5月20日(1) 意見書案漏出の波紋
Source :Poll: Two-thirds say don't overturn Roe; the court leak is firing up Democratic voters (NPR)
Roe v. Wade判決に関する世論調査が公表された(「Topics2022年5月11日(1) 最高裁の審理過程」参照)。
  1. 64%がRoe v. Wade判決を覆すべきではないと考えている。当然、民主党支持者は圧倒的多数がその考え方だが、独立派もほぼ同じ割合である。
  2. ただし、妊娠中絶に何らかの規制が必要だと考える割合も大きい。
もう一つ、審理中の意見書案が漏出したことにより、民主党支持者たちの心に火をつけた。民主党支持者達は、共和党支持者達に較べて、中間選挙に対して冷めていた。ところが、民主党支持者の約2/3が、この漏出事件をきっかけに中間選挙で投票する考えが強くなったと答えた。共和党のそれは40%にとどまる。

また、今日現在で連邦議会下院議員選挙に投票するならどちらの党派に投票するかとの問いに対し、47%が民主党、42%が共和党と回答した。これは、先月の44%民主党、47%共和党との結果から、民主党が8%ポイントも改善したことになる。民主党との回答が共和党を上回ったのは、実に8年ぶりのことだそうだ。

やはり、この漏出事件は、アメリカ社会に大きな影響をもたらしている。

※ 参考テーマ「司 法」、「中間選挙(2022年)

5月20日(2) WA州:不法移民をExchangeに
Source :Washington State Moves To Expand Health Insurance For All Residents (Insurance News Net)
5月13日、WA州Exchange(Washington Health Benefit Exchange)は、HHS/CMSに対して、不法移民にExchangeへの加入を認めるよう申請した(Press Release)。

現在、200万人の州民がExchangeに加入しているが、この申請が認められれば、州内無保険者の約23%に相当する10.5万人の不法移民が、2024年から加入できることになる。

不法移民のExchange加入は、PPACAで禁じられている。従って、今回のWA州の申請は、法律の適用免除を真っ向から求めることになる。もちろん、認められれば初めてのケース(州)となる。

かつて、2016年、California州(CA)が不法移民加入を試みたことがある(「Topics2016年4月29日 CA州:不法移民医療法案再審議」参照)。しかし、当時のトランプ政権が不法移民国外追放のために加入者情報を悪用するのではないか、との懸念から断念した。

今回のWA州の試みはどうなるだろうか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/WA州」、「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/CA州

5月18日 未払いペナルティは優先債権
Source :Third Circuit: ACA Individual Mandate Payments Are Entitled to Priority Under the Bankruptcy Code ( c 2022 Thomson Reuters)
5月11日、第3控訴裁判所は、『PPACAで規定された「ペナルティ」は所得税であり、破産法上は税金と同様、優先債権に該当する』との判決を下した。破産裁判所、連邦地方裁と同様の判決である。

PPACAでは、個人に保険加入義務を課しており、保険加入しない場合には「ペナルティ」が課されることになっている(「Topics2016年10月29日 ペナルティを選択」参照)。本事案の債務者について、IRSは、『2018年に保険加入しておらず、$900以上のペナルティを支払う義務を負っている』と主張した。控訴裁は、このIRSの主張を認めたものである。

その根拠となったのが、2012年に連邦最高裁が下した判決である(「Topics2012年6月30日 医療保険改革法に合憲判決」参照)。

ただし、その税率は2019年から『0%』とされたため、現時点では優先債権に分類されても価値はゼロである(「Topics2017年12月21日 ペナルティ課税ゼロ」参照)。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「PBGC/Chapter 11

5月17日 賃金情報開示法制化
Source :A running list of states and localities that require employers to disclose pay or pay ranges (HR Dive)
公平な賃金を目指し、立法化を進める州政府、自治体が増えている。法制化の類型は、次の3パターンに集約されるようだ。
  1. 企業に対して、求職者の求めがあった場合には、最低最高額またはレンジで提示することを求める。

  2. 求職者の求めの有無にかかわらず、最低最高額またはレンジで提示することを求める。

  3. 企業に対して、求人情報に最低最高額またはレンジを含めることを求める。
最近は、上記3.が増えているらしい。

今後、州政府、自治体の動向を確認するために、次のサイトを参照することとする。
A running list of states and localities that require employers to disclose pay or pay ranges (HR Dive)
※ 参考テーマ「人事政策/労働法制

5月16日 DE州:FMLA法案成立
Source :Delaware Paid Family and Medical Leave Law Signed (Jackson Lewis)
5月10日、Delaware州知事(DE)は、Healthy Delaware Families Act(Senate Substitute 2 for Senate Bill 1)に署名した「Topics2022年4月14日 MD州:10番目の有給FMLA」参照)。同法のポイントは次の通り。
  1. 制度名は、"Family and Medical Leave Insurance Program"。

  2. 従業員10人以上の企業は、"parent leave"を提供しなければならない。

  3. 従業員25人以上の企業は、加えて"family caregiving and medical leave"を提供しなければならない。

  4. 受給資格のある従業員は、1年以上勤務し、直近12ヵ月で少なくとも1,250時間以上働いている者。

  5. FMLは、年間最大12週。

  6. FML中は、当該従業員の平均週給の最大80%を受給できる。

  7. 企業、従業員の拠出は、2025年1月に開始。

  8. FMLの利用は、2026年1月開始。

  9. FMLを取得した従業員は、企業提供医療保険プランへの加入を継続できる。

  10. FMLからの職場復帰後は、FML取得前のポジションまたは同等のポジションに就くことができる。
※ 参考テーマ「FMLA

5月15日 CA州:最低賃金引き上げへ
Source :California’s minimum wage will rise to $15.50, triggered by soaring inflation (Los Angeles Times)
5月12日、CA州知事顧問は、来年1月に$15.5/hに引き上げられることになる、と発言した。CA州の最低賃金を2022年1月から$15/hに設定することを決めたのは、2016年である(「Topics2016年4月7日(1) CA州:最低賃金$15」参照)。2023年以降は、物価スライドが適用されることになっているのだが、それ以前でも、 "2年間で7%超のインフレになれば、さらに引き上げる" ことになっている。

インフレ率は、この7月に終わる2年間で7.6%と見込まれている。従って、来年には現行以上に引き上げられ、15.5/hになるというのだ。

一方で、今年11月の州民投票で最低賃金を$18/hに引き上げる法案をかけるための署名集めが行なわれている。最低賃金の引き上げは不可避となっている。

※ 参考テーマ「最低賃金

5月13日 NJ州:処方薬自己負担上限設定案
Source :States are Taking Action to Rein in Prescription Drug Prices (Route Fifty)
Mew Jersey州(NJ)議会で、処方薬の自己負担に上限を設けるとの法案が審議されている。具体的には、次の処方薬/器具を保険購入する場合、自己負担を 以下に設定するよう求めている。

もしもこの州法案が成立すれば、全米で初めて保険購入に自己負担の上限を定めることになる。

当然のことながら、保険会社は反発している。また、学者達は、この法案が成立すると、保険会社が保険料を引き上げるのではないか、と懸念している。

いずれにしても、処方薬の価格抑制は、州ベースが主流となっている。

※ 参考テーマ「医薬品」、「医療保険プラン

5月12日 CPI上昇率高止まり
Source :Inflation may be easing - but low-income people are still paying the steepest prices (NPR)
5月11日、BLSは今年4月の消費者物価指数(CPI-U)を公表した(News Release)。前月比0.3%、前年同月比8.3%の上昇と、前年同月比では依然高水準が続いている(「Topics2022年4月13日(2) CPI上昇率8.5%」参照)。
エネルギー価格は2ヵ月連続で30%超となっている。
食料品の価格上昇も、9.4%(前年同月比)と急上昇が続いている。
住居費も上昇率が高まり続けている。
この3つのアイテムの上昇率が高まっているため、アメリカ国民の生活は厳しさを増しているとの実感が高まっている。

こうした物価上昇のため、実質時給は低下傾向にある(Real Earnings News Release)。4月は前月比-0.1%、前年比で-2.4%となった。
※ 参考テーマ「労働市場

5月11日(1) 最高裁の審理過程
Source :What even is a draft opinion? Here's how the Supreme Court's process works (NPR)
大変なスキャンダルが起こった。連邦最高裁で審理中の案件について、多数派意見書案が流出してPOLITICO(5/2)に掲載されてしまった。

Roberts長官は、掲載された意見書案は本物であることを認めると同時に、捜査を開始すると発表した(Press Release)。

審理中の案件は、15週を超えた妊娠中絶を禁止するというMississippi州法の合憲性を巡る訴訟で、妊娠中絶の権利を認めたRoe v. Wade判決をも覆す可能性がある。 アメリカ社会を二分する課題だけに、全米中が大騒ぎになっている(Roe v. Wade and the future of reproductive rights in America:NPR)。

上記sourceでは、連邦最高裁の審理の過程を紹介しているので、簡単にまとめておきたい。
  1. 原告・被告の意見陳述

  2. 最高裁判事がそれぞれの司法事務官と意見交換を踏まえて、主たる対応案を形成。

  3. 最高裁判事同士の意見交換会。通常、毎週2回(水曜、金曜の午後)開催。

  4. 意見交換会では、最初に審理するか却下するかを議論。

  5. 意見開陳の順序は、Roberts長官から始まり、就任の順番で行なう。

  6. 次に、同じ順序で最初の投票を行なう。

  7. 多数派と少数派が明確になったところで、多数派の中で就任の一番早い判事が、多数派意見の執筆者を指名する。賛成理由が異なる場合には、判事は個別の意見書を執筆できる。

  8. 少数派の中で就任の一番早い判事が、反対意見の執筆者を指名する。少数派の判事は、個別の反対意見を執筆することもできる。

  9. 意見を執筆する判事は、執筆後の草案と理由付けを回覧する。

  10. 多数派意見最終案に各判事が署名し、連邦最高裁がその意見書を公表することで、正式な意見書となる。
草案の段階の多数派意見は、Mississippi州法の合憲性を認めるもので、主筆がAlito判事で、これに4人の判事が賛成している。Roberts長官がこの多数派意見書に加わるか、個人の意見書を用意するかは、この段階では明確になっていない。専門家の見立てでは、Roberts長官は、Mississippi州法を認めつつ、Roe判決の主旨は残せるようにしたいと思っているようだ。いかにもRoberts長官らしい、社会制度の安定性に配慮したものである。

さてさて、最終判決はどうなるのか。

※ 参考テーマ「司 法

5月11日(2) TX州知事の挑戦
Source :Texas governor says the state may contest a Supreme Court ruling on migrant education (NPR)
Abbott Texas州知事(TX)は、5月4~5日、「不法移民の子供たちを州公立校に無償で通わせることはできない。必要な経費は連邦政府が負担すべきだ」と発言した(Texas Tribune)。

1982年の連邦最高裁判決(Plyler v. Doe ruling of 1982)は、
  1. 不法移民の子供の公立学校教育について、州政府の負担を禁じている
  2. 不法移民の子供たちの公立学校入学を禁じている
の2点をもって、TX州法は違憲であると断じた。

Abbott州知事の発言は、この連邦最高裁判決を覆そうとするものである。時折しも連邦最高裁意見書案流出事件(「Topics2022年5月11日(1) 最高裁の審理過程」参照)が発生し、最高裁の判断が保守派に傾いていることを知っての発言で、悪乗りのような印象を持つが、保守派の州知事たちがこれまでの最高裁判決に挑戦しようという試みは、今後も続く可能性がある。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者」、「司 法