11月20日 Big 3を巡る攻防
20日昼(日本時間)の報道では、連邦議会におけるBig 3救済法案の週内採決は撤回、とされている(「Topics2008年11月18日(1) Big 3救済法案」参照)。これを受けて、おそらくGM、Fordの株価は下落するであろう。
ところで、Big 3を巡っては、経営者や株主以外にも、やきもきしている人達がたくさんいる。
- UAW
Source : Automaker Bankruptcies Would Require Taxpayers To Pay $3B Annually for Health Care, UAW President Gettelfinger Says (Kaisernetwork)
UAWは、次のような主張を行っている。
- 仮にBig 3が破綻(Chapter 11を申請)した場合、Big 3の退職者にかかる医療費を負担する必要があることから、Medicareにかかる連邦政府は、毎年$3Bの追加負担をする必要がでてくる。
- UAWとBig 3の間で設立を約束しているVEBAに対して、$25Bの融資を求める。
- 経営支援のための融資の条件として、賃金の削減や退職者医療プランの廃止などが議論されているが、UAWとしては到底認められない。
※ 参考テーマ「VEBA/Legacy Cost」
- PBGC
Source : PBGC Request To GM For Pension Information Goes Unanswered (CNN Money)
Big 3の経営状況が悪化して、PBGCは強い懸念を抱いている。もともと、GMの年金プランの財政状況に対して強い疑念を抱いていることに加え、自らの資産運用損失も大きい。このうえにBig 3の年金債務を引き受けることになれば、PBGC自体の持続可能性に疑問符がついてしまう。
PBGCは、GMの積立状況について詳細な情報を提供するよう申し入れているが、GMは大丈夫だ、というだけで、求められている情報の提供は行っていないそうだ。
※ 参考テーマ「PBGC/Chapter 11」
- Heritage Foundation
Source : Automakers Need Bankruptcy, Not Bailout (Heritage Foundation)
Heritage Foundationといえば、バリバリの保守系シンクタンクである。その主張のポイントは次の通り。
- 税金を利用した救済融資は、現状の先送りであり、単に破綻を遅らせるだけである。
- 自動車業界の経営形態は、もっと近代化しなければならない。そのためには、労働協約、ブランドの統廃合、販売店との関係の見直しを進めなければならない。
- 破綻処理の中でこそ、こうした大掛かりな変革が可能となる。救済融資をすれば、再び援助が必要となるか、もっと大変な破綻処理をしなければならなくなる。
保守派は、来年のObama新大統領−新連邦議会の時期になったら、ますますやきもきするのだろうが・・・。
※ 参考テーマ「PBGC/Chapter 11」
GM、Fordの株価動向は次の通り。 ⇒ GM Ford
11月19日 Best Health Plans Source : Best Health Plans (U.S. News & World Report)
U.S. News & World Report誌が公表した、今年のベスト医療保険である。加入者の満足度、予防サービスの内容、病状別の措置内容の3分野で、項目別に格付したものを、総合点に直したランキングである。民間保険、Medicare、Medicaidそれぞれについてランクを公表しており、医療保険ランキングの全体も掲載されている。
また、よくみると、病院のランキングも診療科別に掲載されている。
こうした医療情報が身近なところ入手できる環境というのは、本当に羨ましい限りである。
11月18日(1) Big 3救済法案
Source : Congress Unlikely To Pass Economic Stimulus Package With Additional Medicaid Funds in Lame-Duck Session (Kaisernetwork)
今週、上下両院で、経済活性化法案の審議が始まった。内容は、
- 失業保険給付の拡充
- Medicaidに関する連邦政府支出の拡大
- Big 3および関連企業への緊急融資
である。大統領、共和党議員が反対しているため、法案成立の可能性は低いという。
上記法案に含まれているBig 3等への緊急融資は、先の緊急金融安定化法で用意された$700Bから$25Bを使って行おうというものである。これは、経営者側の「運転資金が枯渇する」という悲鳴に応えるためのものである。
一方、上記sourceによれば、UAW首脳は、Pelosi下院議長ほか議会有力者との会談で、VEBAを支援するために$25Bの融資を要請したそうだ。やはり、労組はこちらを選択していたのだ(「Topics2008年11月12日 VEBAに赤信号点滅」参照)。
上述したように、今回の議会セッションでは法案成立は難しいとしても、来年になれば、Obama新大統領と強力な民主党議会が政策を動かすことになる。そうなった場合、UAWは、ますますObama新大統領への要請圧力を高めることになるだろう。
GM、Fordの株価動向は次の通り。 ⇒ GM Ford
※ 参考テーマ「VEBA/Legacy Cost」
11月18日(2) 金融危機とDB(2) - 州/地方自治体
Source : The Financial Crisis and State/Local Defined Benefit Plans (Center for Retirement Research at Boston College)
前回に続き、州/地方自治体のDBプランに対する影響である(「Topics2008年11月17日 金融危機とDB(1) - 民間企業」参照)。上記sourceのポイントは次の通り。
- 州/地方自治体の場合、DBプランへの依存度は民間企業にくらべて圧倒的に高い。DBプランしかないところは80%にも達しているのに対し、DCプランしかないところは14%にすぎない。
- 州/地方自治体のDBプランの資産は、2007年時点で$3.2Tと、民間企業DBプランの$2.7Tを凌駕している。従業員数でいえば、州/地方自治体の方が民間企業の6分の1にすぎない。
- 2007年10月9日から2008年10月9日にかけての一年間で、金融証券は42%の減価となった。州/地方自治体のDBプランは、資産の70%を金融証券で保有していることから、およそ$1Tの資産減少を被ったことになる。
- 州/地方自治体DBプランの年金数理では、資産の増価/減価は5年で償却(=遅延認識)することとなっている。2007年の積立比率は約87%であった。2008年10月9日時点の積立比率は、市場価値で計測すれば65%まで急落するが、5年償却ルールを適用するので、完全な影響額は5年後にしか表れてこない。
- 今後の積立比率は、悲観的なシナリオ(2008年10月9日時点の水準を維持)の下では2013年に59%まで下落する。他方、楽観的なシナリオ(2010年末までに株価がピーク時の2007年10月9日の水準に回復する)では75%に下がるに過ぎない。
- ただし、個々のプランでは厳しい状況も多々ある。州/地方自治体DBプランの場合、一般的には、積立比率は80%あればよいとされている。2006年、積立比率が80%を超えているプランは63%あったが、2008年は54%しかないと見込まれている。これを市場価値でみた場合には、9%しかないことになる。つまり、かなり厳しい状況に追い込まれるプランが多数存在するということである。
- 州/地方自治体DBプランの会計基準は、概ねGASBが定めるGAS 25に拠っている。GAS 25では、積立不足を30年で解消するよう求めている。また、一般的には、積立比率は80%あればよいとされているため、ただちに積立不足のための拠出を行わなければならないということではない。しかし、株価の低迷が長続きするようであれば、その解消のために拠出を増やさざるを得なくなる。
- 州/地方自治体DBプランでは、州・自治体政府だけでなく、従業員による拠出も行われている。2006年時点では、州・自治体政府の掛金率(掛金/給与)が7%に対し、従業員の掛金率は5%もあった。これは民間企業プランで従業員拠出がないのとは大違いである。ただし、従業員の拠出を引き上げるためには、新規加入者の拠出分を引き上げるしかなく、最終的に拠出額の増大が必要となれば、税収増に頼るしかない。
このように、州/地方自治体DBプランは、民間DBプランのように金融危機の影響に直撃されることはないが、金融危機が長引けば、増税をせざるを得なくなる、というわけである。
※ 参考テーマ「地方政府年金」
11月17日 金融危機とDB(1) - 民間企業
Source : The Financial Crisis and Private Defined Benefit Plans (Center for Retirement Research at Boston College)
今回の金融危機がDBプランにもたらした影響を考察するレポートである。今回は、民間企業のDBプランについて紹介するが、次回は、州/地方自治体のDBプランについても紹介する。
上記sourceのポイントは次の通り。
- 2007年10月9日から2008年10月9日の一年間に、年金プランの金融証券資産は$3.8T減少した。うち、DBプランは$1.9T減少。DBプランのうち、民間企業のプランは$0.9T、州/地方自治体のプランは$1.0Tとみられる。
- これにより、約1800社のDBプランの積立率は、2007年の98%から、2008年10月の85%まで急落した。
- 2006年に制定されたPPAにより、積立不足分は7年間で積まなければならない(「Topics2006年8月9日 Pension Protection Act of 2006 概要」参照)。試算では、2009年の企業の拠出金は約$90B増やさなければならない。
- 厳しい経済環境の中、企業側の対応として、
- レイオフ
- 破産(Chapter 11)
- 年金プラン凍結
といったものが出てくるだろう。
- 政策対応としては、次の2点を検討すべき。
- 金融リスクを、企業、個人のいずれかにすべて負わせることは不適切である。これまでとは異なる制度設計が必要だ。
- 景気後退期に企業の拠出金を急増させることは無意味である。好況期に積立超過を認め、不況期にそれらを取り崩すような仕組みが必要。
こうした情勢を踏まえ、民間企業はPPAの改正を強く要請している(New York Times)。具体的には、積立不足の償却期間7年を延長しろ、というものだそうだ。
政府としても、上記のような対応を企業がとるようになってしまっては困ったことになる。レイオフは最も困る。Chapter 11だと、PBGCまで破綻する。年金プラン凍結が続出すれば、企業の年金プランは事実上、DCだけとなってしまう。これではすべての金融リスクを個人に負わせることになる。
そうしたことを考えれば、償却期間の延長は、財政負担を伴わず、企業負担も軽減でき、DBプランを延命させる都合の良い政策手段ということになる。折角民主党主導で成立したPPAだが、再び民主党によって修正されることになりそうである。
※ 参考テーマ「企業年金関連法制」、「DB/DCプラン」、「PBGC/Chapter 11」
11月16日 Baucus提案 Source : Call to Action
医療保険改革を急げとの圧力が急速に高まっている。"Divided We Fail"という組織が、Obama新大統領就任後100日間の最重要課題として位置づけるよう、キャンペーンを開始した。この"Divided We Fail"という組織は、
の4者で構成されており、医療保険改革を推進することを目的としている。
また、民主党の有力上院議員であるSen. Max Baucusは、再選を果たした直後の今月6日に、Obama新大統領宛に『次期連邦議会では、早期に医療改革に向けて行動を起こすべき』というレターを発出している。
そのBaucus上院議員は、さらに圧力を高めるため、12日、医療保険改革提案を行った。そのポイントは次の通り。
- 皆保険のための制度設計
- "Health Insurance Exchange"の創設
- 全国版の保険プール"Health Insurance Exchange"を創設する。
- 既に医療保険に加入している場合は、そのまま加入を継続する。
- 民間保険会社が"Health Insurance Exchange"を通じてプランを提供するが、健康状態による差別は設けない。
- 一定の要件を満たした家計、小規模企業については、保険料補助を提供する。
- 公的医療保証制度の改善
- 55-64歳のMedicare加入を認める。
- 貧困基準(Poverty Level)以下の国民については、全員、Medicaidへの加入を認める。
- 貧困基準(Poverty Level)250%以下の家計の子供については、SCHIPへの加入を保証する(※ 参考テーマ「SCHIP」)。
- Native Americans、Alaska Nativesへの医療提供を確保するため、Indian Health Service (IHS) の基金を増額する。
- 個人・企業の責務
- 企業または"Health Insurance Exchange"を通じて充分な医療保険プランの選択肢が提供された暁には、個人の医療保険プランへの加入を義務づける。
- 従業員確保のために、企業は保険プランの提供を継続すると考えられる。医療保険プランを提供しない企業については、小規模企業を除き、無保険者支援のための基金への拠出を求める。
- 予防医療
- 無保険者に"RightChoices"card(新設)を提供する。このカードにより、無保険者といえども、一定の予防医療を受けられるようにする。
- Medicare、Medicaid、SCHIPの加入者についても、わずかな負担で適切な予防医療を受診できるようにする。
- "Health Insurance Exchange"では、予防医療プランを選択できるようにする。
医療の質の改善
- プライマリー・ケアと慢性疾患治療の管理を強化する。
- 質の改善に資するよう、診療報酬体系を見直す。Medicare診療報酬の見直しが、その第一歩となる。
- 治療の効果に関する比較調査を行う。
- 医療情報のIT化を推進する。
効率性と財源の確保
- 次の5つの分野で無駄な支出を削減する。
- 不正支出、無駄な診療、公的支援の濫用などを排除する。
- Medicare Advantage programにおける民間保険会社への過剰支払いに対処する。
- コストの透明性と医療の質の情報を高める。製薬会社等の医療機関への支払いに関する情報開示を求める。
- 医療過誤訴訟に関する法制を慎重に改革する。もちろん、医療過誤により損失を被った患者には適正に補償する。
- 介護費用の抑制、サービスの向上に向けて、施設介護から居宅介護に重点を移す。
- こうした目的に合わせて税制改革を行う。
こうしてみると、Obama氏が選挙戦で掲げた医療保険改革提案と骨格はそっくりである(「Topics2007年5月30日(1) Obama上院議員の皆保険提案」参照)。つまり、Obama自身が提案したんだから早くやんなさいよ、というわけである。
こうしたBaucus上院議員の提案に、同じく有力上院議員であるKennedy上院議員も、協力していくとのコメントを出している(「Topics2008年7月5日 Kennedy議員の執念」参照)。
このような有力上院議員達から圧力に、Obama新大統領はどのように対応していくのだろうか。
11月13日 Circuit City 破綻 Source : Circuit City Files for Bankruptcy (BusinessWeek)
11月10日、Circuit CityというPC・家電製品量販店が、Chapter 11の申請を行った。
厳しい消費環境の中で力尽きたという感じだろうが、それでも量販店の中には、元気のある企業もあるそうだ。上記sourceでは、Bust Buy、Wal-Mart、Amazon.comなどが、そうした元気のある企業として挙げられている。中でも、Bust Buyは、Circuit Cityの顧客を奪って、伸びるのではないかとみられている。その理由は次の通り。
- 普通の顧客は、倒産した店舗に製品保証を求めることはしない。従って、Circuit Cityに向かう客足は激減するだろう。
- Circuit Cityの店舗の85%は、Bust Buyの店舗と競合している。つまり、地理的に近いところにある。これは、Bust Buy側から見れば、これまでのCircuit Cityの顧客を自身の店舗に誘導しやすいということになる。
- Bust Buyの接客は、製品情報やアドバイスを求める顧客からの評価が高い。
これらの理由に加え、当websiteとしては、従業員を大事にしているかどうかの違いを挙げたい。実は、両社とも一回ずつ、当websiteに登場している。
まず、Bust Buyについては、2006年に、究極のフレックス制を導入したことを紹介した(「Topics2006年12月13日(2) Bust Buy Goes Clockless」参照)。
一方、Circuit Cityについては、2007年のレイオフのやり方がおかしい、という指摘を行っている(「Topics2007年4月11日 Circuit City のレイオフ」参照)。しかも、『これでは、両者(Bust BuyとCircuit City)の間の差が広がっていってもしかたあるまい。』とのコメントまで残している。
やはり、従業員を大事にする企業は、生産性の向上を通じて、最後まで勝ち残っていくのだろう。
11月12日 VEBAに赤信号点滅 Source : UAW's VEBA Board: Autoworkers' Health Care Benefits in Peril (Workforce Management)
VEBAの設立に赤信号が点滅している。GMのVEBAへの拠出が延期されたことに加え、アメリカ自動車業界全体が経営危機に陥っているためだ(「Topics2008年7月16日 VEBA@GMに黄信号」参照)。
こうした状況について、VEBAの理事会メンバーが危機感を抱いている、ということが上記sourceで紹介されている。
上記sourceに基づいて、現時点でのVEBAの概要をまとめておくと、次のようになる。
- 2010年1月1日までは、3社がそれぞれで基金への拠出、運営を行う。
- 2010年1月1日以降は、UAWが3社別に運営する。
- VEBAの加入者は、70万人以上にのぼる。
- VEBAによる退職者医療プランの提供は、80年間継続する予定。
- VEBAの基金総額は約$60B
- GMは、今年7月に予定された$1.7Bの拠出を先送りした(「Topics2008年7月16日 VEBA@GMに黄信号」参照)。
上記の参考にもある通り、GMのVEBAへの拠出は、現金、株式、社債等によるものとされている。ところが、昨今の経営危機では、GMは、当面の運転資金にさえ窮している。また、株価は歴史的な低水準にある。このような状況では、とても拠出は及ばない。
このまま何もしないで3社がChapter 11になだれ込むようなことになれば、3社の退職者は退職者医療プランを失うことになり、おそらく大量の高齢者が一気にMedicareに加入してくることになると思われる。そうなれば、Medicareを運営している州政府、それに財政支援をしている連邦政府の財政負担は一気に膨らむ。
世間では、GMの金融子会社であるGMACへの資金注入が噂されているが、このVEBAに連邦政府が拠出する、という選択肢もあるのではないだろうか。もちろん、加入者の負担も多少は求めることにはなるだろうが。
最後に、GM、Fordの株価動向は次の通り。 ⇒ GM Ford
※ 参考テーマ「VEBA/Legacy Cost」
11月11日 Delphi再建できず Source : GM woes worsen after Delphi warning (Financial Times)
自動車部品メーカーのDelphiがChapter 11から再建できそうもないようだ。それも、最大の協力者であったGMから、そのような観測が示された。
Delphiの年金プラン(DB)については、DelphiからGMに移管することが決まっていた(PBGC Press Release)。移管する債務総額は$3.4Bに達する(「Topics2008年9月25日(1) Delphi年金凍結」参照)。
問題は、債務の移管は確定したものの、その裏付けとなる資産の移管はどうなったのか、だ。DelphiがChapter 11から脱出できないということは、充分な資産が確保できていない可能性がある。もしそうであれば、GMは、資産の裏打ちのない債務を引き継いだことになってしまう。
もしも本当にそのようなことになっているとしたら、PBGCにとっては再び大きなお荷物を抱えることになってしまう可能性を孕んでいる。ご承知の通り、GMは、重大な経営危機に直面しているからである。
一方で、GMは、退職者医療の問題(VEBA)も抱えている(「Topics2008年7月16日 VEBA@GMに黄信号」参照)。まさに、レガシーコストに押しつぶされそうになっているのである。
最後に、GM、Fordの株価動向は次の通り。 ⇒ GM Ford
※ 参考テーマ「PBGC/Chapter 11」、「VEBA/Legacy Cost」