6月30日 宗教差別に関するセーフガード
Source :Supreme Court strengthens protections for religious rights at work (Washington Post)
6月29日、連邦最高裁は、職場において信仰の自由を確保するために配慮すべき事項の定義を明確化する判決を下した(Groff v. DeJoy)。

本案件の主な経緯は次の通り。
  1. 原告のGerald Groff氏は、福音派キリスト教信者(Evangelical Christian)で、安息日を守る(Observe the Sabbath)。

  2. US Postal Service(Lancaster County, PA)で配達員をしていた。配達員が不足している時には、祝日、土曜日に出勤することが求められていた。日曜日は配達がなかったので、出勤を求められることはなかった。

  3. USPSがAmazonとの配送契約を結んだため、日曜日も配送業務が生じるようになった。当初、Groff氏は日曜日の配送は免除されていた。

  4. その後、USPSの労組が新たなシフト制を導入したため、Groff氏も配送業務に就くよう命じられた。

  5. しかし、Groff氏は日曜業務に就かず、同僚が補うこともあったり、それを理由に転職したりした。

  6. Groff氏は退職を決め、USPSを宗教上の差別を行なったとして訴えることとした。

  7. 連邦地方裁、第3控訴裁判所では、敗訴した。日曜勤務を拒否したことで、同僚に負担をかけ、職場環境を悪化させ、従業員のモラルを低下させた、という理由であった。
今回の連邦最高裁の判決のポイントは2点。
  1. 差別に当たると判断する基準を、従来よりも明確にする。

  2. 控訴裁判所に差し戻し、今回新たに示した基準により判断するよう命令。
従来の判断基準は次のようなものであった。 そして、今回新たに示された基準は、次の通り。
"shown when a burden is substantial in the overall context of an employer’s business"
企業が配慮しなければならない限度について、語感のうえではかなり引き上げたとの印象がある。しかも、判事全員が賛成で一致している。しかし、賛成判事の意見書では、『EEOCが提供しているガイドラインには実質的な影響はない』としている。

判決前、バイデン政権は、判事たちに対して従来の基準を破棄しないように求めていた。それは、EEOCが次のようなガイドラインを既に長期間にわたって提供しているからだ。
"meaningful protection for religious observance without imposing substantial burdens on employers and co-workers"
見ての通り、今回の判決は、法執行の基準に司法の基準を寄せたうえで、改めて判断しろ、というのが趣旨なのである。法廷闘争の勝負はまだついていないが、連邦最高裁の柔軟さは流石と言えよう。

※ 参考テーマ「人事政策/労働法制」、「司 法

6月29日 Kavanaugh判事はずっと出勤
Source :Clarence Thomas, Samuel Alito and the crisis of confidence in the Supreme Court (NPR)
Thomas判事、Alito判事の収入開示はまだ行なわれていない(「Topics2023年6月9日 最高裁判事の収入開示」参照)。上記sourceによると、90日間の猶予を得たということなので、9月上旬が期限ということなのだろう。既に様々な受け取りが報じられているため、2022年分の開示でそれらをごまかすことは難しいだろう。しかし、2021年以前の分について修正することはないだろうと、専門家たちは考えている。

連邦最高裁判事に対する視線が厳しくなっていることは間違いない(「Topics2023年6月22日(1) 連邦最高裁への信認」参照)。

ところで、上記sourceでは、9人の最高裁判事の中で、誰が一番リッチか、という視点で紹介している。これは文句なくRoberts長官だそうだ。もともとプライベートの司法事務所で活躍し、最高裁長官になった後も妻が弁護士として稼いでいる。また、資産運用も利益相反を疑われないという意味では完璧で、インデックスファンドやミューチュアルファンドで運用しているそうだ。

一方、Kavanaugh判事の生活は慎ましやかだ。これまでの経歴のほとんどが公共サービスであり、比較的小規模の家屋に住んでいる。妻はパートタイマー。コロナ禍で、Roberts長官を除いて、唯一連邦最高裁のオフィスで勤務していた。10代の子供が2人いて、在宅勤務では集中できないというのがその理由だったそうだ。

※ 参考テーマ「司 法

6月28日 連邦最高裁は州選挙制度に介入せず
Source :The Supreme Court has rejected the independent state legislature theory (NPR)
6月27日、連邦最高裁は、『州議会のみが選挙制度を決定できる』との主張を再び却下する判決を下した(「Topics2022年3月14日 NC/PA州選挙区割りに判決」参照)。判事の賛否も当時と同じで、Alito, Thomas, Gorsuchの3人が『州議会のみが選挙制度を決定できる』との主張を支持する反対意見を述べている。

連邦最高裁の判断は維持されたが、NC州選挙区割りについては、まったく逆の結果となる。2022年当時は、州議会多数派を握る共和党が党派色の濃い選挙区割りを提案し、これが州最高裁で却下され、連邦最高裁は州最高裁が判断を示すことは可能だとの判決を下した。つまり、共和党選挙区割り案が却下された。

ところが、今年5月、州最高裁が共和党選挙区割り案を承認した(「Topics2023年5月19日(1) NC州選挙区割り一転合憲」参照)。今回の連邦最高裁判決は、我介入せずの姿勢を貫いたことから、結果として共和党選挙区割り案が実現することになるのである。

今回の判決で、連邦最高裁は連邦選挙における州選挙制度に介入しないということが明確になった。そうなると、州知事が拒否権を持っている場合は別として、州議会と州最高裁の多数派を握れば、ゲリマンダリングはしたい放題ということになる。今後、こうした動きが活発になっていく可能性が高い。

※ 参考テーマ「政治/外交

6月26日 CA州から移住したい
Source :4 in 10 California residents are considering packing up and leaving, new poll finds (Los Angeles Times)
10人に4人のカリフォルニア州住民が、州外に引っ越すことを考えているという。ちょっと驚きである。

その一つの理由が、経済的な厳しさであるという。物価上昇により、生活が厳しいという切実な理由が挙げられている。それが低所得層だけでなく、年収$100,000以上の家計でも半分以上が経済的に楽ではないと感じている。

もう一つの理由が、政治的、社会的な息苦しさが指摘されている。本文では、“overcorrected and gone too far in its attempts to give everyone equal rights”と表現されている。

移住希望者が多いことの背景には、こうした状況があるようだ(「Topics2023年6月14日(2) CA州からIN州へ移住」参照)。

※ 参考テーマ「人口/結婚/家庭/生活

6月23日(1) 返済再開のインパクト
Source :Student Loan Pause Is Ending, With Consequences for Economy (New York Times)
学生ローン返済停止措置の終焉が近づいている。バイデン政権は、返済再開の時期を次のように規定している(「Topics2022年11月24日 学生ローン返済停止再延長」参照)。 9月には返済再開が迫られることになろう。上記sourceによれば、返済免除措置により返済が遅れた金額は、累積で$185Bにものぼると推計されている。
返済が再開すれば、この金額が改めて負債として認識されることになる。コロナ禍対策が終了したことにより、各種支援が打ち切られている。また、金利上昇により、住宅ローン、オートローンの金利も急上昇している(「Topics2023年6月15日(1) 金融引締め小休止」参照)。そうした中、学生ローン返済が再開されれば、多くの国民の生活に大影響がもたらされると危惧する意見が多いようだ。

こうした状況の中、返済免除措置を巡る連邦最高裁の判決の行方が注目されている(「Topics2023年3月2日(1) 学生ローン免除:最高裁審議開始」参照)。

※ 参考テーマ「教 育

6月23日(2) 転職禁止を州法で規制
Source :New York, Minnesota latest states to target noncompetes (HR Dive)
連邦政府では、今年に入り、競業他社への転職禁止を規制する動きが続いている(「Topics2023年1月9日 競業他社転職禁止の廃止案」「Topics2023年6月7日 NLRB:転職禁止はNLRA違反」参照)。これに呼応するように、州政府レベルでも同様の動きが顕著となっている。上記sourceでは、直近の動きとして、NY州、MN州の州法制定の概要を伝えている。 他の州でどうなっているか、一元的に調べているものが見つからなかったが、関連記事を2つみつけたので、それらをまとめておく(More States Block Noncompete Agreements(SHRM)SHRM Objects to Banning Noncompete Agreements(SHRM))。 ※ 参考テーマ「人事政策/労働法制

6月22日(1) 連邦最高裁への信認
Source :Majority of Americans say it was wrong for the Supreme Court to overturn Roe (NPR)
上記sourceによると、昨年の連邦最高裁判決(妊娠中絶の権利を否定)への反対意見が57%を占めている。これについては、党派色がはっきりと出ている。
また、連邦最高裁に対する信頼感は、59vs39で信頼できないとの意見が強い。ただし、世論調査全体の傾向として、最高裁に対する信認は徐々に回復している(FiveThirtyEight)。
社会における性の定義は、生まれた時の出産証明書に記されたものだけで決定すべきだとの意見が61%を占める(61vs36)。これについても党派色がはっきりしている。2022年5月時点では、51vs42だったので、賛成の割合が大きくなっている。、
※ 参考テーマ「司 法」、「LGBTQ」、「人口/結婚/家庭/生活

6月22日(2) 引退後の医療費負担
Source :Fidelity® Releases 2023 Retiree Health Care Cost Estimate: For the First Time in Nearly a Decade, Retirees See Relief as Estimate Stays Flat Year-Over-Yea (Fidelity)
上記sourceは、引退後の医療費負担推計を紹介している。具体的には、2023年に65歳で引退した場合に、引退後の医療費負担がどうなるかを推計している。当然のことながら、Medicareに加入することを前提としている。ポイントは次の通り。
  1. 2023年に65歳で引退した場合の医療費負担は、$157,500。

  2. 2022年の推計も同額である。前年比同額はここ10年間で初めてである。

  3. 前年比同額に抑えられた主要因は、「2025年以降、Medicare加入者の処方薬自己負担額は、年間上限額$2,000とする」と定められたことである(「Topics2022年10月11日 インフレ抑制法の副作用」参照)。

  4. 2002年は、$80,000だったので、この20年間でほぼ倍になったことになる。
※ 参考テーマ「Medicare