11月10日 カナダから見たPPACA 
Source :Obamacare vs. Canada: Five key differences (The Globe and Mail)
久し振りにカナダねたである。

上記sourceは、PPACA批判者が「Obamacareはカナダスタイルだ」と唱えることが多いが、アメリカとカナダの医療保険制度の決定的な違いに何ら変更を加えるものではない、と断じている。その決定的違いとは、次の5点に集約されている。いずれも、アメリカの保険制度の特徴である。
  1. 単一の診療報酬体系ではない

    アメリカの医療保険制度はもともと多元的であり、今回のPPACAにより、さらに"Exchange"、拡大Medicaidなどが加わっただけである。

  2. 皆保険ではない

  3. 保険給付内容が全国統一されていない

  4. 医療機関へのアクセスが公平でない

    どのような医療機関にかかることができるかは、加入している保険プランによって異なる。

  5. 医療費抑制策がない。
そして、最後に、『PPACAはアメリカの医療保険制度にとっては大きな変革ではあるが、カナダ方式からは程遠いものである』と結論づけている。

この国境を挟んだ米加の違いは、本当に不思議なものである。

※ 参考テーマ「カナダ事情」、「無保険者対策/連邦レベル

11月9日 Stockton市:市民投票で増税承認 
Source :Stockton sales tax plan set to end bankruptcy, pensions spared (Reuters)
11月5日、Stockton市において市民投票(Measure A)が実施され、小売税(sales tax)の3/4%引き上げが承認された。賛成票の割合は52.52%であった。

これにより、Stockton市の小売税は、2014年4月1日より、8.25%から9.00%に引き上げられることになる。

Stockton市は、既に債権者との間で、最大50%の債務カットで合意しており、Chapter 9による再建過程から脱出できる環境がほぼ整ったことになる(「Topics2013年10月2日 Stockton市:年金拠出は変更せず」参照)。やはり、CalPERSを敵に回さない方が再建スピードは速そうである。

※ 参考テーマ「地方政府年金

11月8日 性嗜好差別禁止法案 
Source :Senate votes to proceed with gay rights bill (Washington Post)
11月4日、連邦議会上院は、"Employment Non-Discrimination Act (ENDA)" (S. 815) の本格審議開始について、賛成多数(61 vs 30)で承認した。法案内容は、雇用における性に関する嗜好による差別、特に同性愛者に対する差別を禁じるものである。

党派別投票結果は次の通り。
賛成反対無投票
民主党5201
共和党7308
独 立2--
合 計61309
同様の内容の法案は、これまでも何度となく連邦議会に上程されていたが、ことごとく失敗してきた歴史がある。

それが、今回、上院で7名の共和党議員が賛成に回ったことから、本格審議に進むことになった。Obama大統領も審議の進展に期待している。議員達が審議を推進する背景には、同性愛者に対して寛容な若者世代を惹きつけようという狙いがあるそうだ。

それでも、下院共和党は、今のところ強硬な姿勢を採り続けている。ベイナー下院議長(R)は、『上院がどのような案を可決しようと、下院では可決させない』と明言している。反対の理由は、家族観の問題に加え、乱訴が懸念される、とのことである。なお、当事者であるUSCCは、過去の同様の法案に対して懸念を表明してきており、今も警戒心を持って注視している模様である。

そうこうしているうちに、連邦議会上院は、11月7日、早くも本会議で採決を行い、64 vs 32 の賛成多数で可決してしまった(New York Times)。党派別投票結果は次の通り。
賛成反対無投票
民主党5201
共和党10323
独 立2--
合 計64324
共和党の賛成票は3票増えている。

法案は、即日、下院に送付された。この結果を、下院共和党議員達はどのように受け止めるのであろうか。

※ 参考テーマ「人事政策/労働法制」、「同性カップル

11月7日 DOL抑え込み法案:下院可決 
Source :House Approves Bill to Delay DOL Fiduciary Rule (PLANSPONSOR)
10月29日、連邦議会下院は、個人投資家保護法案("Retail Investor Protection Act", HR.2374)を可決した(法案内容は「Topics2013年6月26日(1) DOL抑え込み法案」参照)。投票結果は、254 vs 166の大差で賛成多数となっており、民主党からも30票の賛成票が入っている(Roll Call 567)。

民主党の中でも金融村の勢力が強いらしく、このまま行けば、上院での可決の可能性も出てきたようである。さて、上院でも可決された場合、大統領は署名するのだろうか?

※ 参考テーマ「受託者責任

11月6日 IL州:15番目の同性婚認可 
Source :Illinois legislature passes gay marriage bill, paving the way for legalization (Washington Post)
11月5日、IL州議会の下院、次いで直後に上院が、同性婚を認可する法案を可決した(「Topics2013年6月4日(2) IL州同性婚法案は見送り」参照)。州知事は、元々同性婚推進派であり、法案に署名する意向を表明している。これでIL州は、15番目の同性婚認可州となる。
同性カップルの法的ステータス
MarriageCivil UnionDomestic Partnership他州の法的ステータスの承認
施行日州 法州最高裁判決
Massachusetts2004.5.17A@Same-sex marriage
Connecticut2008.11.10A@Same-sex marriage
Iowa2009.4.24Same-sex marriage
Vermont2009.9.1Same-sex marriage
New Hampshire2010.1.1Same-sex marriage
Washington, D.C.2010.3.3○ (1992.6.11)Same-sex marriage
New York2011.7.24Same-sex marriage
Maine2012.12.29○→×→○**○ (2004.7.30)Same-sex marriage
Maryland2013.1.1Same-sex marriage
Washington2013.6.12009.7.26〜2014.6.30:異性間は62歳以上のみ
2014.7.1〜:同性間、異性間とも62歳以上のみ
異性婚配偶者と同等権利賦与
Same-sex marriage
Delaware2013.7.1Same-sex marriage
Rhode Island2013.8.1Same-sex marriage
Minnesota2013.8.1Same-sex marriage
California2008.6.17〜11.4,
2013.6.28〜
○→×→○*○ (2005.1.1)
異性間は62歳以上のみ
異性婚配偶者と同等権利賦与
Same-sex marriage
New Jersey2014.10.21○ (2007.2.19)(同性間のみ)
異性婚配偶者と同等権利賦与
○ (2004.7.10)
同性間、異性間とも62歳以上のみ
Same-sex marriage
Illinois2014.6.1○ (2011.6.1)
異性婚配偶者と同等権利賦与
Same-sex marriage
Hawaii○ (2012.1.1)
異性婚配偶者と同等権利賦与
同性婚以外は認知
Oregon○ (2008.2.4)(同性間のみ)
異性婚配偶者と同等権利賦与
Same-sex marriag
Wisconsin○ (2009.8.3)(同性間のみ)認知しない
Nevada○ (2009.10.1)
異性婚配偶者と同等権利賦与
同性婚以外は認知

* CA州最高裁判決○ → Proposition 8× → 連邦地方裁判所○ → 連邦第9控訴裁判所小法廷○→ 連邦最高裁判所上告棄却、控訴審確定(2013.6.26)
**ME州議会可決(2009.5)○ → 州民投票(2009.11)× → 州民投票(2012.11)○
次はHawaii州だそうで、HI州議会上院は10月30日に同性婚認可法案を可決しており、数日中に下院も採決する予定だ。

※ 参考テーマ「同性カップル

11月5日 企業提供保険プランの動向 
Source :Employer-Sponsored Health Insurance : Recent Trends and Future Directions (National Institute for Health Care Management)
当websiteでは、よく紹介しているテーマだが、折角よくまとまっているので、ポイントのみ記載しておきたい。
  1. 企業提供プランは、アメリカでは主要な役割を担っているものの、小規模企業では長期的にそのウェイトは低下している。また、提供されても従業員の加入率は低下している。さらに、配偶者を加入資格者からはずす動きが出ている。それらの結果として、企業提供プランを通じた保険加入者の割合は低下している。
  2. こうした動向の背景には、医療費コストが上昇し、保険料が高騰していることがある。2012年でみると、民間企業の保険料負担は従業員給与全体の8%、公的部門のそれは12%を占めている。
  3. 医療費高騰に直面して、企業は様々な対抗策を講じている。
    • 従業員負担増
    • 配偶者の加入資格制限
    • 提供保険プランの形態の変更
    • 健康管理プログラム・予防給付の提供
    • HSAの導入 等々

  4. そうした中、PPACAにより、大きな変革がもたらされた。小規模企業や低サラリー企業は、保険プラン提供のインセンティブを失った。大企業も当面は提供を継続するものの、制度変更は継続していくだろう。

  5. 最近、急速に脚光を浴び始めたのが、Private Exchangeである。その拡大傾向は、今後数年、継続すると見られる。
※ 参考テーマ「医療保険プラン」、「CDプラン」、「HSA」、「Private Exchange」、「無保険者対策/連邦レベル

11月4日 FL州:Medicaid改革を試行中 
Source :Florida’s Market-Based Medicaid Reform Demonstration: Cost and Quality Issues (National Center for Policy Analysis)
2005年以降、Florida州では、Medicaid改革が試行的に行なわれている。5つのcountyを選び出し、次のような制度変更を実施している。もちろん、CMSの承認は得ている。

  1. 5郡のMedicaid加入者41.3万人を、民間保険プランに移行する。

  2. 診療報酬体系を、従来の出来高払いから、加入者一人当たりの包括払いに変更する。

  3. 加入者の相談に応じる"Choice Counseling Program"を設置する。

  4. 給付内容を従来のMedicaidよりも充実させる。安いOTC、歯科予防診療、眼科等。
その成果は良好のようである。 既に、CMSは、FL州の要請に応じて、2014年6月30日まで試行期間を延長することを認めている。FL州としては、この試行を全州に広げることを要望しており、CMSも仮承認を与えている。

この制度改革がFL州全体に広がれば、俄然、全米中の注目を集めることになるだろう。また、KS州、OR州、UT州における試行も加速されることになろう(「Topics2011年11月14日 MedicaidをCDプラン化:KS州」「Topics2013年1月21日 Oregon州のMedicaid改革案」「Topics2013年2月23日 Medicaid ACO」参照)。

連邦レベルでも、従来から連邦議会共和党が主張している、Medicaidに関する連邦支出の包括払い方式の議論が活発化するであろう(「Topics2011年4月22日 Medicaid:連邦包括払い」参照)。共和党州知事が推し進めるMedicaidの包括化を、民主党政権のCMSが承認して広めていき、最後は連邦レベルでも共和党提案が実現化する、そんなシナリオが見え始めている。

※ 参考テーマ「無保険者対策/FL州」、「無保険者対策/州レベル全般

11月3日 IRSの懸念 
Source :How IRS Incompetence Can Bring Down Obamacare (The Fiscal Times)
現時点で、Exchangeのトラブル続出でHHSが苦境に立たされているが、本格実施となる2014年以降、PPACAに伴う業務が大量に発生するのがIRSである。

上記sourceによると、PPACAにより新たに発生する課税業務は、46種類にものぼるそうである。その中でも、厄介なのが次の2つである。
  1. 保険未加入者ペナルティの徴収

  2. 個人情報の保護
1.のペナルティ徴収については、既に紹介している通り、IRSはかなりの程度手足を縛られており、実際には、還付金からの取り戻しと、督促状の発送しかできないであろう。(「Topics2012年7月8日 ペナルティにならない」参照)

2.については、より深刻な状況のようである。

低中所得者への保険料補助金(tax credit)は、Exchangeにおいて重要なファクターであるが、その金額を決定するために、多くの個人情報をExchangeとIRSの間でやり取りしなければならない。しかし、財務省税務監査報告によると、人員不足・資金不足によりITプログラムの監督が適切に行なわれておらず、PPACAに関連する個人情報を充分に保護できるかどうか、懸念が生じているという。

ここで混乱が生じれば、再びExchangeを通じた保険加入者は迷惑を被ることになる。こうした警告が出ている間に迅速な対処をしておくことが必要となっている。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

11月2日 さらばSGR 
Source :Key Senate, House Committee Chairmen Offer Plan To Fix Medicare Doctor Payments (Kaiser Health News)
Medicareの診療報酬は、1997年の財政赤字削減法の中で、SGR (Sustainable Growth Rate) の範囲内に抑制しなければならないことになっている。しかし、診療報酬が抑制されてMedicare診療をしてくれる医療機関・医師がいなくなってしまっては困るということで、連邦議会は、SGRによる抑制を適用しない特例法(通称"doc fix")を可決してきた。

その特例法に基づく特例診療報酬は毎年膨らみ続け、もし仮に2014年1月1日から、財政赤字削減法の規定通りにSGRを適用するとなると、一気に25%近く診療報酬を切り下げなくてはならない。

こうしたパッチワーク的な手法を取りやめ、もっと抜本的にMedicare診療報酬を見直そうということで、連邦議会の主要議員達が合意に達したそうだ。その合意内容は次の通り。
  1. 伝統的な出来高払いの体系をから、質を重視した診療に移行するようなインセンティブを設ける。

  2. 当面、現在の診療報酬水準を維持すると同時に、新しい診療報酬体系を試行する。

  3. 2017年に、現在の出来高払い的な要素と新体系を統合する。そこでは、業績評価に基づき、追加的な報酬を用意する。

  4. 医療情報の電子化を徹底する。

  5. 業績評価に基づく報酬の割合が高い医療機関については、2021年まで5%の上乗せ報酬を受領する。

  6. 新たな診療報酬体系には、ACOも含まれる。
いよいよ、Medicareを包括払いへ移行させようというわけである。そして、重要なのが、この大方針に合意した議員のメンツである。
上 院下 院
民主党Max Baucus
Finance Committee Chairman
Sander Levin
Top Dem. of Ways and Means Chairman
共和党Orrin Hatch
Top Rep. of Finance Committee
Dave Camp
Ways and Means Chairman
要するに、上下両院の関係委員会の両党トップが合意しているのである。これで事が進まなければ、それこそ事である。

Medicareの世界は、大きく舵を切ることになりそうで、その中心的存在になるのがACO、ということのようだ。

※ 参考テーマ「Medicare」、「ACO

11月1日 加入義務規定廃止の影響 
Source :Delaying the Individual Mandate Would Result in Millions More Uninsured and Higher Premiums (Center on Budget and Policy Priorities)
Exchangeのトラブルは、11月いっぱい続きそうとの見込みとなり、連邦議会下院共和党は、再び、個人の保険加入義務規定を1年先送りする法案を審議しようとしている。下院共和党の動きはこれまでも頻繁にあったが、今回は、上院民主党の中からも賛成が出るかもしれず、従来よりは注意して見ておく必要がありそうだ(Los Angeles Tiems)。

そうした中、上記sourceでは、一旦義務規定が先送りされると、それが繰り返されることになり、結局は加入義務規定がうやむやのまま事実上廃止になるのではないかと懸念している。その懸念の中身は、無保険者が大量に残存することと、Exchnage保険料が上昇することである。

上記sourceで紹介されている、加入義務規定廃止されたことによる影響推計は次の通り。
推計機関無保険者増加数(万人)保険料上昇率(%)
CBO1,100(2014年)
1,300(2015年)
1,400(2016年)
15〜20
Urban Institute1,340〜1,58010〜25
MIT2,40027
Rand Corporation1,2509.3
Lewin Group78012.6
無保険者が、特に若い無保険者がExchangeに大量に入ってくることで保険料の抑制を図る、というのがPPACAの狙いだったわけだが、そこが根底から崩れてしまうことになる。これでは、PPACAはまったくの骨抜きになってしまい、Obama大統領の最大の成果は失われることとなる。

一方、かなり無理筋ではあるが、Obama大統領の公約("If you like your health care plan, you’ll be able to keep your health care plan.")を守らせるため、現在加入している保険プランへの加入継続を認める法案を提出しようという動きが活発になっている(「Topics2013年10月30日 公約違反」参照)。こちらの方も、下院共和党、上院民主党に広がっている。 Landrieu上院議員は、『他の法案に相乗りしてもいい』とまで述べており、Upton法案の共同提案者になることも示唆している。既に『廃止のお知らせ』が出回っている中で、この法案が例え可決されたとしても実効性を伴わないかもしれないが、こちらもPPACAにとって重大な影響をもたらす。保険給付内容がPPACAの規定よりも不足しているプランでも構わない、ということになってしまい、事実上、"mini-med"の復活を認めることになる(「Topics2013年8月29日 Bare Bones Health Plans」参照)。

既にレームダックとまでも言われているObama大統領にとって、1期目の成果をも失いかねない危機的な状況が生まれつつある。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル