いろいろな話題を提供してくれた、PDUFA再承認の問題は、27日、予定通り、Bush大統領が署名することで終結を迎えた(「Topics2007年9月21日(3) PDUFA再承認へ」参照)。
財務省が、Social Securityの財政状況について、警鐘を鳴らし始めた。上記sourceを皮切りに、同制度の問題点を連続レポートで紹介するとのことである。
初回は、財政状況と改革のツールについてである。なお、上記sourceでは、Social Securityの制度概要や歴史についても簡単に触れているので、参照されたい。
今回のレポートの肝は、次の2点だと思われる。
- 改革を実施しなければ、早晩、制度は破綻する。
- 改革に早く着手すれば、痛みも小さくても済む。逆に、改革が遅れれば、痛みもそれに従って大きくなる。
医療保険や企業年金の陰に隠れて、なかなか日の目を見ない公的年金改革の議論である。Bush大統領としても、心残りであるのかもしれない(「Topics2004年11月5日(2) 再び年金改革を議論」参照)。せめて最後の1年間くらいは、警鐘を鳴らすことで世論を喚起したいということなのだろうか。
現行制度のまま
(Payroll tax 12.4%)・2041年:給付を(現行制度の)25%削減せざるを得ない。
・2081年:給付を(現行制度の)30%削減せざるを得ない。2007年にPayroll taxを14.35%に引き上げ
または
給付の13%削減2081年まで(75年間)は制度継続。その後破綻。 2007年にPayroll taxを15.9%に引き上げ
または
給付の20.4%削減制度の持続性確保 2041年にPayroll taxを18.2%に引き上げ
または
給付の30.4%削減制度の持続性確保
アメリカ企業各社で、来年のベネフィット・プランが固まりつつある。従業員にとっては、1年間のベネフィットを選択する大事な時期である。
上記sourceでは、来年のベネフィト・プランのトレンドをまとめている。主なトレンドは、次のようになっている。医療費の抑制、自己負担増大というこれまでの流れから、そもそも病気にならない、大病にならないように予防する、という考え方に傾いてきているようだ。
- 健康増進のためのインセンティブ
- 予防診療の促進
- 健康相談の充実
- 従業員個人のニーズに合わせた選択肢の拡充
- 従業員とのコミュニケーション増進
- HSAsの導入と医療保険プランの絞り込み
- 配偶者・扶養家族の加入資格の精査
UAWのストライキは、26日未明、あっけなく終結した。やはり、組合員向けのパフォーマンスであった可能性が高い(「Topics2007年9月25日(2) UAWストライキ突入」参照)。
UAW、GMとも、合意内容について詳細を明らかにしていない。唯一、上記sourceだけが、関係筋への取材で判明したことを列記しているので、その概要をまとめておく。最後に、一点だけコメント。
- VEBA設立
- VEBAを設立する(「Topics2007年6月12日(1) Big3は本気?」参照)。
- GMは、既に$35B(給付債務の約70%)を払い込むことに合意している。この金額は、さらに高くなっている可能性があるとの情報もある(「Topics2007年9月5日(1) UAW交渉経過」参照)。
- 拠出は、現金とそれ以外とで行われる。
- 現金拠出は、来年、再来年の二年間にわたって行われる。
- また、給付債務の移転には裁判所の認可が必要になるが、そのためには数ヶ月を要する。
- 退職者の保険料負担、窓口負担は引き上げられる。ただし、これらの負担増を緩和するために、現在、積立超過となっている年金基金から、$17Bを拠出する。
- これらの措置により、VEBAの運営は、80年間継続する見込み。
- UAWは、VEBAの運営には直接携わらない。
- 一時金
- 賃金は据え置く。
- サイニング・ボーナスとして$3,000を支払う。
- 労働協約期間のうち、2〜4年の3年間について、(年収の)3〜4%の一時金ボーナスを支払う。
- 現役、退職者とも、将来、賃上げの一部を医療保険プランの自己負担割合の引き上げに回す。
- 正社員化
- 4,000人の非正規社員を正社員化する。これにより、UAWの組合員が増加する。
- 賃金体系
- 賃金体系を二層化する。
- 対象は、"non-core"production jobsとされている。おそらく、組み立て加工ライン以外の職に適用されるものと思われる。
- 下位層に適用される賃金・ベネフィットは、$27/h(現在の水準は$73/h)。
- ジョブ・バンク制度
(「Topics2006年1月25日 Fordのレイオフ対策」」参照)
- 職探しのために移動すべき範囲を拡大する。現在、元の職場から半径50マイル以内とされている。
- そうした職探しの行動をとっていない場合には、給付はしない。
UAWは、これまで退職者医療とジョブ・バンクについては、絶対に譲歩しない、としてきた(「Topics2007年4月3日 土俵際のUAW」参照)。にもかかわらず、譲歩せざるを得なかったところに、UAWの苦しさが表れている。
25日、下院がSCHIP法案(HR 976)を可決した。265 v 159の大差であったが、大統領拒否権を覆す2/3には達していない。ちなみに、共和党からは45人が賛成に回った。
これに対して、早速、Bush大統領は、拒否権を発動するとのプレスリリースを公表した。なお、協議が整うまでの単純延長については、今週中に署名するとの意向も併せて表明している。
こちらの協議はしばらくかかりそうである。
シュワ知事人気は、依然として高いようだ。上記調査は、今年6月に公表されたもののようだが、シュワ知事の抜群の知名度と人気度を証明している。
公選された加州政治家で、圧倒的な知名度を誇っている。また、半数以上が、知事としての手腕を評価している。他方の民主党が掌握している州議会の評判は芳しくない。こうした人気を背景に、シュワ知事の医療保険改革案(「Topics2007年1月9日 シュワ知事の提案」参照)への支持率は相当高い。こうした高支持率を背景にするからこそ、与党共和党の意向は軽く流し、野党民主党とも最後の最後まで渡り合える訳である(「Topics2007年9月12日 CA州医療改革は延長戦へ」参照)。最後に、医療とは関係ないが、同性婚を認めるかどうかについては、やや反対が多い。地域別にみると、サンフランシスコ地域では同性婚を支持する割合が突出して高い。
上記は、残業代を巡る訴訟事例の一部である(上記source同様BusinessWeek)。アメリカ社会では、残業代を巡る訴訟が急増しており、実際法令が遵守されていない事例が蔓延しているという。
労働時間法制、残業代を規定しているのは、Fair Labor Standards Act (FLSA)である。このFLSA違反の主な形態は、次の2つに集約されるという。どちらもかなり悪質なケースが目立っているらしい。当websiteでも、一度、時間外勤務記録の削除をしていた事例を紹介している(「Topics2004年8月7日 残業代を勤務時間で振替」参照)。こうした事態に危機感を抱いた米国商工会議所(USCC)では、こんなwebsiteを用意して、注意喚起を促しているそうだ。
- 本来、残業代支払いの対象にしなければいけない従業員を、対象外にしてしまう。
- 時間外勤務の記録を残さないで、残業代を支払わない。
労働市場の時間規制がなし崩し的に緩和されてきたつけが、今来ているようだ。「多様な働き方」と「公正な支払い」というのは、21世紀の労働市場の最大テーマかもしれない。
24日、UAWはGMに対してストライキに突入した。上記sourceによれば、チキンゲームの様相を呈してきたが、 大方の見方としては、生産拠点を海外に多数有するGMに有利、とされている。UAW会長はVEBA設置に前向き(「Topics2007年9月13日(1) UAW会長が前向き発言」参照)と言われていただけに、組合員のガス抜きのための単なるファイティング・ポーズという見方も捨て切れない。
- UAWはいつまでストライキを続行できるのか?
- GMはいつまでストライキに耐えられるのか?
最後にいつもの株価動向。 ⇒ GM Ford
不名誉な方でなのだが、Washington D.C.の通勤渋滞が全米で2位となったそうだ。 ワシントン以外の9都市のうち5都市は車で訪ねたことがあるが、ワシントンがそんなに大きく、企業が集中しているというイメージはない。むしろ、古い田舎町にたまたま産業(バイオ、ITなど)が集積し始めて、それにインフラが追いついていないだけ、という感じがする。
あと、なぜNYがワースト10に入っていないのかも不思議である。NYは基本が電車だからなのだろうが、マンハッタンに入ってこようとする朝の車の列は、まさしくクレージーである。
14日の交渉期限を過ぎても、UAWとGMは話し合いを継続してきたが、ついに、19日、交渉を中断した。VEBAへの拠出額を巡って、両者の差が埋まらないから、という理由らしい(「Topics2007年9月5日(1) UAW交渉経過」、「Topics2007年9月13日(1) UAW会長が前向き発言」参照)。
この中断が、交渉継続のための小休止なのか、決裂への序曲なのかは不明だが、上記sourceは、両者とも交渉を継続せざるを得ない、とみている。VEBAを設立してコスト削減ができなければ、GMの株価は下落するし、一方のUAWにしてみると、ここで退職者医療コストの削減ができなければ、将来、Big3が生産拠点をメキシコなどの海外に移してしまうおそれがある。両者とも、そういうところまで追い込まれているということである。
最後にいつもの株価動向。 ⇒ GM Ford
9月30日のSCHIP法期限切れを控え、同拡充法案に関する両院合意がほぼ固まりつつあるとのことである(「Topics2007年8月4日 CHIP拡充法案の行方」参照)。
内容的には、ほぼ上院案を踏まえたものとなるそうで、またしても、Pelosi議長はKennedy上院議員に敗れたことになる(「Topics2007年7月25日 CHIP+Medicare」参照)。すなわち、@SCHIP拡充のための財源はたばこ税の増税で賄う、AMedicare民間プランへの補助金削減は盛り込まない、ということで、ほぼ合意が取れそうということである。
下院共和党からも合意案に賛成する議員が出そうではあるが、大統領が拒否権を発動した場合、再可決するだけの賛成票数には届かない見通しとのことである。この週末には、議会と大統領府との駆け引きが本格化するものと思われる。
「FDAの職員のレイオフか?」と気を揉ませたPDUFA改正法案(HR 3580)が成立の見通しとなったようだ(「Topics2007年8月2日(1) PDUFA延長法案」参照)。こちらは、Bush大統領もすぐに署名する見通しである。