11月30日 不法移民保護策の行方(2) 
Source :Immigrants Prepare for Life After Obama (Bloomberg)
不法移民保護のための大統領令(DACA)に基づいて退去猶予を獲得した74万人にとって、トランプ候補の当選は、まさに悪夢である(「Topics2016年7月5日 不法移民保護策の行方」参照)。上記sourceでは、そうした不法移民の若者の苦悩を描いている。彼らにとって、状況はどんどん悪くなっているのである。 大統領令によって、就職も運転許可証も可能となったのに、再び不安定な生活に逆戻りするかもしれないのである。もっと悪いことに、退去猶予申請や運転許可証申請により、不法移民であることが行政に明示されてしまっているために、いざとなった場合に国外退去措置が執行されやすい環境になっている。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

11月29日 地方政府年金の社会的投資 
Source :New Developments in Social Investing by Public Pensions (Center for Retirement Research at Boston College)
上記sourceでは、地方政府年金の社会的投資(ESG:Environmental, social, and governance)の現状と、その妥当性について分析している。

  1. 社会的投資の動向

    1. 社会的投資の主な手段は、スクリーニング(悪い企業を除外する、良い企業を含める)である。

    2. スクリーニングを受けている資産はこの20年間で顕著に増えている。
    3. 2014年、アメリカ全体での社会的投資は、プロの投資資産の16%を占めている。

    4. 社会的投資の中で地方政府年金の果たす役割は大きい。地方政府年金の資産のうち、スクリーニングを受けている資産は約$2.7T、半分以上を占めている。
    5. 民間企業のDBプランでは、社会的投資資産はほとんどない。これは、ERISAに関する労働省の見解が大きく影響している。主要な労働省見解は次の3つ。
      @1994年:受託者は、非経済的利益を促すために低収益、高リスクを受け容れるわけにはいかない。しかし、もしも非伝統的な投資対象が同等のの収益とリスクをもたらすものであるならば、社会的投資の目的を考慮することは構わない。

      A2008年:投資対象を選定する際に非経済的要素を考慮することは稀である。非経済的要素を考慮しようとする受託者は、ERISAへの遵法を示さなければならない。

      B2015年:(1994年版に戻す)
    6. ERISA及び労働省見解は、地方政府年金には適用されない。

  2. 投資の引き上げ提案

    1. イラン制裁の前後でも、地方政府独自の判断でイラン関係(イランと取引する企業)のスクリーニングをしている。
    2. 化石燃料関係からの投資の引き上げも大きな動きとなっている。特に、大学基金でその傾向が強い。

  3. 社会的投資の経済性

    1. 標的となる企業への影響は、ほとんどない。例え地方政府年金が投資を引き上げたとしても、予想収益が高ければ、必ず他の投資家が購入してくる。

    2. 一方、年金基金への影響を計測してみると、地方政府により投資を禁じられている場合の収益率の方が、禁じられていない場合の収益率よりも40 basis pointsほど低い。
    3. また、民間のESG投資ファンドと一般の民間投資ファンドのパフォーマンスを比較すると、一般ファンドの方が明らかに勝っている。その一因として、ESG投資ファンドの場合には、追加的なリソース(100 bps程度)が必要になることが指摘されている。

  4. 結 論

    地方政府年金は社会的投資を実施する機関としては相応しくない。社会的投資による影響力は限られており、年金基金の本来の目的から逸脱する。むしろ、社会的投資により生じた損失は、将来の年金受給者、納税者に負担をもたらす。地方政府年金は、本来の目的である公務員の退職後所得の確保に専念すべきである。
地方政府年金の中で活発な社会的投資を行なっているのがCalPERSである。そのCalPERSは、予想していた収益を稼げないとして州政府や加入者の拠出率を上げようとしている(「Topics2016年11月25日 CalPERS:拠出率大幅引上げを検討」参照)。上述の分析から導き出される処方箋は、拠出率の引き上げではなく、社会的投資を止めることではないだろうか。

※ 参考テーマ「地方政府年金」、「受託者責任

11月28日 働き盛りの男性がいない 
Source :The U.S. labor force's guy problem: Lots of men don't have a job and aren't looking for one (LA Times)
25〜54歳の成人を"prime age workers"と呼ぶそうだ。日本語にすれば働き盛りの世代というところだろう。

ところが、現代のアメリカでは、この働き盛りの男性が労働力になっていないことが問題になっているという。上記sourceによれば、働き盛りの男性の労働参加率(「仕事に就いている」または「就職活動中」)は、1954年に97.9%とピークを打った後、長期低下傾向が続いている。最近では、2014年に88%で底を打った後、大体その前後の数値が続いている。

労働省の統計によると、就職していない、もしくは働けないという働き盛りの男性は全米で約700万人いる。その内訳は となっているそうだ。

さて、働き盛りの男性が労働市場に参加しない理由として、研究者達は次の3点を挙げている。
  1. 病気または薬の摂取

    労働市場に参加していない働き盛りの男性のうち、47%が痛みに関する診療を受けており、約2/3が処方薬を摂取している。これらのために働けないと回答したのは40%だった。

  2. ビデオゲーム

    労働市場に参加していない21〜30歳の男性のビデオゲームに費やす時間は、週6.7時間(2012〜2015年平均)。2000〜2007年は週3.6時間しかなかった。また、高校以下の学歴に限ってみると、日2時間となり、日6時間やっている者が10%もあった。

  3. 犯罪履歴

    アメリカの拘留者の割合は10万人当たり698人と、先進国中2番目に高い。最大で約2,000万人が犯罪歴を持っている。これが就職活動において障害になっている。
いずれも、労働市場への参加を促すためには大きな課題である。経済的な対策だけでなく、社会問題としての議論が必要となる。

ここで、久し振りに労働市場のデータを確認しておきたい。 ※ 参考テーマ「労働市場

11月26日 不法移民免許証の変遷 
Source :Driver’s Licenses for Unauthorized Immigrants: 2016 Highlights (Pew Charitable Trusts)
上記sourceは、昨年のレポートの更新版である(「Topics2015年9月1日 不法移民免許証の実態」参照)。

昨年は、不法移民に免許証を発行するのは「10州+D.C.」であったのが、現時点では2州(DE, HI)増え、「12州+D.C.」となっている。
California, Colorado, Connecticut, Delaware, Hawaii, Illinois, Maryland, Nevada, New Mexico, Utah, Vermont, Washington, District of Columbia
それよりも、この不法移民免許証について知らなかった歴史が記されていたので、簡単にまとめておきたい。
  1. 1990年代まで、全米で不法移民は運転免許証を取得することが可能であった。

  2. ところが、1993年、全米で初めてCA州が不法移民の免許取得を制限した。

  3. 続いて1996年、AZ州が制限した。

  4. さらに45州が続き、免許取得には合法的移民の資格が要件となった。

  5. 2011年時点で不法移民が免許を取得できるのは、NM, UT, WAの3州のみであった。

  6. 2013年に潮目が変わり始め、8州(California, Colorado, Connecticut, Illinois, Maryland, Nevada, Oregon, and Vermont)+D.C.が何らかの形で不法移民が免許を取得できるよう、法律改正を行なった(「Topics2013年9月16日 CA州:不法移民に運転免許証」参照)。
潮目が変わって8州が前提とした制度的枠組みは、連邦法であるREAL ID Act (2005)とされている。同法では、 と定めている。

この連邦法に則り、各州は、違いの判る運転許可証を工夫してきたのである(「Topics2014年5月10日 CA州不法移民免許証のデザイン」「Topics2014年12月15日 CA州:不法移民免許証発行間近」参照)。

こうした流れを受け、不法移民でも通常の運転免許証を取得できていた州は、2015年時点にはNM, WAの2州に減り、上記sourceによれば、NM州も2016年の法改正により特別な運転許可証に変更したようである。

こんな経緯があったから不法移民用の運転許可証のデザインの議論が行われていたのだ、ということを初めて理解した。。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者

11月25日 CalPERS:拠出率大幅引上げを検討 
Source :With investments soft, CalPERS eyes higher contribution rates. What does that mean for workers? (Sacramento Bee)
上記sourceは、CalPERSが州政府、自治体、加入者の拠出率を大幅に引き上げることを検討していると報じている。その理由として上げられているのは次の諸点。
  1. 積立比率が68%に低下している。

  2. 年間収入の60%を投資収益で得ているが、2015-2016年度の収益率はわずか0.61%。その前年も2.4%しかない。過去20年間の平均はようやく7%超である。

  3. また、今後10年間の期待収益率も年率6.2%にとどまる。

  4. 一方で、給付債務の割引率は7.5%に設定している。

  5. CalPERSは、割引率を今後20年間で6.5%に下げられるようにしているが、州知事は5年以内に下げるべきだと述べている。
つまり、想定通りに投資収益が上がってくる見込みがないので、拠出率を上げようということである。加入者の負担が増えることはもちろんだが、州政府、自治体の拠出率が上がれば、その他の経費を圧迫することは間違いない。自治体職員の報酬の引き上げもさらに厳しくなる。

※ 参考テーマ「地方政府年金

11月24日 残業代新ルール施行延期 
Source :Federal Judge Halts Overtime Rule (SHRM)
連邦労働省は、残業代新ルールの施行日を12月1日としていた(「Topics2016年5月20日 残業代対象者新ルール」参照)。この残業代新ルール設定に対して、21州知事、全米商工会議所(USCC)等の企業グループが、連邦政府の越権行為であるとして訴訟を起こしていたが、11月22日、連邦地方裁判所(TX)は、施行延期の仮処分を下した。理由は、訴えにある越権行為であるかどうかの認定をするまでの充分な時間の確保である。

従って、今回の判決はあくまでも仮処分であり、新ルール自体を廃止にするという判決ではない。

この仮処分判決に対して、連邦労働省は強く反発しており、あらゆる法的手段を講じると言明している。

しかし、新ルールの適用先送りは、中小企業を中心に安堵感を与えている。原告となったUSCCは、翌23日に、『ほっと一息ついた』とのコメントを公表している。中小企業では、新ルールに対応するため、 などの措置を採らざるを得なくなるといった意見が強いためだ。また、残業代対象となる上限金額を一律に設定するのは、地域による生活コストの違いを考慮に入れていない、との批判も強い(Washington Post)。

こうした中小企業の懸念を受け、連邦議会でも施行日を来年7月1日に延期する法案(HR 6094)が審議されている(「Topics2016年10月6日 残業代新ルールの施行日」参照)。下院では既に可決されており、現在、修正案を上院が審議している。

一方、12月1日の施行を前提に既に対応を採ってきた大企業の事情は複雑だ。これまで残業代非対象となっていた従業員の報酬を上げて残業代非対象の状況を維持したり、従業員との雇用関係を変更したりしてしまった場合には、今回の仮処分を受けて元に戻すことは難しい。しかも、越権行為かどうかの判定についても予見できない。しばらくは宙ぶらりんの状況が続くことになる。

※ 参考テーマ「人事政策/労働法制

11月22日 Open MEP 
Source :Multiple Employer Plan Bill Has Shot in Lame-Duck Session (Bloomberg BNA)
11月16日、連邦議会上院に、"Open MEP"法案(S. 3471)が提出された。

複数事業主によるDCプラン(MEP:Multiple Employer Plan)の設立要件を緩和し、MEPの設立を促進しようという法案である。そのポイントは次の通り。 "Open MEP"については、Obama大統領、現連邦議会共和党、労使団体、ベネフィット関連団体などほぼ皆が賛同しており、目立った反論は聞かれない。

こうした状況に鑑み、法案提唱者であり、上院財務委員長であるOrrin Hatch議員 (R-Utah)は、これからのレイムダック・セッションでの成立を試みようとしているそうだ。仮にそれが失敗したとしても、来年早々には成立するのではないかと見られている。

もしも"Open MEP"ができるようになれば、複数事業主によるDBプランに参加している企業にとっては朗報となる。ほぼ今の運営形態のままOpen MEP DCに移行することができるのではないか、との可能性が生まれるからである。何度も紹介している通り、PBGC支払い保証制度はもう既に崩壊状態にある。そしてなによりも、PBGC保険料を負担しなくてよくなるのである。

そんな可能性を秘めつつ、法案審議は進んでいく。

※ 参考テーマ「DB/DCプラン

11月21日 いよいよ職場のトイレ 
Source :Bathroom Disputes Emerge in the Workplace (SHRM)
10月4日、連邦裁判所Nevada地方裁判所は、transgenderの警察官の訴えをほぼ認める判決(Roberts v. Clark County School District, D. Nev., 2:15-cv-00388-JAD-PAL (Oct. 4, 2016))を下した。本件の経緯は次の通り。 このような憲法解釈が定着していくとすれば、職場におけるtransgenderに関するトイレ問題は、喫緊の課題となる。

※ 参考テーマ「LGBT