10月10日 SECと企業の対話 
Source : Commission Staff Publishes Its Observations in the Review of Executive Compensation Disclosure (SEC Press Release & Staff Report)

企業の経営トップの報酬について、SECと企業の間で対話が始まった。

SECは、経営者報酬の開示を強化するルールを定めていた(「Topics2006年7月27日 経営者報酬の開示強化案決定」参照)。SECは、新ルールに基づく企業の開示を分析、評価し、その内容を公表するという。

上記sourceのポイントは次の3点。
  1. 今回の開示を分析し、2つの基本的な課題が浮かび上がってきた。

    1. 企業経営者の報酬を、どうやって(how)、どのような理由で(why)決めたのか。ここにもっと焦点を当てて説明すべき。

    2. 直接的で明確でわかりやすい説明手法が必要。

  2. 多くの企業が、報酬決定の考え方や決定過程を詳細に説明しているが、それよりも、報酬の内容や決定要因についてもっと詳細に説明すべき。

  3. 個別企業の開示について、SECの改善案を提示する。これらをSECのwebsiteに掲載するとともに、SEC改善案に対する企業の対応結果についても同様に掲載する。
企業側に立ってみると、SECから指導を受けるような格好になるのだが、指導内容とそれらへの対応が公開されるというのは、ポジティブにとらえれば、企業と当局との対話が市場参加者に見える、ということにつながる。Principle-baseの行政への第一歩とも言えるわけだ(「Topics2006年11月22日(1) Principle-base会計基準へ」参照)。

ところで、日本の企業でこれだけの説明責任を果たせる企業がどれだけあるだろうか。彼我の文化の違いを痛感せざるを得ない。

10月9日 出口の見えないスト Source : Ford, Chrysler and the unions (FT.com)

UAWは、Chryslerの組合員に対して、スト突入指令を発出したようだ。その指示書によれば、タイムラインは次の通り。
9月14日労使協約の公式期限・延長開始
10月9日23時59分労使協約の延長を停止
10月10日11時00分暫定合意が得られなければスト突入
水面下では労使交渉が続いているようだが、両者の間で妥協点が見出せるとの見込み記事はまったく出てきていない。また、VEBA設立についても、温度差が大きいようである(「Topics2007年10月3日 Fordの事情」参照)。

GMの場合には、悪く言えば「見せかけだけ」ではないかと思うようなスト突入とスト停止であったが、そこまでの成熟感はないように思われる。このままストに突入した場合、結果がどうなるのか、大いに気になるところである。

Fordについても、スト命令こそ出ていないものの、妥協点は出てきていないようだ。

個別企業の事情があるとはいえ、GMが妥結してFordにはその見通しが立たない、ということでは、今後の業績にも影響があるだろう。実際、株価の動向は、異なるベクトルを示している。 ⇒ GM  Ford

10月5日 SCHIP拡充法案 再投票へ 
Source : Democratic Leaders Schedule SCHIP Legislation Vote For Oct. 18 in Hopes of Overriding President Bush's Veto (Kaisernetwork)

下院民主党は、今月18日に、拒否権発動を覆すための再投票を決行する見込み、ということである。まずは、共和党議員の切り崩し(1.)にかかるようである(「Topics2007年10月4日 SCHIP拡充法案に拒否権発動」参照)。上院は、既に再投票で覆すだけの賛成票を得ているので、下院の結果待ちである。

当websiteとして、上記sourceの中で注目したのは、次のフレーズである。
"Some Democrats say that a one-year extension of the program would allow Congress to re-pass the bill under a potentially Democratic president."
やっぱり、そういうことを考える人達がいるんだな、と。子どもを人質に取れば、選挙では強いもんね。

10月4日 SCHIP拡充法案に拒否権発動 Source : President Bush Vetoes SCHIP Reauthorization and Expansion Legislation

3日、Bush大統領は、予告通り、SCHIP拡充法案(HR 976)に拒否権を発動した(「Topics2007年9月26日(1) SCHIP法案可決」参照)。

議会の今後の展開として考えられるのは、
  1. 民主党の議会工作で、大統領拒否権を覆すだけの共和党支持者を確保し、あくまで法案を通す
  2. 大統領府との間で妥協点を探る
の2通りが考えられる。

いずれも、時間はたっぷりかけられるので、民主党としては、このままの状況で来年まで持ち込み、大統領選、連邦議会選挙の争点に仕立て上げるのではないだろうか。そうなると、下院共和党の中からぼろぼろと脱落者が出てくる可能性が高まる。

ちなみに、民主党の大統領候補者達は明確にSCHIP拡充法案を支持しているのに対し、共和党候補者達は反対の立場を表明しつつも前面に出ていくことはしていないようだ。

こうしたところに、共和党のバラバラ振り、Bush離れが現れているようだ。

10月3日 Fordの事情 Source : UAW Might Face Difficulties in Seeking Pattern Deals With Ford, Chrysler (Kaisernetwork)

GMとの間でVEBA設立で仮合意にこぎつけたUAWだが、その合意をFord、Chryslerにそのまま当てはめる訳にはいかないようだ。1日には両社との交渉を再開したいとしていたが、動きはないようだ(「Topics2007年10月2日(1) VEBA設立へ(2)」参照)。
 ManagementU A W
Ford自己負担増抑制のために年金基金の積立超過分をVEBAに移行することに抵抗感。
GMが$17Bの超過積立があるのに対し、Fordは$560Mの積立不足になっている。
Chrysler2010年まで給付債務を移管しないGM版VEBAに疑問VEBA設立に消極的
GMが最も多くの退職者、高齢労働者を抱えており、退職者医療プランのVEBAへの移管は、GMにとってはシリアスな問題だが、Ford、Chryslerにとってはそれほどではないことも、両社の交渉が進まない一因となっているようだ。

こうした状況について、コメントを2点。
  1. 同じUAWでも、企業の置かれている状況によって、組合側の態度も異なっている。当websiteでは何度も紹介しているように、アメリカの職業別労働組合でも企業単位化が進んでいる証左である。

  2. Fordの経営陣は、負担規模はGMに較べて小さいとはいえ、将来の足枷をはずしたいのはGMと同様であろう。ただし、株価は低位で推移しているため、GMのように転換社債で拠出することは、組合側が許容しないであろう。

10月2日(1) VEBA設立へ(2) Source : UAW Wins Job Security Pledges in GM Deal (Washington Post)

上記sourceは、UAWとGMの間で合意したVEBA設立に関する情報だが、これも、正式な公表ベースではなく、取材で明らかになったものである(「Topics2007年9月27日 VEBA設立へ」参照)。断片的ではあるが、まとめておく。
  1. VEBA設立

    1. 2008年1月にGMが$24.1Bを拠出する。

    2. 2010年1月に、給付業務をVEBAに移管する。それまでに、GMは$5.4Bを追加拠出する。

    3. 給付に必要な基金が積立不足となった場合、合計$1.6Bを上限として、GMはいつでも追加拠出を行う。この追加拠出義務は25年間継続する。

    4. GMは、VEBAに$4.37Bの転換社債を拠出する。この社債の利子分を毎年キャッシュで支払う。さらに、VEBAは転換社債をGM株式に転換できる。

    5. GMの現役社員は、医療費増加分のうち、インフレ上昇分を負担する。

  2. 組合員投票

    1. 10月10日が締め切り

  3. Ford + Chrysler

    1. UAWとして正式決定していないが、今週から交渉が始めたいとしている。

  4. 早期退職勧奨

    1. 早期退職に応じた従業員には、$35,000の手当を支払う。
最後にいつもの株価動向。 ⇒ GM  Ford

10月2日(2) Medicare保険料 Source : CMS ANNOUNCES MEDICARE PREMIUMS, DEDUCTIBLES FOR 2008 (CMS)

MEDICARE PREMIUM NYT 1日、CMSより、2008年のMedicare保険料が発表された。これによると、基本的なところであるMedicare Part Bの保険料は、$96.4/Mとなる。これは、2007年に較べて$2.90、3.1%の上昇となる。

伸び率からすると、近年になく低い伸び率となる。ただし、これは、Medicareの償還額が2008年に10%削減されることによる一時的な効果と見られている(「Topics2007年7月25日 CHIP+Medicare」参照)。

次のグラフを見ても、1990年以降の上昇度はものすごいものがある。20年近くの間に約3倍である。

ここで感想を3点。
  1. 免責額は割合に小さい($135/Y)とはいえ、年金受給者が毎月1万円超の保険料を払うのは厳しい。

  2. 一方で、所得のある高齢者には、かなりの傾斜をつけた保険料の上乗せを求めている。医療保険の世界では所得分配を求めないアメリカでも、Medicareにおいては世代内での所得再分配を求めている。

  3. 償還額を削減する手法はしばらく続くことになっているが、やがて医療機関からの反発、診療拒否が起きるのではないだろうか。片方では自由な価格付けが行われている現役向けの医療がある中で、一方的に高齢者の診療報酬だけ抑制していくのは、いつかは破綻するのではないだろうか。

10月2日(3) IFRSへ Source : Sweeping Away GAAP (CFO.com)

FASBRobert Herz議長が、『アメリカもIFRS一本の世界に移行すべきだ』と述べた。

Herz議長は、その理由として、次の2点を挙げている。
  1. IFRSとUS GAAPの2つの会計基準が並存し、企業がどちらかを選択できるという世界は信じられない。会計基準は投資家のためにあるのであり、企業のためにあるのではない。

  2. IFRSはPrinciples-baseである。
いよいよ、アメリカにおける会計基準の議論が白熱してきた。現在は、SECの提案により、アメリカ企業にIFRSの使用を認めることについて、意見募集中である(「Topics2007年8月24日 アメリカ企業にIFRS(2)」参照)。Herz議長の意見表明は、その先についての言及であり、波紋を呼ぶことは間違いない。

こうなってくると、Herz議長とTweedie IASB議長の厚い友情説も捨てきれなくなってきた(「Topics2007年6月28日 純正IFRSの意味」参照)。