12月10日 カナダから学ぶものは? Source : Canada's health system beats U.S. in cost and results (EPI)

『カナダの医療保険制度について、進歩主義者はモデルと信奉するし、保守主義者は完全な失敗と考えている。』

こんな出だしで始まる上記レポートは、民主党よりのシンクタンク、EPIによるものである。 続けて、カナダの医療事情は、こんなにアメリカよりも優れている、と説明する。
  1. 1993年から2005年の一人あたり医療費を比較すると、カナダは65%増に対し、アメリカは90%以上になる。実額でも、アメリカはほぼ倍になっている。
  2. 幼児の死亡率はアメリカの方が高く、平均寿命はカナダの方が長い。
  3. 国民一人あたりの年間受診回数は、カナダが6.0回に対し、アメリカは3.8回である。
こんなにカナダの医療事情の方が優れているのに、カナダに学ぼうとしないのか、というわけである。

12月6日 SCHIPは長期戦へ 
Source : Democrats Plan To Pass Long-Term Extension of SCHIP Unless Lawmakers Agree This Week on Legislation To Expand, Reauthorize Program (Kaisernetwork)

下院SCHIP拡充修正法案(HR 3963)は、11月30日、White Houseに送付されている。今までも繰り返してきた通り、このままではBush大統領が拒否権を発動することは間違いなく、上下両院とも、その拒否権発動を覆すだけの賛成票を確保できていない(「Topics2007年11月2日 SCHIP拡充修正法案を上院可決」参照)。

このような状況を踏まえ、下院民主党のPelosi議長は、次のような指示を下院民主党交渉団に伝えたという。
  1. 今週中に打開策をまとめる。
  2. それができない場合、SCHIPの長期延長、州への助成金の積み増しを求める法案を提出する。
  3. 延長期間は来年秋までとする。
いよいよ、民主党は、当初の目論見通り、このSCHIPを大統領選の争点に掲げるべく動き出そうとしている。

12月5日 揺れるカナダ人 Source : 日本を向くカナダ(岩崎力)

カナダに興味を持ち始め、職場の図書館を探索してみたところ、上記の書籍が見つかった。サイマル出版会から出ているもので、著者は商社出身でカナダ在住の方とあった。

惜しむらくは1988年出版ということで、約20年前のものであるため、最近のカナダの動向は知る由もない。ただ、古い出版物だからといって、カナダの過去まで変わることはないので、その意味では参考になった。

また、政治学者や国際関係学者ではないので、視点が現実の経済に根差しており、カナダの歴史を体感できたような気がする。

この書籍で私が理解できたのは、次の点である。 カナダ人は、こうした心の揺れを常に持ち続けてきたようなのである。こうしたことが理解できたのは一つの収穫であった。

もう一つの収穫は、同書に記載されていた次の表である(P.195)。
表1 カナダ人は自分の国をアメリカに比べてどうみているか
カナダの方が優れている似たようなものだアメリカの方が優れている無回答
政治家の質23%55%20%6%
学者や作者の質22%56%19%3%
科学技術16%31%51%2%
テレビの質21%33%46%0%
映画の質19%33%46%2%
ビジネス・ノウハウ16%47%37%0%
音楽家の質20%53%25%2%

表2 カナダ人はアメリカ人と比べて自分達の性格をどうみているか
カナダ人がまさる似たようなものだアメリカ人がまさる無回答
環境問題についての関心64%20%11%5%
貧乏な人びとに対する関心56%33%10%1%
正直で公正な性格42%52%6%0%
情報通で洗練されている34%39%26%1%
労働の姿勢33%52%14%6%
暴力的性格8%24%67%1%
競争力がある19%24%53%4%
特に、表2の上から3項目で、カナダ人とアメリカ人の違いが強く意識されている点に注目したい。おそらく、このような意識は、今でも生きているのではないだろうか。国境を越えた途端に感じる、あの安心感は何とも説明しがたい感覚だ(「Topics2007年1月11日(2) カナダの会計基準」参照)。しかし、私の周囲の人びとでも、同様の経験をしている人達がいる。

次は、カナダの社会保障に関する書籍を読んでみたいと思っている。

12月4日 TX州の孤独な闘い Source : Starting tab for state retiree health costs: $36.8 billion (Austin American-Statesman)

GAS45を巡るTX州の孤独な闘いが続いているようだ。今までのところ、GAS45の適用を正式に拒否したのは、TX州だけのようである(「Topics2007年7月9日 TX州がGAS45を正式に拒否」参照)。

GAS45の規定では、2007年度アニュアル・レポートから、OPEB(other postemployment benefits)に関する給付債務をオンバランスしなければならない(「Topics2005年12月13日 時限爆弾-GAS45」参照)。TX州は、このオンバランスを拒否している。

一方で、2州立大学を除くOPEBは開示しており、$36.8Bにのぼっている。これをオンバランスしないことで、市場でどう評価されるか、という問題になる。TX州およびFitch Ratingsによれば、8月31日時点、現時点ともにAA+ となっている。ちなみに、同じFitch Ratingsで、開示に積極的なCA州はA+NY州はAA-。TX州同様、GAS45に抵抗したCT州はAAとなっている(「Topics2007年6月5日 CT州議会 GAS45に反旗」参照)。

今のところ、GAS45への姿勢による大きな影響を受けてはいないようである。

12月3日 Annuity Puzzle 
Source : Lump Sum or Annuity? An Analysis of Choice in DB Pension Payouts (Vanguard Center for Retirement Research)

理論上は、年金払いでもらった方が、総額も多くなるし、「長生きのリスク」も減らすことができる。それでも一時金で受け取る人達が多い。それはなぜなのか、という問題を扱ったレポートである。興味深いテーマであるので、少しだけ力を入れてまとめておきたい。
  1. 背景説明

    DBプランにおける一時金払いが増えている。およそ半分のDBプランが、年金払いに加えて一時金払いの選択肢を用意している。一方、DCプランにおいては、一時金払いが標準であり、年金払いの選択肢を用意していることは稀である。

    一時金払いを選択する理由は、いくつも考えられる。

    1. 公的年金(Social Security)
      多くの年金プラン加入者は、公的年金を受け取る。公的年金は、政府が保証し、物価スライドもついている。加入者にとって必要な年金部分は、これで充分と考えられている。

    2. 柔軟性(手元流動性)
      退職後は、流動性の高い資産への選好が高い。特に、長期の医療・介護費用に充てるため。

    3. 孫子への遺産
      遺産または寄付のために資産を残しておきたい。

    4. 理解不足
      年金払いや長生きリスクに対する理解が不足している。

    5. 逆選択
      健康な人ほど年金払いを選択する。

    6. 不信感
      年金プランまたは保険会社に対する不信感が強い。

    7. インフレ懸念
      年金払いは定額となるため、インフレにより減価する。

    8. 企業側の意向
      企業側も、受託者責任の観点から、DCプランで年金払いはしたがらない。

  2. 給付形態

    給付形態には3種類ある。

    1. Cash-outs(累積額が小さい場合、自動的に退職時に一時金として支払う)
    2. Lump-sum(一時金給付)
    3. Annuity(年金給付)

    実は、Cash-outsはかなりの割合を占めているのだが、これは受給者の選択によるものではないため、除外して考えると、やはり一時金給付が圧倒的に多い。

  3. 属性による選択傾向

    所得が多いほど、結婚しているほど、男性であるほど、一時金を選択する割合が高くなる。

    逆に、(給付形態選択時の)年齢が高くなるほど、年金給付を選択する割合が高くなる。

  4. デフォルトの影響

    連邦法により、DBまたはCBプランで、結婚している従業員が加入する場合、夫婦で加入し、遺族年金を払う形にしておくことがデフォルトと決められている。もし、一時金で受け取る場合には、夫婦ともに公証人立会いのもと、年金による受給を放棄することを宣誓し、文書化しておかなければならない。もちろん、そのための費用もかかる。

    それでも一時金を選択しているということは、結婚している夫婦は、積極的に一時金受給を選択していることになる。

  5. 結論と政策含意

    1. 一時金給付に対する強い要望が存在する。これは、公的年金が年金給付の形態をとっており、受給者が柔軟な消費行動を望んでいる場合には、合理的な選択肢といえる。

    2. 将来、公的年金の支給開始年齢が引き上げられる、医療費が増大するといった要因から、高年齢層にとって年金による受給はますます重要な選択肢となる。

    3. 一時金と年金の選択について、夫婦が積極的に対応していることから、教育、情報提供が重要になってくる。

    4. 一時金と年金のどちらか一方という選択肢ではなく、ミックスさせる選択肢も検討すべき。

    5. さらなる分析の課題として、現在の低金利による影響がある。低金利のために、一時金を選択する割合が高まっている可能性がある。
おそらく、日本の場合にも、年齢による選択肢への影響は強いのではないだろうか。よく言われるのは、住宅ローンを一気に返済するために一時金を選択する割合が高まっている、というものだ。年齢が若いうちに退職して退職金・年金を受け取る場合、住宅ローン返済需要というのは大きいだろう。

他方、日本では、年金払いへの一般的なニーズは高いように思う。やはり、長生きリスクに対する警戒心は、かなり高いのではないだろうか。日本でも、こうした実証研究を進めてもらいたいものである。