GM、Fordの設立により、注目されるようになったVEBAだが、自治体で多用されている(「Topics2007年10月12日 VEBAとGAS45」参照)ことに加え、その出自や内容についても多様性を持つことがわかってきた。上記sourceは、コンサルタント会社SEGALが関与しているVEBAについて、自ら調査、整理した結果である。
VEBAの設立理由、運営委員会メンバー構成、継続年数、加入者数、資産構成、プラン内容等々、いろいろな項目についてまとめているが、中でも関心を持ったのは、VEBA解散の理由である。
同社が関与した25のVEBAのうち、3つのVEBAが解散している。その理由はそれぞれ異なっている。てっきり、c.の資金枯渇による解散が多いものと思い込んでいたが、そうでもないらしい。それよりも、予め親会社が接収する規定を入れていたケースのあることが驚きだ。VEBAを設立しておきながら、給付債務を完全に切り離してはいなかったわけである。アメリカ企業にもいろいろな考え方があるものだ。
- 設立時から期間が定められており、その定め通りに解散した。
- 設立時に親会社に接収権が設定されており、その権利を執行した。
- 資金が枯渇した。
ずいぶんと時間がかかってしまったが、公約通り、カナダの社会保障の本を読んだ(「Topics2007年12月5日 揺れるカナダ人」参照)。やはり、アメリカとはかなり異なる思想のもとに、社会保障制度、医療保険制度が成り立っているようだ。
以下、関心事項について、上記sourceから抜粋。
第4章 政治と現代福祉国家
1 カナダ政治の特徴
(3) 地域主義と連邦主義カナダの国家システムにとっての求心力は、@非アメリカ主義、Aカナダ社会の安定性、B連邦政府から州への財政移転、である。 第5章 社会保障の歴史
@ 1960年代初期から1970年代前半まで連邦からの勧告、立法により、10州すべてが医療保険法を実施するようになった。その際、連邦は費用分担を約束した。 第11章 医療制度
1 カナダの医療サービス供給システム
2 カナダの医療システムに関するカナダ国民の意識カナダでは、誰でもが必要なときに医療機関にかかれるアクセスが最重要、という考え方で供給システムが作られている。 第12章 医療保険 - 財政連邦主義の終焉 州運営が基本でありながら、全州で均質的な医療保険制度を確立している。これは、財源が公費主体であるとともに、連邦からの財政的補助が大きく影響している。 第17章 行財政改革
3 連邦政府の行財政改革の影響連邦財政赤字削減のために、税源移譲と社会政策における補助プログラムの統合が進められた。その結果、州における政策自由度の向上、行革も進んだ。
最近はアメリカ基準のIFRSへの移行について取り上げてきた(「Topics2007年12月21日(1) SEC円卓会議」参照)が、カナダは既に2011年の完全移行を決めている(「Topics2006年1月11日(2) カナダの会計基準」参照)。
Deloitteは、顧客向けサービスとして、カナダ会計基準からIFRSへの移行に際して検討、準備すべき課題をまとめている。本体はここにあるが、上記sourceは、そのうちのEmployee Benefitsに関する部分だけ抽出したものである。
カナダ特有のローカル・ルールがなくなることはもちろんだが、やはり過去勤務債務の即時認識が最も影響が大きいような気がする。
このように、基準の変更は、単に移行するだけでも長い準備期間を要するし、これに伴いプラン変更も検討するとなれば、相当なスピードで行う必要がある。金融市場だけではなく、ベネフィット・プランにとっても重要なインフラであるだけに、当局の早い決断が求められることになる。
先に、医療保険改革に関する対立軸に触れた(「Topics2008年1月8日 医療保険改革の対立軸」参照)が、Commonwealth Fundから、この対立軸に関する世論調査が、タイミングよく公表された。 調査結果のメッセージは、次の通り。もちろん、すべての項目を通して、民主党支持者が高め、共和党支持者が低めの結果となっているが、共和党支持者の間でも、すべて50%以上の支持を得ている。今のところ、医療保険改革については、民主党の戦略が成功しているようだ。
a 大統領選で医療保険改革を重視する ⇒ 86% b "Pay or Play"ルールを支持する ⇒ 81% c 医療保険加入義務化を支持する ⇒ 68% d 医療保険コストは個人、企業、政府で分担すべき ⇒ 66%
9日、第9控訴裁判所が、連邦地方裁判所の判決を仮差し止めにすることを決定した(「Topics2008年1月7日(2) SF市無保険者対策に光明」参照)。これにより、SF市無保険者対策は規定通りに執行されることとなる。要するに、決着はほとんどついているのである。
第9控訴裁判所の判決は、今年夏か秋になる見込みだが、控訴裁判所が途中段階で地方裁判所の判決を差し止め、行政府に執行を認めるのは極めて異例とのことである。差し止めの決定に関して、3人の裁判官は全員一致で賛成しており、最終的な判決も地方裁判所の判断を覆すことになる可能性が極めて高いことから、こうした異例の決定を行ったのであろう。
今回の決定について、控訴裁判所のFletcher判事は次のように説明している。
- ERISAは福利厚生プランの統一性を促すための規定である。
- 自治体が企業に対して、特定の医療保険プランを採用する、または、現在提供している医療保険プランを特定のプランに移行させることを強制しない限り、自治体が住民の健康と福祉を守るための規則を定めることを禁じてはいない。
- SF市の規則によれば、企業は医療保険プランを提供する義務を一切負っていない。また、もし医療保険プランを提供しているのであれば、それを変更する必要もない。
- 企業は、医療保障について、保険料または市への拠出という形で、一定水準の拠出を求められているに過ぎない。
- 制度が執行できないことにより発生するSF市及び市民の損失は、判決が出るまでレストラン経営者達が被る損失よりも遥かに大きい。