを2点まとめておく。
  1. Obama大統領にとって、これから2〜3週間の活動が決定的に重要であるとしている。原則論だけ述べていて、法案作成を議会に任せていると、民主党が多数を占める議会では、どうしてもPelosi下院議長が率いるリベラル派の意見が強くなり、党派色の濃いものとなってしまう。これでは、民主党中道派ばかりか、国民の間の中間層も離れて行きかねない。Obama大統領が具体的な制度設計に積極的に取り組むことが重要と指摘している。

  2. 財源確保手段として、ベテランのKerry上院議員が新たな提案を行っているそうだ。一律いくら以上の保険プランに課税する、というのが上院6議員で議論されている手法だが、これに代えて、保険会社で販売しているプランのうち、もっともコストのかかっているプランに課税する、というものである。こうすれば、医療保険の使いすぎを抑えるだけ、という意味合いになる。この提案について、Economistは、大きな前進であり、政治的には受け入れ可能な提案、と高く評価している。
そういえば、Kerry上院議員もMA州選出であった。2点目については、政治的な妥協点としてはわかるが、それで確保できる財源はいかほどなのかが分からないと、評価の仕様もないのではないかと思う。

そういった内容はともかく、Kerryのようなベテラン議員が改革実現束のために動き始めたというのは、重要である。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

8月5日(2) 両天秤作戦? 
Source :Obama Pushes Democrats for Unity on Health Plan (New York Times)
4日、Obama大統領と民主党上院議員達で昼食会があった。チョコレートケーキで大統領の48歳の誕生日を祝ったそうだ。

その席で、Obama大統領は、医療保険改革法案について、『共和党との話し合いを進め、超党派法案の成立を目指す。それがうまくいかなければ、民主党単独案でも構わない』との主旨の発言をしたらしい。端的に言うと、Baucus上院議員を含めた6上院議員案の作成を支持するが、うまくいかなければ、Pelosi下院議長が推している下院3委員長案でいく、という訳である。

共和党に圧力をかけることが目的なのだろうが、こんなことが本当にできるのだろうか。Baucus上院議員に委ねるということは、これまで4委員会で可決した法案(大きくいって2種類)を捨てることを意味する。そして、Baucus上院議員が失敗したら、再びそれらの法案に戻るということになる。

実は、下院3委員長案と、6上院議員案では、大きく内容が異なることが予想されている(「Topics2009年7月29日 上院議員6人案」参照)。それは当然で、真っ向から反対する共和党との間で妥協を図ろうというのが6上院議員案なのだから。

そして、ここでもBaucus上院議員がObama大統領の具体的なスタンスの提示を求めている。それは、連邦政府医療保険プランの創設についてである。大統領があくまでも固執するのか、それとも妥協して非営利組織のネットワークで代替できるのか。

しかし、Obama大統領も簡単にはスタンスを示せない。ここで妥協の姿を見せれば、民主党リベラル派から総スカンを食ってしまうからである。もしかしたら、大統領は、両天秤にかけるつもりが、逆に、手持ちのクイーンとルークにフォークをかけられてしまったのかもしれない。

Baucus上院議員は、自ら9月15日を、6上院議員案確定のデッドラインと定めた(Washington Post)。これは、Obama大統領の態度表明を早めるように、との警鐘である。まさに、Obama大統領の命運は、Baucus上院議員と共にある。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

8月4日 経営者報酬規制法案:下院可決 
Source :Corporate and Financial Institution Compensation Fairness Act (HR 3269)
夏休み前最終日の7月31日、下院は表題の法案を可決した(Roll Call 686)。報道では、ほぼ党派別の投票結果(Los Angeles Times)、とされているが、実際には民主党から反対票16、棄権4と、かなりの数の反対があったようだ。

さて、肝心の法案の中身は、CRS作成の概要版によると、次のようになっている。
  1. "Say-On-Pay"
    1. 年1回の株主総会で、個々の経営者幹部の報酬について承認投票を行う。開示方法はSEC規則による。
    2. 株主投票は、@強制権を持たない、A取締役会の決定を覆すものではない、B経営者幹部報酬に関する事項に関する株主提案権を制限するものではない。
    3. Golden parachuteに関する開示、株主投票に関する規定を設ける。

  2. 報酬委員会
    1. 報酬委員会に関する基準を設ける。
    2. 報酬委員会の委員は、取締役会メンバーまたは独立性のある委員とする。
    3. 報酬に関するアドバイザーは、SECが定める独立性基準を満たさなければならない。
要するに、財務省の提案(「Topics2009年7月31日 経営者報酬改革:財務省提案」参照)にそって枠組みだけを法案化し、中身はSECに丸投げ、ということである。おそらく、これでは上院は通るまい。

※ 参考テーマ「経営者報酬

8月3日 クリスマスが期限 
Source :Obama Trims Sails On Health Reform (Washington Post)
上記sourceでは、医療保険改革を巡る政治情勢について解説している。その中で、印象に残った点を2点記しておく。
  1. 連邦議会に法案作成を委ねることにより、Obama大統領の政治的ポジションは改善している。つまり、自らの公約如何にかかわらず、改革内容を議会に責任に帰すことができる。

  2. クリントン政権時代の医療保険改革時代の補佐官の言葉が引用されている。『クリスマス前までに法案が確定できれば、Obama大統領にとっての第一年目はよかったと考えるべきである』と。
第1点目は、政治的ゲームの世界ではそれでいいかもしれないが、「change」を掲げた若き大統領としては、今後の大統領としての指導力に疑問符がつく。

第2点目は、そういった言葉が出てくるほど、法案作成は難しい局面にあるということである。クリスマス前に、とあるのは、クリスマス後であれば、もう政治日程としては、医療改革法案の成立が極めて難しくなることを意味している。下院ならびに上院の3分の1は、11月の中間選挙に向かって走り始めるからである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

8月1日 下院3委員会可決 
Source :House Health Care Bill Criticized as Panel Votes for Public Plan (New York Times)
夏休み前の最終日となった31日、Energy and Commerce Committeeは、医療保険改革法案を可決した。これで、形式上は、下院3委員会がすべて投票、可決したことになる。あとは、夏休み後の9月中旬から、実質的な法案審議に入れるかどうか、また、上院がどのような案をまとめてくるか、ということころが注目点となる。

同委員会での投票は、35 vs 24と、完全なパーティ・ラインとはならず、民主党から一人反対票が入ったようだ。ただ、Blue Dogsがまとまって反対回ることはなかった。ということは、当初の推測通り、Medicareの支出抑制策が盛り込まれたということなのだろう。

下院ではすっかり蚊帳の外に置かれている共和党は、この点を強い調子で批判している。民主党は、Medicare支出を大幅に抑制することで、医療保険改革の財源を確保しようとしている、と。

どうやら、共和党は、この夏休み期間中、 という2点を最大の攻撃材料としてキャンペーンを張るようである。

1点目は、上院では、既に代替案が検討されており、実現はかなり厳しくなっている。2点目は、AARPをはじめとした高齢者層の反発を買う可能性があり、民主党としても、かなり苦しい弁解をしなければならない。

こうした状況に、ついに民主党リベラル派が爆発したらしい(Los Angeles Times)。下院民主党のリベラル派57議員が、Pelosi下院議長に対し、『取引材料に使われた政策課題が盛り込まれたような法案には反対する』との書簡を送付した、とのことである。

夏休みの間に、White House、下院民主党幹部は、Blue Dogsなどの中間派指向の議員とリベラル派議員の納得を得るための仕掛けを考えなければならなくなっている。一方の上院では、超党派での議論は継続しているものの、合意には程遠い、というのが、共和党側のコメントである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル