2月10日 Soda Taxの行方 
Source :Beverage industry douses tax on soft drinks (Los Angeles Times)
@炭酸飲料は肥満の原因、
Aだから肥満抑制と財源確保の一挙両得を狙って課税すべき

との論調に対し、飲料メーカー、食品メーカーが反攻を強めている。

そもそもsoda taxは、医療保険改革の財源探しの中で話題になっていた(「Topics2009年8月19日(3) 各論も動き出す」参照)。上下両院で可決した法案には盛り込まれなかったものの、ここに来て、法案自体の枠組みを外し、段階論的に合意しやすいところから医療保険改革を進めようという機運が高まり始めている。昨日も紹介した通り、予防医療、健康増進の重視は誰も異存のないところで、再び、肥満対策が議論の対象になりかねない環境にある(「Topics2010年2月9日 共和党提案の見通し」参照)。

こうした情勢に鑑み、飲料メーカー、食品メーカーは、主に三つの戦略で火消しにかかっている。

第一は、炭酸飲料が肥満の主因であるという科学的根拠はない、という論調を広めることである(⇒例えばこんな風に

第二は、低所得者層にとって打撃になる、という主張である。これは、消費者サイドで負担が増えるという側面である。

第三は、砂糖が入っている炭酸飲料に課税するということなら、ソーダばかりでなく、乳製品や菓子などにも課税の動きが広がりかねない。そうなれば飲料、食品の消費が抑制され、広く雇用が失われる、という主張である。田舎の選挙区では、この戦略が功を奏していて、連邦議会議員などが消極的姿勢に転じているという。

段階的改革の推進といっても、それぞれの各論には必ず障害物が待っており、Obama大統領が思い描くように、なかなか早急には進まないものである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

2月9日 共和党提案の見通し
Source :On Health Bill, G.O.P.'s Road Is a New Map (New York Times)
昨日紹介した通り、今月25日にObama大統領、上下両院の民主党、共和党議員が招かれ、医療保険改革について公開討論が行われることになった。上記sourceは、その場で、共和党は、自らの医療保険改革提案のラインアップを提示するのではないかとみている。

そのポイントは次の通り。

  1. 基本的な考え方

    1. 税制によるインセンティブの重視

    2. 州政府による無保険者対策の重視

    3. 市場機能の重視

    4. 追加的な負担を可能な限り回避

    5. 医療コストを抑制することを優先した段階的な改革の推進

  2. 民間保険

    1. 企業に医療保険プラン提供義務を課さない

    2. 州際を越えた医療保険プランの販売を認める

    3. HSAの拡充

    4. 25、6歳までの子供を親の保険プランの被保険者に含める

    5. 小規模企業によるグループ保険購入の支援

    6. (医療保険ベネフィットに課税すべきかどうかは、党内で意見が二分)

  3. 公的保険等

    1. Medicaidの大幅拡充に反対。州政府に巨額の財政負担を強いることになる。

    2. Medicareにおける民間保険会社の役割を拡充("Part D"を念頭に)

    3. Medicareの合理化は必要だが、そこで捻出された財源はMedicareに充当すべき

    4. 保険料引き下げ、無保険者の削減に成功した州政府に対して、連邦政府から報奨金を提供

    5. 州政府の再保険制度の創設・拡充に連邦補助金を提供

    6. 医療過誤訴訟に関する州法を改正し、費用や保険料を引き下げる

    7. ("Exchange"創設の是非については党内で意見が二分)

  4. その他

    1. 予防医療の重視

    2. 医師、医療機関の診療費用と診療の質に関する透明性の確保

    3. 後発医薬品の認可の迅速化

共和党内部では、『両院法案を議論のたたき台にするのであれば、大統領との討論会には参加できない』とする意見が強まっているそうだ。Obama大統領の思惑通りに事が運ぶのであろうか。当分は、両党と大統領との間で、条件闘争のような駆け引きが続くものと思われる。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

2月8日 共和党も招待 
Source :Obama to invite GOP to healthcare summit (Los Angeles Times)
7日、スーパーボウルが開催され、セインツが優勝した。コルツのマニングが決してやってはいけないミス、パスをインターセプトされ、そのままタッチダウンされてしまった。

その直前、Obama大統領は、『共和党も招いて、医療保険改革について議論したい』と公言した。日時は2月25日(木)、参加者は、Obama大統領と連邦議会民主党、共和党の議員である。半日をかけて開催する予定で、討論会の模様はテレビ放映するという。

狙いは、医療保険改革の推進力を得るために、@共和党の協力を仰ぐという姿勢を示す一方で、A医療保険改革を止めているのは共和党、と印象付けようということである。

しかし、国民が『やっぱりObamaや民主党の主張は無茶だ』と感じてしまえば、逆効果になるというリスクを負うことになる。

共和党は、受けて立つ意向である。この経済情勢が最悪の時期に、巨額の公的支出を必要とする改革は無理であり、上下両院の法案を一度チャラにして、段階的な改革を開始しようと呼びかけるのであろう。

それにしても、この日付はどういうことなのだろうか。議会が休会に入る時期、ということなのだろうが、どうして二週間後なのだろうか。それまでに、民主党内の意思統一を図るというのか、それとも共和党に賛同者を見つけておくというのか。

どう考えても、25日の討論会まで、すべての思考が止まってしまうのではないだろうか。それまでに民主党内で方針を決めてしまえば、何のための討論会なのか、ということになる。

ここでもObama大統領は、具体的な指示を出さずに、議論だけをやらせようとしている。民主党議員達はどこまで付き合っていけるのだろうか。

※ 「無保険者対策/連邦レベル

2月6日 賠償金上限設定は州憲法違反 
Source :Illinois Court Overturns Malpractice Statute (New York Times)
4日、IL州最高裁は、『医療過誤訴訟において、賠償額に上限を設けている州法は州憲法違反である』との判決を下した。立法権と司法権の分立を規定している州憲法のもとでは、賠償額の判断は司法に委ねるべきである、との考え方である。現行のIL州法では、非経済的な損失に関する賠償額について、医師に対しては$500,000、病院に対しては$1Mの上限を設けている。

全米で30近くの州で、非経済的な損失に対する賠償額に上限を設けているが、16の州の裁判所が支持しているのに対し、11の州でIL州と同様、違憲の判決を出している。

IL州法で賠償額に上限を設けたのは、医療過誤保険料が高く、医師が他州に移動したり、廃業したりする例が相次いだことが切っ掛けであったが、州最高裁の判決により、見直しを迫られることになる。 この判決は、単にIL州の問題にとどまらず、連邦議会における医療保険改革の議論にも影響を及ぼす。

医療過誤訴訟について、従来から、
『民主党=弁護士=上限設定反対』 vs 『共和党=医療機関=上限設定賛成』
という構図がある。連邦議会で超党派での法案審議を余儀なくされている民主党としては、医療過誤訴訟に関する共和党の意見を取り入れることをカードにしようとしていた経緯がある。ところが、IL州のような事例が出てくれば、上限設定は問題という民主党本来の考え方が強まり、超党派どころではなくなってしまう。

なんだかMA州上院特別選挙以来、民主党にとってすべての歯車がずれてしまったような感がある。

※ 参考テーマ「医療過誤」、「無保険者対策/連邦レベル

2月4日 次の一手は? 
Source :House Dems' Next Step In Health Reform: Repeal Of Insurance Antitrust Exemption (Kaiser Health News)
医療保険改革をどのように進めるのか、そのための次の一手は何なのか?連邦議会民主党幹部の間で、連日議論が行われているようだ。上記sourceで示されている幹部の意向は、次の通り。 そして、Obama大統領は、相変わらず『医療保険改革は仕上げなければならない』と檄を飛ばすだけで、具体的な内容は方向性の指示はしていない(New York Times)。

一番積極的に動いているのが、Pelosi下院議長だが、では何を最初に切りだすのか、というと、保険会社が例外的に独禁法不適用になっているのを見直し、独禁法を適用してより競争的な市場にしようという方策である。これは、下院法案には盛り込まれていたが、上院法案には盛り込まれていない(上下両院法案比較表)。当然のことながら、保険業界は反対している。

もう一つ、議論が活発化しているのが、保険プランの他州からの購入を認めてはどうか、との提案である。これも、競争を州外に広げるという意味で、競争的な市場にしようという試みとしては、独禁法適用の見直しと似ているところがある。また、そもそもこのアイディアは共和党が支持してきた経緯があり、超党派の合意が得やすいのではないか、ともみられる(「Topics2008年8月11日 州際競争による無保険者対策」「Topics2007年12月21日(2) 医療保険州際化法案」参照)。

ところが、そうは問屋が卸さないのである(Kaiser Health News)。
  1. 現在、医療保険は州政府が規制している。州を越えて保険プランを購入できるようにするということは、この現在のルールを変更する必要がある。

  2. 昨年、連邦議会で可決された上下両院法案には、州を越えて保険プラン購入を可能とする規定が入っていた。
    • 下院法案:州政府が"compacts"を形成し、それを通じて他州の保険プランを購入できるようにする。適用される法規制をどちらにするかは、州政府が選択する。
    • 上院法案:州政府が"compacts"を形成し、それを通じて他州の保険プランを購入できるようにするのは同じだが、その保険プランは保険プランを認可した州の法律により管理される。同時に、OPMが運営管理する保険プラン(最低二種類)を選択肢として提供する。

  3. 民主党が制度設計をしようとすると、連邦政府による規制が入り、保険プランの自由度が制限される可能性が高く、これを共和党は嫌っている。

  4. 州政府として、州民の健康増進、給付水準の確保のために保険プランに規制を加えているものが、他州からの購入で無駄になってしまう。

  5. 州を越えて保険プランを購入することを認めても、コスト節減効果はそれほど大きくない。
細切れ作戦も、なかなか難しいのである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

2月3日(1) 舞台は州レベルへ 
Source :States Restart Health-Care Push (The Wall Street Journal)
やはり、無保険者対策の舞台は、州レベルに変わりつつあるようだ(「Topics2010年2月2日(1) 個人加入義務に反対-VA州」参照)。

各州政府とも、Obama大統領に決まってからの1年間、連邦レベルでどのような対策が打たれるのか、その成果を待っていたのだが、ここに来て、連邦レベルではそれほど大きく急激には動かないと見切ったようである。上記sourceによれば、11の州で、低中所得者層を対象とした対策の拡充と保険会社への規制強化などを検討しているという。

一方、州政府の財政状況は大変厳しくなっている。連邦政府でも予算凍結措置が大規模に取られることになりそうだが、州レベルでも同様で、低所得者層向けの医療保障施策の規模を縮小したり、加入者を制限したりして、財政支出を抑制しようとしている(Kaiser Health News)。

仮に、連邦レベルで医療保険改革法案が成立していれば、少なくとも"Medicaid"の増分だけは連邦政府負担で賄えたはずである。ここでも財源のあてがはずれ、州政府としては、独自の制度拡充に新たな財源措置を採らざるを得なくなっている。

失業率が高水準で推移している中、無保険者の増加は避けられず、対策は喫緊の課題になりつつあるのではないだろうか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/州レベル

2月3日(2) 同性愛者の軍隊活動 
Source :Top Defense Officials Seek to End ‘Don’t Ask, Don’t Tell’(New York Times)
2日、上院委員会の公聴会で、Gates国防長官とMullen提督が証言を行い、"Don't Ask, Don't Tell"ルールを見直すことを約束した。Obama大統領の一般教書演説を受けてのことである(「Topics2010年1月28日 雇用創出エンジンは企業」参照)。

1993年に法律が定められて以降、同性愛者であってもそれを公にしなければ、軍隊で任務に就くことを認めていた。これは、そもそも同性愛者の入隊を拒む考え方と、同性愛者であっても愛国心に基づき軍の任務に就きたいという考え方の折衷案であった。それを、今後は、公にしても認める、という方針転換を図るものである。

このように、方針転換は明らかにしたものの、今後必要となる法的措置、実際の現場でのルール作り、スケジュールなどの検討はこれからだという。国防省のスタッフによれば、1年はかかるだろうとの見通しだ。

当然、McCain上院議員をはじめとした共和党議員は、今二つの戦争をやっている最中に、現場のルールを変更することは好ましくない、とのスタンスを取っている。つまり、これまた党派色の濃い課題が掲げられたのである。

Obama大統領の政治主導により、公の舞台での方針表明を余儀なくされた形だが、本当のところ、落とし所がどうなるのか、まだまだ不透明な段階である。こうした状況を見切ってか、同性婚推進派の間では、単なる時間稼ぎではないか、との批判が出ているようだ。

※ 参考テーマ「同性カップル

2月3日(3) 企業の健康増進策 
Source :Companies May Hit New Anti-Discrimination Law When Asking Workers About Health Issues (Kaiser Health News)
上記sourceでは、企業が従業員の健康増進策に力を入れている事例を紹介している。 こうした運動は、従業員の個人情報に基づいて行われることが多い。ところが、昨年11月21日から"Title II of the Genetic Information Nondiscrimination Act of 2008 (GINA)"が施行されたことに伴い、従業員の個人情報を収集することが難しくなるかもしれない、と言われている。

EEOC解説文書によれば、GINAの概要は次の通り。
  1. 遺伝子情報に基づき、従業員、(保険加入)申請者を差別することを禁じる。

  2. 雇用に関する決定を行う際に遺伝子情報を利用することを禁じる。

  3. 企業、保険会社等が遺伝子情報を取得することを制限する。

  4. 『遺伝子情報』には、次のような事項が含まれる。

    1. 本人、家族の遺伝子検査の結果
    2. 本人、家族の病気、障害、健康状態、病歴

  5. 企業が従業員の遺伝子情報を入手することは違法である。ただし、次の6つの例外は認める。

    1. 意図せざる入手、例えば職場での会話等から知ってしまった場合
    2. 健康管理サービス等の一部として入手した場合(ただし、いくつかの条件あり)
    3. 従業員がFMLAを取得する場合に正規の手続きを踏んで入手した場合
    4. 新聞等に掲載されている公開情報から入手した場合
    5. 危険物取り扱いに伴う遺伝子への影響を法に基づいてモニターする場合
    6. 法に基づいて犯罪捜査等のために従業員の遺伝子検査を行った場合

  6. 従業員の遺伝子情報を公開してはならない。
上記5.Aで、健康管理サービスの一環として入手することは可能となっているが、様々な条件がつけられているのだろう。

労働組合の組織率が著しく低下し、解雇に寛容な社会において、差別禁止法制は重要な役割を担っている(拙著「障害者差別禁止法に関する連邦最高裁判所判決について (2002/7/3) 」参照)。アメリカ社会の差別に対する繊細さを示している事例である。

※ 参考テーマ「人事政策/労働法制」、「医療保険プラン

2月2日(1) 個人加入義務に反対-VA州 
Source :Virginia Senate bills say no to requiring health insurance (Washington Post)
1日、VA州上院は、『連邦政府による個人の医療保険加入義務化に反対する』旨の法案を可決した。州上院はもともと22 vs 18で民主党が優勢なのだが、民主党から5票の賛成票が入り、23 vs 17で法案が可決された。州下院は共和党が握っており、やはり可決する見込みである。州知事も共和党で、法案の内容に理解を示しているという。

そもそも、このような内容の法案自体、法的拘束力に疑問はあるものの、州レベルでの意見表明としては、極めて有効である。なぜなら、つい先週、Obama大統領が『医療保険改革は最後まで仕上げてくれ』と要請した矢先だからである(「Topics2010年1月28日 雇用創出エンジンは企業」参照)。VA州の民主党は、Obama大統領の言うことは聞かない、と通告したのである。それくらい、今の"Tea Party Movement"は、強烈な勢いを持っているのである。しかも、このような動きが、VA州だけではなく、29州で抵抗にあっているという。

このメッセージによるObama大統領、民主党のダメージは大きい。連邦議会上下両院とも、個人の保険加入義務化を盛り込んでいるからである。もし、このような動きが広がりをみせることになれば、超人気を誇るObama大統領の下でも医療保険改革ができなかったということになってしまう。

だとしたら、MA州をモデルにしながら、各州で無保険者対策を検討するしか道はないことになる。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/MA州

2月2日(2) 移民法改革推進派に失望感 
Source :Chances are dim, but advocates will still push for immigration reform (Washington Post)
やはり、Obama大統領の一般教書演説に、移民法改革推進派は相当な失望感を抱いているようだ。支持者達は、一様に、大統領の言及が『短すぎる』と感じている(「Topics2010年1月28日 雇用創出エンジンは企業」参照)。

これでは、年末にObama大統領が示した意気込み(「Topics2009年12月31日 移民法改革への取り組み」参照)は何だったのか、と言いたくなる。実際、下院で法案を提出したLuis V. Gutierrez下院議員は、支持者の間に『幻滅』が広がっている、とコメントしている(「Topics2009年12月19日 新移民法案提出」参照)。

このような事態に対し、上院のReid院内総務Schumer(D-NY)上院議員は、超党派の法案を作り上げると釈明しているが、医療改革法案の道筋さえ付けられない状況では、その実現性は低いと言わざるを得ない。

中間選挙まで残された時間は少ない。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

2月1日 ゆっくりと静かに 
Source :Democrats quietly working to resuscitate healthcare overhaul (Los Angeles Times)
当然のことではあるが、連邦議会民主党幹部は、時間をかけて、冷静な動きによって、医療保険改革を実現したいと考えているそうだ。もちろん、その規模や連邦議会での審議手法については、まだまだ議論が続きそうである。

そういった状況の中で、推進派が一致しているのは、昨年のような
  1. 公開討論 や、
  2. 関係者との取り引き
は、二度とやりたくない、という思いである。こうしたプロセスの積み重ねの結果が、"House of Cards"となったからである。

もう一つ、上記sourceで明確にされていることがある。それは、下院民主党が上院民主党に不満を持っている、ということである。

普通の法案審議であれば、下院がポピュリズムに走り、上院が財源と良識の観点から成案を叩き出す、というのがパターンのはずである。ところが、今回の医療保険改革については、下院案が一本筋を通しているのに対し、上院案がその場凌ぎの妥協を繰り返してきた。そのつけが、ここにきて、両院間の反目につながっているようだ。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル