9月30日 ローンから奨学金へ 
Source :The Debt-Free College Degree (Businessweek)
アメリカの学生はローン債務を背負って社会人人生を開始する(「Topics2012年6月1日 負債を負ってスタート」参照)。しかし、それではいけない、と大学側は対策を打ち始めている。上記sourceでは、NC州にある名門大学"Davidson College"の例を紹介している。

同大学のwebsiteによれば、2012-2013年の授業料(含む寮・食費)は、$52,155となっている。400万円強である。当然、多くの学生達はローンによる支援を受ける必要性が出てくるところだが、同大学では、"no-loan policy"と銘打って、奨学金制度を用意している。その2012年度の概要は次の通り。 このような奨学金を用意することで、ローン債務を抱えることなく卒業できるようにするのである。

もちろん、このような形になるまでには時間がかかっている。 同様の動きは、Princeton大学が2001年から始めており、Ivy leagueをはじめとした名門校でも取り組んでいる。奨学金を受け取ることができれば、州立大学の州内授業料と同じレベルの負担で済むようになっているそうだ。ただし、先のリーマン・ショックでその動きが逆戻りしている部分がある。奨学金適用の要件である親の所得金額を引き下げるなどにより、ローン制度の適用を復活させたりしている。

Davidson Collegeでは、そのような逆戻りの措置は採らず、上記2つの基本方針を堅持している。これにより、卒業する学生の割合は88%を維持しており、その95%が就職または進学している。しかも、学生達がローンを抱えずに勉学に集中するため、高給で就職できているという。そして、彼らがまた奨学金の原資となる寄付を行ってくれるので、好循環が生まれている。

ここまで書いてみて、感想を3点。
  1. Duke Endowmentの資金力(=基金の大きさ)が凄い。奨学金を含めた高等教育への支援だけでなく、子育て、医療、教会活動にも支援をしており、2011年には、総額$129.8Mの拠出を約束している。
    また、それらの原資となる基金規模は、$2.7B(2010年)、投資収益率は15%近くに達している。
    こうした民間の資金が人材育成に大きな力を発揮している。

  2. 60%の卒業生が寄付しているというのは驚きである。上述のように、好循環が生まれているとしたら、それはまったくもって卒業生の力、民間の力で教育を支えていることになる。

  3. ただ、こうした好循環を生み出せるのは、名門大学に限られているのではないだろうか。大学卒業生一人平均$25,000のローン残高を背負っている状況(「Topics2012年8月5日 就職難+ローン」参照)からすれば、このように恵まれた環境で卒業する学生と、まったくそうした状況にない学生が存在している、ということになる。民間の力で伸びるところを伸ばすという仕組みは、それだけ差が生じることにもつながる。どこかで公的な支援の仕組みも必要になるのではないかと思う。
※ 参考テーマ「教育

9月29日 企業も従業員も医療負担増 
Source :Employer Health Benefits 2012 Annual Survey (Kaiser Family Foundation)
企業が提供する医療保険プランに関する調査結果が公表された。ポイントは次の通り。
  1. 2012年の保険料は、単身$5,615、家族$15,745となった。前年からの伸び率は、それぞれ3%、4%と、例年に較べればマイルドなものとなった。
  2. それでも、企業、従業員の保険料負担の伸び率は、賃金や物価の伸び率を大きく上回って推移している。
  3. 中小企業(従業員3〜199人)とそれ以上規模の企業で、従業員に保険料負担を求めているかどうかを見てみると、中小企業では従業員に保険料負担を求めていないところが結構残されている。ただ、単身プランの場合、企業規模に関わらず、従業員の保険料負担を25%以内に収めているところが4分の3を占めている。
  4. 医療保険プランを提供している企業の割合は、徐々に低下している。
  5. 現役従業員に医療保険プランを提供しているが、退職者にも提供しているという企業は4分の1にまで低下している。
  6. 提供している保険プランの形態をみると、伝統的な医療保険プランはほぼ絶滅しており、PPOが主流となっている。加えて、高免責額を設定したプランが増えてきている。
  7. 規模の大きな企業では、健康増進プログラムの提供が普及しており、そのための経済的なインセンティブを用意しているところが3分の2近くに達している。
企業が提供する保険プランは、ゆっくりと変化を続けている。

※ 参考テーマ「医療保険プラン

9月28日 親が不法移民でも 
Source :Court Rulings Help Illegal Immigrants’ College-Bound Children (New York Times)
州政府の財政事情が厳しいことから、州立大学・Community Collegeへの財政支援が絞られている。その一つの手段として用いられているのが、親が不法移民だから子どもへの財政支援は拒否するというものである。

ところが、最近、連邦地方裁が相次いでこの手法に待ったをかけている。 なお、CA州では、裁判の結果を踏まえ、2007年以降、「親が不法移民であることを理由として財政支援を行わない」との方針は取り下げている。

当websiteで取り上げてきた課題は、「親に連れてこられて不法移民となっている学生に対する州内授業料の適用」であり、上記のような例ではない。このような事例では、親の国外退去措置を恐れて、学生側が諦めるケースが多いため、あまり話題にならないらしい。

上記の2つの連邦裁判所は、「アメリカで生まれたアメリカ人なのに、親のステータスで差別するのは、アメリカ市民を二層化するようなものだ」としている。学生の立場に立てば、まさにその通りである。

ただし、州立大学やCommunity Collegeで州在住の学生に州内授業料という安い授業料が適用されている背景も考えなくてはいけない。州立大学やCommunity Collegeの財政は、州政府が支えている。つまり、州民が納めた税金が財源となっている。その税金を親達が納めているから、その子弟には安い授業料を適用している。

そう考えると、親が不法移民でまともな納税をしていない場合には、州内授業料を適用しない、という理屈も成り立つ。

こうした相容れない考え方の間で、どうバランスを取るのか。一つひとつ丁寧な議論の積み重ねが必要である。

※ 参考テーマ「移民/外国人労働者」、「教 育

9月27日 高齢者保険料が上昇:ME州 
Source :Young People Pay Less For Health Coverage, Older People Pay More, Under Maine's 'Market-Based' Approach (Kaiser Health News)
Maine州は、昨年、保険料の幅に関する規制を緩和する法案(LD 1333)を成立させた(「Topics2011年5月26日(2) ME州:保険料の幅を拡大へ」参照)。緩和策は次の通り。
個人、小規模企業を対象とした保険プランの保険料の幅に関する規制を徐々に緩和し、現在の1.5対1を3対1にまで拡大する。これは、連邦医療保険改革法で2014年に達成すべき年齢による格差の最大幅(3対1)と同じレベルである。
この緩和により、若者の保険料を引き下げ、加入者を増やすことが狙いであった。さらには、規制緩和により、保険会社の参入を増やすことも狙っていた。

しかし、法施行後6ヵ月経った時点での調査結果は次のようになっている。 こうした現状を踏まえ、同法の反対派は『高齢者の保険料が上がっただけ』と酷評している。

もともと、Maine州は、保険会社の寡占が進んでいる(「Topics2011年10月15日 州保険市場の自由度」参照)。例のMLRの特例でも、真っ先に、しかも州側の言い値そのままに最低レベルで認められている(「Topics2012年2月21日 MLR特例審査終了」参照)。要するに、保険会社の力が強いのである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/ME州

9月26日 Chapter 9で年金減額 
Source :Stockton bankruptcy case could test security of public pensions (Sacramento Bee)
新規採用の職員について年金減額が決まったCA州で、自治体の現役職員・退職者の年金減額が検討されている(「Topics2012年9月5日 CA州年金改革法案可決」参照)。San Jose市のように、CA州の年金システムに加入していない自治体ではなく、年金システムに加入している自治体の話である(「Topics2012年6月8日 年金改革案を承認:San Jose市 」参照)。

CA州Stockton市は、6月28日、Chapter 9に基づく破産申請を行なった。市レベルとしては最大規模の破産申請とのことである。この破産申請の中で、Stockton市は、今後25年間にわたり、市債償還額のうち$197.5Mを免除するよう求めている。

これに対し、Stockton市債の債券保険者となっている保険会社2社が、『Stockton市がCalPERSに拠出ことになっている資金(税収)を保険会社に支払う』よう、訴えている。

もしこの訴えが認められれば、Stockton市はCalPERSに拠出ができなくなり、Stockton市職員年金は間違いなく給付減額せざるを得なくなる。さらに、民間企業とは異なり、地方政府年金にはPBGCのような支払保証制度がないため、減額の幅については制限がない。

市債の保険者が今後の市債の保証をしてくれないということになると、新たな市債の発行は困難となり、再建計画がスムーズに運ばないことになってしまう。そのため、市としても譲らざるを得ない状況に追い込まれている。

このような流れの中で、CalPERSは激しく抵抗している(Calpensions)。 まさに、市債の債権者とCalPERSが、各自の債権確保を狙ってつばぜり合いを繰り広げているのである。

一方、2011年8月1日に破産申請を行なったRI州のCentral Falls市は、9月6日、破産裁判所から再建計画の承認を得た(New York Times)。主な再建計画の内容は次の通り。 こちらのケースでは、今後の資金調達に配慮して、年金減額、税率引き上げにより、債券の償還を保証しているのである。

『財政破綻 ⇒ Chapter 9 ⇒ 年金減額』という構図が、地方政府においても定着していくのかどうか、まさに分岐点に立っているようだ。

※ 参考テーマ「地方政府年金

9月25日 IL州教職員年金:予定利率引き下げ 
Source :Illinois Teachers pension fund cuts assumed rate of return to 8% (Pensions & Investments)
苦境に陥っているIL州(「Topics2012年8月14日 年金に潰される:IL州」参照)で、9月21日、州教職員年金の予定利率引き下げが決定された。
予定利率8.5%8.0%
積立比率45.2%42.4%
要拠出金額$3.07B$3.37B
ここまで積立比率が低下しているとなると、よほどの抜本改革を断行しないと持続可能性は見えてこない。そもそも予定利率8%は、まだまだ高過ぎるのでないか。

シカゴ市をはじめ(「Topics2012年9月21日 Pickup」参照)、IL州の教職員年金は、しばらくごたごたが続くことになるだろう。

※ 参考テーマ「地方政府年金

9月24日 Rate Reviewの効果 
Source :2012 Annual Rate Review Report: Rate Review Saves Estimated $1 Billion for Consumers (HealthCare.gov)
PPACAには、保険料抑制のための直接的な手法として、@保険料を10%以上引き上げた場合の精査(Rate Review)、A保険料収入の8割は保険給付に使わなければならない(Medical Loss Ratio, MLR)が盛り込まれている。

11日にHHSが公表したレポートによれば、 と推計している。HHSはこれをもって、PPACAは保険料抑制に効果をもたらした、と説明している。

一方、Rate Reviewは効果を発揮していない、との意見も多い。CA州の保険委員長は、『保険料引き上げ申請に対する拒否権を有しておらず、保険会社はRate Reviewのルールを無視している。自分達は後ろ手に手錠を嵌められているようなものだ』と述べている(MarketWatch)。

実際、HHS自身のレポート(上記source)でも認めているように、10%以上の引き上げ申請のうち、6割以上が承認され、しかも36%が無修正で承認されている。
これでは、HHSの主張は一面的に過ぎない、と評価されても仕方あるまい。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/CA州

9月23日 Penalty税推計額 
Source :Payments of Penalties for Being Uninsured Under the Affordable Care Act (CBO)
PPACAでは、保険加入を義務付けており、未加入の場合にはペナルティ税を課すこととなっている。Penalty税の概要は次の通り。
今月19日、CBOが、2016年時点でのpenalty課税の総額について、推計値を公表した。そのポイントは次の通り。
これを読んでの感想を2点。
  1. 無保険者が3,000万人いる中で、Penalty税を支払うのは約600万人。つまりは1/5しかいないことになる。

  2. このCBOの文書でも、penalty税は任意で支払うことを前提にしている(「Topics2012年9月13日 IRSは関与せず」参照)。従って、意図的に負担しようとしない人が出てくることを認めている。
これでは、負担した人の不公平感は高くなるのではないだろうか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

9月22日 Exchangeの呼称:CA州 
Source :The Exchange by Any Other Name (California Healthline)
CA州でも、Exchangeの名称の選定作業が進んでいる(「Topics2012年8月13日 "Exchange"を改名?」参照)。現時点で、次の4つに絞られていて、24日までにさらに3つ以内に絞られる予定だ。 選定から漏れた候補の中には、"Avocado"、"Guacamole"などが含まれていて、依然として根強い人気があるそうだ。CA州のAvocado生産量は、全米全体の95%を占めている。確かにCA州を連想させる食べ物だが、そこから保険市場を連想することはできるのだろうか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/CA州」、「無保険者対策/連邦レベル

9月21日 Pickup 
Source :Next School Crisis for Chicago: Pension Fund Is Running Dry (New York Times)
1週間強のストライキを終え、シカゴ市の公立学校は正常に戻ったが、次の危機は教職員年金の基金が枯渇すること、とのことである。今のところ、年金基金には$10Bの資産が積まれているが、毎年の年金支給で$1B以上の支出があるため、数年のうちに枯渇するという。

シカゴ市教職員年金の主な変遷は次の通り。
1980年代初め将来の賃金引き上げを抑制するため、労使協約で、教職員個人は、拠出率9%のうちの2%だけを負担し、残りの7%を自治体が実質負担することを決定。

1995年州議会の議決により、シカゴ市の拠出を一時停止することを認める。

2012年初めEmanuel市長が年金制度改革を提案
・退職年齢の引き上げ
・教職員の年金拠出の増加
・年金給付額の毎年3%引き上げを抑制
シカゴ市は、年金拠出を増やしたくても、
@固定資産税の上限が法定されていること、
A格付けが今夏引き下げられ借り入れにはコストが嵩むこと、
などから、なかなか増やすことができない。残された手段は、他の市行政サービスを大幅に削減することぐらいしかないそうだ。

これはまさに危機である。

ところで、『教職員個人の年金保険料は9%なのに、そのうち7%を自治体が負担する』という慣行を、"pickup"と呼ぶそうで、これはシカゴ市だけでなく、イリノイ州の多くの自治体で、本人保険料9.4%のほとんどを実質負担しているらしい。

こんな慣行、もっと悪く言えばなれ合いを続けていれば、年金基金が枯渇しても仕方あるまい。そろそろ結論を出さざるを得ない状況である。

※ 参考テーマ「地方政府年金