4月20日 バウチャーはコスト要因 
Source :Health care voucher provision may inflate employer costs (Business Insurance)
医療保険改革法で、低中所得の従業員に企業から医療バウチャーを配布するとの規定が盛り込まれている(「Topics2010年3月27日 医療保険改革法:企業への影響」参照)。正確に法律通りに表現すると、次のようになっているらしい。 こうした規定の下では、次の事例のようなコストアップ要因が発生するという。
  1. 中高年の従業員が多い企業で給与の安い若い従業員は、企業のプランに加入するよりも、バウチャーを受け取ってExchangeで保険に加入する方が得をする。中高年向けのプランは通常高い保険料となっており、若い従業員は選択していないのに、企業にとってはあたかも中高年向けプランに加入したのと同様のコストがかかってしまう。若い従業員にとっては、差額は所得税の対象になるとは考えられるものの、バウチャーを選考するインセンティブとなる。

    結果、逆選択が発生し、企業のコストが膨らむ。

  2. 上記下線部の解釈は、
    1. 保険料に占める企業負担の割合
    2. 実際に企業が負担する金額
    のいずれなのかで、分かれるところである。専門家は、後者のb.ではないかとみている。その場合、企業がCDHPのようにコストが安いプランと、伝統的なPPOプランの両方を提供しているとすると、企業の負担はますます高まる。
具体的な施行段階で、まだまだ混乱が生じる可能性がある。問題は、大統領府や議会に、法案の解釈や意図を理解している人達がどれだけ残っているかである。

ところで、事例1のような事象が発生する可能性のある企業として、すぐに思いつくのがWal-Martである。同社は、昨年夏に医療保険改革議論が盛り上がったところで、"Pay-or-Play"ルールに賛成するとの意思表明をしている(「Topics2009年7月3日(2) Wal-Martが"Pay or Play"に賛成」参照)。上記のようなコスト要因が判明しても、その精神を貫くのかどうか。一旦、経営方針として転換した以上、おそらくは貫くことで、『CSRを備えた企業』とのイメージを大切にするのではないだろうか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「医療保険プラン」、「Wal-Mart

4月18日 Free Drugs 
Source :Downturn fuels demand for free drugs in US (Financial Times)
アメリカでは、低所得者層向けに無料の医薬品を提供するシステムがあるそうだ。 こうしたサイトから、提供プログラムを探し、申し込みを行う。PhRMAには、Partnership for Prescription Assistanceというプログラムがあり、2005年4月の創設以来、600万人以上に処方薬を提供しているという。

ところが、今回の景気後退により、要望が50%も増え、製薬会社の提供数も増加しているものの、追いつかない状況になっている。

※ 参考テーマ「医薬品

4月17日 連邦政府 vs 州政府 
Source :Georgia Insurance Commissioner Balks at Request on New Health Law (New York Times)
医療保険改革を巡り、連邦政府と州政府の間でバトルが展開されつつある。政策課題は2つ。
  1. ハイリスクプールの創設(「Topics2010年4月6日 Sebelius長官のカウンター」参照)

    Georgia州は、ハイリスクプールを創設しないことを選択した。これにより、同州では、連邦政府がハイリスクプールを創設し、運営することとなる。同州のOxendine保険委員長によれば、同様のスタンスを取るものと思われるの州は他に3つあるという。

  2. 個人の保険加入義務(「Topics2010年3月24日 州政府の抵抗」参照)

    個人に保険加入義務を課すことは憲法違反であるとして、法廷闘争を挑む州はこれまで19州であったが、これにGeorgia州が加わり、20州となった(Reuters)。

    StateGovernorAttorney General
    リーダー
    FloridaCharlie CristBill McCollum
    オリジナルメンバーSouth CarolinaMike RoundsHenry McMaster
    NebraskaDave HeinemanJon Bruning
    TexasRick PerryGreg Abbott
    UtahGary HerbertMark Shurtleff
    LouisianaBobby JindalBuddy Caldwell
    AlabamaBob RileyTroy King
    ColoradoBill RitterJohn Suthers
    MichiganJennifer GranholmMike Cox
    PennsylvaniaEd RendellTom Corbett
    WashingtonChristine GregoireRob McKenna
    IdahoButch OtterLawrence Wasden
    South DakotaMike RoundsLarry Long
    追加メンバーIndianaMitch DanielsGreg Zoeller
    North DakotaJohn HoevenWayne Stenehjem
    MississippiHaley BarbourJim Hood
    NevadaJim GibbonsCatherine Cortez Masto
    ArizonaJan BrewerTerry Goddard
    GeorgiaSonny PerdueThurbert Baker
    独自行動
    VirginiaBob McDonnellKen Cuccinelli
新たに加わったGA州では、司法長官が民主党であり、訴訟はコストの無駄と反対していたが、州知事が特別司法長官を別に任命し、訴訟に当たらせる決定を行った。

一方、州地方長官が訴訟に加わってしまったために、民主党の州知事たちは協力してこれを覆そうとしている。Washington州知事は、Colorado、Michigan、Pennsylvaniaの州知事たちと連携していくことを表明した(Seattle Times

まだしばらくは、連邦政府と州政府の間のせめぎ合いが続きそうである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般

4月14日(1) 保険料の歯止めはどこに? 
Source :Healthcare overhaul won't stop premium increases (Los Angeles Times)
当websiteでは何度も言及しているが、今回の医療保険改革成立に貢献した最後のジェット噴射は『保険料の高騰』であったが、最終的には、保険料抑制のための権限は連邦政府または州政府に賦与されなかった(「Topics2010年3月23日(1) 医療保険改革法案の今後のスケジュール」参照)。なんとも皮肉な結果である。

消費者団体等は、『事前許可制』の導入を求めている。保険料引上げにあたって、事前に当局に対して十分な資料と説明を行ない、必要不可欠な引き上げであることを事前に当局から許可を得るようにすべき、ということである。上記sourceによれば、カンザス州、メイン州などいくつかの州にはそうした権限を持つところもあるが、大半はそこまで強い権限を有していない。

医療保険改革により、2014年に"Exchange"が創設され、そこで提供される保険プランについては州政府が強く関与できるようになるため、その時点からは各州でもかなりコントロールができるようになる。ところが、問題は依然として残る。

第一に、2014年までにはあと4年近くあり、それまでに保険料がどんどん上昇していく可能性がある。そうなると、医療保険改革を行なったのに、ちっとも保険料は安くならない、と国民から反発を買う可能性がある。

第二に、医療費そのものの高騰が続けば、保険料は『正当に』引き上げられることになる。つまり、保険料そのものに関する規制が強化されても、大元のコストをコントロールできなければ、保険料の高騰は避けられない。

だから、リベラル派は、医療費(=医療機関への償還費)までもコントロールする『公的プラン』の導入を求めていたのである。ただし、これにもまだ課題が残る。保険加入を促進するおかげで、診療機関へのアクセスが増加し、医療の供給が不足する可能性がある。そこに償還費まで抑制することになると、ますます医療供給量は抑制されることになる。

こうしてみると、アメリカの医療問題はまだまだ続きそうである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

4月14日(2) Stern氏が退任 
Source :Stern of S.E.I.U. Plans to Resign, Union Leaders Say (New York Times)
SEIU会長のStern氏が近く退任する意向とのことである。医療保険改革が実現したから、というのが主な理由だそうだが、もともと長くヘッドに収まるべきではないとの考えをもっているそうだ。

しかし、もう一つの政策課題であった"Employee Free Choice Act"の方は、まだ実現の見込みは立っていない。また、労働組合運動の側面では、彼が主導して立ち上げたナショナル・センター"Change to Win"の行方も気になるところである。

良くも悪くも政治力のある組合指導者であったために、その退任の影響は大きい。

※ 参考テーマ「労働組合

4月12日 年金プランがもたらす痛み 
Source :The Public Eye: Pension promises threaten California cities, counties (Sacramento Bee)
上記sourceは、CA州内の40市、40郡の年金プランについて調査したレポートである。 自治体が抱える年金プランの持続可能性が危ぶまれていることは事実である。年金プランの持続可能性を回復するためには、@給付を減らす、A拠出を増やす、BDCプランに移行する、といった手段しかない。魔法の杖はないのである。どれもが自治体首長、職員にとって厳しい選択であることは間違いない。住民サービスと職員の年金、このバランスをどう取るかは、住民との対話なしには難しい。

※ 参考テーマ「地方政府年金

4月11日 CA州政府年金の危機 
Source :California state pension funds going broke, Stanford study finds (Stanford Report)
Stanford大学の学生達が、CA州政府職員のための年金プラン3つについて、財政状況を分析した。3つのプランとは、the California Public Employees' Retirement System (CalPERS)the California State Teachers' Retirement System (CalSTRS)the University of California Retirement System (UCRS)である。

その分析結果は、現状、皆が考えていたよりも深刻であるとのことである。中でも驚かされたことは、次の2点。 実際に行政サービスをカットせざるを得なくなっているCA州政府にとって、これだけの負担に耐えられるのだろうか。

※ 参考テーマ「地方政府年金