1月31日 大統領令の効力 
Source :Executive Order May Be Only Option, but It Comes With Limits (New York Times)
一般教書演説でObama大統領が打ち出した「大統領令による最低賃金引き上げ」に対し、一斉にメディアが疑問を呈している(「Topics2014年1月29日 Obama大統領も賃上げ要請」参照)。

民主党の議員達も、大統領令で引き上げるのは理想ではないが、できるところからやっていくしかない、と、かなり無理があることを認識しているようだ。

※ 参考テーマ「最低賃金

1月30日 Target:29ers外し 
Source :Target to Drop Health Insurance for Part-Time Workers (Bloomberg)
Target社は、今年4月1日より、Part-timerの一部を企業提供保険プランから外すことを決定した。その内容は次の通り。 会社側は、企業提供プランから外すことにより、保険料補助金(tax credits)を受けられるようになるので、従業員にとってこれまでよりは軽い負担で保険加入できる、としている。確かに、PPACAでは、29ersに対する保険提供義務はなく、29ersがほぼ低所得層であることから、経済合理性は是認されるであろう。(「Topics2013年2月26日 49ers & 29ers」参照)

ただし、4月1日からというのは、タイミングが悪い。2014年のExchangeを通じた保険加入の締め切りは、前日の3月31日だからだ。対象となる29ersは、残りの9ヵ月を無保険で過ごすか、今から保険加入手続きをして、4月1日からの保険加入を確保しておくかの選択を迫られる。

上記sourceによれば、Trader Joe'sやHome Depotも同様の措置を取ったらしい。いよいよ、29ers外しが本格化してきたようだ。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「労働市場

1月29日 Obama大統領も賃上げ要請 
Source :President Barack Obama's State of the Union Address (The White House)
冷めた見方をすれば、連邦議会との連携がうまくいかないObama大統領がいくら一般教書で政策提案をしてみても、所詮は"wish lists"に過ぎない。しかし、そうは言っても全米の国民が見守る一般教書演説であり、何が語られているか、ぐらいは確認しておく必要があろう。例年通り、当websiteの関心分野は次の通り(Fact Sheet)。
  1. 最低賃金の引き上げ
    • 大統領令により、連邦政府事業の請負企業の最低賃金を、$10.10/hに引き上げる。
    • 連邦議会と協力して、最低賃金を$10.10/hに引き上げる。

  2. "myRA"(my Retirement Account)の創設

    事業主を通じて、Roth IRAに新たな退職勘定を設ける。貯蓄債券(saving bonds)のように、連邦政府が保証する。

  3. 失業給付延長プログラムの復活(「Topics2014年1月22日 NC州:失業給付削減の先行事例(2)」参照)

  4. 長期失業者の雇用について企業経営者と協議

  5. Earned Income Tax Credit(EITC)の拡充

    子供のいない働き手への給付の大幅拡充(「Topics2014年1月20日 NY市:単身貧困者援助策を試行」参照)

  6. 移民制度改革の推進
やはり、去年よりも具体的な内容が薄いような気がする。

中でも、最低賃金については、引き上げ幅を昨年よりも拡大させたばかりか、大統領令により、政府事業の請負企業への適用を表明した。

さらに、驚いたことに、Obama大統領は、演説の中で一般の企業経営者にも賃上げを要請したのである。生産性が向上し、転職が減りますよ、と。これで、日米政府トップが、民間企業に対する賃上げ要請で一致したことになる。

※ 参考テーマ「一般教書演説」、「最低賃金」、「DB/DCプラン」、「解雇事情/失業対策」、「労働市場」、「移民/外国人労働者

1月28日 SF市の最低賃金 
Source :San Francisco's Higher Minimum Wage Hasn't Hurt the Economy (Bloomberg Businessweek)
最低賃金引き上げの議論が活発になっている。おそらく、一般教書演説でもObama大統領は触れるだろう。

その最低賃金で先頭集団を走っているSan Francisco市の最低賃金は、現在、$10.74/hで、インフレ率連動となっている。この水準は、CA州の$9.00/h、連邦レベルの$7.25/hを大きく上回っている。
その高い最低賃金のもとでも、SF市の経済は好調を保っていると、研究者は分析しているそうだ。その証左として次のような分析を挙げている。
  1. 2004〜2011年の間、SF市内の民間の雇用は5.6%増となっているが、他の湾岸地域の雇用は4.4%減少となっている。

  2. 同時期、SF市内の飲食業の雇用は17.7%増となっており、他の湾岸地域よりも伸びが高い。

  3. 飲食業の価格は、SF市内の方が2.8%ほど高い。

  4. 転職率が低下している。中でも著しいのは、SF国際空港の低賃金職で、転職が60%も低下している。
だから最低賃金を上げても大丈夫、ということなのだろう。しかし、SF市がうまくいっているから全米でうまくいくとは限らない。どこまでなら効果があるのか、見極めるのが政治リーダー達の役割であろう。

※ 参考テーマ「最低賃金

1月27日 SGR廃止法案 
Source :H.R. 2810:SGR Repeal and Medicare Beneficiary Access Act of 2013 (CBO)
Medicareの新診療報酬体系への移行を定める法案(H.R. 2810)が、連邦議会下院で審議されている(「Topics2013年11月2日 さらばSGR」参照)。

上記sourceは、法案が可決された場合、連邦政府、地方政府が負担すべき追加支出額を推計している。 この推計に基づき、CBOは、『この支出額を確保するために、連邦政府はPay-as-you-goルールを適用する必要がある』との見解を示している。一方、州・自治体については影響額は軽微であり、その必要性はないとしている。

以前に紹介した通り、本法案は、連邦議会上下両院の関係委員会トップがまとめた超党派提案である。
上 院下 院
民主党Max Baucus
Finance Committee Chairman
Sander Levin
Top Dem. of Ways and Means Chairman
共和党Orrin Hatch
Top Rep. of Finance Committee
Dave Camp
Ways and Means Chairman
内容で合意していても、Pay-Goの財源手当までは合意しておらず、再び民主・共和、上院・下院でもめる可能性が高い。また、上表のMax Baucus上院議員が中国大使に任命される可能性が高いことも、同法案の成立に影を落としかねない。

Medicare改革は、なかなか進捗しない。

※ 参考テーマ「Medicare

1月26日 労組組織率低下が止まらない 
Source :Union Membership (Annual) News Release (BLS)
毎年恒例の労働組合加入率・組織率の統計が公表された。

労働組合加入率(%)
労働組合組織率(%)
景気回復が言われている中でも長期低落に歯止めが掛かることはなさそうである。特にひどいのが、parttimerの組織率低下である。
Fulltimer 労働組合組織率
Parttimer 労働組合組織率
アメリカ社会における労組の位置づけは、一体どうなってしまうのだろう。

※ 参考テーマ「労働組合

1月25日 MI州知事がDetroit市に助け舟 
Source :Michigan governor offers pension aid to Detroit, with conditions (Los Angeles Times)
Michigan州知事が、Detroit市の財政再建策に助け舟を提案した。内容は次の通り。 Detroit市年金の積立不足額は、市当局推計で$3.5B、労組推計で$650Mとなっており、確定数値は未だ公表されていないが、いずれにしても、州政府からの拠出金は積立不足を全額賄うものにはならない。むしろ、金額の多寡よりも、早く再建計画を確定させたいという想いの方が強いようだ。

当然、労組側は、話にならないと、強硬姿勢を続けているが、州議会は両院とも州知事の提案に理解を示しているようだ。

※ 参考テーマ「地方政府年金

1月24日 無保険者の加入は? 
Source :Obamacare: Uninsured Americans still staying away so far (Atlanta Journal Constitution)
PPACAの究極の政策目的は、『無保険者の大幅減少』である。従って、当然、そこに焦点が当たって然るべきなのだが、websiteのトラブルやキャンセル騒動などで、少し忘れられてしまっている。

それでも、上記sourceでは、現時点での推計値をいくつか紹介している。ただし、加入手続きの前半戦しか終わっていないことやトラブルなどにより、推計結果の幅はかなり大きなものとなっている。 この3つの推計では、新規加入者のうち、無保険者の割合は11〜35%となる。仮にこの推計を全米に当てはめてみた場合、242,000〜770,000人の無保険者がこれまでに保険加入したことになる。

一方、Gallup社の独自調査によれば、18歳以上の成人の中での無保険者割合は、2014年1月に16.1%となり、はっきりとした低下を見せた。同指標では、昨年半ばに18.6%にまで上昇していたので、そこからは2.5%ポイント低下している。
無保険者割合が低下した中で、失業者の無保険者割合が大きく低下していることも特徴的である。これは、言うまでもなく、拡充されたMedicaidへの加入が増えたからであろう。
こうした推計を見ている限り、『PPACAの本格施行に伴い無保険者割合が低下した』とは言えそうだが、まあ、お世辞にも『大量の無保険者が加入しました』とは言い難い。

また、上記McKinsey & Co.の調査では、新規加入を検討したものの加入までには至っていない理由を調査している。 加入に至らない理由の半分以上が、負担の重さを挙げているのである。昨日紹介した、免責額の負担の重さもその理由の一つになっているのだろう(「Topics2014年1月23日 給付率レベル別の『超』高免責額プラン」参照)。

これでは、PPACAは名前負けである。PPACAは、"Patient Protection and Affordable Care Act"の略なのだから・・・。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

1月23日 給付率レベル別の『超』高免責額プラン 
Source :Deductibles in more than one-third of small group health plans exceeded ACA limits, study finds (Wolters Kluwer Law & Business)

HealthPocket
昨年12月、連邦立Exchangeで、『超』高免責額のプランが提供されていることを紹介した(「Topics2013年12月10日 連邦立Exchangeの『超』高免責額」参照)。

上記sourceは、32州のExchangeで提供されているSHOP向け保険プラン(単身用)の免責額を調査したところ、全体の35%の保険プランが、PPACA本則の免責額上限($2,000)を超えていることを紹介している。給付率別の該当割合は次の通り。
給付率レベル本則免責額上限($2,000)を
超えているプランの割合
Bronze96%
Silver28%
Gold6%
Platinum0%
なぜこのように本則上限を超えた免責額が設定されているのかがわからなかったのだが、上記sourceを読んで初めてわかった。昨年3月、HHSが、免責額の上限について例外規定を設けたためであった。

給付率レベルを満たせない場合には免責額の上限を超えてもいい、というのである。例えば、Bronzeレベルの保険プランで免責額を$2,000に設定した場合、60%の給付率を確保できないのであれば、免責額を上限を超えて高めてもよい、というのである。イメージにしてみると、下の図のようになる。
何のことはない。保険料を低い水準に抑制するために、免責額を高くしてしまっているのである。PlatinumやGoldは、もともと中〜高額所得者しか関心を持っていないので、高い保険料を設定してもそれほど文句は出ない。逆に、Bronzeは、低所得層にとっては唯一の選択肢となるので、そのレベルの保険プランの保険料は抑えなければならない。さらに、PPACAの規定により、その保険料に対する補助金(Tax Credit)が用意されており、さらに低い実質負担となる。

このやり方は、とにかく保険料負担が低くなるからExchangeで加入しなさいよ、というインセンティブとしては有効であろう。ところが、実際に保険加入した後は、『超』高免責額によってしばらく実費負担を余儀なくされ、しかも、保険給付が始まっても、4割は自己負担となる。

「こんな重い負担には耐えられない」、「全然affordableではない」といった言葉が、春以降、アメリカ社会のあちこちから湧きあがってくるのではないだろうか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般

1月22日 NC州:失業給付削減の先行事例(2) 
Source :How Killing Unemployment Benefits Could Kill Economic Growth (Businessweek)
連邦政府の失業給付延長プログラムの打ち切りが確定した(「Topics2013年12月30日 失業給付延長打ち切り」参照)。1月14日、上院本会議で2つの延長法案の採決が行われたが、いずれも否決された(第一生命経済研究所)。民主党が多数を握る上院ですら、可決することができなかった。

これで、失業者の労働市場からの大量退出が現実味を帯びてくる。先に紹介したNC州の事例(「Topics2014年1月6日 NC州:失業給付削減の先行事例」参照)について、上記sourceでは、さらに情報を提供している。

South by Northwest Strategies
NC州の失業給付は2013年6月末で打ち切られた。これを見ると、月末に失業給付を打ち切られる予定であった6月から、前年同月比で労働市場参加率が減少に転じ始めている。その後の5ヵ月間、前年同月比で参加率の大きな低下が続いたことが読み取れる。

実は、全米の労働市場参加率は、前年同月比でみると、昨年1年間ずっとマイナスになっている。そうした中で、明らかに10月以降、マイナス幅が拡大している(「Topics2014年1月12日 失業者が市場退出」参照)。もしも、NC州の先行事例の通りに全米の労働市場が動くとすれば、失業給付の延長が切れた1月の数字は、そうしたトレンドに拍車をかける形でマイナス幅が拡大する可能性が高いのではないか。これに伴い、失業率も12月の6.7%からさらに大きく低下するかもしれない。

※ 参考テーマ「労働市場」、「解雇事情/失業対策

1月21日 保険会社は依然様子見 
Source :Don’t believe the hype: Health insurers think Obamacare is going to be fine (Washington Post)
タイムテーブルの変更、websiteのトラブル続出、加入者数の下振れなど、課題山積のExchangeだが、保険プランを提供している保険会社はそれほど悲観していないそうだ。その理由は次の3点。
  1. 2014年のExchangeは、企業の保険提供義務の1年延期など、本格始動とはなっていない。保険会社も依然として様子見の状況であり、Exchangeに投じている経営資源も限られている。

  2. 事業規模が小さい。業績予想でも、Exchangeを通じた収入は全体の2%にしかならず、連邦政府の推計通りに加入者数が伸びたとしても、全人口の7%にしか過ぎない。

  3. 現状はともかく、少し長い目で見れば、やはり成長の可能性が高い事業である。
保険会社にとってはそうであろう。おそらく、予想通りの加入者がなくても、屋台骨を揺るがすような影響はない。むしろ、正々堂々と保険料引き上げを申請して、帳尻を合わせれば済む話である。

しかし、加入者や、Exchangeを運営している州政府、連邦政府にとっては大事である。『嘘つき』とまで呼ばれたObama大統領にとっては尚更である。

やはり、アメリカのビジネスマンはしたたかなようだ。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般