アメリカ企業の経営幹部は、離職しても、医療保険の提供を受け続けていることが判明したそうだ。上記sourceでは、次のような例示が紹介されている。ここでいうCOBRAとは、企業医療保険プランがあった場合、その企業を退職しても、一定期間、その企業保険プランに加入することができるという規定である。
企 業 名 離職した幹部名 離職理由 企業の支払保険料 Blockbuster Frank Paci, Executive Vice President 解雇 $27,202 x 3年間 Charles Schwab Charles Schwab, CEO 解雇 $32,561 x 3年間 Safeco Michael LaRocco, COO 退職 $15,000
これは、転職時や退職時に、即座に保険を失うことを防止する役割を持っている。ただし、通常、従業員が退職した場合のCOBRA加入条件は、次のようになっている。すぐに転職により再就職ができればよいが、レイオフ等により職を失い、次の職がなかなか見つからないとなると、いくらこのCOBRAの規定があってもかなり苦しい。収入がないのに、保険料は全額以上負担することになるからだ。従って、レイオフ等による退職の場合、このCOBRA規定があったとしても、無保険状態に転落する可能性が高くなるのである。
- 保険料は就労時の102%以内。完全自己負担。就労時の負担割合は関係なし。
- 加入期間は通常18ヶ月。最長36ヶ月。
ところが、上記のようなCEO等企業幹部の場合、解雇されたとしても、保険料は企業側が支払ってくれる。しかも、おそらく上記の金額は月額と思われ、通常の従業員の20〜30倍の保険料(「Topics2007年1月24日(1) 市場メカニズム vs 公的プログラム (一般教書演説)」参照)である。つまり、保険でカバーする内容がとても贅沢、ということである。
おそらく、Golden Parachute(拙著「Golden Parachute (2003/02/06)」参照)と同じように、幹部就任時の契約に、解雇または退職時のベネフィットとして予め盛り込まれているのだろう。
企業の業績とはまったく関係なく支払い続けるベネフィットが、ここにもあるようだ。どこまでも企業から金を引き出そうという企業幹部の貪欲さには、ついていけない。
上記sourceによれば、GAS 45(「Topics2005年12月13日 時限爆弾-GAS45」参照)であぶりだされるOPEB給付債務の積立不足は、$1.5T超にのぼるという。
しかも、上記sourceでは、州政府別の推計により、積立不足の比較を行なっている。 例えば、といった具合である。
- 積立不足の絶対額 ⇒ 大きい方から、CA、NJ、NY、TX、NC
- 州民一人当たり積立不足額 ⇒ 大きい方から、AK、NJ、CT、HI、AL
- 積立不足の対資産割合 ⇒ 大きい方から、NJ、CT、ME、AL、MI
こうなってしまうと、例え、TX州ひとりが嫌だ(「Topics2007年3月15日(1) 時限爆弾に怯えるTX州」参照)といっても、横並びで推計されてしまえば、州債のレイティングも自ずと決まってしまう。もうGAS 45の開示は待ったなし、という状況である。
ビッグ3とUAWの労使協議が始まった。その開始に当たって、UAWのRon Gettelfinger 会長が、@医療コスト負担、Aジョブ・バンクの2つの課題については、一切譲歩しないと宣言した。
いずれも、当websiteではお馴染みの話題である。直近のtopicsを紹介しておくと、@医療コストについては「Topics2007年2月28日 医療費が足枷となるGM」、Aジョブ・バンクについては「Topics2006年1月25日 Fordのレイオフ対策」を参照されたい。
どちらの課題も、UAWの常識、世間の非常識で、ビッグ3の経営状況を考えれば、UAWの譲歩は必至と見られる。それをわかっているから、トップも譲歩しないと宣言せざるを得ないのだろう。それだけ、UAWは追い込まれている。
それにしても、労使とも、医療費問題の解決策は「連邦レベルでの皆保険である」と考えているのには、驚かされる。まるでPBGCのように、負担しきれなくなったら他の企業(労使)に付け回せ、とでも考えているのだろうか。ちょっと無責任に過ぎるのではないか。
最後に、いつもの株価動向を掲載しておく。 ⇒ GM Ford