2月19日 州のペナルティ課税
Source :States Might Require Health Insurance (SHRM)
昨年末に決まった減税法案で、個人の保険加入義務を損ねた場合のペナルティ課税がゼロ%に引き下げされた(「Topics2017年12月21日 ペナルティ課税ゼロ」参照)。連邦レベルでの決定だが、州レベルの個人保険市場に与える影響は大きい。

今後10年間で、保険加入者は1,300万人減少し、保険料が10%程度上昇するとの見通しだ。このような悪影響を回避するため、州政府レベルではいくつかの対抗措置が検討の対象となっている(「Topics2018年1月23日 5つ対抗手段」参照)。

上記sourceは、このうち、州レベルでの加入義務を課して実質的なペナルティ課税を維持しようとする動きについて伝えている。
  1. MA州

    MA州では、既に2007年から州民に保険加入義務を課している(「Topics2007年6月29日 皆保険前夜のMA州」参照)。ペナルティ課税は州所得税として課しており、具体的には、個人で購入可能な適格保険のうち最も安い保険料の50%となっている。(「Topics2006年4月10日 Massachusetts州の皆保険法案」「Topics2008年4月18日 MA州皆保険のペナルティ」参照)。

  2. MD州

    MD州議会では、州民が保険未加入の場合にペナルティを課す法案が提出されている。そのポイントは次の通り。

    1. 医療保険未加入の場合、max{所得の2.5%、$696}のペナルティを課す。

    2. ペナルティ課税分に相当するような医療保険プランが残されている場合、当該未加入者は自動的にそのプランに加入するものとする。

    3. 当該未加入者がプラン加入を拒否した場合、ペナルティは州政府の収入となり、保険市場安定のための基金に利用される。

  3. WA州

    WA州議会でも個人保険加入義務を課す法案が提出されている。WA州には州所得税という仕組みそのものがないため、法案には、どのように加入義務を執行するのかを検討するチームの設置が盛り込まれている。

  4. その他

    CA州、CT州、MN州、RI州、VT州が加入義務化を検討している。
一方、企業提供保険プランには直接的な影響はないものの、個人市場のインパクトが大きいだけに、間接的な影響は充分考えられる。個人市場で逆選択が起きる結果、保険料が上昇したり、そのせいで支払いができない加入者が出てきたりするため、保険会社としてはその穴埋めを企業提供プランにも求めてくる可能性がある。

こうした保険会社の採算の悪化は、今年後半になって表面化してくるだろう。

※ 参考テーマ「無保険者対策/州レベル全般」、「無保険者対策/MA州」、「無保険者対策/MD州」、「無保険者対策/WA州」、「医療保険プラン

2月16日 移民法案:対立が先鋭化
Source :Trump backs GOP immigration plan, rejects limited approach on ‘dreamers’ (Washington Post)
(追記あり)

DACA(Deferred Action for Childhood Arrivals)の期限切れが迫る中、連邦議会上院では移民制度改革法案に関する両党の詰めの議論が行われている。その合意を目指す会合の直前になって、Grassley上院議員が主導する法案が発表され、トランプ大統領がこれを全面的に支持するとの声明を公表した。McConnell共和党上院院内総務もこれを支持している。

トランプ大統領は、応急措置的な超党派合意法案は一切認められないとしたうえで、改革法案に必要な4つの柱を明示した。
  1. 180万人の"Dreamer"(子供の時にアメリカに連れて来られた不法移民)に法的地位を賦与する。
  2. メキシコ国境の警備強化のために、最低$25Bの支出を即刻認める。
  3. 合法的な家族の呼び寄せ制度を変更する。
  4. グリーンカードのくじ引き制度を廃止する。
一般教書演説で示した通りである。これらの4本柱がGrassley法案に盛り込まれているのだ。

民主党幹部はGrassley法案に強く反発しており、上院可決に必要な60票を確保できるかどうか、不透明な状況に陥っている。

一方、下院共和党は、トランプ大統領が示した4本柱以外にも多くの事項を盛り込んだ法案を検討している。こちらも下院民主党からは全面的な反対を受けている。

こうしてワシントンでの制度改革議論の行方が分からなくなっている最中、Los Angeles地域では、2月11日から連邦政府機関(Immigration and Customs Enforcement, ICE)が集中的に不法移民の拘束を開始した。14日付の報道によれば、100人以上が拘束されたとのことである(LA Times)。まさに不法移民に優しい地域を狙い撃ちにした行政執行である(「Topics2015年5月30日 不法移民に優しい州」参照)。

CA州のDreamer達には、恐怖が現実になりつつある(「Topics2018年2月15日 CADA応募者半減」参照)。

そして、冒頭で紹介した超党派グループ "Common Sense Coalition"(共和党8人、民主党8人、独立系1人)は、これまで積み重ねてきた議論をまとめ、法案を一本化した(New York Times)。トランプ大統領が示した4本柱について、超党派法案は次のようなスタンスを採っている。
  1. 180万人の"Dreamer"(子供の時にアメリカに連れて来られた不法移民)に法的地位を賦与する。⇒ 10〜12年間で賦与する。彼らの両親に法的地位を賦与することは禁止する。

  2. メキシコ国境の警備強化のために、最低$25Bの支出を即刻認める。⇒ 10年間で$25Bの歳出を認める。

  3. 合法的な家族の呼び寄せ制度を変更する。⇒ 一部変更する。

  4. グリーンカードのくじ引き制度を廃止する。⇒ 廃止せず。
これで、与党である共和党内でも、幹部vs一般議員の間に対立が生まれたことになる。一体どうなることやら。

このような状況下、15日、連邦議会上院で投票が行われ、トランプ大統領が支持するGrassley法案、Common Sense Coalition法案ともに賛成票が足らず、前に進めることはできなかった(Washington Post)。トランプ大統領側は、共和党上院議員に対して個別撃破をかけ、Common Sense Coalition法案に賛成しないよう、強力に働きかけたそうだ。

投票結果は次の通り。
Common Sense Coalition法案(Roll Call Vote 35
  共和党民主党独立系合計
賛成 844 254
反対42 3045
棄権 100 1
Grassley法案(Roll Call Vote 36
  共和党民主党独立系合計
賛成363039
反対1444260
棄権1001
共和党の投票数に注目したい。確かにトランプ大統領の攻勢が功を奏して、Common Sense Coalition法案に賛成したのは同グループの8人だけだった模様だ。この8人の内、Grassley法案に反対したのは3人だけで、5人は賛成票を投じている。この5人は、Coalitionメンバーということで同法案に賛成票を投じたが、大統領の説得を受けてGrassley法案では賛成に転じたということになる。
共和党上院議員Coalition法案Grassley法案
AlexanderYY
CollinsYN
FlakeYN
GardenYY
GrahamYY
IsaksonYY
MurkowskiYN
RoundsYY
余計な話だが、昨年のオバマケア廃止法案でも、Collins上院議員とMurkowski上院議員は最後まで抵抗し、トランプ大統領にオバマケア廃止法案を諦めさせている。(「Topics2017年9月21日 上院共和党の再挑戦」参照)大統領にとっては最も大きな目の上のたんこぶというところだろう。

話を戻して、同グループの3人の他に11人の共和党上院議員が、Grassley法案に対して反対票を投じたという計算だ。つまり、共和党上院議員51人のうち、14人がトランプ大統領に反旗を翻したことになる。

McConnell共和党上院院内総務は、今週中に議論を終えたいとしているが、それまでにまとまるような状況には見えない。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

2月15日 CADA応募者半減
Source :Applications for college aid through the California Dream Act are down again (LA Times)
CA州は、不法移民にとって最も居心地の良い州の一つである(「Topics2015年5月30日 不法移民に優しい州」参照)。オバマ大統領が導入したDACA(Deferred Action for Childhood Arrivals)(2012年)に先駆けて、2011年に""California DREAM Act(CADA)"を成立させている(「Topics2012年6月17日 若い不法移民を保護」「Topics2014年11月25日 不法移民保護大統領令(2)」参照)。

CADAでは、16歳以下で両親に連れて来られた子供たち(不法移民)に、官民の奨学金を提供している。その申請書提出の締め切りが来たる3月2日に迫っているのだが、2月12日時点で申請者は19,141人で、例年の半分にしかなっていないそうだ。

昨年も同じように減少していたのだが、大キャンペーンを実施して最終的には一昨年を上回る36,127人が応募した。今年もキャンペーンを実施しているが、申請者数は伸びていない。

その最大の要因が、トランプ政権のDACA段階的終了方針が自分達の親、家族の国外追放につながるのではないかとの恐怖だそうだ(「Topics2017年9月7日 DACA段階的終了」参照)。今に至ってもDACAの取り扱いに関する大統領と議会の妥協は成立しておらず、恐怖はますます現実味を帯びてきている。

大統領令の応酬によってCA州の法律施行が大きな影響を受けている。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

2月14日 2019年度予算教書
Source :White House budget proposes increase to defense spending and cuts to safety net, but federal deficit would remain (Washington Post)
2月12日、2019年度予算教書が公表された。相変わらずのトランプ節が満載だが、予算教書とは大統領のwish listであり、このまま実現される訳ではない。

とはいえ、政権が何を考えているのか、何を重視し何を軽視しているのかが現れてくるのが特徴だ。

以下、当websiteとしての関心事項について、ポイントをまとめておく。
  1. 財政健全化を先送り

    2019、2020年度の両年こそ財政赤字の拡大幅は$2Tになっているが、今後10年間で毎年$7T以上の赤字幅を見込んでいる。これにより、2027年度の財政赤字は$450Bとなり、昨年見込んでいた2027年度$16Bの黒字から後退してしまっている。

    伝統的に共和党は財政赤字を嫌い、健全化に向けた姿勢をアピールするものだが、トランプ政権はその姿勢すら示すことをやめてしまったようだ。

  2. 大規模減税で税収を回復できない

    昨年の大規模減税(「Topics2017年12月21日ペナルティ課税ゼロ」参照)を実施する際、減税により経済が活性化するため、将来的には税収に穴は生じないとしていた。しかし、税収見込みは2018年、2019年、2027年とも昨年の税収見込みを下回ったままである。大規模減税が財政健全化を遅らせていることは間違いない。

  3. 楽観的な経済見通し

    CBOが今後10年間の経済成長率を1.9%と見ているのに対し、予算教書で示された経済見通しは、2024年まで3%以上の成長を続けると見ている。これだけの成長率を見込んでいるにも拘わらず、税収が伸びないということは、実際の財政赤字はもっと膨らむものとみられる。

  4. 軍事費、国境の壁建設には積極的

  5. Medicare支出を削減

    Medicare支出を、今後10年間で$554B削減する提案になっている。処方薬価格の変更や、総合病院の付属クリニックが総合病院から離れている場合にその診療報酬を一般のクリニックと同レベルにするなどの手法が提示されている。

  6. Medicaid、フードスタンプも削減
今年秋の中間選挙をにらみ、議会共和党はどのような歳出構造を作り出してくるのだろうか。

※ 参考テーマ「一般教書演説