7月10日(1) 新生GM誕生
Source :GM sale cleared, path opens to exit Chapter 11 (AP)
9日午後、NY破産裁判所の指示が効力を発し、新生GMが誕生することとなった(「Topics2009年7月6日 破産裁判所が新生GMを認可」参照)。Chapter 11申請から39日間という、異例のスピードで再建が成立したことになる。これには、Chryslerという前例があったということが大きく影響していることは間違いない。

※ 参考テーマ「VEBA/Legacy Cost」、「PBGC/Chapter 11

7月10日(2) 民主党内が混乱
Source :Conservative Dems rebel on health bill (AP)
「夏休み前に法案を」というObama大統領が設定したタイムラインが迫ってきている。連邦議会両院とも、委員会ベースでの法案取りまとめに動いているようだが、肝心の民主党内部が混乱している。

下院では、Obama大統領の提案に忠実に、財源として高額所得者への課税強化を検討している模様である。また、Pelosi議長自身が、「上院案がどうなろうと、下院案は、連邦政府保険プランを盛り込み、医療保険ベネフィット課税は含めない」と頑張っている。

ところが、下院民主党内で財政の健全性を重視する保守派"Blue Dog"の議員達は、下院案としてリベラル色の強い法案が出てきたら反対する、との意思表明を行なっている。Blue Dogには、52人も所属しており、大きな勢力となっている。

また、上院では、Reid院内総務Baucus上院議員の間がうまく意思疎通できておらず、未だに委員会ベースでの法案骨子が固まらない(「Topics2009年7月8日 疑心暗鬼」参照)。

こうした状況を受け、"Blue Dog"とReid院内総務は、『法案取りまとめにもう少し時間をかけてはどうか』と言い出している。

そして、民主党内部の混乱から、まったく議論の蚊帳の外に置かれている共和党のムードは、次のGregg上院議員の言葉に代表されている(Kaiser Health News)。 Obama大統領、Kennedy上院議員が目指した、MA州皆保険法のような超党派合意からは、程遠い状況にある。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

7月9日 疑心暗鬼(2)
Source :White House Assures Drug Makers on Reimportation (Wall Street Journal)
昨日の続きで、White Houseと製薬会社の間で、もう一つ取り引きが行なわれていたようだ。

上記sourceによれば、White Houseのスタッフは、製薬会社に対して、『総合的な医療保険改革が実現すれば、医療コストは大幅に削減され、処方薬の再輸入は必要なくなる』と説明したそうだ。つまり、医療保険改革に協力すれば、処方薬の再輸入は現状通り認めない、と約束したわけだ。

Obama大統領は、大統領選挙中の公約で、処方薬の再輸入を認めるとしていた(「Topics2007年5月30日(1) Obama上院議員の皆保険提案」参照)。もちろん、当時の当websiteを見る限り、Obama候補は本気ではなく、再輸入を認めるとのポーズを取っただけであるが、選挙民はそうは取らないし、実際、上記sourceのような立派なマスコミも、『Obamaの選挙公約では再輸入を認めていた』と断言している。

これに怒っているのが、Sanders上院議員(I-Vermont)である。同上院議員は、予てからカナダからの処方薬再輸入の推進派であり、あくまで戦う、と宣言している(「Topics2003年1月14日(2) 政治家 vs. 製薬メーカー」参照)。

ここでも、Obama大統領の空手形が議会の支持票を一つ失わせた可能性がある。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「処方薬再輸入

7月8日 疑心暗鬼
Source :Health Deals Could Harbor Hidden Costs (New York Times)
White Houseと医療関係者の間で、『合意がなされた』との発表が次々と行われている。医療保険改革に向けて、ポジティブな雰囲気を醸成することに一役買っている。また、関係者の方も、人気のObama大統領に公然と楯突くよりも、バイで交渉して必要な要求を通しておいた方が得策である。これを、当websiteでは、『懐へ飛び込み作戦』と名付けている(「Topics2009年5月12日 医療費増加率抑制提案」参照)。

White Houseとの合意事項 関 係 者 引き出したと思われる交換条件
医療費増加率を1.5%抑制
「Topics2009年5月12日 医療費増加率抑制提案」参照)
医者、病院、製薬、
医療技術、保険、労働組合
 
高齢者向け処方薬のコスト削減
10年間で$80B
製薬企業 低所得層のMedicare加入者の処方薬価格を大幅に引き下げない
Medicare、Medicaid診療報酬抑制等の医療費抑制
10年間で$150B(Washington Post
病 院 Medicare診療報酬抑制規定の解除
企業への"Pay-or-Play"ルールの適用
「Topics2009年7月3日(2) Wal-Martが"Pay or Play"に賛成」参照)
Wal-Mart Medicaidへの企業拠出は求めない

一連の合意交渉には、Baucus上院議員も咬んでいるようだが、詳細が明らかにされないために、連邦議会には疑心暗鬼が広まっている。個別交渉で譲歩したものを積み上げてみると整合性が取れているかどうか、わからなくなるからである。上記sourceで紹介されている懸念のうち、象徴的なものを取り上げてみる。 Snowe上院議員は、共和党の中でもリベラルであり、民主党にとっては頼みの綱となる可能性のある重要人物である(「Topics2009年2月14日 アメリカ復興再投資法」参照)。そうした重要人物に不信感を植え付けるのはまったく得策ではない。

さらに、Reid上院議員は、上院院内総務である。Baucus上院議員は、マジョリティ・リーダーにも手の内を明かさないという訳である。これでは、Baucus上院議員が信頼されないのも仕方があるまい(「Topics2009年6月25日 Baucusがキーパーソン」参照)。

現在、Obama大統領はイタリア(G8サミット)である。帰国してから、Baucus上院議員と議会民主党主流派との間でどう折り合いをつけるのか。政治手腕の見せ所である。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

7月6日 破産裁判所が新生GMを認可 
Source :Court Rules Franken Has Won Senate Race; Coleman Concedes (New York Times)
5日、NY破産裁判所は、GMの申請通り、GMから新生GMへの資産の売却を認めた。これを受けて、GMならびにアメリカ連邦政府は、9日午後までに資産の売却を済ませてしまう予定である。

ただし、Chryslerのケースもあるので、最後まで予断を許さない状況に変わりはない(「Topics2009年6月10日 最高裁承認」参照)。

GMの再建計画通りにことが進むとすると、今後、 GMのChapter 11申請の労働市場への影響は、これから本格化するのである。

※ 参考テーマ「VEBA/Legacy Cost」、「PBGC/Chapter 11

7月5日 上院HELP委員会案 
Source :Preliminary Analysis of the Provisions of Title 1 of draft "Affordable Health Choices Act"(CBO)
上院HELP委員会の医療保険改革法案骨子が公表された(「Topics2009年7月3日(1) 上院HELPも"Pay or Play"」参照)。法案の第1章は、もっぱら保険加入に関する内容となっており、その概要が上記sourceで分析されている。
  1. "Exchange"の創設
    1. ほぼすべての州で"Gateway"と呼ぶ保険市場を創設する。
    2. 2012年からいくつかの州で施行され、2014年までにすべての州で施行される。
    3. もしこれらが実現しない州があれば、連邦政府がかわりに"Gateway"を創設する。

  2. 個人の保険加入義務
    1. すべての国民に保険加入を義務付ける。
    2. 加入しない場合には、IRSがペナルティを課す。
    3. ただし、FPL150%未満の国民については免責とする。
    4. ペナルティは、"exchange"で提供される第3レベル(後述)の保険プランに必要な保険料(除く補助金)の50%とする。

  3. 保険プラン規制
    1. 個人、グループ保険市場で新たに発売する保険プランについて、新たな規制を設ける。
    2. 保険加入申請者はすべて加入させなければならない。病歴を理由に加入を拒否できない。
    3. 健康状態によって異なる保険料を適用してはならない。年齢については、一定の範囲内で異なる保険料を適用することを認める。
    4. 既に販売している保険プランについては、適用外とする。

  4. Medicaid、SCHIPの拡充なし

  5. "Exchange"保険プランの内容
    1. "Exchange"で販売される保険プラン内容については、3段階のプラン価値水準(数理計算による)を設定する。
    2. まず、典型的な企業提供医療保険プランを参考に、HHSが、保険プラン内容の基準価値を定める。
    3. これを基に、3段階の最低基準価値を定める。
      1. 高位レベル:基準価値の93%
      2. 中位レベル:基準価値の84%
      3. 低位レベル:基準価値の76%
    4. 付加保険料により、プラン内容を追加しても構わない。

  6. 保険料補助
    1. 各地域で提供されている保険料のうち、低い方から3つのレートの平均を算出する(参照保険料)。
    2. 保険料補助は、参照保険料に基づいて算出する。
      1. FPL150〜200%:高位レベルの参照保険料まで補助する。
      2. FPL200〜300%:中位レベルの参照保険料まで補助する。
      3. FPL300〜400%:低位レベルの参照保険料まで補助する。
    3. 保険料の自己負担分に上限を設ける。
      1. FPL150%で1%。所得に応じてこの割合を引き上げ、FPL400%で12.5%。
      2. 2013年以降、この上限は医療費インフレに連動させる。
      3. FPL150%未満、FPL400%以上には保険料補助を適用しない。
    4. 保険料補助の所得は、前年の所得の調整後総所得(adjusted gross income)をベースとする。例えば、2012年秋の医療保険加入申し込み時期には、2011年の所得税申告を利用し、実際の補助は2013年から受け取る。

  7. 連邦政府保険プランの創設
    1. "Exchange"では、連邦政府保険プランが提供される。
    2. 連邦政府保険プランは、HHS長官により設立される。
    3. 実際の運営は、契約に基づき、各地方の機関(非営利保険者を含む)により運営される。
    4. 償還レートはHHS長官が交渉する。
    5. 各レベルでexchangeに保険プランが提供されていれば、連邦政府保険プランも提供される(つまり、民間保険にぶつける)
    6. 保険料は地域の特性を反映させるため、地域ごとに異なる。

  8. "Play-or-Pay"ルール
    1. 従業員25人超の企業については、"Play-or-Pay"ルールを適用する。
    2. 適格な保険プランを提供しておらず、また、提供していたとしてもその保険料の60%以上を負担していない場合には、ペナルティを課す。
      1. フルタイム従業員一人当たり年間$750
      2. パートタイム従業員一人当たり年間$375
      3. 2013年以降は、医療費インフレに連動させる。
    3. 企業から保険プランが提供されている場合には、補助の対象とはならない。ただし、保険料の従業員負担分が当該従業員の調整後総所得の12.5%を超える場合には、補助の対象となる。
    4. 低賃金で、医療保険プランを提供しており、かつその保険料の60%以上を負担しているような企業については、連邦政府が助成する。
      1. 補助総額は、従業員規模により異なる。ただし、従業員数は50人まで。
      2. 保険料のうち企業負担割合が高ければ、補助も大きくなる。
      3. 例えば、従業員規模10人未満で、保険料全額を企業が負担している場合、従業員一人当たり年間$1,800を上限とする。
      4. 無期限で補助を受け取ることはできるが、4年間で3年分しか受け取れない。

  9. 早期退職者を対象とした再保険の創設

  10. (Medicaidの拡充は含まれていない)

  11. (FPL150%未満の所得層への補助金は含まれていない)
これらの提案骨子に基づく今回の推計結果(65歳未満)は、次のようになっている。
2010年2019年
現行法 - 無保険者数5,000万人5,400万人
改革後 - 無保険者数4,900万人3,400万人
改革の効果100万人2,000万人
改革後 - 無保険者割合19%12%
改革による財政赤字拡大額$6B$120B10年間で累計$597B
また、保険料補助のイメージは、次の通り。



これらの推計結果について、コメントをいくつか。
  1. Medicaidの拡充や、FPL150%未満への補助が含まれていないため、2019年時点の無保険者3,400万人のうち、約4分の3の2,600万人がFPL150%未満の所得層となる。低所得者層を置いてけぼりにした法案、との非難を受けるのではないか。

  2. 連邦政府保険プラン創設に伴うコスト、加入者数への影響はほとんどない、とされている。これでは、なぜ創設にこだわるのか、その理由がわからなくなってくる。もっと長期を見据えれば、コスト抑制効果があるのかもしれないが、少なくとも上の概要を見る限り、地元の保険料に引きずられるようなメカニズムになっている。

  3. 確かに、前回の推計に較べてコストは下がったものの、相変わらず無保険者割合は12%と高い(「Topics2009年6月17日 費用対効果に疑問」参照)。劇的な改善が図られるとは思えない。
もちろん、第1章以外にも様々な方策が講じられるのであろうから、それらと総合した上で判断しなければならないのは確かだ。

しかし、連邦議会は既に独立記念日休暇に入ってしまった。Baucus上院議員の財務委員会法案のコンセンサスもまだできていない。刻一刻とObama大統領が提示したタイムラインが近付いている。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

7月3日(1) 上院HELPも"Pay or Play"
Source :HELP Democrats Draft New Bill With Public Plan And Employer Mandate That They Say Is Cheaper (Kaiser Health News)
上院HELP委員会の法案内容も固まってきた模様だ。態度が未定であった「連邦政府保険プランの創設」と「"Pay or Play"ルールの適用」が盛り込まれるようだ(「Topics2009年6月17日 費用対効果に疑問」参照)。

"Pay or Play"ルールの骨子は次の通り。 これは、当初のMA皆保険法($295/Y)の2.5倍のレベルである。

また、CBOによる費用推計は、10年間で$611.4Bと、当初の$1Tよりも大幅に削減されている。これは、"Pay or Play"ルールを適用することにより、医療保険プランの提供をやめる企業数が大幅に減少するとの前提を置いているため、とされている。

その財源は、高所得者への増税と、公的医療保障プランの合理化から捻出するようだ。

さらに、この法案により、医療保険加入率は97%にまで上昇するとしている。

ちょっとここまでくると、ほんとかな、という疑問を持たざるを得ない。2週間前のCBO推計が与えた衝撃が大きすぎたので、それを修正しようとしているとしか思えなくなってくる。

ところで、この上院HELP委員会案では、医療ベネフィットへの課税が含まれていない。まだ、Obama大統領の意向を確認中なのであろう。しかし、Obama大統領の意中の人であったDaschle元上院議員は、この医療ベネフィットへの課税を容認する考えを表明した(New York Times)。

このような動きを受けて、Baucus上院議員がどう判断するかが鍵になってくる。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

7月3日(2) Wal-Martが"Pay or Play"に賛成
Source :A Letter to President Barack Obama (CAP、SEIU、Wal-Mart)
Wal-Martが、企業に対する"Pay or Play"ルール適用に賛成の意向を表明した。上記sourceは、Center for American ProgressSEIUとともに、Wal-MartがObama大統領に宛てた手紙である。そこでは、企業は責任を分担すべきであり、公正かつ広範な企業への義務付けを支持する、と述べている。

これにびっくり仰天したのが、National Retail Federationである。何せ最大の小売店主が、義務付けで構わない、と言い切ってしまったのだから。また、全米商工会議所も、これまでの反対のスタンスは変わらない、としている(Wall Street Journal)。

本件について、コメントをいくつか。
  1. Wal-Martは、医療保険の分野で本気でいい子になろうとしている。過去に相当なバッシングを受けて、これまでも、かなりの改善策を講じてきており、その成果も上がってきている。そうした企業努力を、今回の医療保険改革議論に乗ることで、確実に企業のイメージアップにつなげようということであろう。

  2. "Pay or Play"ルールの適用が広がれば、それだけ競争相手に対するアドバンテージを確保することになる。従って、Wal-Martとしても、競争条件が有利になるわけである。

  3. 最後に、義務づけに賛成していながら、「連邦政府保険プランの創設」については何もコメントしていない点について、どう考えるか、である。SEIUが「連邦政府保険プランの創設」を支持している(「Topics2009年6月29日(1) リベラル派の苛立ち - 連邦政府保険プラン」参照)ことからすると、Wal-Martが賛成していない、ということになる。企業に保険プラン提供を義務付けるなら、そこで無保険者はかなりの程度減らせるわけだし、そこからこぼれた人たちのためだけに、大規模になるであろう「連邦政府保険プラン」を創設するのは、税金の無駄遣いになる、といった考え方なのだろう。やはり、保守的な志向の現われではないだろうか。
※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「Wal-Mart

7月1日 上院議席数60に
Source :Court Rules Franken Has Won Senate Race; Coleman Concedes (New York Times)
最後までミネソタ州で争われていた上院選挙結果が確定した。312票差で、民主党のAl Franken氏が当選となった。

これで、上院民主党は60議席を確保したことになり、理論上は、filibusterも回避できることになる。ところが、KennedyByrd両上院議員が病気がちなため、投票できない場合が想定される。従って、折角確保した60議席だが、相変わらず重要法案については、共和党議員の賛成票確保のための努力は不可欠となろう。

※ 参考テーマ「大統領選(2008年)