Source : | Legal Constraints on Changes in State and Local Pensions (Center for State & Local Government Excellence) |
当websiteでは、地方政府年金の改革について度々触れているが、最近の州政府財政事情を背景とした制度変更は、将来の新規採用者を適用対象としていて、現役職員の給付内容になかなか触れられない(例:「Topics2012年3月18日 NY州公務員年金改正法成立」参照)。州憲法の規定であったり、労組の抵抗が激しいことを理由としている場合が多いようだ。
上記sourceは、地方政府年金を規定している州法を分析し、制度変更の困難さを説明している。実はこうした法制度からみた分析というものを見るのは初めてである。従って、ほとんど抄訳のレベルになってしまうが、少し丁寧にまとめておきたい。このレポートの著者の一人は、Alicia Munnnel女史である。実は、彼女とは、昔ある会合で同じテーブルになり、「どうせあなた達EBRIの研究者は、スポンサー企業寄りの主張しかしないわよ」と冷たく突き放された覚えがある。その彼女がこうした提案を行うこと自体、時代の変化を感じさせるものであり、それほどに州政府財政、地方政府年金が危機的状況にあるということなのだろう。とてもよい勉強になった。
- 現役職員に対する年金給付の保護規定
- 現役職員の年金給付への変更を規制している州法は、もともと州政府が容易に変更したり給付しなかったりすることができる「報奨金」として位置づけていた時代に対する反動である。連邦法(ERISA)が州政府等の地方政府年金に適用されないことから、州政府がその保護規定を自ら設定することとなった。
- 保護規定の基本となる考え方は、大きく言って次の2つに分類できる。
- 契約ベース:年金給付を『契約』と解釈し、現存する『契約』を棄損するような州法の制定を禁じる。その中には、採用時に職員が期待していた給付内容(期待権)を保護する規定を設けているような州もある。
- 財産権ベース:年金給付を約束された『財産』として考え、『財産』を棄損するような州法を禁じる。
- 上記のような分類をベースに、年金給付保護規定の類型をまとめたのが次の表である。
- 年金制度変更の柔軟性の確保
- 上の表を見てわかるように、圧倒的に多くの州が、過去勤務に対応する受給権を確保するばかりでなく、将来勤務に対応する給付まで保護しようとしている。これでは、経済情勢の変化に合わせた制度変更をしようとしてもできない仕組みになっている。
- 一方、ERISAによって保護されている民間企業におけるDBプランの受給権は、過去分のみであり、将来分については企業側に変更を認めている。
- 従って、州政府・州議会が年金制度を変更しようとしても、現役職員の分は将来にわたって保護されているため変更できず、新たに採用した職員からの適用ということになる。これは、大きな弊害をもたらす。
- 新卒採用からの適用となると、制度変更の効果は極めて長期的にしか現れてこない。
- 同じ仕事をしていても、制度変更前の採用か後の採用かで報酬内容が異なってしまう(二層化)。
- 民間部門の従業員からみると、州政府・自治体職員は民間よりも強く守られており、不公平に感じてしまう。
- 結 論
現在行われようとしている制度変更は、新規採用者に給付減額を不当にしわ寄せしたものとなっている。州政府・自治体職員の年金保護規定については、ERISAタイプの保護規定(過去分のみ受給権保護)に修正すべきである。
※ 参考テーマ「地方政府年金」
Source : | Thousands of postmasters take early retirement, buyouts (GovExec.com) |
USPSが提案した早期退職勧奨が、想定通りに進んでいる。上記sourceによれば、早期退職勧奨に応じた、または今後応じる予定のpostmastersの人数は次のようになっている。目標としていた3,800人は既に上回り、目標の上限に近づこうとしている(「Topics2012年7月10日 USPS人員削減第一弾」参照)。
7月 3,776人 8月 95人 9月 233人
しかし、USPSは、退職者医療プランのための支払い($5.5B)の支払いができずにおり、このままいくと9月の支払いもできない可能性がある。
人員削減策が今回で終了になるということはないだろう。
※ 参考テーマ「労働市場」、「解雇事情/失業対策」
Source : | US corporate pension plans' funding deficit reaches all-time high (Mercer) |
企業年金のDBプランの財政状況が最悪の状態に陥っている。S&P 1500の企業が保有する企業年金DBプランを総計した場合の給付債務、積立比率が急速に悪化している。先の7月の1ヵ月間、市場で何が起きていたかというと、
2012/6/30 2012/7/31 積立不足 $543B $689B 積立比率 74% 70% となっている。つまり、運用では少しは稼げる環境にあったが、金利の更なる低下を背景に割引率が低下し、給付債務が膨れ上がったということである。
- 株式は1.4%の上昇(S&P 500)
- 債券割引率は30〜55BPの低下
上記sourceでは、7月6日に成立したMAP-21(「Topics2012年7月5日 PBGC保険料大幅引上げ」参照)による給付債務抑制の効果は短期的・限定的であり、むしろ、同法に盛り込まれているPBGC保険料の大幅引き上げの影響を懸念している。
こうした積立不足の増大は、企業のB/Sにも影響をもたらす。長引く景気の停滞感と低金利政策は、DBプランの最後の息の根を止めようとしているのかもしれない。
※ 参考テーマ「DB/DCプラン」、「企業年金関連法制」
アメリカ人が保険加入義務にここまで抵抗する理由は何か、とのご質問をいただいた。自分でもそこまで考えてまとめてみたことはなかったので、これまでの医療保険改革法案の議論をもう一度振り返ってみた。 大きく分けて、連邦政府の権限に関するものと、負担に関するもの、その他に分けられるのではないかと思う。「1.」、「2.」は、アメリカの連邦政府と州政府、国民の関係を背景にしたものと言える。特に、「2.」は、連邦最高裁まで争われた事案における最大の争点であったし、州政府レベルで保険加入義務をはずそうとする動きも活発であった(「Topics2010年11月2日(1) 州レベルでの反対運動:保険加入義務」参照)。
- 医療保険プランを購入するかどうかは、普通にモノやサービスを買うかどうかという個人の選択の問題、民民取り引きの範囲である。従って、連邦政府からとやかく指図され、購入を義務付けられることに嫌悪感を感じる。
- 医療保険に関する規制は、もともと州政府の権限である。そこに連邦政府が口出ししてくるのは越権行為である。
- 「1.」の裏返しだが、選択して保険加入していない個人にとって、必要ないと思っていた保険料負担を求められることは嫌。しかも、"tax"と位置付けられれば、これは新税であり、ますます嫌。
- 中小・零細企業では、医療保険プランの提供を行なっていないところが多い。個人加入義務が課されることと並行して"Play or Pay"でペナルティを求められることになり、負担増になる。
- 保険加入義務が課されると、一義的には保険会社の収入が増えることになる。利益をあんなにあげている保険会社がますます潤うのはおかしい。
「3.」、「4.」は負担増に対する反発だが、個人の負担に関しては誤解に基づくものもあるそうだ。昨日紹介したKaiserの世論調査では、「既に企業が提供している保険プランに加入している場合には、負担増などの変更はない」と説明すると、反対を取り下げる場合も多いらしい。
保険加入義務について、今度の大統領選挙候補者の間でもねじれ現象がある。
Obama大統領は、医療保険改革法への署名者であり、当然のことながら、加入義務を訴える立場ではある。しかし、もともとObama氏は、保険加入義務は子どもだけでいい、と主張していた(「Topics2007年5月30日(1) Obama上院議員の皆保険提案」、「Topics2007年5月31日 Obamaプランへの評価」参照)。成人への義務化については留保していたのである。
一方の共和党Romney氏は、全米で最初に保険加入義務化を実現したMA州皆保険法の署名者である。ところが、大統領になった暁には、初日に"ObamaCare"を廃止する、と豪語している(「Topics2012年6月16日 Romneyの医療政策骨子」参照)。
このように、医療保険加入義務規定は、アメリカ国民にとって微妙な争点なのである。
※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」
Source : | Kaiser Health Tracking Poll: July 2012 (Kaiser Family Foundation) |
上記sourceは、Kaiser Family Foundationが定期的に行っている医療政策に関する世論調査であり、連邦最高裁が下した判決の影響の有無を見ることができる。調査結果を概観すると、と総括できる。
- PPACAに対する評価は依然として二分されている。
- 医療保険加入義務の不人気は変わらない。
以下、ポイントとなりそうな調査結果をまとめておく。※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」
- PPACAへの評価は二分されているが、好ましくないと考える人の割合が高まり、好ましいと考える人の割合を上回っている。
- 特に、共和党支持者の間での反発が根強い。
- Medicaidの拡充については、支持が広まっている。
- 同様に"Exchange"、個人への補助金についても同様の支持が広まっているが、個人の保険加入義務だけは以前として不人気である。
Source : | Jobless generation puts brakes on US (Financial Times) |
上記sourceには、いろいろなエピソードが盛り込まれているのだが、アメリカの大卒者の就職状況についてまとめておきたい。
- 労働市場環境
- 18〜24歳のアメリカ人の就業率は54%(2011年)
- 16〜24歳のアメリカ人の失業率は16%強。全国平均の倍である。
- 世界の若者の失業率は13%と危機的水準にある(ILO)。
- 初任給
景気後退前(2006〜7年)は平均年収$32,000だったが、景気後退期(2009〜11年)は$30,400に低下している。
- ローン残高
大学卒業生一人あたり平均約$25,000。残高の総額もウナギ登りで増加している。
最後のローン残高は、アメリカ特有とされている。親の世代の所得が以前よりも伸びず、若い世代にその負担が回っているのだろうが、これが長期的にアメリカの消費社会に暗い影を投げかける可能性が高い。これも一種のバランス・シート・デフレである。
アメリカ経済も徐々に低成長体質に変質しつつあるのかもしれない。
※ 参考テーマ「教育」、「労働市場」
Source : | Bill aims to curb health spending in Massachusetts (Boston Globe) Massachusetts Legislature Passes Comprehensive Health Care Payment Reform (ML Strategies) |
7月31日、MA州議会で医療費抑制法案が可決された。州知事も歓迎のコメントを発出しているので、成立するのは時間の問題であろう。(⇒8月6日州知事署名)
今回の法案の特徴は、医療費の伸び率をGSP(Gross State Product)の伸び率以下に抑えようとしていることである。こうした政策目標(benchmark)の設定は、全米でも初めてだそうだ。これにより、今後15年間で$200Bの歳出削減効果があるという(Kaiser Health News)。 上記sourceによれば、最近のMA州の医療費伸び率は6〜7%であるのに対し、経済成長率は約3.7%となっている。つまり、医療費の伸び率を約半分に圧縮しなければならなくなる。これは相当厳しい枠であると認識している。
- 2013〜2017年:医療費伸び率≦MA州GSP伸び率
- 2018〜2022年:医療費伸び率≦MA州GSP伸び率 − 0.5%
- 2023年〜 :医療費伸び率≦MA州GSP伸び率
- 一定の環境下では議会が制限を緩める弾力条項あり。
こうしたマクロの数値目標を掲げるのは、ある意味簡単であり、より重要なのはその実現のための政策ツールである。以前紹介した通り、今回の医療費抑制策は"Spaghetti approach"(「Topics2012年5月15日 Spaghetti approach:MA州」参照)であり、どの政策手段でどれだけ医療費が抑制できるのかという積み上げはできていないのではないかと思われる。
もしも、法案に盛り込まれた政策ツールが思ったほど効果を上げることがなければ、まさに画餅に帰すことになってしまう。
医療費伸び率の目標設定以外のポイントは次の通り。全米で最先端を行くMA州が、遂に本格的な医療費抑制に取り組み始めた。
- 新委員会の設置
- 目標に対して実績を評価する。目標を上回った医療機関等は改善計画を提出し、新委員会の監視の下、改善計画を実行する。
- 医療機関の経営形態の変更(例えば医療機関の合併、業務連携など)がもたらす影響を分析する。
- その結果、反競争的な行動と見做される場合には、司法長官とともに捜査に参加する。
- プライマリー・ケアと予防の推進
- ナース・プラクティショナーの役割を拡げるなど、医療支援業務の役割を高める。
- 医療提供体制の中での診療所の役割を明確化する。
- 人材育成のための基金を設ける。
- 医療提供体制の再構築
- ACOsの認証制度を設ける。
- 診療報酬のバラつきを検証する。
- 州が運営する医療保険プランや自治体職員向けのプランについては、出来高払いからの移行を義務付ける。
- 査定等
- 一定規模の病院等の査察を行う。
- 医療情報の電子化を支援する。
- 医療過誤訴訟
- 医療過誤訴訟について182日間のクーリング・オフ期間を設ける。
- 医療過誤について医療機関が認めたとしても、裁判における(医療機関の)弁済責務の認定としては利用しない。
- 処方薬コストの抑制
- 州政府機関が処方薬を購入する際の調達方法を一元化する。
- 官民ともに薬剤コストを抑制する手段について検討する委員会を設ける。
※ 参考テーマ「無保険者対策/MA州」
Source : | Sacramento medical jobs to boom as health care law takes effect (Sacramento Bee) |
同じ事象でも違う角度から見ると風景が違ってくる(「Topics2012年8月1日 深刻な医者不足」参照)。上記sourceでは、CA州Sacramento地域で、医療保険改革法や人口の高齢化等により、医療産業関係者のみならずそれらを支えるサービス産業(ITなど)の雇用が伸びていることを紹介している。確かに、医療・介護産業は雇用の牽引役になっていることは間違いない。それは日本でも同じである。しかし、何となく納得がいかないのも同じである。市場を通じて成長し、雇用者数が伸びているのは歓迎できる。消費者も文句を言わないだろう。しかし、医療産業は、一部とはいえ、公的強制力により集められた資金を財源にして、公定価格の下で管理競争が行われているに過ぎない。この『強制的に』徴収されている資金が気に入らないのだろうか。そんな感想を持つのは、アメリカ社会を少しでも知っているからだろうか。
- CA州では、PPACAによるペナルティ課税により、55,000近くの職が失われるとされる一方、PPACA全体の影響により、98,000の職が増えると推計されている。
- Sacramento地域における医療産業の雇用者数は、既に7年前に州政府の雇用者数を上回っている。2010年の雇用者数は、医療産業93,000人、州政府82,000人となっている。
※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「労働市場」
Source : | 2012 Deloitte Survey of U.S. Employers: Opinions about the U.S. Health Care System and Plans for Employee Health Benefits (Deoitte) |
当websiteでは既に紹介済み(「Topics2012年7月27日 PPACA:企業の意向」参照)だが、その後もいろいろな機関が参照しているようなので、もう少し幅広に調査結果をまとめておきたい。いずれも、調査対象となった企業の側の見方である。これらを見ていて気付きの点をいくつか。
- 医療費が高い要因としては、@病院のコスト高、A医療の非効率性、B不健康な生活を挙げている。
- プライマリー・ケアに対する投資が有効だとみている。
- 60%近くが、医療保険改革の方向性が間違っていると感じている。
- 2014年の医療保険改革法の本格施行に対して、充分な準備ができているとしているのは3割弱である。
- 有能な社員と働きがいを維持するために、医療保険の提供が有効だと考えている。
- ほとんどの企業が医療保険プランの提供を止めようとは思っていない。
- 医療保険改革法における保険加入義務やペナルティのシナリオを変えても、医療保険プラン提供にはほとんど影響ない。
- 医療費高騰への対応として、従業員による負担の見直しが必要と考えている。
- 連邦政府の財政赤字削減には、Medicare、Medicaidの改革、医療保険改革法の廃止または延期が必要と考えている。
※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「医療保険プラン」
- 「6.」だが、原文では "… few employers anticipate dopping health care insurance coverage" としている。全体で9%、100人未満の企業では13%がプラン提供をやめる、と言っているのに、"few"としか表現しないのは、どうなのか。アメリカの医療保険を見ている者とすれば、かなり大きな割合という感じがする。また、Obama大統領の公約であった、「現在加入している保険プランには変更をもたらさない」という原則にも反する。調査会社としてはかなりまずい表現だと思う。
- 「7.」で、ペナルティが3倍になると、医療保険プランの提供を止めようと考える大企業が増えるというのがよくわからない。ペナルティが安いからプラン提供を止めようと考えるのだと思っていたが、別の動機が考えられるのかもしれない。
- 企業も共和党下院議員と同じ間違いを犯している。PPACAを廃止すると、連邦政府の財政赤字は拡大するのである(「Topics2012年7月29日 ObamaCare廃止法案(2)」参照)。思い込みの恐ろしいところである。
Source : | Doctor Shortage Likely to Worsen With Health Law (New York Times) |
医療保険改革法で無保険者が減少するのはいいのだが、保険に加入しても、医者不足のために充分な診療が受けられないという事態があちこちで起きるかもしれない。
右図(New York Times)は、アメリカ医学大学協会の推計で、医療保険改革法がなければ2025年時点の医師不足は10万人を超えるが、医療保険改革法のもとではその数字が12.5万人に膨れ上がるという。
不足の原因として挙げられているのは、次の6点。対策としては、医学部卒業生を増やす、チーム医療を推進する、看護師によるケアを増やす、Medicaid診療報酬の削減をやめる、などがあるが、いずれも焼け石に水、ということらしい。州政府や地方自治体としても、財政赤字を縮減するためには、こうした対応は簡単にできないだろう。
- 保険加入者が増えることにより、医療ニーズが高まる。
- 若い医師の就業時間が短縮化されている。
- 都市部と郊外では、医師の収入格差が年々拡大している。
- 専門医とプライマリー・ケア医師との収入格差が拡大している。
- Medicaid診療報酬が削減され、プライマリー・ケアを担当する医師の不足が深刻化している。
- 人口の高齢化により、プライマリー・ケアへの需要が高まっていく。
医療保険改革法(PPACA)により、無保険者が減ったとしても、といった課題が残るようである。
- 保険料の上昇が続く
- 医師不足で必要な医療が受けられない
※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル」