Source : | The Debt-Free College Degree (Businessweek) |
アメリカの学生はローン債務を背負って社会人人生を開始する(「Topics2012年6月1日 負債を負ってスタート」参照)。しかし、それではいけない、と大学側は対策を打ち始めている。上記sourceでは、NC州にある名門大学"Davidson College"の例を紹介している。
同大学のwebsiteによれば、2012-2013年の授業料(含む寮・食費)は、$52,155となっている。400万円強である。当然、多くの学生達はローンによる支援を受ける必要性が出てくるところだが、同大学では、"no-loan policy"と銘打って、奨学金制度を用意している。その2012年度の概要は次の通り。このような奨学金を用意することで、ローン債務を抱えることなく卒業できるようにするのである。
- 奨学金額は、親の収入、資産、家族人数などから一定の計算式に基づいて算出される。基本的には必要度に応じて提供する。
- 45.1%の学生(798人)が奨学金を受け取っている。
- 学生の受取金額は、$1,492〜$52,698と幅広く、平均は$33,995となっている。
- 奨学金の総額は、$24.5Mに達する。
- 財源は、Duke Endowmentからの拠出金、学生会の募金活動で集めた寄付金、卒業生からの寄付金となっている。
もちろん、このような形になるまでには時間がかかっている。同様の動きは、Princeton大学が2001年から始めており、Ivy leagueをはじめとした名門校でも取り組んでいる。奨学金を受け取ることができれば、州立大学の州内授業料と同じレベルの負担で済むようになっているそうだ。ただし、先のリーマン・ショックでその動きが逆戻りしている部分がある。奨学金適用の要件である親の所得金額を引き下げるなどにより、ローン制度の適用を復活させたりしている。
- 初めは、ローンに上限(年間$4,500、4年間で$18,000)を設けることから始めた。
- 2006年に、Duke Endowmentから年間$875,000の拠出が認められ、ローンの年間上限額を$3,000に引き下げた。
- 2007年、やはりDuke Endowmentから年間$15Mの追加拠出が認められ、ローンによる支援策を廃止し、奨学金制度に完全移行した。
- これにより、"no-loan policy"と"need-blind admission policy"を実現した。この両方針のもとで、親の経済力に関係なく、優秀な学生を入学させることができるようになる。
Davidson Collegeでは、そのような逆戻りの措置は採らず、上記2つの基本方針を堅持している。これにより、卒業する学生の割合は88%を維持しており、その95%が就職または進学している。しかも、学生達がローンを抱えずに勉学に集中するため、高給で就職できているという。そして、彼らがまた奨学金の原資となる寄付を行ってくれるので、好循環が生まれている。
ここまで書いてみて、感想を3点。※ 参考テーマ「教育」
- Duke Endowmentの資金力(=基金の大きさ)が凄い。奨学金を含めた高等教育への支援だけでなく、子育て、医療、教会活動にも支援をしており、2011年には、総額$129.8Mの拠出を約束している。また、それらの原資となる基金規模は、$2.7B(2010年)、投資収益率は15%近くに達している。こうした民間の資金が人材育成に大きな力を発揮している。
- 60%の卒業生が寄付しているというのは驚きである。上述のように、好循環が生まれているとしたら、それはまったくもって卒業生の力、民間の力で教育を支えていることになる。
- ただ、こうした好循環を生み出せるのは、名門大学に限られているのではないだろうか。大学卒業生一人平均$25,000のローン残高を背負っている状況(「Topics2012年8月5日 就職難+ローン」参照)からすれば、このように恵まれた環境で卒業する学生と、まったくそうした状況にない学生が存在している、ということになる。民間の力で伸びるところを伸ばすという仕組みは、それだけ差が生じることにもつながる。どこかで公的な支援の仕組みも必要になるのではないかと思う。
Source : | Employer Health Benefits 2012 Annual Survey (Kaiser Family Foundation) |
企業が提供する医療保険プランに関する調査結果が公表された。ポイントは次の通り。企業が提供する保険プランは、ゆっくりと変化を続けている。
- 2012年の保険料は、単身$5,615、家族$15,745となった。前年からの伸び率は、それぞれ3%、4%と、例年に較べればマイルドなものとなった。
- それでも、企業、従業員の保険料負担の伸び率は、賃金や物価の伸び率を大きく上回って推移している。
- 中小企業(従業員3〜199人)とそれ以上規模の企業で、従業員に保険料負担を求めているかどうかを見てみると、中小企業では従業員に保険料負担を求めていないところが結構残されている。ただ、単身プランの場合、企業規模に関わらず、従業員の保険料負担を25%以内に収めているところが4分の3を占めている。
- 医療保険プランを提供している企業の割合は、徐々に低下している。
- 現役従業員に医療保険プランを提供しているが、退職者にも提供しているという企業は4分の1にまで低下している。
- 提供している保険プランの形態をみると、伝統的な医療保険プランはほぼ絶滅しており、PPOが主流となっている。加えて、高免責額を設定したプランが増えてきている。
- 規模の大きな企業では、健康増進プログラムの提供が普及しており、そのための経済的なインセンティブを用意しているところが3分の2近くに達している。
※ 参考テーマ「医療保険プラン」
Source : | Court Rulings Help Illegal Immigrants’ College-Bound Children (New York Times) |
州政府の財政事情が厳しいことから、州立大学・Community Collegeへの財政支援が絞られている。その一つの手段として用いられているのが、親が不法移民だから子どもへの財政支援は拒否するというものである。
ところが、最近、連邦地方裁が相次いでこの手法に待ったをかけている。なお、CA州では、裁判の結果を踏まえ、2007年以降、「親が不法移民であることを理由として財政支援を行わない」との方針は取り下げている。
- Florida州
- 学生はFlorida生まれでアメリカ国籍を持っている。同州の高校も卒業している。しかし、親が不法移民であるために、奨学金は減額され、州外授業料を適用された。
- このような方針は、2010、2011年から適用されている。
- 8月31日、連邦地方裁判所は、学生の訴えを認め、州政府の方針を否定した。
- New Jersey州
- 学生はアメリカで生まれ、1997年から同州に在住し、同州の高校も卒業している。しかし、親が不法移民であるために、財政支援の申請が却下された。
- このような方針は、2005年から適用されている。
- 8月8日、連邦地方裁判所は、学生は市民であるとして、州政府の方針を否定した。
当websiteで取り上げてきた課題は、「親に連れてこられて不法移民となっている学生に対する州内授業料の適用」であり、上記のような例ではない。このような事例では、親の国外退去措置を恐れて、学生側が諦めるケースが多いため、あまり話題にならないらしい。
上記の2つの連邦裁判所は、「アメリカで生まれたアメリカ人なのに、親のステータスで差別するのは、アメリカ市民を二層化するようなものだ」としている。学生の立場に立てば、まさにその通りである。
ただし、州立大学やCommunity Collegeで州在住の学生に州内授業料という安い授業料が適用されている背景も考えなくてはいけない。州立大学やCommunity Collegeの財政は、州政府が支えている。つまり、州民が納めた税金が財源となっている。その税金を親達が納めているから、その子弟には安い授業料を適用している。
そう考えると、親が不法移民でまともな納税をしていない場合には、州内授業料を適用しない、という理屈も成り立つ。
こうした相容れない考え方の間で、どうバランスを取るのか。一つひとつ丁寧な議論の積み重ねが必要である。
※ 参考テーマ「移民/外国人労働者」、「教 育」
Source : | Young People Pay Less For Health Coverage, Older People Pay More, Under Maine's 'Market-Based' Approach (Kaiser Health News) |
Maine州は、昨年、保険料の幅に関する規制を緩和する法案(LD 1333)を成立させた(「Topics2011年5月26日(2) ME州:保険料の幅を拡大へ」参照)。緩和策は次の通り。個人、小規模企業を対象とした保険プランの保険料の幅に関する規制を徐々に緩和し、現在の1.5対1を3対1にまで拡大する。これは、連邦医療保険改革法で2014年に達成すべき年齢による格差の最大幅(3対1)と同じレベルである。この緩和により、若者の保険料を引き下げ、加入者を増やすことが狙いであった。さらには、規制緩和により、保険会社の参入を増やすことも狙っていた。
しかし、法施行後6ヵ月経った時点での調査結果は次のようになっている。こうした現状を踏まえ、同法の反対派は『高齢者の保険料が上がっただけ』と酷評している。
- 保険会社の新規参入はなく、小規模企業向け保険プランの保険料は、大半が上昇した。
- 個人向け保険プランでは、40歳以下の保険料が下がり、55歳以上の保険料が最大18%上昇した。全体では、1.7%の上昇であった。
もともと、Maine州は、保険会社の寡占が進んでいる(「Topics2011年10月15日 州保険市場の自由度」参照)。例のMLRの特例でも、真っ先に、しかも州側の言い値そのままに最低レベルで認められている(「Topics2012年2月21日 MLR特例審査終了」参照)。要するに、保険会社の力が強いのである。
※ 参考テーマ「無保険者対策/ME州」
Source : | Stockton bankruptcy case could test security of public pensions (Sacramento Bee) |
新規採用の職員について年金減額が決まったCA州で、自治体の現役職員・退職者の年金減額が検討されている(「Topics2012年9月5日 CA州年金改革法案可決」参照)。San Jose市のように、CA州の年金システムに加入していない自治体ではなく、年金システムに加入している自治体の話である(「Topics2012年6月8日 年金改革案を承認:San Jose市 」参照)。
CA州Stockton市は、6月28日、Chapter 9に基づく破産申請を行なった。市レベルとしては最大規模の破産申請とのことである。この破産申請の中で、Stockton市は、今後25年間にわたり、市債償還額のうち$197.5Mを免除するよう求めている。
これに対し、Stockton市債の債券保険者となっている保険会社2社が、『Stockton市がCalPERSに拠出ことになっている資金(税収)を保険会社に支払う』よう、訴えている。
もしこの訴えが認められれば、Stockton市はCalPERSに拠出ができなくなり、Stockton市職員年金は間違いなく給付減額せざるを得なくなる。さらに、民間企業とは異なり、地方政府年金にはPBGCのような支払保証制度がないため、減額の幅については制限がない。
市債の保険者が今後の市債の保証をしてくれないということになると、新たな市債の発行は困難となり、再建計画がスムーズに運ばないことになってしまう。そのため、市としても譲らざるを得ない状況に追い込まれている。
このような流れの中で、CalPERSは激しく抵抗している(Calpensions)。まさに、市債の債権者とCalPERSが、各自の債権確保を狙ってつばぜり合いを繰り広げているのである。
- 自治体とCalPERSの関係は、単なる債権債務契約関係ではなく、州政府が自治体を保護する関係にある。
- CalPERSは、受給権を確保するというfiduciary dutyを負っており、雇い主の拠出を削減させる権限はない。
- CA州法のもとで、CalPERSの年金システムに加入している現役職員の給付を引き下げることはできない。
- 従って、州法上、自治体がCalPERSとの契約関係を解消することはできない。
- 仮に、年金制度を廃止するのであれば、CaiPERS内の年金廃止手続きに則って、資産と負債をCalPERSに移管しなければならない。通常必要となる拠出以上の負担が自治体に求められる。
一方、2011年8月1日に破産申請を行なったRI州のCentral Falls市は、9月6日、破産裁判所から再建計画の承認を得た(New York Times)。主な再建計画の内容は次の通り。こちらのケースでは、今後の資金調達に配慮して、年金減額、税率引き上げにより、債券の償還を保証しているのである。
- 市債保有者に対し、債券の償還を確約する。
- 年金給付については、最大55%削減する。ただし、年金給付額$10,000以下は減額されない。
- 固定資産税を毎年4%ずつ、5年間引き上げる。
- 市職員を大幅に削減する。
『財政破綻 ⇒ Chapter 9 ⇒ 年金減額』という構図が、地方政府においても定着していくのかどうか、まさに分岐点に立っているようだ。
※ 参考テーマ「地方政府年金」
Source : | Illinois Teachers pension fund cuts assumed rate of return to 8% (Pensions & Investments) |
苦境に陥っているIL州(「Topics2012年8月14日 年金に潰される:IL州」参照)で、9月21日、州教職員年金の予定利率引き下げが決定された。ここまで積立比率が低下しているとなると、よほどの抜本改革を断行しないと持続可能性は見えてこない。そもそも予定利率8%は、まだまだ高過ぎるのでないか。
予定利率 8.5% ⇒ 8.0% 積立比率 45.2% ⇒ 42.4% 要拠出金額 $3.07B ⇒ $3.37B
シカゴ市をはじめ(「Topics2012年9月21日 Pickup」参照)、IL州の教職員年金は、しばらくごたごたが続くことになるだろう。
※ 参考テーマ「地方政府年金」
Source : | 2012 Annual Rate Review Report: Rate Review Saves Estimated $1 Billion for Consumers (HealthCare.gov) |
PPACAには、保険料抑制のための直接的な手法として、@保険料を10%以上引き上げた場合の精査(Rate Review)、A保険料収入の8割は保険給付に使わなければならない(Medical Loss Ratio, MLR)が盛り込まれている。
11日にHHSが公表したレポートによれば、と推計している。HHSはこれをもって、PPACAは保険料抑制に効果をもたらした、と説明している。
- Rate Reviewのおかげで、保険料は総額$1Bの抑制ができた。
- MLRにより、1,300万人が総額$1.1Bの還付を受けた。
- 両方合わせて、1年間に$2.1Bを抑制することができた。
一方、Rate Reviewは効果を発揮していない、との意見も多い。CA州の保険委員長は、『保険料引き上げ申請に対する拒否権を有しておらず、保険会社はRate Reviewのルールを無視している。自分達は後ろ手に手錠を嵌められているようなものだ』と述べている(MarketWatch)。
実際、HHS自身のレポート(上記source)でも認めているように、10%以上の引き上げ申請のうち、6割以上が承認され、しかも36%が無修正で承認されている。 これでは、HHSの主張は一面的に過ぎない、と評価されても仕方あるまい。
※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/CA州」
Source : | Payments of Penalties for Being Uninsured Under the Affordable Care Act (CBO) |
PPACAでは、保険加入を義務付けており、未加入の場合にはペナルティ税を課すこととなっている。Penalty税の概要は次の通り。 今月19日、CBOが、2016年時点でのpenalty課税の総額について、推計値を公表した。そのポイントは次の通り。
- 無保険者のうち約600万人がPenalty税を支払う。総額は、2016年で約$7B、2017〜2022年は平準化されて約$8B(年間)と見込まれる。
- 2016年時点での65歳未満の無保険者は、約3,000万人。
- そのうち、次の人々が課税免除となる。
- 不法移民
- 課税最低限を下回る低所得者
- ネイティブ・インディアン
- 保険料負担が所得の8%(2014年)を上回る家計
- 障害者
- 特定の宗教信者
- Penalty税を支払う無保険者数ならびに金額の所得分布推計は次の通り。
- Penalty税を支払う無保険者数、支払額の推計は、PPACA成立当初の2010年4月の推計を上回っている。その理由は次の通り。
- 失業率が高く、賃金が低く見積もられている。
- 連邦最高裁の判決により、いくつかの州でMedicaid加入対象者を拡大しないことが見込まれるため、無保険者数が増える。
これを読んでの感想を2点。これでは、負担した人の不公平感は高くなるのではないだろうか。
- 無保険者が3,000万人いる中で、Penalty税を支払うのは約600万人。つまりは1/5しかいないことになる。
- このCBOの文書でも、penalty税は任意で支払うことを前提にしている(「Topics2012年9月13日 IRSは関与せず」参照)。従って、意図的に負担しようとしない人が出てくることを認めている。
※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」
Source : | The Exchange by Any Other Name (California Healthline) |
CA州でも、Exchangeの名称の選定作業が進んでいる(「Topics2012年8月13日 "Exchange"を改名?」参照)。現時点で、次の4つに絞られていて、24日までにさらに3つ以内に絞られる予定だ。選定から漏れた候補の中には、"Avocado"、"Guacamole"などが含まれていて、依然として根強い人気があるそうだ。CA州のAvocado生産量は、全米全体の95%を占めている。確かにCA州を連想させる食べ物だが、そこから保険市場を連想することはできるのだろうか。
- Covered, CA
- CaliHealth
- Ursa
- Eureka
※ 参考テーマ「無保険者対策/CA州」、「無保険者対策/連邦レベル」
Source : | Next School Crisis for Chicago: Pension Fund Is Running Dry (New York Times) |
1週間強のストライキを終え、シカゴ市の公立学校は正常に戻ったが、次の危機は教職員年金の基金が枯渇すること、とのことである。今のところ、年金基金には$10Bの資産が積まれているが、毎年の年金支給で$1B以上の支出があるため、数年のうちに枯渇するという。
シカゴ市教職員年金の主な変遷は次の通り。シカゴ市は、年金拠出を増やしたくても、
1980年代初め 将来の賃金引き上げを抑制するため、労使協約で、教職員個人は、拠出率9%のうちの2%だけを負担し、残りの7%を自治体が実質負担することを決定。 1995年 州議会の議決により、シカゴ市の拠出を一時停止することを認める。 2012年初め Emanuel市長が年金制度改革を提案
・退職年齢の引き上げ
・教職員の年金拠出の増加
・年金給付額の毎年3%引き上げを抑制
@固定資産税の上限が法定されていること、
A格付けが今夏引き下げられ借り入れにはコストが嵩むこと、
などから、なかなか増やすことができない。残された手段は、他の市行政サービスを大幅に削減することぐらいしかないそうだ。
これはまさに危機である。
ところで、『教職員個人の年金保険料は9%なのに、そのうち7%を自治体が負担する』という慣行を、"pickup"と呼ぶそうで、これはシカゴ市だけでなく、イリノイ州の多くの自治体で、本人保険料9.4%のほとんどを実質負担しているらしい。
こんな慣行、もっと悪く言えばなれ合いを続けていれば、年金基金が枯渇しても仕方あるまい。そろそろ結論を出さざるを得ない状況である。
※ 参考テーマ「地方政府年金」