7月8日 非適格保険プラン 
Source :HHS loses court fight on regulating limited-benefit health plans (Modern Healthcare)
PPACAでは、Exchangeで販売される保険プランについて、保険給付メニュー、償還割合、既往症対応などについて規制が設けられている。しかし、実際には、それらの規制対象から外れた保険プラン(いわば「非適格保険プラン」)が存在している。
  1. 定額補償プラン

    診療費がどれだけになろうとも、一定の金額を補償金として支払うプラン。HHSは、適格保険プランとの併用のみ認めており、非適格保険プラン単独加入の場合には無保険者としてペナルティを課すとの規則を定めている。この定額補償プランには、約400万人が加入しているとみられている。

    ところが、先週、DC控訴裁判所は、このHHSルールは違法との判決を下した。

  2. 短期プラン

    最近、この売り上げが増えている。HHSは、期間は3ヵ月未満、更新は認めないとの新規則を提案中である。

  3. 特別加入

    通常の保険加入期間以外でも保険加入を認めている。HHSは、規制を改正し、特別加入に必要な書類を求めることとした(「Topics2016年7月7日 若者の加入が進まない訳」参照)。
いずれも、保険料などが安く抑えられる可能性があるため、一定に需要が見込める。しかし、HHSや専門家は、非適格保険プランについて次のような問題があると指摘している。
  1. 若くて比較的健康な人達がリスクプールに参加しなくなってしまう。そのために、適格保険プランの保険料が高くなってしまう。

  2. PPACAで定めた償還割合規制(8割以上)をいずれも満たしていない。
無保険者割合を着実に低下させていくためには、まだまだ制度面での工夫が必要なようである。

※ 参考テーマ「医療保険プラン」、「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般

7月7日 若者の加入が進まない訳 
Source :Young Adults Can Face A Confusing Path To Health Insurance (NPR)
2017年のExchange保険料が大きく引き上げられるとの見通しが広まっており、その背景に加入者数が想定どおりに増えていないということが挙げられている(「Topics2016年4月28日 保険料引き上げムード」参照)。実際、CBOのExchange加入者推計は回を追うごとに低下してきている。
中でも若年世代の無保険者割合の高止まりが目立つ。
連邦政府、州政府ともに、若年世代の加入を促すよう活動を展開しているが、どうしても加入を阻害する要因が存在するらしい。
  1. 19歳の壁

    被扶養者としてMedicaidまたはCHIPに加入できるのは19歳まで。この後は、Medicaid加入資格があればMedicaidへ、なければExchange保険プランに移行することになる。ところが、被扶養者としての加入は19歳で打ち切りですよ、というお知らせは来るが、その後にどうすればよいかという情報を提供している州は少ない。

  2. 手続きの煩雑さ

    Exchange保険プランに加入しようとすると、自らの身分証明をしなければならない。これがアメリカ社会では面倒くさい(拙稿「アメリカにおける外国人の生活」P.7-8参照)。クレジット履歴がほとんどない世代では、たくさんの書類が必要になる。

  3. 特別加入の要件強化

    特定のライフイベント(結婚、引越し等)の際、通常の保険加入期間(11月から1月初め)以外でも保険加入が認められる。しかし、この特別ルールを利用して、診療を受け終わると保険加入を止めてしまう例が多いそうだ。連邦政府はこうした事例を減らすために、特定のライフイベントであることを証明する書類の提出を義務付けることとした。専門家の中では、こうした要件強化は却って若者世代の加入を阻害することになるとの懸念を表明している。
いずれにしても、若者世代にとって保険加入が必要であることを理解してもらうことが必要である。そのためにはペナルティの大幅引き上げも有力なツールの一つであろう。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般

7月5日 不法移民保護策の行方 
Source :The Long Road to Immigration Reform (Bloomberg)
最初に、上記sourceで、不法移民保護関連の2つの大統領令の略称を学んだので、まとめておく。 現在、司法で争われているのは、後者の方である(「Topics2016年6月27日 不法移民保護大統領令完全停止」参照)。

さて、その後者の不法移民保護策の今後の道行きについて、上記sourceでは3つの道筋があると示唆している。
  1. 連邦地方裁判所(TX州)の判決

    さる6月の連邦最高裁のタイブレーク判決により、執行差止請求が認められた。これにより、もともとの訴訟を受理していた連邦地方裁における審理が再スタートとなる(「Topics2014年12月5日 17州が大統領令差し止め訴訟」「Topics2015年2月17日 大統領令差止請求認める」参照)。担当判事は、8月22日に公判を開き、審理を開始する予定と言われている。もし、ここで大統領令が違法との判決が示されれば、連邦政府はこれを基に上級審に控訴していくことになる。

  2. 他州での訴訟

    大統領令支持派は、一つの連邦地方裁の判決だけで大統領令が全国的にストップしてしまうことは不合理であるとして、不法移民に寛容な地区、例えばCA州(第9控訴裁判所所管)で大統領令の執行請求を訴えることを検討している。

  3. 大統領選の結果待ち

    共和党トランプ候補(予定)は、「大統領令(DAPA)は違憲も甚だしく、不法移民は直ちに退去させる」と発言している。一方の民主党クリントン候補(予定)は、DAPAを推進すると公約している。クリントン政権が成立すれば、もう一度仕切り直しで不法移民保護策の検討が始まることになる。
いずれにしても、根深い対立を招いている施策であることから、最終的には司法判断、つまりは連邦最高裁の判決が必要になる。不法移民保護策を推進する立場、わかりやすく言えば民主党の立場に立てば、今の連邦最高裁のタイブレーク状態を解消するためには、どうしても空席となっている判事席をリベラル派で充足しておく必要がある。そのためには、今秋の連邦議会選挙、とりわけ上院議会議員選挙が重要な鍵となる。

Obama大統領の就任期間中、ヒスパニックの若者の人口は大きく増えてきている。彼らが今秋の選挙で大きな影響力を持つことは間違いない。Obama政権・民主党に失望して"No"を突きつけるのか、親族や友人の中にいる不法移民のために、再び民主党に託すのか。大きな時代の分岐点に差し掛かっている。

ちなみに、企業側では、不法移民保護策を進めてもらいたいという事情がある。連邦最高裁での意見陳述には、2つの企業グループが推進を支持する意見書を提出している。また、上記sourceで紹介されているシアトルの企業では、全従業員1,200人中109人が不法移民状態にあることが判明し、困り果てている。いずれも重要なポストを占めており、今後の経営にも影響が出かねないようだ。

それぞれの思惑がどのように実現していくのか。じっと固唾を呑んで選挙結果を見守るしかない。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者」、「大統領選挙(2016年)

7月4日 学生ローンベネフィット 
Source :Student Loan Aid Improves Millennial Retention, Managers Say (SHRM)
学生ローン残高は$1.3兆円に達し、一人当たり残高も約1.8万ドルと、卒業生達の肩に重くのしかかっている(「Topics2015年5月17日 学生ローン残高の実態」参照)。そうした負債を抱えて入社してくる若手従業員の債務を軽減しようというベネフィットが注目を浴びているそうだ。

実際にそうしたベネフィットを提供している企業割合は、2015年3%、2016年4%とまだ僅かに過ぎない。しかし、若い世代、Millennialに人気があるとのことで、人事担当者は注目している。

実際、学生ローン債務は若い世代に影を落としている。 具体的なベネフィットの提供形態は次の通り。
  1. 教育的アプローチ:面接やオンラインで、相談に乗ったり、カウンセリングを行なう。

  2. サイニング・ボーナス:採用時に一時的ボーナスとして、ローン債務の肩代わりを提供する。

  3. 引き留め策:一定の就業期間が経過した後、分割でローン債務を肩代わりする。

  4. 401(k)との併せ技:401(k)プランの仕組みを利用して、企業のマッチング拠出を使いながら、給与からの天引きで債務を返済していく。
最後の形態は、本人の自助努力を促しながら、引き留め策にもつながるので、有効な手段だと思われる。

※ 参考テーマ「ベネフィット」、「教育