12月31日 移民法改革への取り組み 
Source :White House prepares for immigration overhaul battle (Los Angeles Times)
上記sourceによれば、Obama大統領は本格的な移民法改革に取り組む方針を固めたようである。これを受けて、下院に続き、上院でも法案を提出する準備が進んでいるという(「Topics2009年12月19日 新移民法案提出」参照)。上院での主役は、Schumer(D-NY)上院議員である。

改革の柱は、
  1. 不法移民(1200万人とも言われている)に法的地位を賦与する
  2. 国境警備を強化する
の2つである。

狙いは、ラテン系の支持を中間選挙までひきつけておくことにある。ラテン系は、先の大統領選でObama候補が移民法改革に取り組む約束をしたことを評価して、支持に回っている。それが、大統領就任から2年たっても何も動いていないのでは、『手形が落ちない』との批判が噴出することは明らかだ。また、労働組合も同改革を支持している(「Topics2009年4月16日 移民政策論議再燃」参照)。

一方、移民法改革に取り組むには、最悪の環境である。経済が本格的に回復しておらず、失業率が高い中で、不法移民を合法化することに対する批判は根強い。敢えてこうした時期に移民法改革を成功させるためには、Obama大統領の説得により国民の理解が得られるかどうかが鍵となる。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

12月30日 地方政府の退職給付債務 
Sources :2008 Comparative Study of Major Public Employee Retirement Systems (Wisconsin Legislative Council)
State and Local Government Retiree Health Benefits (GAO)
まず、最初のsourceは、各州政府が運営している主な年金制度に関する制度比較研究である。当websiteとしての関心事項は次の通り。
○ 従業員負担の給与比率は5%強となっており、比較的高い負担率が多いようである。FIG06
○ 受給権賦与は5年が過半数を超えており、長期勤務が期待されていることがわかる。FIG07
○ 給付利率は7〜8%を想定しているところが4分の3近くあり、かなり高い水準に置かれている。FIG12
○ 積立比率が80%を超えているところが過半を超えているが、この数字が2008年のものであることに留意すべきであろう。FIG13
次のsourceは、州政府その他の自治体のOPEBについてだが、OPEBの殆どは退職者医療である。当websiteとしては、その給付債務に見合う資産に最も関心を払ってきている。
○ 退職者医療給付を目的に資産を別建てで確保している州・自治体は、35%しかない。残りの65%は、完全な賦課方式の財政運営を行っている。このような状況では、退職者が増えるにしたがって、州政府の財政を確実に圧迫していくことになる。FIG01
○ 州政府のOPEBに関する積立比率は、平均して4.3%に過ぎない。TABLE3
○ 一方、地方自治体は、平均5.2%にとどまる。いずれにしても、極めて低い積立比率でしかない。TABLE4
給付の約束だけしてそのための財源確保ができていなければ、やがて行き詰まることになる。

※ 参考テーマ「地方政府年金」、「GAS 45

12月29日 州政府も上院案に反発 
Source :States With Expanded Health Coverage Fight Bill (New York Times)
Medicaidの財政負担を巡って、州政府が上院案に対する反発を強めている。上記sourceで示されているポイントをまとめてみると、次のようになる。
法案条項/州政府下 院 法 案上 院 法 案
Medicaid拡充策FPL 150%FPL 133%
拡充策施行時期2013年〜2014年〜
連邦政府負担・2014〜2015年:新規加入者分のコスト全額
・2016年〜:新規加入者分コストの91%
・2014〜2016年:新規加入者分のコスト全額
・2017年〜:独自の拡充策を実施していない州は、新規加入者の州負担分の95%を償還。
・2017年〜:独自の拡充策を実施している州は、新規加入者の州負担分の80〜95%を償還。
・償還率は州民一人当たり所得で決定。
法案の影響-・州独自の拡充策を実施している州ほど負担割合が高くなる。
・州独自の拡充策による既存の加入者については適用されない。
New York州・FPL150%に拡充している。
・"善意で進めてきた政策が罰則を科されているようなものだ。"
・"上院を下院案に合わせても10年間で$30Bしかかからないので、最終調整に期待している。"
Arizona州・2000年にMedicaidを拡充している。
・"上院案だと、最初の7年間で州の負担は$17Bとなるが、もし拡充していなければ$1.4Bですんだはずである。"
California州・FPL150%に拡充している。
・"医療保険改革の方向性は支持しているので、その政策と具体的な財政措置とを一致させてほしい。"
Arkansas州・FPL117%に拡充している。
Alabama州・FPL124%に拡充している。
Minnesota州・FPL215%に拡充している。
Massachusetts州
Vermont州
・州独自の拡充策が最も手厚いことから、上院案で既にコスト負担増を回避する措置が盛り込まれている。
Nebraska州・院内総務との取引により、新規加入者のための追加負担は永久に免除されることになっている。
こうやって比較してみると、やはり不公平感が生じるのはやむを得ないのではないかと思われる。金額的にはそれほど深刻なものではないものの、一国の制度全体が揺るぎかねない問題を抱えているといえよう。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「州レベル全般

12月26日 正規雇用が増えない 
Source :Labor Data Show Surge in Hiring of Temp Workers (New York Times)
失業率の上昇が一服したとみられている中、正規雇用がなかなか増えないという。

上記sourceによれば、
  1. 過去2回の景気回復期には、非正規雇用が増え始めてから2〜3ヵ月後には、正規雇用も増え始めていた。

  2. しかし、今回の回復期では、既に非正規雇用が増え始めてから4ヶ月が経っているにもかかわらず、正規雇用が増えていない。

  3. 労働省の統計は正規/非正規の区別をしていないが、人材派遣業というカテゴリーがある。このカテゴリーの雇用者数は、11月に52,000人増えているが、これは他のカテゴリーの増加数合計よりも大きい。
企業は、回復期に入ったとしても生産が確実に増えるとは見ていないために、正規雇用を増やさず、当面は非正規雇用を増やすことで対応しようとしているのであろう。来年のアメリカ経済の成長について、アメリカ政府、FRB、エコノミストはこぞって楽観的な見通しを表明しているが、経営者はまだまだ慎重な見方を続けているようである。

※ 参考テーマ「労働市場

12月25日 COBRA補助延長 
Source :COBRA Subsidy Law Extended, Expanded (Thompson Publishing Group)
少し古くなるが、今月19日、Obama大統領はCOBRAへの補助措置延長を含む法案(H.R. 3326)に署名した。補助期間を従来の9ヵ月間から15ヵ月間に延長するとともに、適用開始時期が本年末までであったのを、2010年2月28日までに解雇された場合にまで拡充した。

深刻な雇用情勢に対応した措置である。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

12月24日 上院法案可決 
Source :Senate Passes Health Care Overhaul Bill (New York Times)
上院はあっさりと医療改革法案を可決した。60 vs 39で、共和党からは一票も入らなかった。

これで年内の議論は終了。年明けからの両院協議に舞台は移っていく。

ところで、上院法案の修正事項について、かなり強い反発が生じている。当websiteでも紹介したように、今回の上院法案は、中絶の扱いを巡って、Ben Nelson上院議員の賛成票を得るために、大幅な修正を行っている(「Topics2009年12月20日 上院民主党準備完了」参照)。これまでは、中絶に関する修正に注目が集まっていたのだが、それに付随して行われた、Medicaidに関する修正に疑問が集まっている。

Nelson上院議員が獲得したMedicaidに関する修正とは、 というものであった(New York Times)。この修正条項に伴いNebraska州が負担を免れる額は、10年間で$100M以上にのぼるという(Washington Post)。

Medicaidの給付に要する費用は、連邦政府と州政府が折半することが原則となっている。今回の修正条項により、Medicaidを拡充した場合、Nebraska州の負担増はなく、すべて連邦政府が負担することになる。他方、他州は折半分を負担することになる。そのうえ、他州の州民にとってみると、連邦税の負担増によって、Nebraska州に援助しているようなことになる。

この点に、怒っている州政府が、少なくとも10はあるという。当然、共和党が知事を務めている州である。修正を行った民主党サイドは、『アメリカの立法史は、取引の歴史である』と涼しい顔である。しかし、譲歩をしながらもこれほどの利益誘導を得られていない民主党議員だってたくさんいる。なぜNelson上院議員だけなのか、なぜNebraska州だけなのか、と民主党議員達が言い出すと、もう収拾がつかなくなる。このMedicaidに関する修正条項がはずされれば、Nelson上院議員は反対に回る可能性が高いからだ。

この修正条項を全米国民が納得のいくように説明するのは、かなり難しいと思われる。Obama大統領にとっては、もう一つ難問を抱え込んだことになるのではないだろうか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

12月23日 収まらない下院民主党 
Source :Democrats Face Challenge in Merging Health Bills (New York Times)
上院の医療改革法案に関する最終投票は、今月24日の朝8時からと決定した(最終的には朝6時45分〜と決定)。いよいよカウント・ダウンに入ってきた。

先に、もうこれ以上暴れるな、と上院民主党が牽制球を投げたにもかかわらず、下院民主党は収まる気配をみせていない。しかも、公的プランだけでなく、中絶の取り扱い、財源確保手段についても、まだまだ抵抗感が強いようである。中でも、中絶の取り扱いは、かなりヒートアップしているようである。

以下、上記3つの課題等について、上記sourceで示されている論点をまとめておく(上下両院法案比較表)。
  1. 中絶の扱い

    上院案では、中絶が保険プランでカバーされていてもかまわないとされている。そのかわりに、加入者は、中絶をカバーするための保険料と、中絶以外をカバーする保険料の二種類の保険料を支払うこととしている。保険者は、両保険料を別勘定で管理しなければならない。

    上院民主党は、これで完璧なファイア・ウォールが築かれたとしている。

    しかし、下院民主党の中絶反対派は、この程度では収まらないようだ。下院法案の最終修正を提案したStupak下院議員は、「上院案のままでは賛成票を投じられない」と公言している。

    5票差で可決された11月7日の下院投票では、Stupak修正案に賛成した民主党議員は64人。このうち、最終投票で賛成票を投じたのは41人にものぼる。(残りは公的プランその他に反対して賛成票を投じなかったものと思われる。)

    また、リベラル派の中絶容認派もまた、厳しい制限のついた法案に賛成できないとしている。

  2. 財源確保手段

    下院法案では、高額所得者に超過課税をすることで財源を確保する案が盛り込まれている。一方の上院法案では、高額な保険プラン(通称"Cadillac Plans")に課税する案が盛り込まれている。加えて、高額所得者のMedicare保険料引き上げも提案している。

    下院民主党議員は、190人以上が"Cadillac Plans"課税に反対している。さらに、労働組合もこれに強く反対している。

  3. 公的プラン

    下院法案では公的プランの創設を盛り込んでいるが、上院法案では、公的プランは創設せず、OPMが保険会社と交渉して、少なくとも2種類以上のプランを提供することとしている。

  4. Medicaidの拡充

    下院案ではFPL150%まで拡げることとしているが、上院案では133%にとどまっている。
両院協議会は、各院から議院を選出して協議する場合もあれば、与党幹部および関連する委員長で交渉する場合もある。通常、上院案をベースにするのが一般的だが、いずれにしても、 ことから、大幅な政治的妥協の余地が残されている。その一方で、上下両院とも、ぎりぎりの妥協の産物をそれぞれ僅差でまとめた経緯もある。そうした隘路の中から、どのような打開策を生み出すのか。まさにObama大統領の指導力と決断力が求められている。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

12月21日 下院民主党に牽制球 
Source :Sen. Conrad: House must stick close to Senate bill (BusinessWeek)
上院民主党が、早くも両院協議会に向けて、下院民主党に牽制球を投げ始めた。

Ben Nelson上院議員との取り引きにより、中絶に関する扱いは厳しい条件が付けられた。これにより、制度改正として上下両院の間で大きな差として残るのは、「公的プラン創設」である。もちろん、その他の財源措置等についての違いは残っているが、制度設計として問題になるのは、公的プランである(上下両院法案比較表)。

公的プラン創設については、民主党リベラル派が依然として固執している。しかし、その親分格のPelosi下院議長は、既に『公的プランが含まれない医療保険改革法案に対してオープンである』と譲歩する姿勢を示している。両院協議会では、上院が了解できる妥協案でなければ成案とならない。また、年が明ければ、下院は選挙一色となり、下院民主党としても医療保険改革成立を手土産に戦いたいところであろう。

こうなってくると、連邦議会におけるバトルには一定の目途がついた感がある。今後は、議会で成立した法律の内容を巡って、中間選挙で国民に信を問うことになろう。

関連リンク
※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル