4月30日 ChryslerはChapter 11へ 
Source :Faltering Talks Tip Chrysler Toward Bankruptcy (Washington Post)
29日夜になっても、債権者グループの一部から合意が得られず、Chapter 11申請の可能性が濃厚となってきたようだ。財務省は、現金を$2.25Bに積み増し提案したが、それでも合意が得られなかった。

昨日、再建後のChrysler社の持分予測を紹介した(「Topics2009年4月29日(4) Chrysler債権者は合意へ」参照)が、カナダ政府が入ってくるようなので、次の通り修正しておく。
UAW55%
Fiat35%
アメリカ政府8%
カナダ政府8%

4月29日(1) HHS長官承認 
Source :Sebelius Confirmed as Secretary of HHS (Washington Post)
Sebelius女史のHHS長官就任が、ようやく上院で承認された。65-31であったということなので、共和党からも賛成票が入ったということである。その背景には、やはり豚インフルエンザの脅威があった模様だ。

これでObama政権の全閣僚が揃い、医療改革に取り組む体制が完成した。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

4月29日(2) Filibuster回避 
Source :Democrats Announce Agreement on Budget Pact (AP via New York Times)
27日夜、連邦議会民主党は、歳出法案の概要を固めた。そこで、予てから検討されていた"reconciliation process"を採用することとしたようだ(「Topics2009年4月26日 Reconciliation Process」参照)。

さらに、PA州選出の共和党Arlen Specter上院議員が、民主党への鞍替えを発表した(Washington Post)。これで上院民主党の勢力は59議席となる。最終結果が争われているミネソタ州で、現在312票リードしている民主党のAl Frankenが当選となれば、民主党が60議席を占めることになり、filibusterを回避することが十分可能となるのである。

こうした状況から、議会民主党が圧倒的に有利にたったことは間違いないが、何度も繰り返している通り、医療保険改革は、議会内の超党派合意ばかりでなく、膨大な数にのぼる関係者全員の譲歩と納得感が不可欠である。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/MA州」、「政治/外交

4月29日(3) GM再建策再提案 
Source :"GM Accelerates its Reinvention as a Leaner, More Viable Company", "GM Launches Exchange Offers and Consent Solicitations for Outstanding Notes"(GM Press Release)
27日、GMが再建策の再提案を行った。概要は上記sourceの通りだが、当websiteの関心事項は次の通り。
  1. 雇用者数

    2008年の約61,000人から、2010年までに40,000人、2011年までに38,000人に削減する。これは、2月17日提出の再建策よりもさらに7,000人から8,000人上回る規模となる。ホワイト・カラー、管理職についてもさらなる削減を進める。

  2. 労働コスト

    工場労働者に関するコストを、2008年の$7.6Bから2010年には$5Bに縮減する。

  3. 債務の株式化

    以下の対策を講じることにより、債務を$44B圧縮する。うち、UAW、連邦政府の債務圧縮は、$20B以上に達する。

    1. 対債権者グループ

      1. $27Bにのぼる無担保債務のほとんどを株式と交換する。
      2. 交換比率は、債務$1,000あたり225株。(28日の終値=$1.81なので$407.25に相当。実際には交渉成立日の相場で決定)
      3. 債権者の申し入れ期限は、今年5月26日中。
      4. 債権者の90%以上が株式交換成立に必要。
      5. 債権者グループは、GM株式の10%を保有することになる。

    2. 対UAW

      1. VEBAへの拠出責任額のうち、50%以上を株式で拠出する。
      2. 上記50%は$10B相当。
      3. 残りのGM拠出義務分は一定の期間で現金拠出する。

    3. 対連邦政府

      1. 2009年1月時点での財務省からの借入れのうち、50%以上を株式化する。
      2. 現時点で、この50%は$10Bに相当する。

    以上の結果、再建後の株式保有割合は、次の通りとなる。

    連邦政府50%
    VEBA39%
    債権者グループ10%
    既存の株主1%

VEBAへの拠出の半分を株式とすることは、Chrysler-VEBAとの間でも仮合意できており、まず問題はなかろう。問題は、依然として、債権者グループがこれで納得するかどうかである。株式化割合については、2月17日提案と変わっておらず、債権者グループが合意できるのかどうか、依然不透明である。

なお、VEBAに関する政府支援については、あまり触れられていないようである。

GM、Fordの株価動向 ⇒ GM  Ford

※ 参考テーマ「VEBA/Legacy Cost」、「PBGC/Chapter 11

4月29日(4) Chrysler債権者は合意へ 
Source :Chrysler Creditors Agree to Deal With Treasury (Washington Post)
一方、Chrysler社の債権者グループは、財務省との間で合意に向かいそうである。上記sourceによれば、27日夜、債権の70%を保有する4つの銀行が、財務省との間で合意したという。これが進めば、債権総額$6.9Bを放棄する代わりに、現金で$2Bを受け取ることになる。株式は受け取らない。要するに、これで債権者グループは、Chrysler社とは縁を切るということである。

ここまで債権者グループとの合意ができたとしても、やはりChapter 11入りは避けられないとの見通しが示されている。ただ、一番の抵抗勢力であった債権者グループとの合意ができていれば、大きな混乱は招かずにすむかもしれない。

再建後のChrysler社の持分は、次のようになるとみられている。
UAW55%
Fiat35%
連邦政府10%
これで、GM、Chrysler社ともに、労組UAWが筆頭株主になるのかもしれない。

また、大企業のChapter 11になると、必ずプレイヤーとして登場してくるのが、PBGCである。こちらは、Chrysler社が年金プランを廃止することを想定して、動き出した。具体的には、元のChrysler社の持分を持っていたDaimler社との間で、年金プランの負担額について、合意に達した(PBGC Press Release)。
  1. Daimler社は、2009年から2011年の3年間、毎年$200MをChrysler社の年金プランに拠出する。
  2. 2012年8月までにChrysler社が年金プランを廃止し、PBGCが引き継いだ場合、Daimler社はPBGCに$200Mを支払う。

4月28日 不法移民の診療拒否
Source :California counties cut healthcare to illegal immigrants (Los Angeles Times)
CA州のcountyで、不法移民に対する診療サービスを打ち切る措置に出ているところが増えており、今後も広がっていきそうだとのこと。経済情勢の悪化に伴う財政悪化がその理由である。

しかし、ことが病気の問題であり、折りしもCA州でメキシコ発の豚インフルエンザが問題になりかけているところである。

上記sourceにある通り、人権問題という側面もあるが、豚インフルエンザ抑止のためにも、あまり適切な措置とは思えない。移民政策が議論されようとしている矢先であり、これが大きな社会問題となると、Obama政権は厄介な課題を抱え込むことになる。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

4月27日 COBRA補助の不適用
Source :Health insurance subsidy for laid-off workers has holes (USA Today)
せっかく成立したCOBRA補助制度だが、欠陥があるらしい(「Topics2009年2月17日(1) COBRA-65%補助」参照)。上記sourceで指摘されているのは、次の3点。
  1. 元雇い主の企業が破産(=清算)している場合
  2. 元雇い主の企業が医療保険プランの提供をやめてしまった場合
  3. 元雇い主の企業が従業員規模20人未満の場合
これらの場合には、COBRAそのものの適用がないため、連邦による補助制度も適用とならないという訳である。

雇用情勢がますます厳しくなる中、失業者には厳しい状況がまだまだ続いていると考えておいた方がよさそうだ。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

4月26日 Reconciliation Process 
Source :Democrats Consider Bypassing G.O.P. on Health Care Plan (New York Times)
連邦議会民主党が、医療改革で荒業を検討しているという。私は初めて知ったのだが、"Reconciliation Process"という手法があるそうだ。上記sourceの該当箇所では、次のようになっている。
"Under the reconciliation process, the House and the Senate first agree on an overall budget blueprint and then pursue legislation — in this case, the health care overhaul — "reconciling" the blueprint with the needed policy changes. If enough Senate Democrats support the legislation, the White House would not need a single Republican vote."
先に予算の大枠を決めてしまい、その線にそって制度改革法案を審議する、ということのようだ。通常は、重要な歳出に関わる法案は、上院で60票以上を獲得して可決され、それにそった歳出法案が組まれる。ところが、この手法を用いれば、先に歳出の枠組みができているので、上院でも過半数の賛成票があれば可決できるというのだ。上記sourceによれば、この手法を活用した例は、1980年以来、19回あるそうで、Bush政権の2回の減税もこの手法を活用した。

現在、上院民主党は、58議席しかなく、1議席が未確定のミネソタ州で民主党が獲得したとしても、まだ1議席足りない。上院、下院とも圧倒的な多数を握っている民主党としては、上院のfilibusterで全てをひっくり返されるよりは、多少強引な手法を採ってでも法案の可決を図りたいということだろう。

また、通常の手法であれば、上院共和党議員の協力を得ざるを得ず、結果的に大幅な譲歩が必要となってくる。これは、アメリカ復興再投資法で経験済みである(「Topics2009年2月14日 アメリカ復興再投資法」参照)。民主党主導の改革という姿からは遠ざかってしまいかねない。

そして、何よりも、Obama大統領が、2010年からの改革推進を求めており、スピードが必要となっているのである(「Topics2009年2月26日(1) 医療改革基金創設」参照)。

このように、民主党側にとっては、必要に迫られている事情があるのだが、この手法は二つの意味で劇薬ともなりかねない。
  1. まず、共和党からの猛反発を受けることは間違いない。共和党からの賛成票どころか、一切の協力も得られないという事態になりかねない。その結果、投票結果は、Obama大統領が目指していた『超党派による改革』からは程遠いものとなる。全米で唯一皆保険法が成立しているMA州では、最後まで超党派による合意を目指して議論を重ねていた。Obama大統領もそのことは十分承知のはずであり、危険な賭けとなりかねない。

  2. Obama政権がせっかくここまで『すべての関係者の合意』のための舞台を作り上げてきたのに、すべてが水泡と帰す可能性が高い。全員で合意するのだから少しずつ我慢しよう、譲歩しようという空気を作らなければ改革は成立しない。しかし、民主党の一方的な主張による改革は、こうした不満を一気に噴出させることになる。
こうした民主党内の動きを抑制できるのは、おそらくObama大統領ではなく、上院民主党の重鎮たちであろう(「Topics2009年3月14日 上院の役者達」参照)。彼らがどのような判断を下すのか、注目していきたい。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/MA州」、「政治/外交

4月25日 ChryslerはChapter 11へ(2) 
Source :Auto Retirees Brace for Hardship (Washington Post)
Washington Postも、New York Timesと同様の観測記事を掲載している。特徴は、 とのニュアンスを、NYTよりも強く出している点である。

PBGCが引き継いだ場合の年金プラン、退職者医療基金に関する数字がまとめられていたので、掲載しておく。


4月24日 ChryslerはChapter 11へ
Source :U.S. Is Said to Push Chrysler to Prepare for Chapter 11 (New York Times)
どうやらChryslerは宿題の提出できないようだ(「Topics2009年3月31日 宿題やり直し」参照)。上記sourceによれば、財務省は、来週にもChapter 11の申請ができるように準備を進めるよう、Chryslerに指示したそうだ。Chryslerにとってのデッドラインは今月末であり、まさにその時期に申請することになりそうだ。

上記sourceで示されたポイントは次の通り。
  1. 基本的な合意

    1. 財務省、UAW、Fiatは、Chapter 11申請およびその後の再建計画の方向性について、基本的な合意に達している。

    2. 再建計画成立後は、Fiat、UAW、財務省が大株主となり、Cerberus Capital Managementその他の株主は一掃される。

    3. Fiatとの協力関係が成立すれば、財務省はさらに$6Bの追加融資を行なう。

  2. UAW

    UAW、Chrysler、財務省は、従業員のベネフィットを保護することで基本合意している。

    1. 退職者医療基金(Chrysler - VEBA(以下、"C-V"))

      1. ChryslerがVEBAに対して拠出責任を負っている$10.6Bのうち、半分をChrysler株で拠出することで、仮合意している。

      2. 残りの半分は、今後10年間で現金拠出する。財源は財務省からの支援、またはChrysler社の利益から捻出する。

    2. 年金プラン

      1. PBGCの試算によれば、Chryslerの年金プランは、$9.3Bの積立不足、給付債務の34%が不足している。

      2. 同じくPBGCの試算によれば、Chryslerが年金プランを廃止してPBGCが引き継いだ場合、$2Bを負担することになる。

      3. Chapter 11に入ったとしても、連邦政府からの財政援助があれば、Chryslerは年金プランを廃止する必要はなくなる。

  3. 債権者

    債権者グループは、未だ合意に達していない。

    1. 債権者グループが抱える債権は、総額$6.9Bに達する。

    2. 22日、連邦政府は、次の提案を行った。
      • 債権を22%(総額$1.5B)に圧縮する。
      • 再建後のChrysler社株の5%を割り当てる。

    3. これに対し、債権者グループは、次のような主張を続けている。
      • 債権を65%(総額$4.5B)に圧縮する。
      • 再建後のChrysler社株の40%を割り当てる。

    4. 債権者グループの合意が得られなければ、破産裁判で厳しい争奪戦が予想される。
基本的な構図は変わっていないようだが、ここに来て、 が特徴的である。 特に、後者はかなり重要な意味を含んでいる。上記sourceで示唆しているように、連邦政府からC-V、年金に対して財政支援が行なわれるということになると、これは前代未聞の出来事となる。金融に続いて、労働組合に対してbailoutが発動されることになるのである。当然、その後に控えるGMの救済にも影響してくる。

もしかしたら、かんべえさんの読みはあたるかも・・・。詳細の発表を待ちましょう。

GM、Fordの株価動向 ⇒ GM  Ford

※ 参考テーマ「VEBA/Legacy Cost」、「PBGC/Chapter 11

4月22日 WCも心配
Source :Auto Retirees Press Case (Wall Street Journal)
GM、Ford、Chrysler、DelphiのWhite Collar OB達が、年金や退職者医療プランを削減されてしまうと生活に窮すると訴えるために、今週中に自動車産業検討チームと会合を持つとのことである。

上記source中でも言及されているが、労働組合との間ではベネフィットの取り扱いについて厳しく議論を行なうのに対し、WCについては、ほとんど企業側の意のままとなるのが常である。まして、Chapter 11に入ってしまえば、ステークホルダーとして看做されることはほとんどない。これは、アメリカ社会の特徴である。

そうした訴えがどこまで効を奏するのか。タイムリミットまで、あと1ヵ月と少しである。

GM、Fordの株価動向 ⇒ GM  Ford

※ 参考テーマ「VEBA/Legacy Cost」、「PBGC/Chapter 11

4月21日 失業率と無保険者
Source :Recession Leads to Health-Care Crisis in North Carolina (Washington Post)
NC州は、製造業のウェイトが大きく、今回の経済危機で最も深刻な打撃を受けた州の一つと言われている。その結果、失業率は、この1年間で倍となり、失業率の上昇幅(%ポイント)は全米で3番目失業率自体は10.8%と全米で5番目の高さとなっている。

これに伴い、無保険者が急増しているという。NC州の医療研究機関の推計によれば、NC州の無保険者割合は、22.5%に達している。2006-2007年が17.2%であったから、約5%強高まったことになる。ちなみに、Kaiser Family Foundationの推計によれば、全米の失業率が1%上昇すると、1.1M人が無保険者となってしまう。

『失業→無保険者』という流れが進んだ結果、HealthServe community clinicのような、非営利で患者の支払能力に関係なく診療サービスを提供する病院がパンクしてしまっている。半年前には、電話をすれば必ずその日のうちに診療を受けられたのが、10月には4日間、11月には19日間、12月には25日間と待ち日数が長期化し、ついに今年に入って新規の患者の受付を止めてしまったのである。今では380人もの人々がウェイティングリストに登録しているそうだ。

こうなれば、無保険が常態化しているアメリカでも、やはり社会問題になっていくのではないだろうか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/その他州