5月20日 Medicaidお断り 
Source :Most doctors still reject Medicaid as program expansion nears (McClatchy Newspapers)
PPACAの施行により、医者不足がより深刻になるということは、既に紹介した(「Topics2012年8月1日 深刻な医者不足」参照)。上記sourceでは、その医者不足が、Medicaidの分野で大問題になりそうだ、と指摘している。

主なポイントは次の通り。
  1. アメリカ医学大学協会の推計によると、2015年時点で、全米でプライマリーケア医が29,800人、専門医が33,000人不足する。

  2. 郊外地域の医師不足は深刻で、20%の国民が人口低密度地域に住んでいるが、その地域にいる医者は10%しかいない。従って、2,000を超える郊外の郡が「医師不足地域」に指定されている。

  3. ある大規模調査によれば、Medicaid加入者の患者を診ると回答した医師等は43%しかいない。ナース・プラクティショナー等に至っては20%しかいない。

  4. Medicaid加入者を拒否する主な理由は、診療報酬が安いことにある。通常は、Medicareの2/3、プライマリーケアだけをみるとMedicareよりも41%少ない。PPACAにより、2013〜14年については、プライマリーケアはMedicare並みに引き上げられているが、2015年になればまた大きく引き下げられてしまうかもしれない。
Medicaid拡充策がなかなか全米で広がりを見せないうえに、新たに加入できたとしても医師から診察を断られる、または長期間待たされるのであれば、保険加入のメリットは感じられない。本当にMedicaidについては、課題山積である。

※ 参考テーマ「無保険者対策/州レベル」、「無保険者対策/連邦レベル

5月19日 CA州版国民年金基金:制度設計進まず 
Source :California vs. the 'Retirement Tsunami' (The Atlantic)
CA州版国民年金基金(正式名称は"California Secure Choice Retirement Savings Program")の具体的な制度設計が進んでいないそうだ(「Topics2012年9月5日 CA州年金改革法案可決」参照)。

まずは、法律上の規定等について、おさらいをしておく。
CA州版国民年金基金

  1. 退職年金プランを持たない低所得の民間企業従業員630万人を対象に、"California Secure Choice Retirement Savings Program"を創設する。

  2. 詳細な制度設計は、7名で構成する理事会で決定する。

  3. 実際の制度の執行は民間機関が行うものとし、州政府の負担は基本的にない。

  4. 基本的な制度設計は、401(k)やIRAのようなポータブルな個人勘定と、個別勘定から集めた基金の統合運用の組み合わせとする。

  5. 従業員本人が加入を拒否しない限り、自動加入、給与の3%を天引きする。

  6. 5人超の従業員がいる企業で天引きを認めない場合、ペナルティとして、加入資格者一人につき$500のペナルティを課す。

  7. 運用基金は$6.6Bと推計。資産保全のため、株式等への投資は50%以下とする。また、最低保証利回りを設け、30年財務省証券(現在の利回りは約3%)と連動させる。
このような制度の施行について、大きく2つの反対論があるという。
  1. 新たに巨額の給付債務が発生する(州議会議員、州政府関係者)。

  2. 既にIRAがある中で、同じような制度を並行して新設する必要性はない(USCC)。
こうした声が届いてか、上記2.の理事会のメンバーすら未だ決まっていない。そのような状況では、当然のことながら制度設計の具体化は進まない。

しかも、制度設計が詰まったら、今度はIRSとDOLに提出し、@IRAと同じ税制優遇措置、A企業が提供するベネフィットではない、の2点を認定してもらわなければならない。

さらに、これらがすべて整ったところで、改めて州議会の承認を得る必要がある。このように、今後とも多数の課題が待ち受けているのである。

制度施行までのプロセスも大変そうだが、上記のような制度設計からIRAと同じ税制措置を獲得するのは難しそうだ。今のところの情報を見る限り、この制度はむしろ"cash balance plan"であり、そうであればDBプランとして見做されるはずである。当方の理解では、アメリカの税制において、運用責任を個人が負えばDC、運営主体(普通のDBならば企業)が負えばDBである。そして、DBプランとして認定されると、州議会議員や州政府関係者が懸念しているように、巨額の給付債務が新たに発生することになる。

法案は成立したものの、制度の施行までは長い道程が待っている。

※ 参考テーマ「地方政府年金」、「企業年金関連法制

5月18日 健康増進策の取り扱い 
Sources : New Obamacare rules deal big blow to employers (HR BenefitsAlert)
EEOC to Take Closer Look at Employer Wellness Programs (Jackson Lewis LLP)
医療保険プランのコスト抑制を目的に、企業は健康増進策の活用に力を入れている。しかし、健康増進策の政策上の取り扱いについて、連邦政府は規制を強めようとしているようだ。
  1. IRS


  2. PPACAでは、提供する保険プランの数理的価値により、4種類のレベルに分類することとしている(「Topics2010年9月19日 Tax Creditsと"Exchange"」参照)。
    Plan 保険給付割合 
    Platinum 90%
    Gold 80%
    Silver 70%
    Bronze 60%
    その保険プランの数理的価値を計算する際、健康増進策をどのように扱うかが重要となるが、このほど、IRSがそのガイドラインを公表した。健康増進策の取り扱いは、次のように2段階に分かれる。

    1. 2013年5月3日〜2014年12月31日

      健康増進策を通じて企業が提供する保険料割引、インセンティブは、すべての従業員が受け取ったものとして数理的価値を計算する。例えば、健康リスク調査を受ければ保険料負担を$200軽減できる、というインセンティブ制度が提供されている場合、すべての従業員がこの調査を受けたものとして計算する。

    2. 2015年1月1日〜

      健康増進策を、@喫煙抑制目的と、Aそれ以外、に分類する。@の場合は、上記と同様、すべての従業員がそのインセンティブを利用するものとして計算する。つまり、すべての従業員が禁煙を志向するものと想定する。

      他方、Aの場合は、すべての従業員がそのインセンティブを利用できないものとして計算する。つまり、何の効果ももたらさないものとして扱うことになる。

    これでは、何のための健康増進策なのか、さっぱりわからなくなる。企業やベネフィット専門家の間では困惑が広がっているという。

  3. EEOC


  4. 今月8日、EEOCは、公聴会を開いた後、次のような立場を表明した。

    • 健康増進策が普及しつつあることは充分認識している。

    • しかし、関連する法規制と整合しているかどうか、明確にはなっていない。

    上記sourceによれば、健康増進策に関連する法律は、公聴会で指摘されただけでも次のように多数存在する。

    • Americans with Disabilities Act (ADA)
    • Genetic Information Non-Discrimination Act of 2008 (GINA)(「Topics2010年2月3日(3) 企業の健康増進策」参照)
    • Title VII of the Civil Rights Act of 1964 (Title VII)
    • Age Discrimination in Employment Act (ADEA)
    • Equal Pay Act (EPA)
    • Health Insurance Portability and Accountability Act (HIPAA)
    • Affordable Care Act (ACA)
    • Sections 503 and 504 of the Rehabilitation Act

    例えば、ACAでは、職場の従業員に対する健康増進策であり、かつ従業員が自主的に答えるのでなければ、健康に関する質問は禁止されている。さらに、2000年にEOCCが示したガイドラインでは、『事業主が参加を要求せず、不参加に対するペナルティもない場合に限り、健康増進策は「自主的な参加」を求めていることになる』と明記されている。

    これに照らせば、現在企業で行われている健康増進策は、限りなくクロに近い。

    EEOCは、明らかに、現行の健康増進策は差別的である、との認識で規制強化に取り組もうとしているのである。これは、PPACAで、インセンティブを拡大してでも健康増進策の利用を広げたいとした方向性に逆行する。
コスト抑制策としての健康増進策は、こうした連邦政府の取り扱いにより、がんじがらめにされようとしている。

※ 参考テーマ「医療保険プラン」、「人事政策/労働法制

5月17日 UT州の粘り勝ち 
Source :Feds approve Utah to become first state to use dual-model health insurance marketplace (Washington Post)
UT州政府が申し入れていた小規模企業のみを対象とする"Exchange"について、HHS承認する意向を正式に表明した(「Topics2013年2月15日(1) UT州のExchange後退」参照)。

この決定に伴い、UT州の"Exchange"は、次のような姿になる。 UT州の要求に対する満額回答であり、州知事は大満足である。また、今回認められた二重設置モデルは、今までにないものであり、今後、他州でも採用を検討するところが出てくるかもしれない。

しかし、二重設置モデルでは問題が生じる可能性も充分ある。
  1. 州民の立場からすると、どちらのExchangeに参加するのが好ましいのか、比較検討することが難しくなる。例えば、"Avenue H"では、Medicaid加入資格があるかどうかを審査することはしない。

  2. 小規模企業の従業員は"Avenue H"、その家族は個人Exchangeという事態にもなりかねない。
分断して別々に運営するのは行政サイドの都合であり、州民視線ではない。そもそもの主旨である"One Stop"が保てないことについて、どう考えればよいのだろうか。
Exchange & Medicaid (2013.5.17.現在)

State Health Insurance Marketplaces (CMS)
Health Reform's Medicaid Expansion (Center on Budget and Policy Priorities)
※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル」、「無保険者対策/UT州

5月16日 MN州:12番目の同性婚認可 
Source :Minnesota Senate Clears Way for Same-Sex Marriage (New York Times)
13日、Minnesota州(MN)議会上院は、同性婚認可法案を可決した。既に下院は先週可決している。翌日の14日、MN州知事が法案に署名し、これでMN州は12番目の同性婚認可州となった。
同性カップルの法的ステータス
MarriageCivil UnionDomestic Partnership他州の法的ステータスの承認
施行日州 法州最高裁判決
Massachusetts2004.5.17A@Same-sex marriage
Connecticut2008.11.10A@Same-sex marriage
Iowa2009.4.24Same-sex marriage
Vermont2009.9.1Same-sex marriage
New Hampshire2010.1.1Same-sex marriage
Washington, D.C.2010.3.3○ (1992.6.11)Same-sex marriage
New York2011.7.24Same-sex marriage
Maine2012.12.29○→×→○**○ (2004.7.30)Same-sex marriage
Washington2013.6.12009.7.26〜2014.6.30:異性間は62歳以上のみ
2014.7.1〜:同性間、異性間とも62歳以上のみ
異性婚配偶者と同等権利賦与
Same-sex marriage
Maryland2013.1.1Same-sex marriage
Rhode Island2013.8.1Same-sex marriage
Delaware2013.7.1Same-sex marriage
Minnesota2013.8.1Same-sex marriage
California2008.6.17〜11.4○→×(→○)*○ (2005.1.1)
異性間は62歳以上のみ
異性婚配偶者と同等権利賦与
Domestic Partnershipとして認知
New Jersey○ (2007.2.19)(同性間のみ)
異性婚配偶者と同等権利賦与
○ (2004.7.10)
同性間、異性間とも62歳以上のみ
同性婚を含めて認知
Illinois○ (2011.6.1)
異性婚配偶者と同等権利賦与
同性婚を含めて認知
Hawaii○ (2012.1.1)
異性婚配偶者と同等権利賦与
同性婚以外は認知
Oregon○ (2008.2.4)(同性間のみ)
異性婚配偶者と同等権利賦与
-
Wisconsin○ (2009.8.3)(同性間のみ)認知しない
Nevada○ (2009.10.1)
異性婚配偶者と同等権利賦与
同性婚以外は認知

* CA州最高裁判決○ → Proposition 8× → 連邦地方裁判所○ → 連邦第9控訴裁判所小法廷○
**ME州議会可決(2009.5)○ → 州民投票(2009.11)× → 州民投票(2012.11)○
次はIllinois州での成立が見込まれている。

※ 参考テーマ「同性カップル

5月15日 買い物はやめられない 
Source :Americans Can't Stop Shopping (Businessweek)
今年初め、公的年金保険料(Social Security Tax)が本則に戻って、本人負担分の保険料が2%アップした(「Topics2013年1月7日 Fiscal Cliffの先延ばし」参照)。この増税がアメリカ国民の消費にどのような影響をもたらすのか、随分と懸念されていたが、何のことはない、小売売上高は順調に伸びている。

増税になったのに消費が伸びているとすると、その財源はどこからでてきているのか。上記sourceでは、時間当たり労賃が上がっている、ガソリン価格が低下しているなどもあるが、最も大きいのは貯蓄率の低下であるとしている。

全体の貯蓄率が下がっており、中でも借金返済に充てる割合が大きく低下している。住宅価格上昇や株高などで楽観的なムードが広がっているのである。まさに資産効果で消費が伸びている。

この人生観の違いとも言うべき感覚の違いは、どうにも埋めがたい。

※ 参考テーマ「労働市場」、「公的年金改革

5月14日 クレジット履歴 
Source :The Long Shadow of Bad Credit in a Job Search (New York Times)
上記sourceでは、クレジット履歴が就職を妨げていると紹介されている。 こうした慣行については、問題が多いとの指摘がある。 こうした懸念に対して、法制上の整備を進める動きも始まっている。州法レベルでは、9つの州で、採用活動にクレジット情報を利用することを制限する法律を導入している(Employment Screening Resources)。また、連邦議会でも、同様の主旨の法案(HR 645)が提出されている。

時折触れているが、アメリカ社会は誰かが保証してくれないと信用しない、というシステムである。かつて、日本の企業も採用活動で興信所を利用していた、と言われている。アメリカ企業はその代わりにクレジット情報に依存している訳だが、それも徐々に難しくなっていくようだ。

※ 参考テーマ「人事政策/労働法制

5月13日 移民改革法のコスト 
Source :Amnesty Cost to Taxpayers: $6.3 Trillion (Heritage Foundation)
5月9日、16日、超党派上院議員による移民法改革法案 "THE BORDER SECURITY, ECONOMIC OPPORTUNITY & IMMIGRATION MODERNIZATION ACT OF 2013 (S. 744)" が、上院委員会に付託された。いよいよ本格的な議論の開始である。

それに先立ち、Heritage Foundationが上記sourceを公表した。そのポイントは次の通り。 よくまあここまでしつこく計算したな、という印象を持ったが、社会コストが高まることは間違いない。そのための財源についても議論せざるを得ないだろう。CBOの推計が待たれるところである。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

5月12日 Pay Gap 
Source :Disclosed: The Pay Gap Between CEOs and Employees (Businessweek)
3年前に成立した"Dodd-Frank"法では、最高経営責任者の報酬と一般の従業員の報酬の比率を開示するよう求めている。具体的な開示手法の規定はSECに任されているが、未だに定まっていない。同法では、経営者の報酬の高騰が金融危機を招いた一因である、との考え方に立っている。

しかし、具体的な比率の開示を全公開会社に求めたところで、その単純な比較に何の意味があるのか、という疑問は当然付きまとう。むしろ、当時の金融危機における政治サイドの焦りが法律に盛り込まれた、という印象が強い。

ただ、具体的な手法は規定されていなくとも、民間では様々な数値が試算されている。上記sourceで示されているのは、S&P 500企業の業界別比率である。
通信業界のCEOの報酬水準は最高レベルだが、一般従業員の報酬水準も高いことがわかる。一方、金融の世界では格差が激しいということも見て取れる。

さらに、S&P 500のうちの上位250社について、個別企業の比率を推計したものもある(Bloomberg)。これを見ると、比率が最も高いJC PenneyのCEOは、約1,800倍の報酬を得ているそうだ。

一般の従業員の年収が$60,000(≒600万円)とすると、金融機関のCEOは$18M(≒18億円)以上、JC PenneyのCEOは$108M(≒108億円)を受け取っていることになる。ちょっと想像できない金額である。ちなみに、P. Drucker教授は、20〜25倍が適切、と述べていたそうだ。過度な比率はチーム力を損なうという考えだ。その説に従えば、CEOの報酬は$1.5M(≒1億5,0000万円)程度ということになる。

※ 参考テーマ「経営者報酬

5月11日 病院による本国送還 
Source :U.S. Hospitals Quietly Deport Hundreds Of Undocumented Immigrants (AP)
こんなことがあるのか、と思わされるのがアメリカである。医療機関による不法移民の本国送還、"medical repatriation"が静かに行なわれているそうだ。

上記sourceで紹介されている事例は、概ね次のようなことだった。 全数調査ではないものの、ある民間の推計によれば、こうした医療機関による不法移民の本国送還は、最近5年間で最低でも600件は行われているという。「民間の推計」しかないのは、こうした問題を扱う当局が決まっていないからである。医療機関が不法移民を受け入れた場合、移民局に連絡をするものの、移民局が対応することは稀、ということである。移民局が引き取れば、医療サービスに関する財政負担が発生するので、どうしても回避されてしまう。

医療機関としては、どのような法的地位の者に対しても救急医療を提供しなければいけないという義務はあるものの、一旦症状が落ち着けば、連邦政府からの支払いは途切れる。さらに、PPACAが本格施行となれば、無保険者に対する診療報酬が大幅に削減されることから、こうした事例が増えるのではないかと見られている。

全米医師会は、2009年に、『病院に不法移民の本国送還をさせてはいけない』と強い調子で要請を出しているが、その効果のほども疑わしい。

不法移民と無保険者。アメリカ社会の弱点が重なり合って生じている課題のようだ(「Topics2013年2月19日 Emergency Medicaid」参照)。

それにしても、メキシコの病院にとって、重傷の不法移民を受け入れる意味合いは何なのだろうか?Iowaの病院から『謝礼』が支払われるのだろうか?病院のプライベートジェットで本国送還された人達のメキシコにおける法的ステータスは確保されているのだろうか?そもそも出国記録がないのだろうか?

やはりよくわからないことが起きている。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者」、「無保険者対策/州レベル