12月10日 下院共和党の年金保険料引き下げ法案 
Source :Republicans Unveil Plan for Payroll Tax (New York Times)
8日、下院共和党が用意している年金保険料引き下げ法案の内容が明らかになった。ポイントは次の通り。
  1. 現行の従業員保険料率(4.2%)を維持する。

  2. 失業保険の最長給付期間を、99週から徐々に引き下げ、59週とする。

  3. "Doc Fix"を継続する(これがなければ、Medicareの診療報酬は自動的に27%カットされる)。そのための財源を、医療保険改革法で手当てした予防医療、公衆医療の予算から回す。

  4. カナダからの原油パイプラインの建設を加速する。

  5. 財源対策
    • 連邦職員の給与引き上げを凍結する。

    • 所得の高いMedicare加入者の保険料を引き上げる。

    • 連邦政府資産を一部売却する。

    • 連邦政府職員を10%削減する。

パイプラインの建設加速は、Obama大統領が嫌っている政策であり、この項目が含まれていれば、拒否権発動となるだろう。

いずれにしても、年金保険料引き下げ法案は、両党とも成立させることを目的とするよりも、国民へのアピールを優先しているとしか思えない。上院では、1日に両党の提出法案が否決された(「Topics2011年12月2日 年金保険料引き下げ法案否決」参照)後、修正法案(民主党修正法案共和党修正法案)が提出されたが、いずれも審議入りは否決されている(vote #224#225)。 こうした状況では、いくら法案を提出しても、議論は深まらない。こういう時こそ大統領の出番であるのに、大統領まで対決ムードに乗ってしまっている。解決にはまだ時間がかかりそうである。

※ 参考テーマ「公的年金改革」、「Medicare

12月9日 PPACAがCDプランを後押し 
Source :Defined Contributions Define Health-Care Future: Peter Orszag (Businessweek)
当websiteではお馴染みのCDプランだが、上記sourceでは、 を背景に、今後も普及が進むだろうとみている。

上記i.については、もともと医療費の高騰リスクを遮断する意味からCDプランが考案されているので、当然のことであろう。

問題は、A.の方である。PPACAでは、各州に"Exchange"を創設することが規定されている。この"Exchange"で提供される4つのタイプの保険プランでは、加入者が給付を選択できるシステムになっており、CDプランの要素が強い(NAIC資料)。このように、個人・小規模企業プランでDCプランが定着していけば、大企業もそうしたプランの導入を進めやすくなる。

実際、企業の方では、PPACAの施行に伴って、医療保険プランの提供を止めることよりも、CDプランへの移行を真剣に検討しているという。有能な従業員を引きつけておくことも、企業にとっては重要な課題だからである。

ところで、上記sourceの筆者はPeter Orszag氏である。同氏は、現在、Citigroupの幹部で、Obama大統領の下でOMB長官を務めたこともあるエコノミストである。こういう人物、すなわち、経済活動も、経済学も、行政も理解している人物が、官民の間を行き来する仕組みは、本当に羨ましい。

※ 参考テーマ「CDプラン」、「無保険者対策/連邦レベル

12月8日 離職手当の功罪 
Source :Pros and Cons of Severance Agreements (Fisher & Phillips LLP)
アメリカ企業には、離職手当(Severance Pay)という仕組みがある。その概要は、拙著「アメリカ企業の解雇の実態」(2002年10月11日)のP.12〜14を参照いただきたい。なお、最近の離職手当等に関する実態調査として、"Severance and Change-in-Control Practices" (WorldatWork) が公表されているので、ご参考まで。

さて、上記sourceでは、そうした離職手当を漫然と支払っていてよいのか、との疑問を提起している。理由は次の3点。
  1. 支払額に関する基準といったものはなく、いくら支払えば、従業員は納得して署名してくれるのか、誰も確答できない。

  2. 果たして、従業員は必ず署名してくれるのか。火のないところに煙は立たず、で、何かを隠そうとしているのではないか、との疑念を生むのではないか。

  3. 離職者が40歳以上の場合、OWBPAの対象となることを考慮して、合意文書を作成しなければならない。
こうしたことを考えると、離職手当の制度設計は、様々な要素を考慮しなければならないはずだ、との結論を示している。

※ 参考テーマ「解雇事情/失業対策」、「人事政策/労働法制

12月7日 州政府職員も逃げ出す 
Source :Many Workers in Public Sector Retiring Sooner (New York Times)
州政府、自治体職員の退職者が増加している。予め想定していた年齢も早く退職している人が増えているそうだ。実際、11月の州政府職員数は、1年前にくらべて71,000人減少している。また、自治体職員も同じく18万人減少している。

こうした背景にあるのは、財政赤字解消策である。職員達にとっては、給与は凍結、医療保険ベネフィットは切り下げられる。そのうえ、このまま在職を続けているうちに、年金が切り下げられてはたまらない、ということのようである。

経済情勢が今一つ思わしくなく、厳しい労働市場の中、次の職を見つけ出すのは難しいとはわかっていながらも、年金が切り下げられるのは避けたいのである。

この構図は、先に紹介したAmerican Airlinesのパイロット達が次々と退職していった時と同じである(「Topics2011年12月1日 AMR:Chapter 11申請」参照)。

※ 参考テーマ「地方政府年金」、「労働市場

12月6日 USPS リストラ第1弾 
Source :Postal Service announces closure of 252 processing facilities (GovExec.com)
いよいよ、US Postal Serviceが、リストラ第1弾を公表した(「Topics2011年12月3日 Blackの失業率」参照)。487ある集配施設のうち、252施設を閉鎖するという。これにより、手紙の配達日数は2〜3日となり、利便性が大きく低下するばかりでなく、全米で28,000人の雇用が失われる。

USPSは、2011年度に$5.1Bの赤字を計上しており、2015年までに営業コストを$20B削減しなければ、黒字体質になれない。また、キャッシュ・フローも厳しいようで、2012年度末には資金が枯渇するとみられている。

当然、さらなるリストラが必要となり、雇用もそれだけ失われることになりかねない。 こうした事態に対し、上院でUSPSを所管している"Committee on Homeland Security and Governmental Affairs"の両党リーダーは懸念を表明しており、何らかの法的措置、財政支援を検討することになりそうである(Los Angeles Times)。

※ 参考テーマ「労働市場」、「解雇事情/失業対策

12月5日 "Game the System"(2) 
Source :Study: Big Employers Could Dump Sickest Employees On To Exchanges (Kaiser Health News)
このフレーズ"Game the System"に言及するのは2回目である(「Topics2010年7月24日(1) "Game the System"」参照)。 その意味するところは、
"to use rules or laws to get what you want in an unfair but legal way" (Longman)
である。

前回は、『健康な間は保険に加入せず、病気の間だけ短期加入を繰り返す行為』を指して、このような表現を使っていた。

一方、今回は、大企業が重い病気の従業員を合法的に"Exchange"に誘導し、自らの負担を減らそうとするのではないか、という疑念について使用している。

ミネソタ大学のAmy Monahan准教授の主張は次の通りである。
  1. 現行の医療保険改革法では、大企業が病気の重い従業員を合法的に"Exchange"に誘導しようとすれば可能となる抜け穴(loophole)がある。

  2. これは、大企業の中でも過半数を占める"self-insure"のプランを採用している場合に可能性が高まる(「Topics2010年1月21日(2) 2つの企業提供保険プラン」参照)。

  3. 健康的な従業員は保険プランに残り、病気の重い従業員を"Exchange"に誘導する手段は次のようなものが考えられる。
    • 医療機関との保険給付契約ネットワークに含まれる専門医の数を限定する。
      ⇒"Exchange"の方が専門医の数が豊富となり、重病の従業員にとって魅力的となる。

    • 保険料を高く設定し、健康管理プログラムに参加した場合の割引率を高くする。
      ⇒重病の従業員は、そもそも健康管理プログラムに参加し辛いため、高い保険料を負担せざるを得なくなり、"Exchange"を選択する。

    • 免責額、自己負担を高めに設定する。
      ⇒慢性病の従業員にとっては負担が高くなる。

  4. こうした誘導を防ぐためには、MA州皆保険制度のように、勤め先の企業が提供する医療保険プランに加入できる場合には"Exchange"に加入できないようにする必要がある。
こうした指摘に対する反論も紹介されている。Minnesota Buyers Health Care Action GroupのCarolyn Pare代表は、次のように指摘している。
  1. 企業は、利益の最大化と社会的な評判の悪化とのバランスを考えている。

  2. 病気の重い従業員を"Exchange"に追放するようなことをすれば、社会的な評判は最悪となる(おそらく、かつてのWal-Martのように批判を受ける)。

  3. 企業はそのような選択はしないのではないか。
ただし、医療費の高騰が続けば、こうした行動に出る企業も多く出てくるのではないかとの疑念は当然であろう。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「医療保険プラン」、「Wal-Mart

12月4日 Doughnut hole縮小 
Source :Medicare's drug coverage gap shrinks (AP)
評判の悪かったMedicare Part Dの"Doughnut hole"が縮小しつつある(「Topics2009年8月31日 Doughnut Holeを塞ぐには」参照)。これは、まさに医療保険改革法の成果である(制度改革概要)。

主な仕組みは次のようになっている(標準的なプランでは、免責額$310、自己負担25%)。
免責額+自己負担
$0
免責額Part Dプランの保険給付なし
$310
通常の保険給付自己負担25%、給付75%
$2,840
Doughnut hole 2010年:全額負担。ただし、$250の一時金支給
 ↓
2011年:ブランド品は50%割引、後発品は7%割引
 ↓
2012年:ブランド品は50%割引、後発品は14%割引
 ↓
 ↓
2020年:自己負担25%
$4,550
Catastrophic coverage 5%の自己負担 または
ブランド品について$6.3、後発品について$2.5の自己負担
CMSの推計によれば、Doughnut holeに陥った人の平均的な自己負担額は、$1,504から$901に引き下げられた。共和党が狙っている通りに医療保険改革法が全廃されると、このDoughnut holeは再び出現することになる。

※ 参考テーマ「Medicare

12月3日 Blackの失業率 
Source :As Public Sector Sheds Jobs, Black Americans Are Hit Hard (New York Times)
Black Americanの失業率が高まっている。

この30年間、一貫してBlackの失業率は全体を上回り続けており、2010年の平均失業率は16.0%と過去最高のレベルに近づいた。
また、Black Americanの失業率について、足許を反映したグラフを作ってみると次のようになる。ちなみに、直近の10月は15.1%であった。2009年4月に15%台に乗って以来、2年以上、15%超を続けている。
このように厳しい状況に置かれているBlack Americanに追い打ちをかけているのが、連邦政府・州財政の財政赤字削減策である。Black Americanの就職先は公的部門が多く、財政赤字削減策が進められると公的部門の雇用も減少してしまうからである。

典型例として、US Postal Serviceは、従業員の25%がBlack Americanと言われている。そのUSPSは、22万人の雇用削減を検討している。そうなれば、大量のBlack Americanの失業者が出てくることになる。

南北戦争後、解放されたBlack Americanの多くを、公的部門が雇用したという経緯があるそうだ。以来、Black Americanの公的部門における雇用比率は高く、そこから中間層に上ってきた人達も多数いる。しかし、長期にわたる小さな政府への指向、リーマンショック、欧州債務危機等により、その道も狭められようとしている。

※ 参考テーマ「労働市場

12月2日 年金保険料引き下げ法案否決 
Source :Payroll tax break: Extension proposals from both parties fail in Senate (Washington Post)
1日、上院で年金保険料引き下げ法案の審議入りについて可否が問われた。法案は2つ提出されたが、いずれも審議入りに必要な得票は得られなかった。 民主党法案は、民主党議員からも反発を受け、60票を確保できず、審議入りは拒否された。また、歳出削減で財源を確保しようという共和党法案は、共和党内部からの賛成がまったく得られず、こちらも審議入りは拒否された。人気政策の継続が危うくなっている。

※ 参考テーマ「公的年金

12月1日 AMR:Chapter 11申請 
Source :American Airlines Parent Files for Bankruptcy (New York Times)
American Airlinesの親会社であるAMRが、29日、Chapter 11を申請した。やはり、パイロット達は泥舟から逃げ出していたのである(「Topics2011年10月6日 AAのDBに危機説」参照)。

Chapter 11申請の背景には、同社の赤字が続いていること、航空燃料が高騰していること(Washington Post)、などがあるのはもちろんだが、直接の引き金は、パイロットの組合との労使協議が決裂したことである。Chapter 11の最大の目的が労働コストの引き下げなのは、明白である。

上記sourceによれば、9月30日時点で、AMRの資産は$24.7B、負債は$29.6Bとのことで、債務超過は$5B程度である。しかしながら、企業年金については、もっと悲惨な状況にあるようだ。PBGCの試算によれば、11月29日時点で、年金資産は$8.3B、給付債務は$18.5Bと、約$10Bの大幅債務超過となっている(PBGC Press Release)。

AMRの年金がPBGCに移管された場合、PBGCが引き継ぐ給付債務は約$17Bとなり、およそ$1B分は給付が削減されることとなる。さらに、$9B近くがPBGCの債務超過額$26Bに上乗せされることになる(「Topics2011年11月17日 PBGCが抱える大穴」参照)。PBGCは、再び航空会社の巨額のつけを負わされることになる。

こうしてみると、早目に退職していったパイロット達は、合理的な選択をしていることになる。Chapter 11申請前に退職し、年金を一時金で受け取り、これを原資にannuityを購入する。こうすれば、積み上げてきた資金をまったく傷つけずに済む。でも、何となくしっくりと来ないのは、日本人だからだろうか。

※ 参考テーマ「PBGC/Chapter 11