3月31日 宿題やり直し 
Source :Remarks by the President on the Automotive Industry (The White House)
Obama Administration New Path to Viability for GM & Chrysler (The White House)
注目されていたGMChryslerの再建計画に対する政府の評価について、30日、Obama大統領が見解を表明した。そのポイントは次の3点。
  1. GMについては、60日後に再建計画を再提出する。その間の運転資金は提供する。
  2. Chryslerについては、30日間でFiatとの間で支援協議が整えば、さらに$6Bを追加融資する。
  3. 仮に政府が支援するとの条件付で破産法を利用する方が効率的ということであれば、その利用も考慮する。
つまり、再建計画の出来が極めて悪いため、もう一度やり直しを命じたばかりか、最後の破産法に言及することにより、GM、Chryslerだけでなく、UAW、債権者、その他のステークホルダーに対し、さらなる譲歩を求めているのである。

当初のスケジュールでは、3月31日時点で再建計画が適正であると判断されなければ、これまでの融資全額を返還しなければならなかった(「Topics2008年12月20日 Big 3 への緊急融資」参照)。ただし、これはBush政権がまとめたスケジュール、フレームであり、Obama大統領としては、多少逸脱してもそれほど責任は感じなくても済む。

しかし、今度の30日後、60日後は、Obama自身が設定したデッドラインであり、これをずるずると引き延ばすわけにはいかない。だからこそ、破綻処理も充分視野に入っていることを明示し、関係者に交渉を進めるよう促しているのだ。

Obama大統領は、この声明により、UAWが最重要視してきたVEBAの設立を、事実上不可能にしたともいえる。UAWに対して更なる譲歩を求めるということは、VEBAへの株式拠出割合(現在の再建計画では2分の1)をさらに高めるよう求めるということである。将来の退職者医療保険給付のための基金に、どうなるかわからない自社株を過半数突っ込むということは、間違いなく80年先までこの基金はもたない、ということである。

これで、UAWとObama大統領の蜜月時代は終了したといってよいだろう。EFCAもこの先どうなるか不透明になってきた。

最後に、GM、Fordの株価動向 ⇒ GM  Ford

※ 参考テーマ「VEBA/Legacy Cost」、「PBGC/Chapter 11」、「労働組合

3月29日 ストック・オプションの再評価 
Source :Companies Adjust Stock Options After Shares Fall (New York Times)
久々にストック・オプションの話題である。

アメリカの株式市場は、ご承知の通り、かなりひどい状態に陥ってしまっている(DJI)。ピーク時のほぼ半分といったところである。こうした状況の中で、Stock Optionは、ほとんど役に立たない報酬制度となってしまっている。

こうした環境下、企業の対応は様々である。上記sourceで紹介されている企業の対応は次の通り。
企  業ストック・オプションに関する対応
Composite Technology ・経営者、全従業員の転換価格を引き下げる。
・経営成果と関係のない市場価格の下落となっているため。
・株主についてもそうしたいが、その手段がない。
Intel ・上位経営陣、取締役については、転換価格を引き下げない。
・その他の従業員については、ストック・オプションを保有している期間に応じて転換価格を見直す。
ValueClick ・経営者、全従業員の転換価格を引き下げる
Google ・既に転換価格の見直しを行っているが、株主総会に諮ることはしていない。
Arrowhead Research ・転換価格の引き下げを株主に提案したが、強い反対に会い、提案を取り下げた。
企業側としては、今のような株価では、かつて賦与したストック・オプションが従業員のインセンティブとして働かず、有能な従業員を引き留めておくことができない、という主張である。

一方、株主側としては、同じ株式を保有していながら、また保有する権利を持っていながら、従業員、一部の経営者の買い取り価格を引き下げるのは不公平である、という主張である。

つまり、経営者・従業員と株主の間で利益分配についてのルールがかみ合わなくなっているため、企業としても様々な対応を取らざるを得なくなっているのである。

そもそも、アメリカ企業社会では、経営者・従業員と株主の間で、利益分配をめぐる対立が起きないよう、工夫がなされてきた。その重要なツールが株式を利用した報酬制度である。ストック・オプション、ESOP、株式による401(k)プランへのマッチング拠出、年金プランの自社株保有、・・・。株価が上昇していくときには、経営者・従業員と株主は、こうした報酬制度を媒介することで、経営者・従業員と株主の間の利益分配に関する相似性を持たせ、対立構図を弱めることができていた。

しかし、これらの工夫は、株価上昇局面ではうまく作用するが、株価下落局面では難しい。上述のストック・オプションのように、従業員の転換価格見直しが行われれば、株主には不公平感が募る。また、年金プランなども、自社株が下落すれば、企業拠出額は増加せざるを得ず、株主の利益はますます圧縮されることになる。

資本主義社会における株主と経営者・従業員の利益分配ルールは、永遠の課題のように思える。

※ 参考テーマ「ストック・オプション

3月28日 医療ベネフィット課税の問題点
Source :NOT-SO-EASY MONEY : Taxing health benefits comes with costs (Economic Policy Institute)
医療ベネフィットへの課税については、Max Baucus上院議員が提唱して以来、一気に議論が盛り上がった感がある(「Topics2009年3月7日 医療ベネフィットに課税」参照)。上記sourceでは、その医療ベネフィト課税の問題点を指摘している。
  1. 莫大な財政赤字が発生している中で、$200Bもの税収を生み出す可能性のある医療ベネフィット課税は、大変魅力的に見える。

  2. ただし、医療ベネフィット課税は慎重に検討されるべきである。無保険者対策の財源として、医療ベネフィット課税は最後の手段として検討すべきであり、しかも、皆保険制度の導入など総合的な改革が実施されることが条件である。

  3. 現行の非課税制度は、企業が従業員医療保険プランを提供する強いインセンティブになっている。

  4. 医療ベネフィットに課税されるとなると、若くて健康な従業員が加入しなくなり、保険料は上昇する。その結果、無保険者は却って増加する。

  5. 医療ベネフィット課税は不必要に高価な保険プランを抑制するとの主張があるが、こうした意図を持って課税した場合、小規模企業、中高年齢者などリスクの高い従業員が多い企業の従業員に負担が回ってくる。このような職場の医療保険は、構造上料率が高くならざるを得ないからである。

  6. また、医療費抑制の効果があるとの主張があるが、保険料率が引き下げられても医療費が抑制されるとは限らず、自己負担分が増えることでアクセスが阻害される面が強い。
さらに、我らがDr. Paul Fronstin (EBRI)も、次のような指摘を行なっている(EBRI Issue Brief #325)。
  1. 医療ベネフィト課税は、単純なようだが、企業にとっては、様々な影響が予想される。

  2. 特に、(大企業に多い)"self-insured"というタイプの医療保険プランの場合、大きな問題が生じかねない。

  3. "Self-insured"の場合、保険料は「公平に負担」という概念になっているが、課税方法によっては、この概念が崩されるおそれがある。

  4. また、課税する場合、実際に保険プランのベネフィットとして享受する部分の価値と運営コストを仕分けしなければならない。実際的にはCOBRAの保険料をベネフィット分として認識する手法が考えられるが、規定等がその通り適用できるかどうか、慎重に検討しなければならない。

  5. 1986年の税制改正で、従業員のベネフィットを標準化、公平化しようという目的で課税制度を導入したが、規定が複雑で実際には適用できず、1989年に廃止となった経緯がある。その轍を踏まないようにすることが重要である。
こうやって見てくると、実際にはかなり難しい課題であることがわかってくる。

当websiteとしては、このような問題提起がEPIから提示されたことに注目したい。リンク集にコメントしている通り、その視点はどちらかといえば民主党寄りと思われるからである。民主党の支持基盤である労働組合からの反対に加え、シンクタンクからのサポートが得られないということになると、推進力が弱まることは避けられない。

3月27日 保険業界の戦略
Source :Health Insurers Ease Stance on Pre-Existing Conditions (New York Times)
24日に開かれた上院での公聴会で、保険業界は医療保険制度改革に関するスタンスを表明した。
譲歩する皆保険制度が導入されるのであれば、健康状態や病歴によって保険料率に格差を設ける制度は廃止する。
拒否する年齢、居住地域、家族人数によって保険料率を変更する権利は確保したい。
意思表明せず保険料率の格差を制限するために、より厳しい規制を受け容れる考えがあるかどうか。
最初の点は、議員達には驚きをもって評価されているようだ。

他方、最後の点は、Obama大統領や有力上院議員が提案している、『保険料収入に占める償還費の割合に下限を設ける』案に関するものと思われる。この部分は、保険会社の収益構造を左右するものであり、おそらく最後まで議論が収束しないところだろう。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

3月26日 Obama vs Pelosi
Source :Pelosi's role diminishes under Obama (Los Angeles Times)
元々、Obama大統領Pelosi下院議長を尊敬しており、リベラルな志向も似ている。

ところが、両者の政治スタンスの間には、微妙な隙間風が吹きつつあるという。Bush前大統領とのバトルを演じてきたPelosi下院議長は、その時代から民主党の政策をリードしてきた。そして、Obama大統領の下で、ますますそのリベラル的な政策志向を強めている。

ところが、Obama大統領の方は、上院での共和党の協力が必要という現実的な立場に立たざるを得ず、また、大統領という立場になれば、上院議員達の意向を無視して政策をごり押しするわけにはいかない。

こうした微妙な立場の差が各種の政策で目立ち始めており、その典型がAIG経営陣に対する懲罰的課税問題である。Pelosi議長は、この懲罰的課税法案(H.R.1586)の強力な推進者であったが、Obama大統領は慎重な姿勢を示している。

こうした姿勢の違いの背景として、上記sourceは次のような指摘を行なっている。
"Obama won his mandate directly from the American people. Pelosi, by contrast, owes her position to the 254 Democratic members of the House.

As such, the speaker is determined to protect Congressional prerogatives and prevent Democrats from taking politically risky votes that could endanger their seats and weaken the party majority -- even if that means undermining Obama and sometimes thwarting his goals."
まさしく、連邦議会下院の特質を言い当てている。当websiteでは、何度かPelosi議長と有力上院議員達の確執を紹介してきたが、やはり同じ構図が当てはまると思う。こうした隙間風がやがて民主党全体に吹き始めたとき、初めてObama大統領のリーダーとしての真価を見ることができるのではないだろうか。

3月25日(1) 現場が動かない
Source :Labor Agency Is Failing Workers, Report Says (New York Times)
25日公表予定のGAOの報告書によれば、労働省の"Wage and Hour Division"は最低賃金違反、残業代の不払いや児童労働などを摘発しなければならないのに、それを怠っているケースが多数あるという。しかも、訴えを受け取っていながら、長期間放置していたり、その記録を残していなかったりしている場合があるという。

これらの現象は、日本の社保庁で起こったことに似ている。アメリカでも、セーフティ・ネットが有効に機能していない状況になっているものと思われる。

こうした状況では、2007年に折角最低賃金を引き上げたのに、現場には反映されていないことになる。アメリカ社会では、こうしたことはよく見られる。トップが高い理想を示したり、システムを打ち上げてみても、現場にその意思が伝わっていないために何も改善されない。

※ 参考テーマ「最低賃金

3月25日(2) Auto-IRAにNo
Source :Chamber of Commerce: No to auto-retirement plans (InvestmentNews)
Obama大統領がしぶとく粘って公表した"auto-IRA"構想(「Topics2009年2月27日 大統領予算方針」参照)だが、早くも経済界からNoを突きつけられたようだ。

全米商工会議所(USCC)の副会長が、講演で、「小規模企業にとって負担が重過ぎる」と発言した。USCCの会員企業の96%は、従業員100人未満と言われており、抵抗感は相当のものと思われる。

こうして、Obama大統領が一つひとつ具体的な提案を行うたびに、うちは反対、と出てくるのが現実である。大統領選のように、「総論賛成」だけでは済まないのである。

※ 参考テーマ「公的年金改革

3月24日(1) VEBAの功罪
Source :Retiree Health VEBAs: A New Twist On An Old Paradigm Implications for Retirees, Unions and Employers (Kaiser Family Foundation)
上記sourceでは、VEBAとは何ぞや、から始まって、最近のケーススタディまで、幅広く制度の解説を行なっている。ある程度の専門知識が必要な場合には、一読されると参考になると思う。重要と思われるポイントは次の通り。
  1. 新しい形態のVEBA

    最近、新しい形態のVEBAが設立され始めている。いわゆる"stand-alone"VEBAである。

    • 伝統的なVEBA:企業が資金運用、運営に関して権限を持っている。単なる積立機関としての性格を有する。

    • "Stand-alone"VEBA:資金運用、運営に関して企業からの独立性が高い。理事会等のメンバーに企業からの代表者が入ることはない。

  2. VEBAとは

    1. VEBAが最初に税法で規定されたのは、1928年である。

    2. VEBAの基金、運用益は課税されない

    3. 受益者が課税されないかどうかは、そのベネフィットの形態による。

    4. 医療保険プランに関して、税法は事前積立を認めておらず、損金算入範囲が厳しく制限されている。ただし、重要な例外規定がある。

      1. 労組との合意により企業が拠出する場合には、VEBAに拠出した時点で全額損金算入できる。
      2. 次の2つの条件を満たす場合、従業員に代わって企業が拠出すれば全額損金算入できる。
        • 従業員の今後の勤務期間をカバーするための資金に使われる
        • 数理計算に基づいている

    5. 税法以外に、次のような法律により規定されている場合がある。

      1. Labor Management Relations Act of 1947
      2. ERISA
      3. 各州保険法

  3. "Stand-alone"VEBAの利用法

    1. プランスポンサーたる企業が倒産したものの、退職者医療プランの運営を継続させる場合

    2. 労働組合との協議で退職者医療プランを継続する場合

    3. 退職者による集団訴訟で、退職者医療プランの継続で合意に至った場合

  4. "Stand-alone"VEBAに関するメリット・デメリット
    関係者 メリット デメリット
    企  業 ・FAS106に基づくOPEBの債務をB/Sから切り離すことができる。
    ・将来の費用負担がなくなる。
    設立までに時間がかかり、手続きが煩雑。
    退職者 ・将来の経営リスクの影響を防ぐことができる。
    ・企業の債権者から資産を守ることができる。
    ・企業による制度変更ができなくなる。
    ・資金繰りに問題のある企業では、本当に必要な拠出額を満たせない場合がある
    ・企業による拠出が自社の株や債券だった場合、資産価値が低下する可能性がある。
    ・企業からの追加拠出が見込めない。
    労働組合 ・退職者医療プランを存続させることで、労組の存在価値をアピールできる。
    ・医療プランの運営に深く関わることができる。
    ・退職者から、最終的な運営責任を求められる可能性が高い。
  5. 地方政府の動向

    GAS 45の適用により、地方政府でもOPEBの債務を認識しなければならなくなった。事前積立の手法は多数あるが、VEBAもその一つである。

  6. "Stand-alone"VEBA成功の秘訣

    1. 設立当初から充分な積立金を用意する。

    2. 資産運用益により、プランの持続可能性を確保する。

    3. 制度運営に関し、退職者(=加入者)との対話を大切にする。
こうして整理してみると、Big 3のVEBAは、メルトダウンしていっているように見えてくる。

※ 参考テーマ「VEBA/Legacy Cost」、「GAS 45」、「PBGC/Chapter 11

3月24日(2) GM債権者の抵抗
Source :GM bondholders want response on restructuring plan (AP via Washingto Post)
AIG経営者の高額ボーナスや、不良資産買取計画(もっとも"The Legacy Securities Program"の方はほとんど詰まっていないが)で、すっかり注目されなくなってきたが、GMの再建計画のデッドライン(今月末)が迫っている。

そうした中、GMに対する債権を保有する債権者グループが、
  1. GMの現在の再建策は甘い経済見通しを前提としており、
  2. GMが提示した債権・株式交換案は呑めない。
  3. 債権者グループが提示した対案(詳細は未公表)の検討を希望する。
という主旨の手紙を、22日にObama大統領と検討チームに送付したそうだ。

デッドラインを一週間余りに控え、ここに来て有力なステークホールダーの一つが改めて抵抗を表明したことの意味は重い。Obama政権にとっては、まさに『綱渡り』状態(「かんべえ」さん)になっている。

※ 参考テーマ「VEBA/Legacy Cost

3月23日 長期的視点
Source :Perking Up: Some Companies Offer Surprising New Benefits (The Wall Street Journal)
経済危機の中、コストのかかるベネフィットを削減しようとする動きが盛んな中で、一風変わったベネフィットを提供しようという企業が出てきている。上記sourceでは、そうした事例を紹介している。

それらの事例に共通しているのは、次のような点だと思う。 こうした両者の気持ちが相通じて、企業の生産性の向上が図られていくのであろう。アメリカ企業でもこうした動きは結構以前から見られており、今後の景気回復期が見ものである。

ただし、Big 3とUAWの間には、こうした流れは見えてこない。そうした意味では、航空会社の危機の時の方が、労使に一体感が感じられたように思う。

※ 参考テーマ「ベネフィット」、「PBGC/Chapter 11