1月10日 アメリカ経済界の苛立ち Source : America at the Crossroads - Thomas J. Donohue, President & CEO, U.S. Chamber of Commerce

8日、全米商工会議所が、"State of American Business"を公表した。上記sourceは、その発表に合わせて、Donohue会頭が行ったスピーチ原稿である。

そこには、ワシントンDC(同所の本部はDCにある)の政治家達に対する不満がぶちまけられており、このままではアメリカは国際競争に負けてしまうとの危機感を露わにしている。同時に、2008年という政治の年に向けた経済界の政策要求が並んでいるともいえる。

会頭のスピーチで槍玉にあげられた政策課題と政策要望のポイントをまとめてみよう。
政策分野容認できない現状政 策 要 望
公教育 ・脱落者が30%にのぼる

・アフリカ系/ヒスパニックでは50%にものぼる
・校長、教師に学校改革の権限を賦与する
・給与を業績連動にする
・結果責任を求める
・No Child Left Behind Actを強化、延長する
・上記法の対象を高校に広げる
・アメリカ国民の生涯教育の実現
外国人労働者 ・科学者、エンジニア、技術労働者が不足
・農業従事者が不足
・移民法の全面改訂
エネルギー ・高い外国依存度
・価格の高騰
・クリーンで多様なエネルギーへの規制
・エネルギー技術開発の推進
・従来のエネルギー源の充分な備蓄
・核エネルギー開発の推進
インフラ整備 ・人の移動、物流の増加に対応できていない
・効率が悪い
・道路、橋の整備
・航空システムの改善
・港湾、鉄道の改良
司法制度 ・崩壊している
・長い時間を取られて莫大な費用がかかっている
・濫訴の防止
資本市場 ・過重な税負担、規制に縛られている
・欧州への資本逃避が起きている
・善良な企業、投資家の意欲を殺ぐような規制をやめる
医療保険、年金 ・医療費の増大が著しい
・年金のコストも高まっている
・良質で安価な医療サービスを確保する
・企業による医療保険プラン提供を強化する
・市場メカニズムを活用する
・連邦政府による単一医療保険を阻止する
・ERISAの擁護
・これ以上の企業年金への規制を阻止する
・公的年金の物価スライドを強化する
・公的年金に個人勘定を設ける
市場開放 ・これ以上の市場開放、貿易協定は不要との意見が出ている ・更なる市場開放に向けた貿易協定の推進
知財政策 ・海賊品の被害が甚大 ・知財保護政策の強化、執行
税 制 ・欧州諸国が税率引き下げに動いている ・所得税、法人税の課税水準を抑制する
労働政策 ・欧州諸国が労働規制の緩和に動いている ・労働組合の権利の濫用を規制する
・労組における秘密投票の原則を維持する
どこの経済団体も同じような主張をするものだが、
  1. 公教育をトップに挙げている
  2. 司法制度を課題として挙げている
  3. 医療保険、年金等に対する政策要望が多い
  4. どうみても共和党寄りだ
などの特徴がみられる。

1月8日 医療保険改革の対立軸 Source : 2008 Presidential Candidate Health Care Proposals : Side-by-Side Summary (Kaiser Family Foundation)

年明けから、IA、WY、NH州と予備選挙が立て続き、早くも過熱気味となっている2008年大統領選である。

個別候補の優劣は、当websiteの関心事項ではないが、各候補の医療保険改革提案には大いに関心を持っている。ところが、有力候補の改革提案をみてみると、いろいろなバリエーションはあるものの、政党別にはっきりと色分けが可能である。つまり、共和党と民主党の間では、医療保険改革は対立軸となっているのである。

医療保険改革の対立軸
共 和 党民 主 党
Rudy Giuliani
Mike Huckabee
John McCain
Mitt Romney
Hillary Clinton
John Edwards
Barack Obama
『市場メカニズム重視』

『所得税制によるインセンティブ』
『保険加入義務化』

『企業の保険提供義務化』

『公的プランの拡充』


もちろん、他にもたくさんの政治課題があるので、すべてがすっぱりとは切れないだろうが、少なくとも医療保険改革について、両党の対立軸は明確になっているのである。

1月7日(1) Edwardsの公約 Source : My Plan to Stop Corporate Abuses By JOHN EDWARDS (The Wall Street Journal)

上記sourceは、2日付Wall Street Journal に掲載された、Edwards元上院議員の意見掲載である。

アメリカ経済の成功を、もっと勤労家庭に分配すべきだ、との主張となっている。そのための公約として、次の3点を掲げている。
  1. すべての国民に医療保険を

    ⇒ 提案の詳細は「Topics2007年2月7日 Edwardsの皆保険提案」「Topics2007年3月27日 民主党候補 皆保険導入で一致」参照

  2. 全ての労働者に退職後所得口座を

    1. すべての従業員に退職後所得口座を自動的に持たせるよう、全企業に義務づける。
    2. 退職後所得口座は、伝統的な企業年金(DB)、401(k)プラン(DC)、IRAの3種類とし、最低どれか一つには加入する。
    3. すべての従業員が、口座への拠出を自動的に天引きできるようにする。
    4. すべての口座をポータブルとする。

  3. 労働者と株主に多くの利益分配を

    1. 経営者達に対して認めている「非課税の後払い報酬」に上限を設ける。
    2. 株主に新たな権利と責任を与える。
      • 株主総会の招集
      • 責任ある活動を行っていない取締役の解任
      • 経営者の報酬に対する賛否
政策提案は以上の通りだが、上記sourceの中でとても驚かされるフレーズがある。それは、
"The son of working class parents, I have been blessed with extraordinary success in my own life and now want for no material thing."
というものである。Clinton上院議員Obama上院議員も、むき出しの闘争心で権力の中枢を狙っていっているのに対し、Edwards元上院議員は一段高みに立っているような気がする。

考えてみれば、上記フレーズにある通り、彼は弁護士として富と名声を手に入れながら、11年前には息子を事故でなくし、今また妻は乳がんに侵されている。家族を失う、または失いかけていることにより、本当の幸せとは何か、アメリカ社会に必要なことは何かということを考えるようになっているのかもしれない。実際、昨年3月のテレビインタビューで、『自分の仕事は弁護士である。大統領という職は仕事ではなく、奉仕することだ』と述べている (CBS NEWS)。

当websiteでは、これまでさんざん彼のマイナスイメージを伝えてきたが、少し見方を変えていきたいと思う。

1月7日(2) SF市無保険者対策に光明 Source : Court gives San Francisco health plan a boost (San Francisco Chronicle)

CA州San Francisco市の無保険者対策("Healthy San Francisco")を巡っては、SF市とGolden Gateレストラン協会(Golden Gate Restaurant Association)の間で、法廷闘争が続いている(「Topics2007年8月17日 SF市の無保険者対策」参照)。

昨年末の連邦地方裁の判決では、レストラン協会の主張が支持されたため、SF市長は怒りのコメントを発表した。

ところが、3日に行われた第9控訴裁判所でのヒアリングで、裁判長は、 との見解を示し、SF市側の考え方に理解を示した。

もちろん、これだけでSF市のHealthy San FranciscoがERISA違反にはならない、と決まった訳ではない。しかし、SF市のプランは、"Pay or Play"の形式を取っており、これが控訴裁判所で逆転判決が出れば、全米の州・地方政府の試みを後押しすることになる。

特に、現在、最終的な段階に入ったCA州の皆保険法案にとっては、大きな支援材料となることは間違いない(「Topics2008年1月4日 加州皆保険法案のハードル」参照)。

1月4日 加州皆保険法案のハードル Source : Schwarzenegger, Nunez Submit Ballot Initiative for Health Care Reform Proposal (Kaisernetwork)

昨年12月28日、シュワ知事Nuñez下院議長は、加州皆保険法案(ABX1 1)を州民投票の対象とするための手続開始の申請を司法長官に対して行った(「Topics2007年12月19日 加州下院可決」参照)。

今後、皆保険法案が施行されるために越えなければならないハードルが3つある。
  1. 司法長官による申請手続きの認可。このためには数週間を要する。
  2. 司法長官の承認を得た後、同法案の内容を支持するという州民(選挙登録済み)100万人以上の署名。
  3. 上院での法案可決。
もちろん、最後には、州民投票で信認を得なければならない。

いずれも、スケジュール的にはタイトであるとみられている。特に、3.の上院での議論で、実質的な修正が入った場合、1.の司法長官による認可手続は最初からやり直しとなる。かなり綱渡り的な状況が続くことになりそうだ。