8月19日 Delphiの苦境 Source : U.S. is Pressuring Delphi over Pension Obligations (New York Times)
Delphiという自動車部品メーカーが苦境に陥っている。
ことの発端は、3年前の2005年10月8日、同社がChapter 11を申請したことにある(「Topics2005年10月10日 GMの負担増」参照)。その1ヵ月後、もともとの親会社であるGMが、Delphiの年金プランを引き取ることで交渉が進んでいるとの報道があった(「Topics2005年11月16日 GMがDelphi従業員を引き取る?」参照)。これで、Delphiの年金プランは、PBGC行きにならずにすむ、との観測が広がった。
ところが、それから3年経って、まだDelphiはChapter 11から脱出できずにいる。今年の春、Delphiは、再生プランが成立するとの見込みの段階で、年金積立に関するIRSの猶予措置を解除してしまう。ところが、4月になって、Delphiは、債権者との間での再生プラン締結に失敗してしまう。加えて、原油高の高騰に伴い、自動車需要が大きく落ち込み、売り上げも低迷してしまう。
そうこうしているうちに、年金プランへの積立猶予期限である9月30日がどんどん近づいてきているのである。
もともと、Delphiの年金プランには、現段階で$1.5Bの積立不足があるという。仮に9月30日までに積立不足を払うとすれば、$2.4Bが必要となり、さらに、9月30日の期限が守られなければ、IRSからペナルティ・タックス(excise tax)として、$3.4Bを追徴されることになる。合計$5.8Bの負担は、今のDelphiには耐えられない。
一方、GMは、年金プラン以外にも、Delphiへの救済策を検討しており、その総額は$11Bにのぼるとされている。GMとしては、現金以外にも、再生後のDelphiの株式、債券等で充分な手当が必要と考えていたはずだ。しかし、当のDelphiがChapter 11から脱出できなければ、その目論みも立たないことになる。
GMだって、お膝元は苦しい。GMは自社の年金プランは積立超過になっているとしているが、過去、PBGCやSECから調査を受けており(「Topics2005年10月5日 GM vs PBGC」、「Topics2008年10月28日(1) 再びSECがGMを調査」参照)、実際に蓋を開けてみないとどうなっているのかわからない。さらに、VEBAへの拠出がままならなくなっている状況にあり(「Topics2008年7月16日 VEBA@GMに黄信号」参照)、これ以上年金債務を抱え込むことができるのかどうか疑問だ。
そうした事情を背景に、GMが充分な資金手当を強く求めれば、Delphiに残る資産はなくなり、債権者の債権は藻屑となる。かといって、GMがDelphiの年金を引き受けなければ、DelphiはChapter 11から脱出できなくなり、PBGCが引き継ぐことになる。その場合、PBGCは$8Bの資産を差し押さえる必要があるとしており、既に同社の資産に先取り特権を設定しつつあるそうだ。この場合でもDelphiの債権者の手元には何も残らないことになろう。
いよいよ自動車関連会社とPBGCの攻防が始まりそうである。
最後に、GM、Fordの株価動向は次の通り。 ⇒ GM Ford
8月18日 移民に厳しいアメリカ社会 Source : The Impact of Immigration on Health Insurance Coverage in the United States, 1994-2006 (EBRI)
上記sourceを読んで初めて知ったのだが、アメリカには、"Personal Responsibility and Work Opportunity Reconciliation Act (PRWORA) of 1996"という法律(H.R. 3734)があるそうだ。
この法律で、新規移民は、入国後5年間、医療を含めた公的支援プログラムをほとんど受けることができない、と規定している。この規制のために、移民の中で無保険者が多くなっているようだ。
もともとは、医療保険に加入できるくらいの所得を得られる人材を受け入れようという考え方だったのだろう。しかし、実際に移民として入ってくる人材は、高度人材とは限らない。
外国人にとって、新しい社会でまず直面する問題は、医療と教育だと思う。それは、費用面でも手続き面でも、システムが異なり、言語の違いによる手間(=コスト)がとても大きくなるからだ。
そうした基礎的な分野で制約を設けているにもかかわらず、アメリカへの移民希望者が後を絶たないというのは、そうした問題を上回るメリットを感じられるということなのだろう。羨ましい限りである。
8月17日 結婚を左右する医療保険 Source : Health Benefits Inspire Rush to Marry, or Divorce (New York Times)
やはり、アメリカは医療費の高騰で病んでいる(「Topics2007年11月26日 病んでいるアメリカ医療保険」参照)。上記sourceでは、結婚することで恋人を医療保険に加入させる、離婚することで低所得者層向けの公的医療保障プランに加入する、ということを真剣に話し合っているカップルの事例が紹介されている。
上記事例は、既に罹病しているシリアスなケースだが、保険プランに加入していることが結婚の条件として真面目に考えられるようになっていくのかもしれない。それはまあ高収入を条件にすることと大差ないので、仕方ないかなと思うが、保険加入するために離婚を真剣に考える、というのは、何のための家族なのか、という思いがする。
家族という人間にとって最も大事な生活単位が、医療費によって崩壊せざるを得ない状況というのは、やはり間違っているような気がする。
8月16日 CA州民投票 Source : Social Initiatives on State Ballots Could Draw Attention to Presidential Race (New York Times)
今年秋の大統領選、連邦議会選挙に合わせて、各州で州民投票が行われる。上記sourceでは、各州で投票にかけられるであろう政策課題について、解説されている。中でも、当webstieとして注目すべきと考えるのは、CA州の同性婚禁止案である。
CA州では、今年5月、州最高裁が同性婚を認める判決を下している(「Topics2008年5月28日 加州最高裁 同性婚認める」参照)。秋の州民投票は、この州最高裁判決の信認投票という位置付けであり、ここで同性婚禁止案が可決されれば、再び同性婚は認められなくなるし、否決されれば、同性婚認知の流れが強くなろう。
ちなみに、大統領選候補のMcCain上院議員(R)は、同性婚禁止案に賛成。Obama上院議員(D)は、これまで同性婚の問題は各州の判断に委ねるべきとしてきたが、今回のCA州の同性婚禁止案には反対するとのことである。
8月15日 MA州ペナルティ強化 Source : Massachusetts Governor Proposes Rule That Would Require Businesses To Contribute More to Health Coverage (Kaisernetwork)
やはり、MA州のPatrick知事が、皆保険法における企業へのペナルティを強化する改正案を提示した。知事の原案通りである(「Topics2008年7月23日 MA州拠出増要請」参照)。
今後の予定では、9月5日に公聴会を開催した後、10月1日に施行することとなっている。これにより、今年度$45Mの増収が図れるとのことである。
この提案に対し、小売業をはじめとした中小企業は相当に反発している。しかし、州民全体で知事提案をサポートする雰囲気がある中、どこまで抵抗できるのか。
8月13日 DC移行のリスク Source : Patience is a Virtue (National Institute on Retirement Security)
当websiteでも紹介してきた通り、民間部門においては、DBからDCへの移行が進んでいる。一方で、公的部門(州・自治体職員)では、そうした傾向は進んでいない。
官民別の年金プラン加入割合 | DBプラン | DCプラン |
公的部門 | 80% | 10% |
民間部門 | 14% | 64% |
こうしたDB、DCプランの偏りがどのような影響をもたらすのかを分析したのが、上記sourceである。主な分析結果は次の通り。
- 公的部門の年金プランの投資ポートフォリオと、民間部門のDBプランのそれとはよく似たものとなっている。どちらも、資産の63%を株式に投資している。反面、DCプランでは、直接株式に投資しているのは37%にすぎない。
- 過去10年間で、公的部門の年金プランの株式投資比率は上昇してきた。1985年当時、公的部門のDBプランでは、29.9%しかなかったが、民間のDBプランでは42.3%もあった。他方、DCプランでは、過去20年間、株式投資比率が低下し続けている。
- 分散投資を阻害するような規制が徐々に少なくなってきている。公的部門の投資ポートフォリオも、これに合わせて適正化されてきている。
- DBプランの方がDCプランよりも、より長期的視野で投資を行っている。DCプランの方が、株式の売買を頻繁に行っている。これは、個人による投資、退職後所得の確保、投資のための資金調達に重大な懸念をもたらす。
このような結果から、どうしても個人で運用をしなければならないDCと、プロが長期で運用するDBとでは、明らかに運用実績が異なることになってしまう。欧州では、こうしたDCの欠陥を補うために、Collective DCという仕組みが注目されているという。これは、年金の時価会計化への対応でもあるが、運用の面でも注目されている。
8月12日 MA州知事$100M確保 Source : Massachusetts Gov. Patrick Signs Sweeping Health Care Legislation (Kaisernetwork)
MA州のPatrick知事が、10日、MA州皆保険制度に必要とされる$100M増収策を盛り込んだ法案に署名した。
上記sourceや新聞報道では、$100Mが確保されたということと、企業の拠出金がアップされることにしか言及がなく、具体策が明らかになっていない。同知事のwebsiteにおけるpress releaseに至っては、その増収策についてすら触れていない。
下院で企業へのペナルティ強化策を削除(「Topics2008年8月4日 MA州議会可決」参照)されていて、不人気政策であることはわかっているので、敢えてふれないようにしているのだろう。詳報を待ちたい。
8月11日 州際競争による無保険者対策 Source : New Study Shows that Interstate Health Insurance Competition Can Bring Down Premiums, Reduce the Number of Uninsured (AEI)
現在、保険業務は州政府の所管となっている。この所管、つまり州毎の規制を飛び越えて、州際医療保険市場を創れば、規制に伴うコストが削減され、保険料が下がり、無保険者を減らすことができる、という主張である。
確かに、そういう理屈は立つものと思われる。しかし、同じ保険料を負担していても、州外の保険を購入した州民と州内の保険を購入した州民の間で保険プラン内容が異なる、規制の内容が異なる、という状況が本当に実現するのだろうか。もしそこまで主張するのであれば、保険業務の所管を州政府から連邦政府に移管する、という提案の方がしっくりくる。
また、この主張をしているのが、AEIというのも気になる。AEIといえば、Bush政権8年間で政治に対する影響力を最も行使していたシンクタンクである。そのAEIが、McCainの提言(「Topics2008年5月3日 McCainの医療改革提言」参照)が
有効である、といくら主張しても、割り引いて考えざるを得ないのではないだろうか。