6月9日 喫煙者の雇用コスト 
Source :That Employee Who Smokes Costs The Boss $5,800 A Year (NPR)
ここで紹介されている喫煙者の雇用コストは、医療関係だけではなく、雇用全般にかかる追加的なコストである。ポイントは次の通り。
  1. 喫煙者を雇用する場合、追加的に発生するコストは、喫煙者一人当たり年間$5,800と推計している。

  2. この中で最も大きな割合を占めるのが、喫煙時間に伴う機会費用($3,077)である。この推計のための仮定は次の通り。
    1. 勤務日一日当たりの喫煙回数を5回とする。
    2. 1回の喫煙時間を15分とする。
    3. 5回のうち3回は休憩時間にとる。

  3. 健康状態が悪くなることで有給休暇が増える分が$517である。

  4. 喫煙後30分以内に禁断症状が起こることによる生産性の低下で、$462のロスが生じる。

  5. 半数以上の州は、採用にあたって喫煙者を差別することを州法で禁じている。

  6. また、少数ではあるが、喫煙者に保険料の上乗せを認めるPPACAの規定を無効としている州もある。

  7. 喫煙者の方が退職後のコストが軽くなるのは、DBプランを運営している場合である。DBプランを持っている企業は稀有な存在となりつつあり、しかも、軽くなるのは$296だけである。
こうした推計がアメリカ企業の採用に影響してくるのかどうか、興味のあるところである。

余談だが、この推計をさらに発展させて、喫煙者のための公共コスト(清掃、喫煙スペース、副流煙、等々)についても推計してもらいたいものである。

※ 参考テーマ「人事政策/労働法制」、「無保険者対策/連邦レベル

6月8日 PPACAへの支持率低下 
Source :Poll: Health Law's Support Sliding (Kaiser Health News)
"Wall Street Journal/NBC"が実施する世論調査では、PPACAは悪い政策だ、との回答が49%に上昇してきている。そこで、久し振りにPollsterのグラフを見てみると、Obama大統領の医療政策について、反対が51.3%、賛成が40.6%と反対が過半を占めており、しかも、その差が拡大しつつある。
また、PPACAそのものに対する評価でも、根強い反対が続くとともに、賛成意見が段々減ってきている。
これは2つの面で良くないのである。第1は、10月からの加入申請に向けて、連邦政府・各州政府とも具体的な保険プラン・保険料を示しつつあるのだが、国民がその内容を評価していない、もしくは具体的な内容が未だによくわからないことに苛立っている、ということを表している。

第2に、Obama大統領の人気が低下していることを表している。実際、大統領の人気度は、足許急速に低下してきている。
最近、アメリカではObama大統領がホワイトハウスで孤立しているのではないか、と噂されている。さらには、2期目に入ったばかりなのに、既にレームダック状態なのではないか、とさえ言われている。

もしそうだとすると、連邦議会でのねじれが続いている限り、大統領による調整もままならず、アメリカ社会にとっての重要課題は解決されないまま対立が続く構図となってしまう。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「政治/外交

6月7日(1) 州政府年金改革の難しさ 
Source :Legal Complexities Limit State Pension Reform (National Center for Policy Analysis)
当websiteでも、州政府年金改革の難しさを何度か紹介している(「Topics2013年6月2日(2) IL州上院:年金改革法案を否決」参照)。上記sourceでは、改革の難しさの原因は、州政府年金が、連邦法ではなく各州法に基づいていることにある、と指摘している。各州法の規定が区々なために、年金改革の手法も区々とならざるを得ない。

その中でも、加入者・受給者の権利保護の規定が強く、しかも異なる考え方で保護規定が設けられていることが、問題を複雑化させているそうだ。権利保護の考え方は、大きくいって次の2つのアプローチに集約できる。
  1. 加入者・受給者の権利は財産権である。

  2. 加入者・受給者の権利は契約上の権利である。
後者の方を採用している州が多いそうだが、いずれにしても、憲法上の権利保護規定と密接に結びついているため、なかなか州議会でも手をつけられないようだ。

※ 参考テーマ「地方政府年金

6月7日(2) IL州知事:特別会期を要請 
Source :Illinois governor calls lawmakers back to capital to pass pension reform (Pensions & Investments)
IL州政府年金の改革について、州議会上院が下院案を否決した後、特に何もアクションが取られないまま、州議会は5月末で散会した(「Topics2013年6月2日(2) IL州上院:年金改革法案を否決」参照)。上院は下院案を否決し、下院は上院案の採決を行なっていない状況のままになっている。

このような事態に対し、Pat Quinn IL州知事は、6月19日からの特別会期を呼び掛けた(Governor Quinn Statement)。その切っ掛けとなったのは、格付け会社による州政府への格付けが引き下げられたことである(Moody's:A2 → A3、Fitch:A → A-)。州知事としては、もうこれ以上、結論の先延ばしはできない、という切羽詰まった思いだろう。

ところで、上記sourceによると、やはり、下院案の方が厳しい内容になっているようだ。今後10年間での歳出削減は、上院案では$50B、下院案では$188Bと、大きく異なっている。

※ 参考テーマ「地方政府年金

6月6日 有給インターンシップ 
Source :Paid Interns Outpace Unpaid Peers in Job Offers, Salaries (NACE)
上記sourceによると、大卒の就職活動にとって、有給インターンシップを経験していることが圧倒的に有利と出ている。
1つ以上の企業から採用オファーがあった割合(%)初年度の給与(中位数、$)
有給インターンシップ経験者63.151,930
無給インターンシップ経験者37.035,721
インターンシップ未経験者35.237,087
アメリカ社会らしい現象だと思う。他者が評価して「給料を支払ってもいい人材」、つまり既に誰かが太鼓判を押した人材を採用し、高い給与も払う、ということである。

こうなると、アメリカの学生達は、インターンでよい評価を得られなければ先は暗い、ということになる。ただ、それが嫌なら「起業する」という選択肢があるだけ、いいのかもしれない。

※ 参考テーマ「労働市場」、「教育

6月5日 二層式DBプラン 
Source :EFI president develops new DB plan model (Pensions & Investments)
新たなDBプランが開発されたとのニュースである。その特徴は次の通り。
  1. 二階建てとなっており、1階部分は"regular DB"、2階部分は"partner DB"と呼ぶ。

  2. 拠出は毎年一定額(=DCプランと同様)。従業員と企業で拠出する。

  3. 運用は1階部分、2階部分を統合して行う。

  4. 制度開始1年目の拠出割合は、1階部分:2階部分=1:1。

  5. 1年目の運用益が予定利率を下回った場合、2年目の1階部分への拠出は積立比率が100%となるようにし、残りを2階部分に拠出する。従って、拠出割合は、1階部分>2階部分。

  6. 1年目の運用益が予定利率を上回った場合、2年目の1階部分への拠出は積立比率が100%となるようにし、残りを2階部分に拠出する。従って、拠出割合は、1階部分<2階部分。

一言で言ってしまえば、最低保証(フロアー)付きのキャッシュ・バランス・プラン(CBプラン)ということだろうか。拠出額は一定、極端な運用難でない限り追加拠出はない、など企業側にとってはプラスの側面が見られる。一方、従業員側からすると、最低保証はある、運用環境がよければ給付の増加につながる、というメリットがある。

税制上はDBプランとなるが、会計上はどのように扱うのだろうか。1階部分のみで給付債務が発生すると考えるのであれば、企業側も受容可能だろう。

※ 参考テーマ「DB/DCプラン

6月4日(1) 健康増進策の新規則 
Source :Employers Get Leeway on Health Incentives (New York Times)
5月29日、PPACAに基づく健康増進策に関する新規則案が公表された(Press Release)。HHSDOLDOTの共同提案である。

ポイントは次の2点。
  1. 健康増進策による報奨金の上限を、保険プランのコスト(=保険料または拠出金。労使合算)の20%(現行)から30%に引き上げる。また、禁煙目的のものは50%まで認める。

  2. 健康増進策は同じような状況の従業員個人に対して同じプログラムを適用することとする。個人的に不適切または達成困難と医師が認める場合には、合理的な代替案を用意しなければならない。
上記sourceで示されている例示は次のようなものとなっている。 新規則の適用は、2014年1月1日からとなる。

既に、IRSはこの健康増進策に関する税制上の扱いを公表している(「Topics2013年5月18日 健康増進策の取り扱い」参照)。喫煙に関する取り扱いを別建てにするなど、今回の新規則案との平仄は合っているようだ。

残る課題は、この新規則案に対してEEOCがどのような判断を示すのか、である。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「医療保険プラン」、「人事政策/労働法制

6月4日(2) IL州同性婚法案は見送り 
Source :Illinois Gay Marriage: House Fails To Vote On Same-Sex Marriage Bill Friday, Bill Delayed Until Fall (Huffington Post)
同性婚認可法案を審議してきたIllinois州議会下院は、5月31日の会期末、賛否を問う投票を見送った(「Topics2013年5月16日 MN州:12番目の同性婚認可」参照)。上院はすでに可決し、州知事も署名すると明言していたが、下院内での環境が整わなかったようだ。

これで、IL州の同性婚認可は、どんなに早くても今秋以降、ということになる。風はいったん止まったようである。

※ 参考テーマ「同性カップル

6月3日 Exchange:保険会社の懸念 
Source :Health insurers take cautious approach to new exchanges (Journal Sentinel)
Exchangeで保険プランを販売するかどうか、多くの保険会社が迷っているという。本来、保険会社にとって市場が拡大する場面なので、積極的に取り込みに行きたいところなのだが、様々な懸念から踏み切れない保険会社が多いという。実際、2014年の参入は見送るというところが出ている(「Topics2013年5月26日 CA州Exchange:保険料提示」参照)。

保険会社の主な懸念は次の2点に集約される。
  1. 規制強化により、保険会社のコストが急上昇する。

  2. 比較的若くて健康な無保険者がどれだけ保険加入するかわからない。
1点目について、数理人会の推計では、2017年までに全米で平均32%、Wisconsin州では80%上昇するという。保険会社のコスト増をもたらす主な規制は次の通り。 確かに、コスト増要因は目白押しである。これにより、"rate shock"の波を被る人たちが出てくる。特に、若い男性にとっての保険料は相当程度高くなると思われる。

そうなると、今度は上記2.のコスト増要因につながってくる。保険料が高くなると、ペナルティとの比較考量の末、保険未加入を選択する若くて健康な無保険者が増える可能性が高まる。これがまた保険料引き上げにつながる、というように、負のスパイラルが生じてくる。

こうした保険会社の懸念を、アメリカ国民は知っているのだろうか?

※ 参考テーマ「医療保険プラン」、「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル

6月2日(1) 年金・Medicareの財政見通し 
Sources : Social Security Board of Trustees: No Change in Projected Year of Trust Fund Reserve Depletion (SSA)
Trustees Report shows reduced cost growth, longer Medicare solvency (CMS)
5月31日、公的年金(OASDI)、Medicareに関する財政見通しが公表された(「Topics2012年4月25日 年金・Medicareの財政見通し」参照)。 いずれにしても、制度改革は不可避である。

※ 参考テーマ「公的年金改革」、「Medicare

6月2日(2) IL州上院:年金改革法案を否決 
Source :Illinois Senate soundly defeats Madigan pension reform plan (chicagotribune.com)
5月30日、IL州上院は、下院の年金改革法案を圧倒的多数で否決した。これまで州議会では、上院案と下院案が審議されてきたが、より大胆な取り組みを盛り込んだ下院案が否決され、マイルドな提案である上院案は、下院で審議されるかどうか未定である。

当websiteでは何度か紹介してきているが、IL州政府職員年金の財政状況は、全米中最悪である(「Topics2013年1月10日 沈没するIL州年金」参照)。州議会民主党は、州職員年金の給付水準引き下げは州憲法違反になるのではないか、との懸念から腰が引けてるうえに、上院院内総務下院議長の意見が合わないようだ。両院とも圧倒的多数で民主党が優位なため、両者ともお山の大将で、折り合うことができないのであろう。IL州民にとっては不幸な事態である。

※ 参考テーマ「地方政府年金

6月2日(3) CA州:上院がNP役割拡大法案を可決 
Source :Senate OKs bills addressing medical provider gap (AP)
CA州上院は、5月28日、nurse practitioner(NP)の役割拡大を認める法案(SB 491)を可決した。予想される医師不足に対応するための方策である(「Topics2012年8月1日 深刻な医者不足」参照)。

法案のポイントは、Medicaid、Medicare加入者について、医師の指示がなくても診ることができるよう、独立性を高めようという点である(「Topics2013年2月22日 NP活用の広がり」参照)。Medicaid、Medicareに限定するところは余りにも場当たり的だが、それくらいしなければ、Exchangeに加入してくる無保険者への対応が追いつかないということだろう。

当然のことながら、CA州医師会は強く反発している。しかし、その主張も、来年1月からの大量の無保険者加入の前に、虚しく響く。 同法案は、翌29日から、下院で審議されている。

※ 参考テーマ「無保険者対策/CA州」、「無保険者対策/州レベル

6月2日(4) 移民はMedicareに貢献 
Source :Immigrants Contribute More To Medicare Than They Take Out, Study Finds (Kaiser Health News)
NY市立大学の教授は、移民はMedicareに貢献している、との推計を公表した。
  1. 2009年、移民が収めたMedicare保険料は$33B、Medicare受給額は$19Bで、$14Bの黒字であった。

  2. 2002〜2009年の累計をみても、移民が収めた保険料から受給額を引いた金額は$115Bの黒字であった。

  3. これは移民の年齢構成が影響している。移民の高齢者と現役の比率は1:6.5、アメリカ出生者の比率は1:4.7と、移民は若者の比率が高いのである。

  4. 加えて、移民の平均受給額は$3,923、アメリカ出生者の平均受給額は$5,388と、移民の受給額が少ないことも影響している。
おそらく、移民の平均寿命がアメリカ出生者ほど長くはないのであろう。

この推計では、不法移民がアメリカ市民となって、保険料を支払う、Medicare受給資格を獲得した場合の影響は省いている。従って、悪評高いHeritage Foundationの推計のカウンターとはなり得ない(「Topics2013年5月13日 移民改革法のコスト」「Topics2013年5月22日 移民法改革に反対する勢力」参照)。

超党派上院議員による移民法改革法案(S. 744)は、5月28日に上院司法委員会で審議が始まったようだが、CBOによるコスト推計は依然として示されていない。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者」、「Medicare

6月1日 CalSTRS 物言う株主に 
Source :CalSTRS flexes its muscles as a shareholder (Sacramento Bee)
2008年のリーマンショック以降、CalSTRSは株主としての発言を強めている。 公務員年金基金は、法律上は稼げるだけ稼ぐことが法律上の目的だが、その一方で、CalSTRSは企業の社会的責任、コーポレート・ガバナンスに積極的に関与する方針を明確にしている。財政状況の厳しい中で、加入者にとって望ましいのはどちらの方向なのだろうか(「Topics2012年4月12日 CA州公務員年金の苦悩」参照)。

※ 参考テーマ「地方政府年金