10月19日 共和党は茨の道へ Source : House Sustains President's Veto on Child Health (New York Times)

遂に共和党は茨の道へ突き進むこととなった。18日、下院は、SCHIP拡充法案(HR 976)に関して再採決を行ったが、2/3の賛成を得られず、大統領拒否権を覆すには至らなかった。

今回の投票結果と、前回(大統領に送付する前の9月25日)の投票結果を比較すると、次のようになる(「Topics2007年9月26日(1) SCHIP法案可決」参照)。
前回(9/25)賛成反対棄権
民主党22084
共和党451515
合 計2651599
今回(10/18)賛成反対棄権
民主党22922
共和党441542
合 計2731564
これを見ると、反対から賛成に回った民主党議員があったことくらいが特徴であり、共和党にはほとんど動きがない。

一方、Pelosiは、投票結果を受けて、早速、「2週間以内に法案修正を行って再度大統領府に送りつけてやる」と高飛車に出ている。Pelosiの揺さぶりに、共和党議員がどこまで耐えられるかが勝負の分かれ目となる。

10月18日(1) Pelosi vs Bush Source : Pelosi takes on Bush over child health bill (Financial Times)

いよいよ今日にも、連邦下院で、Bush大統領のSCHIP拡充法案への拒否権発動に対抗するかどうかの再採決が行われる見通しである(「Topics2007年10月5日 SCHIP拡充法案 再投票へ」参照)。Pelosiにとっては、大きな政治的ショーの主役になれるチャンスである。今回は、上院は既に3分の2の賛成票を確保しているので、仇敵Kennedy上院議員は、高みの見物というポジションである。

今回は、Pelosiにとって、2つの利点がある。第1は、上述したように、Kennedy議員との調整は既に不要であり、ここで3分の2に少しでも近づければ、Pelosiの政治的立場は有利になってくる。

第2に、今回の再採決で仮に3分の2を取れなくて、拒否権を覆せなくても、時間はまだまだたっぷりあり、妥協案を巡ってWhite Houseとの折衝の中心人物になれる。

さらに議論が長期化して、来年の大統領選の争点にでもなれば、ますます民主党にとっては有利に働くとの見通しが立つ(「Topics2007年10月4日 SCHIP拡充法案に拒否権発動」参照)。

実際、下院民主党の中では、微修正を施した第2次法案を提出し、これを大統領が拒否すれば、第3次法案を大統領選直前に可決してやればいい、との戦術を描いている(New York Times)。

こうした政治状況下に置かれた下院共和党議員の心情をよくあらわすフレーズが、上記sourceで紹介されている。
"If they vote with Mr Bush they will be accused of cutting funding for children's health. If they vote against, they open themselves up to attacks from the right."
さぞかし、Bush大統領を恨んでいることであろう。さて、今日の投票結果は如何に。

10月18日(2) 大統領選候補者の比較 Source : 2008 Presidential Candidate Health Care Proposals : Side-by-Side Summary (Kaiser Family Foundation)

面白い、というか便利なサイトが登場した。2008年大統領選候補者と目される人達の医療政策に関する政策提案が簡単にわかるようになっている。さらに、比較したい候補者を選択(4人まで)すると、比較表まで作ってくれる。

ちなみに、当websiteでお馴染みの候補者4人(GiulianiRomneyClintonObama)について、比較表を作成してみた。

この比較表を見て、大雑把な感想を3点。
  1. 共和党の候補者2人の項目がスカスカに見える。つまり、あまり詰めた議論を経ていないことがわかる。一方、Clintonの提案は、いろいろなところに目配りが効いており、熟慮の末の提案であることが窺える。

  2. 無保険者対策としてFEHBPを全国民に開放するというClinton提案は、珠玉に思える(「Topics2007年9月18日 Clinton提案」参照)。現実性という点からも高く評価できるのではないか。

  3. Clinton提案は、個人に医療保険プランへの加入を義務付けている。民主党で最も人気のある政治家Clintonと、共和党で最も人気のある政治家シュワ知事(「Topics2007年10月11日(1) シュワ知事法案」参照)が、この点で一致していることは、決して偶然ではあるまい。

10月17日 VEBAの概要 
Source : GM Releases Details of New Contract With UAW (Kaisernetwork) & DETAILS OF UAW CONTRACT (Detroit Free Press)

少しずつだが、VEBAの概要が明るみになってきた(「Topics2007年10月11日(2) UAWとChrysler妥結」参照)。 最後にいつもの株価動向。 ⇒ GM  Ford

10月13日 減税でマッチング:ヒラリー提案 Source : Hillary Clinton's American Retirement Accounts Plan: A 401(k) Plan For All Americans (Press Release)

医療保険改革に続き、年金についてもClinton上院議員が意欲的な政策提案を行った。中流、勤労世帯の退職後所得確保を促進する為、減税によるマッチングを伴う確定拠出プランを創設する、という提案である。

提案概要は次の通り。
  1. American Retirement Accounts ("ARA")の創設

    全国民に401(k)プラン開設の機会を提供する。

  2. 税額控除によるマッチング

    1. 年間所得$60,000以下の夫婦:最初の拠出$1,000までは、1:1の割合で税額控除によるマッチング拠出を受けられる。税額控除は還付可能。つまり、最大$1,000の税額控除を受けられる。

    2. 年間所得$60,000〜$10,000の夫婦:最初の拠出$1,000までは、1:0.5の割合で税額控除によるマッチング拠出を受けられる。つまり、最大$500の税額控除を受けられる。

    3. 年間所得$10,000以上の夫婦:マッチング拠出割合は徐々に減額され、一定の所得以上については受けられない。

  3. プランの特徴

    1. 医療保険プランと同様、現存する企業が提供する401(k)プランとは別物とする。既存プランの継続、加入は、従来通りで構わない。

    2. 非課税拠出限度額は、一人年間$5,000とする。

    3. 様々な投資対象を用意するが、デフォルトとして、パッシブなライフサイクル・タイプを用意する。

    4. IRAと同様、ペナルティなしの中途引き出しの対象は、住宅の購入、高等教育、退職時などに限定する。失業時などには、プラン資産の10〜15%の引き出しを認める。また、一定の条件のもとに、(資産を担保にした)借り入れを認める。

    5. 完全なポータビリティを確保する。退職、起業、育児・介護休業、パート就業などでも、脱退を余儀なくされる必要はない。

    6. 民間金融機関に口座を開設することになるので、公的部門が大きくなることはない。

  4. 自動天引き

    1. 企業には、自動天引きを伴う"ARA"プランを用意するよう推奨する。

    2. 中小企業が適格な年金プランを導入する際、その初年度に認められている税額控除を、倍増して$1,000とする。

    3. また、中小企業が自動天引き制度を採用した場合には、最初の3年間について、毎年$500の税額控除を新たに認める。

    4. プラン開設、運営に必要となる事務手続きを簡素化する。

    5. 個人事業主の自動天引き制度について、検討を行う。

  5. 資産テストからの除外

    公的扶助の受給の際に必要となるミーンズテストから、401(k)、IRA、"ARA"の資産を除外する。これにより、低所得者層にも貯蓄を促すことができる。

  6. 遺産税減税の凍結

    1. 税額控除によるマッチング拠出には、年間$20〜25Bが必要となる。

    2. その財源を捻出するために、遺産税の減税スケジュールを2009年に凍結し、夫婦あたり$7M以上の遺産については課税を継続する。これにより、今後10年間で$400B以上を捻出できる。
公的年金(Social Security)に不透明感(「Topics2007年9月29日 Social Securityに警鐘」参照)が漂っている中、退職後所得確保の推進策を提案し、 ミドルの勤労世帯に夢を与えるとともに、明確に資産配分を行う、と主張しているのである。共和党との対立軸を明確にするという意味でも、注目すべき提案であろう。

10月12日 VEBAとGAS45 Source : Are VEBAs the Future of Employee Health Care? (Workforce Management)

UAWとGMの労使協定で一躍注目を浴びたVEBAだが、意外にも小規模自治体の間では利用が広まっているという。

その理由は、当websiteでは既にお馴染みのGAS 45への対応策、ということだそうだ(「Topics2005年12月13日 時限爆弾-GAS45」参照)。確かに、自治体はGAS 45への対応として、退職者医療の給付債務を認識し、実際に資金的裏付けをしておく必要が出ている。そのために、VEBAの活用が進んでいるのである。

上記sourceで紹介されている、Idaho州のPost Fallsという小さな自治体(人口23,000人)は、VEBAを運営している経験から、UAWに対してアドバイスを提供し続けているとのことである。


10月11日(1) シュワ知事法案 Source : The Governor's Health Care Plan (CA Governor's Office)

ついにシュワ知事が動いた(「Topics2007年9月12日 CA州医療改革は延長戦へ」参照)。医療保険改革について、法案の形で再提案を行ったとのことである。

法案名は、"The Health Care Security And Cost Reduction Act"。キーワードは、
  1. Guarantee issue
  2. Affordability
  3. Individual Mandate
である。

上記sourceで示された法案概要は次の通り。
  1. 保険加入促進のための財政援助

    1. FPL100%以下で子供のいない成人については、費用負担なしでMedi-Calに加入できる。

    2. 子供のいる家庭でFPL300%以下の場合には、Medi-Cal、Healthy Familiesに加入する際の負担を軽減する。合法的な移民かどうかは問わない。

    3. FPL100〜250%の個人、家庭のために、新たな保険プールを設立する。保険料は所得水準に応じて軽減する。

    4. 低中所得者層について、保険料負担の上限を設ける。

      • FPL100〜150%:保険料負担なし
      • FPL151〜200%:所得の4%を上限
      • FPL201〜250%:所得の5%を上限
      • FPL251〜350%:所得の5%を超えた分は税額控除の対象とする。

    5. 拠出金を負担した企業の従業員、カフェテリア・プランで州保険プールへの加入を用意した企業の従業員について、新保険プールへの加入を認める。

  2. 病歴による格差の撤廃

    1. 年齢、家族構成、地域性を考慮した標準保険料率(SRR)を設定する。

    2. 2010〜2013年:個人の病歴による変動率をSSRの上下20%とする。

    3. 2013〜2016年:個人の病歴による変動率をSSRの上下10%とする。

    4. 2016年以降:個人の病歴による保険料率の格差は認めない。

  3. 保険加入の義務化

    全州民に、保険加入を義務付ける。

  4. カフェテリア・プランの提供

    企業が従業員の保険料を負担する場合には、カフェテリア・プランを通じた拠出を求める。これにより、所得控除が可能となる。

  5. その他

    1. 医療機関に対する償還を大幅に増額する。

    2. 保険会社に対しては、保険料収入の85%以上を償還に回すよう義務付ける。

    3. 医療のIT化を進める。すべての医療機関に対し、2010年までにカルテ、処方箋を電子化するよう義務付ける。
加えて、シュワ知事は、当初の知事提案との比較表も提供している(「Topics2007年1月9日 シュワ知事の提案」参照)。この比較表からも、今回の法案の特徴が理解できる。
  1. 財 源

    1. 医療機関からの拠出は求めない。

    2. 医療保険プランを提供していない中小企業については、従業員給与総額に応じて、(給与総額の)0〜4%の拠出金を求める。

    3. California Lotteryをリースに出して、(そこから得られた利益を)医療保険改革の財源とする。

  2. 公立病院

    公立病院への財政措置を大幅増額する。

  3. 保険プランの最低基準

    1. 免責額、自己負担の上限等については法定しないものの、役所が案を策定して議会の承認を求める。

    2. 保険でカバーする範囲は、外来、入院、予防、処方薬等。
全体を通しての印象として、次の諸点で、相当、州議会(民主党)案(「Topics2007年9月12日 CA州医療改革は延長戦へ」参照)に妥協した提案と思われる。
  1. カフェテリア・プランの設定を強く求めている。
  2. 中小企業にも"Pay or Play"ルールを適用する。
  3. 低所得者層について、保険料負担の上限を設定する。
  4. 保険料を標準化する。
  5. 医療機関からの拠出金を断念する。
結局、シュワ知事と州議会の間で残された争点は、次の2点。
  1. 加入義務
  2. 企業の拠出レベル(4% vs 7.5%)
これらの大問題について、いかに合意点を見出すか。今後とも注目していきたい。

10月11日(2) UAWとChrysler妥結 Source : UAW, Chrysler Settle After Brief Strike (AP)

当websiteの感覚はまったく当てにならないことが証明されてしまった(「Topics2007年10月9日 出口の見えないスト」参照)。

上記sourceの通り、UAWはストに突入したものの、その後数時間でChryslerとの仮妥結に達し、ストは撤回された。妥結内容は詳細になっていないものの、VEBA設立は含まれているようだ。

他方、GMとの間の仮妥結は、UAW組合員の承認を得られ、実質合意に達した。合意内容は、既に紹介したもので変更ないようだ(「Topics2007年9月27日 VEBA設立へ」、「Topics2007年10月2日(1) VEBA設立へ(2)」参照)。

残るはFordのみである。

最後にいつもの株価動向。 ⇒ GM  Ford