9月20日 CO-OPs:新規参入は厳しい 
Source :Tough Going for Health Co-ops (New York Times)
"Consumer-Oriented and -Operated Plan (CO-OP)"への逆風が続いている。

8月26日、Nevada Health Co-opは、2016年初めに営業を停止すると発表した。当初23あったCO-OPsのうち、破綻したのは、IA/NE、LAに続いて既に3つ目である(「Topics2015年8月29日 ME州:CO-OP成功の理由」参照)。

上記sourceは、そもそも医療保険市場への新規参入が難しい理由を3つ紹介している。
  1. 保険会社の買収・経営統合が進み、既存の保険会社が大規模化している。

  2. 保険プランは、診療を提供する医療機関のネットワークと表裏一体である。もともと保険プランは地域性が高く、既存保険会社が有する医療機関ネットワークに関するノウハウは格段に優れている。

  3. 再保険の仕組みにより新規参入保険会社といえども多額の追加負担を余儀なくされる場合がある。
CO-OPsの惨状を救うべく、連邦政府は救済策を検討しているそうだが、そもそも新規参入が難しい市場なのであれば、生半可な救済策では効果が出ないだろう。

※ 参考テーマ「CO-OP

9月19日 保険加入義務を廃止したら 
Source :Preliminary Estimate of Eliminating the Requirement that Individuals Purchase Health Insurance and Associated Penalties (CBO)
PPACAの成果はあがったと言ったばかりだが、CBOがPPACAに定められた個人の保険加入義務とそれに伴うペナルティを廃止した場合の試算を公開した。
  1. 2025年時点で無保険者は4,100万人(10年間で1,400万人増)。

  2. 個人保険市場における保険料は、約20%上昇する。

  3. 財政赤字は10年間で3,110億ドル削減される。内訳は、Exchange保険料補助金(tax credit)が1,100億ドル減、Medicaid/SCHIPが2,000億ドル減。
共和党候補者達の公約が実現すれば、このような世界が待っているということになる。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

9月18日 2014年無保険者大幅減少 
Sources : Income, Poverty and Health Insurance Coverage in the United States: 2014 (U.S. Census Bureau)
Nearly 9 Million People Gained Insurance In Health Marketplace’s First Year (Kaiser Health News)
PPACAが本格始動した2014年、無保険者割合が大きく減少したことが連邦政府統計数字からも明らかになった。
  1. 無保険者割合は2.9%ポイント低下(2013年:13.3%⇒2104年:10.4%)、無保険者数は880万人減少した。
  2. それでも無保険者は依然として3,300万人存在する。

  3. 加入プラン別増減をみると、Exchange、Medicaidが大きく増加している。企業提供プランの減少幅はわずかにとどまった。
  4. 65歳未満ではすべての年齢で無保険者が減少している。
  5. 全体の水準は下がったものの、依然として南部・西部の無保険者割合は相対的に高い。
  6. 州別に見ると、無保険者割合が一番低いのはMA州(3.3%)、一番高いのはTX州(19.1%)。
ひとまず、PPACAの成果はあったと評価してよいだろう。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般

9月17日 Living Wage>Min. Wage 
Source :These are the hardest places for minimum wage workers to live (Washington Post)
上記sourceでは、MITが作成した"Living Wage Map"を紹介している。

"Living Wage"は、『生活に必要な年間費用(食料、育児、医療保険、家賃、移動、税等)/2080時間(=40hx52)』で算出される。この"Living Wage"と最低賃金のギャップをcounty毎に図示したのが下図である。赤の色の深みが増すほどギャップが大きい。一般的に、都市部の方がギャップが大きく、郊外の方が生活コストが安い分、ギャップも小さくなる。

MIT, Living Wage Map
特に、東部のD.C.周辺、NY市周辺でギャップが大きい。MD州St. Mary's countyの数値例が示されているが、これではとても最低賃金では生活できない。
唯一、WA州でギャップが生じていない、つまり最低賃金が"Living Wage"を上回っている地域がある。
WA州の最低賃金($9.47/h)は、現時点で最も高い水準になっている。(ただし、D.C.は$9.50/h。CA州は2016年1月1日〜$10/h(「Topics2013年9月15日 CA州:最低賃金引き上げへ」参照)。)そのような環境中で、各都市は最低賃金をさらに引き上げていこうとしている(「Topics2014年6月5日 Seattle市:最低賃金$15決定」「Topics2013年12月18日 Sea Tac市:最低賃金引き上げ決定」参照)。

やがてはWA州は暮らしやすいところとして労働人口が流入するようになるのだろうか。それとも賃金の高さから企業が逃げ出すのだろうか。そう言えば、"Sleepless in Seattle"を観ていて、温暖な気候で暮らしやすそうだなとの印象を持った覚えがある。

※ 参考テーマ「最低賃金」、「労働市場

9月16日 内部登用が望ましい? 
Source :Internal Hiring to the Rescue (HR Daily Advisor)
上記sourceでは、空きのポストが発生した場合、内部登用するといろんなメリットがあるよ、と説いている。

しかし、それであれば、 との疑問が湧いてくる。

※ 参考テーマ「労働市場」、「人事政策/労働法制

9月15日 本当に育児休暇が取れるのか 
Source :Parental Leave in the Workplace Jungle (Human Resource Executive)
労働経済の大御所、Peter Cappelli教授が、IT企業が最近になって長期の有給病気休暇、育児休業を提供し始めたことについてコメントしている。
  1. AmazonのCEOが「社員が居心地のよい職場環境を作ろうと努めてきたのに、意外に多くの社員がタフな職場環境だと感じていることに驚いている」と発言(New York Times)。

    ⇒ Cappelli教授:管理職についている人達は、「それで何か?よくある話だ」と感じているだろう。仕事に求められることは厳しく、ペースについていけない人は押しやられる。

  2. IT業界は、長期の有給病気休暇、育児休業に積極的なのか。

    ⇒ Cappelli教授:
    1. IT業界は、女性の従業員の採用、引き留めがうまくいっていない。

    2. 社内教育が充分できておらず、常に外部から採用しようとする。

    3. 従って、こうしたベネフィットを提供することで、女性の採用、引き留めを盛んにしようとしている。

  3. 長期の有給病気休暇、育児休業のプログラムは狙い通りに活用されるのか?

    ⇒ Cappelli教授:
    1. よく言われているのは、そうしたプログラムを利用できる社内文化があるかかどうかだ(「Topics2015年8月17日 無制限の有給病気休暇」参照)。YahooのCEOが『双子を妊娠したが、出産後できる限り職場に復帰する』と公言した。他の働く女性にそんなことはできないが、彼女はそれができるような所得があるし、株主達が長期休業を認めないだろう。大体、同じことを男性のCEOに求めるだろうか。

    2. 要求レベルの高い職についている人が、そんなに長く休業できるだろうか。これまで指揮をしてきた重要プロジェクトは誰かの手に渡ってしまう。重要な仕事を自宅で一日数時間でこなせるとは思えない。短時間勤務では休業前の満足のいくレベルの仕事はない。

    3. 多くの事業主は、5ヵ月職を離れた労働者の技能はさびついていると看做している。

  4. Cappelli教授:人がローラーコースターから好きな時に飛び降りて、好きな時に乗り込むことができると考えるのは妄想である。
大学時代、労働市場は金融市場と並んで粘性の高い市場であると教えられたことを思い出した。アメリカといえども、そうした傾向は現存するようだ。

※ 参考テーマ「人事政策/労働法制」、「労働市場

9月14日 Big3 VEBAは順調 
Source :UAW's takeover of retiree health care is succeeding (USA TODAY)
Big3 VEBAは、2010年1月の始動当初、その将来の存続に疑問が呈されていた(「Topics2010年2月17日 医療機関の不安:Big3-VEBA」参照)。

ところが、上記sourceによると、Big3 VEBAは不安定期を脱し、最近では退職者から好評で、医療の専門家からも高い評価を受けているという。保有資産も当初の$56.5Bから2013年末時点で$60.8Bと、順調に増やしてきている。

営業が順調な理由として次のような諸点が挙げられている。
  1. VEBA設立前の10年間に較べ、設立後の医療費増加率が抑えられている。

  2. 慢性病患者の診療管理がよくなっている。

  3. 投資判断が優れている。

  4. 給付内容を見直すことが容易になった。企業とUAWの契約に基づく給付の場合には、労働契約と同様、4年に1回しか見直す機会がなかったが、今は毎年見直している。

  5. 給付プログラムにインセンティブを設けた。例えば、ジェネリックを選択すれば、自己負担を軽減する等。
こうした内容にして成功できたのは、加入者が財源に限界があることを理解したことが大きいという。別に文句を付けたい訳ではないが、労働組合の時にはそれが理解できなかったということの方が不思議である。労働組合は財源や将来の持続可能性を考えることがなかったということなのか。

※ 参考テーマ「VEBA/Legacy Cost

9月12日 処方薬給付も二形態 
Source :Self-Funded Pharmacy Plans Becoming More Popular Among Large Employers (United Benefit Advisors)
上記sourceを読んでいて、処方薬の保険給付プランにも、医療保険プランと同様、2つの形態があることがわかった(「Topics2010年1月21日(2) 2つの企業提供保険プラン」参照)。"Fully-Insured Pharmacy Plans""Self-Funded Pharmacy Plans"である。

どうも管理人は、日本の医療保険プランのイメージを勝手に引きずって、診療と処方薬を一つの保険プランで給付していると思い込んでいた。しかし、処方薬の給付を目的とした独自の保険プラン、先に紹介した"Pharmacy Benefit Management"というサービスの存在などから考えると、診療給付と処方薬給付は別建てのようである。(「Topics2015年7月18日 Pharmacy Benefit Management」参照)。

その処方薬給付プランの中で、"Self-Funded Pharmacy Plans"を採用する企業、特に大企業が増えているとのことだ。
約1万社におけるシェア(5年間の変化)
Fully-Insured Pharmacy Plans91.6%89.1%
Self-Funded Pharmacy Plans8.4%10.9%
"Self-Funded Pharmacy Plans"という制度の特徴から、再保険も併せて利用しており、その採用割合も高まっている。年間給付、生涯給付に上限を設けることが禁じられたため、リスク発生確率が高まっているためである。

ここでもコスト抑制のために企業の裁量を拡大しようとする試みが広がっている。

※ 参考テーマ「医療保険プラン」、「医薬品

9月11日 従業員報酬にも業績連動を? 
Source :Understanding the Historic Divergence Between Productivity and a Typical Worker’s Pay (Economic Policy Institute)
上記sourceでは、生産性と報酬について、戦後70年のトレンドを分析している。ポイントは次の通り。
  1. 第2次世界大戦終結から30年弱の間、時間当たり実質報酬(賃金+ベネフィット)は、アメリカ経済全体の生産性向上と並行して上昇していた。従って、時間当たり報酬は、経済全体の生産性向上を生活レベルの向上に結びつける主役であった。

  2. 1973年以降、時間当たり報酬と生産性の伸び率は大きく乖離した。生産性は、1973〜2014年で72.2%(年率1.33%)上昇しているのに対して、典型的な労働者(民間製造業、非管理職)の時間当たり報酬は同時期、9.2%(年率0.22%)しか伸びていない。しかもその上昇分のほとんどは、1995〜2002年の7年間に集中している。
  3. 1973〜2014年の時間当たり報酬伸び率を、平均と中位数で見ると、それぞれ42.5%、8.7%となっている。伸び率に大きな格差が生じていることが窺える。
  4. 1973〜2014年の生産性上昇のうち、15%が典型的な労働者の報酬アップにつながったといえる。

  5. 期間を絞って、2000〜2014年でみると、生産性の上昇率は21.6%なのに対して、報酬(中位数)は1.8%しか伸びていない。

  6. 1973〜2014年の生産性上昇率と労働者報酬伸び率(中位数)の差分のうち、約2/3は配分の変更(報酬格差の拡大と労働分配率の低下)に基づく。2000〜2014年でみると、差分の80%以上が配分の変更に基づく。
  7. 報酬格差の拡大は、歴然としている。
  8. 中間層(=平均的な労働者)の所得を上げるためには、生産性向上のための施策だけでなく、生産性向上報酬金上昇の関連性を高める必要がある。
クリントン氏が主張している中間層再興のためには、一般の労働者の報酬の中で業績連動の要素の割合を高めていく必要があるという結論になろう(「Topics2015年7月14日 クリントンの中間層再興策」参照)。

※ 参考テーマ「労働市場」、「経営者報酬」、「大統領選(2016年)