先に紹介した共和党の大統領候補による公開討論(5日)で、Giuliani前NY市長は、医療保険改革に関する考え方を示したそうだ(「Topics2007年6月7日(1) 共和党候補者の医療政策」参照)。詳細は、夏に公表する予定とのこと。現在、企業が提供する保険プランに加入している国民は、1億7,500万人。一方、個人で保険を購入している国民は、1,700万人である。10倍もの人数となっている企業保険プランから個人プランに移行させるというのは、かなり無理な試みである。これは、かつてClinton政権が提案した連邦レベルでの単一保険制度と同じくらい、アメリカ社会の現実から離れているのではないだろうか。
以下、そのポイントは次の通り。
- 国民の医療保険プランに関する選択肢を拡大する。州境を越えて、どこの州の保険でも購入できるようにする。
- 州規制や連邦税制により、保険プランの価格が高騰しないようにする。
- 自動車保険のように、小さな修理やメンテナンスは自費で対応する。
- 企業による医療保険プランの提供をやめさせる事はしないが、個人保険市場を中心に据えるパラダイムシフトを実現する。
- 個人の医療保険購入に関して、所得控除制度を設ける。
- 医療保険加入の義務付けは行わない。義務付ければ、補助金を出さざるを得なくなり、全体のコストが嵩む。
6日、CT州議会は、主に公的保険プログラムの対象者を拡大することで無保険者を減らそうという主旨の法案を上下両院で可決した。主な内容は、次の通り。
- Medicaidの診療報酬を高める。必要な財源は、$151M(2008年)。
- HUSKYの対象となる子供の親の収入上限を、FPL150%から185%に引き上げる。必要な財源は、$17M(2008年)。
- 無保険の新生児はHUSKYに自動的に加入することとし、最初の2ヶ月間は、州政府が保険料を負担する。必要な財源は、$2.7M(2008年)。
- 妊婦のMedicaid加入資格を、FPL185%から250%に引き上げる。必要な財源は、$3.5M(2008年)。
- HUSKY B planの加入資格を、FPL300%から400%に引き上げる。必要な財源は、$6M(2008年)。
- Medicaidの対象年齢を、26歳以下にまで広げる。必要な財源は、$8M(2008年)。
- 学校、コミュニティでの健康管理活動に、$5M(2008年)を充てる。
これに対し、CT州知事は、何の財源手当てもできていない法案を認めるわけにはいかない、と拒否権を発動する意向を示している。
退職者医療に関する会計基準を、州独自のものにするという法案(「Topics2007年6月5日 CT州議会 GAS45に反旗」参照)が、6日、CT州議会上院でも可決され、議会を通過した。あとは、CT州知事がどうでるかだ。上の案件のように、議会が可決して州知事が拒否権を発動し、さらに議会がそれを覆すことができるかどうか、という流れになろう。
5日、共和党の大統領選候補者達の政策討論会が開かれた。上記sourceは、そこでの医療政策に関する発言をまとめたものである。ポイントは次の通り。
ご覧の通り、昨今、民主党候補者の間で行なわれている議論と較べると、格段にトーンが落ちている。有力と見られているMcCain氏などは、発言も引用されていないし、選挙キャンペーン用のwebsiteには、医療の医の字も見当たらない。
Rudy Giuliani Former New York City mayor 民主党の提案は、医療の社会化だ。保険購入のために、$15,000の所得控除制度(「Topics2007年1月24日(1) 市場メカニズム vs 公的プログラム (一般教書演説)」参照)を導入すべきだ。国民は、HSAsを活用すべきだ。(-) John McCain Senetor (Ariz.) (-) Mitt Romney Former Massachusetts Gov. MA州皆保険法に署名したことを誇りに思う。全ての国民に、安価でポータブルな皆保険を提供することが重要だ。(Website) Tommy Thompson Former Wisconsin Gov. 予防医療と、医療記録のIT化が重要だ。(Website) Fred Thompson Actor and former Senetor (Tenn.) 不参加 (-)
他方、知事経験者二人は、医療については主張を持っている。ただし、それでも市場メカニズム重視、企業、個人による保険購入重視という、Bush政権の主張からは一歩も踏み出そうとはしていない。
5日に開催された、財政制度等審議会財政構造改革部会(5月16日開催)に提出された社会保障に関する資料を見ていたところ、アメリカの総医療費の対GDP比が、2001年以降、急激に上昇しているグラフがあった。まさに、Bush政権になった途端に、医療費が大きく増え続けているのである。これに対する政策を打ち出さない限り、アメリカ国民は納得しないだろう。
本当は、こうした時事ネタは、きりがなくなるのでやりたくないのだが、やはり気になるので、取り上げておく。
アメリカの労働生産性が停滞気味である。6日発表の改訂版では、2007年第1四半期は、大幅下方修正で年率1.0%となった(速報値では1.7%)。停滞の原因は、生産の伸び率が低下していることと、労働コストが上昇していることである。
労働生産性は、ずっと好調を続けていたが、年ベースでは、1996年以降で最低の水準である。また、単位時間あたりの労働コストも高い伸びが続いており、コア・インフレが懸念される。
実際、6日の株式市場は、Fedの利上げがあるのではないかとの懸念(Financial Times)から、NYダウ、ナスダックとも下落した。
労働市場で失業率がなかなか下がらない状況(もしかしたら自然失業率に近い水準?)にあることから、こうした懸念はしばらく続くものと思われる。
西部のTX州議会に呼応して、東部のCT州議会が、GAS45に反旗を翻した(「Topics2007年5月13日 TX州下院がGAS45を拒否」参照)。
5月24日にCT州議会下院で可決された法案(H.B.7338)は、州のComptrollerに、州政府の財政報告に適用する会計基準の法的決定権を賦与する。というものである。
同法案について、CT州Comptrollerは、賛同している。同州では、もともと長期債務を考慮しながら毎年の歳出を監視するという仕組みになっており、その現行制度にそって会計処理するだけのことだ、ということらしい。
ただし、TX州のように、あからさまにGASBに反抗するのではなく、やり方は違っても最終ゴールは同じである、ということを強調している。GAS45に則った債務認識は嫌だけど、格付けを下げられるのも嫌だ、という訳である。
これに対し、GASBは、当然のことながら、CT州議会の法案は州財政の信頼性、責任性、透明性を損なうと批判している。CT州はGASBの地元であり、TX州以上に嫌な気分であろう。
CT州議会は、6日に散会の予定であり、その前に上院で同法案が審議されることになる。CT州議会は、上院、下院とも民主党が圧倒的多数であり、下院が可決した法案を、上院も可決する可能性は高い。
他方、CT州知事は、共和党初の女性知事であり、議会が可決した法案を拒否する可能性もある。しかし、その場合、議会、Comptrollerの両方を敵に回すことになり、その後の政治的環境を危うくする可能性もある。また、圧倒的多数を占めている議会で、知事の拒否権発動を覆される可能性も高い。
州知事としては、判断の為所であろう。
やはり、Big3は、退職者医療をVEBAに移管したいようだ(「Topics2007年5月17日 Big 3の退職者医療交渉」参照)。上記sourceによれば、必要となる基金は$100B以上との推計もあり、そうなると、3社合計の株式総額の倍以上となってしまう。そんな中での交渉は、まさに夢物語としかいいようがないだろう。
上記sourceの指摘で面白いのは、『Big3はChapter 11を選択しないだろう』と見ている点である。確かに、航空会社は、Chapter 11で再建過程において、様々な給付債務を削減していった。しかし、国民は、再建途上の航空会社のエアチケット($400)は買ってくれるが、再建途上のメーカーから長期間使用する車($25,000)を買うことはない、という訳である。
もっともの理屈である。Chapter 11の選択肢がないとなると、いくらハードルが高くても、UAWと向き合って、債務をVEBAに移管するか、あわよくば、債務の削減、つまり給付削減の合意を勝ち取るしかないのである。
Big3にとっては、暑い夏になりそうである。
最後に、株価動向である。 ⇒ GM Ford