11月20日(1) 加州議会民主党法案 Source : Comparison of California Health Coverage Expansion Proposals (CalHealthReform.org)

先に紹介した加州議会民主党が提出した法案(ABX1 1)の概要がわかったので、ここで改めてまとめておきたい(「Topics2007年11月7日(1) 加州議会の譲歩」「Topics2007年11月18日 加州下院委員会可決」参照)。
  1. 無保険者の解消

    無保険者の3分の2が保険に加入すると推計

  2. 保険加入義務

    1. 全州民に保険加入義務を課す。

    2. ただし、保険料、窓口負担、免責額などすべてを合計した医療費総額が家計所得の6.5%を上回る場合には、加入義務を免除する。

  3. 個人事業主の扱い

    同様の保険加入義務を課す

  4. 事業主負担

    "Pay or play"原則。給与水準に応じて、最低、給与総額の2〜6.5%を医療保険に拠出する。医療保険を提供しない場合には、基金(後述)に拠出する。

  5. 診療機関からの拠出金

    診療報酬の4%相当を拠出する

  6. Medi-Calの償還額

    Medi-Calの償還額を、Medicareの償還額の80%に引き上げる

  7. 低所得者層を対象とした公的保証プログラムの拡充

    1. Healthy Familiesの対象を、FPL133〜300%の家庭の子供に拡張する。その際、移民の法的資格は問わない。

    2. Healthy Familiesの対象を、FPL133〜300%の家庭の親に拡張する。

    3. Medi-Calの対象を、FPL250%以下の単身成人に拡充する。

    4. Medi-Calの対象を、FPL250%未満の19、20歳に拡充する。

    5. 新たに、FPL100%以下で子供のいない成人を対象とする新プログラムを創設する。

    6. FPL250〜450%の個人を対象に、税制上の支援策を検討する。

    7. FPL150%以下の家庭には、保険料及び自己負担の全額を補助する。

    8. FPL151〜300%の家庭には、所得の5%を上回る保険料負担を補助する。

  8. 州所得税

    FPL250〜450%で、公的保証プログラムへの加入資格を持たない個人については、還付付きの税額控除制度を検討する。

  9. 保険市場改革

    1. 2010年までに、全ての保険プランは、深刻な病状がない限り、申請者の加入を保証し、個人市場における地域保険料(年齢、地域によるもので、健康状態によるものではない)を適用しなければならない。

    2. 加入手続きを簡素化する。

    3. 保険プランの内容として、5つのレベルの選択肢を用意しなければならない。

    4. 現行の小グループ市場の規制を、中規模企業(従業員51〜100人)を対象とした保険プランに適用する。

    5. 保険料収入の85%以上を、償還に充てなければならない。

    6. CA Cooperative Health Insurance Purchasing Program (Cal-CHIPP)を創設し、加入者のための医療保険の交渉、購入を行う。

    7. FPL300%未満の家庭については、保険料負担が家計所得の5%を超えてはならない。Cal-CHIPPはそうなるように保険料を設定する。

  10. 州たばこ税

    1パック¢87から$2.87に引き上げる。この引き上げにより、$2Bの増収が見込まれる。

  11. 無保険者の自動加入

    無保険者は自動的にCal-CHIPPに加入できるよう、制度を検討する。

  12. 施行スケジュール

    • 2009年1月:Cal-CHIPP創設
    • 2009年7月:保険会社に85%ルールを適用
    • 2010年1月:加入保証ルールを適用
    • 2010年7月:Meci-Cal、Healthy Familiesの適用拡大

11月20日(2) Smart Power Source : CSIS Commission on Smart Power (CSIS)

少し前になってしまうが、今月6日、CSISが上記レポートを公表した。2008年の大統領選を1年後に控えたこの時期、各候補者にアメリカ外交政策の立て直しを考えてもらいたい、というメッセージを送っている。

そのキーワードとなっているのが、"Soft Power"である。"Soft Power"について、Richard ArmitageJoseph Nye は、次のように定義している(本文P.7)。
"Smart power is neither hard nor soft - it is the skillful combination of both. Smart power means developing an integrated strategy, resource base, and tool kit to achieve American objectives, drawing on both hard and soft power. It is an approach that underscores the necessity of a strong military, but also invests heavily in alliances, partnerships, and institutions at all levels to expand American influence and establish the legitimacy of American action. Providing for the global good is central to this effort because it helps America reconcile its overwhelming power with the rest of the world’s interests and values."
また、こうした提言が出てきた背景には、21世紀に入って、アメリカはあまりにもハード(軍事力を含む)に頼り過ぎてきた、との反省があるようだ。John Hamre CSIS理事長 の次の言葉が、それをうまく表現している(前文P.4)。
"Military power is typically the bedrock of a nation’s power. It is understandable that during a time of war we place primary emphasis on military might. But we have learned during the past five years that this is an inadequate basis for sustaining American power over time. America’s power draws just as much from the size of its population and the strength of its economy as from the vitality of our civic culture and the excellence of our ideas. These other attributes of power become the more important dimensions."
全体と通しての感想をいくつか。
  1. Armitage & Nye の文章の中に、次のようなフレーズが出てくる(本文P.6)。
    "Soft power is the ability to attract people to our side without coercion. Legitimacy is central to soft power. If a people or nation believes American objectives to be legitimate, we are more likely to persuade them to follow our lead without using threats and bribes. Legitimacy can also reduce opposition?and the costs?of using hard power when the situation demands. Appealing to others’ values, interests and preferences can, in certain circumstances, replace the dependence on carrots and sticks. Cooperation is always a matter of degree, and it is profoundly influenced by attraction. "
    "Legitimacy"を辞書でひいてみると、「合法性」、「正当性」と出てくる。ここでは国際的なフェーズでの使用なので、「正当性」ということだろう。

    この「正当性」という言葉は、非常に重要だが、脆弱性も孕んでいる。つまり、アメリカにとっての「正当性」が、他国にとっての「正当性」と一致するかどうかは、極めて難しいのである。しかし、そこを解決しなければ、アメリカの世界におけるリーダーシップは保てない、との意気込みも感じられる。

  2. アメリカ外交の建て直し、という大きな課題を提示しているわけだが、今のアメリカ国民、大統領候補者達の間で、外交問題が大きな課題として認識されているだろうか。もちろん、イラク、アフガンは大きな課題であるが、それらを含めて全課題に取り組むだけの力と関心が残されているのだろうか。

    貿易問題では、WTOにそっぽを向きつつあり、国内の雇用確保に比重を置いている。一方、国内には医療保険問題というビッグイシューがある。そうした中で、本当に外交に力を置こう、という流れができるのかどうか、少し疑問を持った次第である。

  3. やはり、中国には相当の警戒感を持っている。まだまだ取るに足らない、との判断を下しているものの、中国のsoft powerに関する記述は、1ページ余にわたっており、他の地域分析に較べて破格の扱いとなっている。

  4. 最後に、当websiteらしく、医療の問題を指摘しておきたい。上記提言で、具体的な世界的課題の一つとして、公共衛生の向上を挙げている。アメリカの医療技術、知識を駆使した世界への貢献は、多くの発展途上国で高く評価されるだろう。いや、現在でもかなり評価されているに違いない。

    アメリカ国内では市場で取引される財・サービスとして認識されている医療サービスも、世界への貢献、外交戦略としての公共財に近い位置づけとなれば、それに対する人々の見方も変わってくるかもしれない。まさしく、アメリカ国内における医療を巡る価値観の変化、ひいては医療保険制度の変革が起きるかも知れない(「Topics2007年医療保険制度と社会の価値観」参照)。そうした意味で、外交戦略の変更は、アメリカ国内の価値観を変えていく可能性を秘めている。

11月20日(3) GM/Fordの株価下落

今回は、株価が主役なので、最初に両社の株価チャートを見ていただきたい。 ⇒ GM  Ford

両社の株価が低下している。もちろん、原因は、サブ・プライム問題の波及に対する懸念なのであるが、皮肉なことに、どちらもVEBA設立が正式に決まった頃から、ずるずると下がっている(「Topics2007年10月11日(2) UAWとChrysler妥結」「Topics2007年11月16日(2) Fordも正式妥結」参照)。

折角、構造改革の目処が立ったところで、株価が下落してしまっては、前向き投資のための資金調達が厳しくなってくる。また、VEBAそのものについても、転換社債による拠出が大きな割合を占めることになっていることから、その先行きが早くも危ぶまれる可能性も出てきた。

11月19日 医療保険制度と社会の価値観 
Source : Comparing Healthcare Systems: Outcomes, Ethical Principles, and Social Values (Eike-Henner W. Kluge, PhD)

いつもの殺伐とした医療保険制度論議とは違い、じっくりと読ませる論文である。要するに、この筆者は、どの医療保険制度が優れているのか、という議論は不毛であり、その社会が持っている価値観や倫理観とどれだけ整合的であるかが重要である、と説いているのである。

こういう考え方、議論の整理は大切である。日本の社会保障の学者の中には、アメリカ型がいいだの、北欧型がいいだの、つまりは制度の直輸入しか主張しない人達が多い。しかし、大切なのは、今、そして将来の日本の経済社会を見据えた制度設計論議である。

上記sourceでは、いくつかの社会的価値観と医療保険制度のあり方について、考え方を整理している。自分なりにまとめてみると、次のようになる。

社会の価値観
医療保険制度の理想型
自主性、平等性、人権を重視・公平な医療へのアクセス・利用
・個人の基本的な権利は重視するものの、他者の権利により制限
利便性、効率性、最大多数の最大効用を重視・社会全体としての健康状態を最善にする
・個人の基本的権利への配慮なし
個人の価値観、倫理観を重視・自由競争市場をベース
・医療を財サービスとして扱う
正しい医療保険モデルが存在するわけではなく、その社会の倫理観に適合したモデルがあるのだ、ということになる。

最後に上記sourceは、次のように締めくくっている。
  1. 特定の医療保険モデルが他のモデルよりも正しい、との主張には、注意深い検証が必要である。

  2. 医療保険改革を進めるにあたっては、社会の基本的な倫理観と整合的かどうかを十分に確認する必要がある。
なんと落ち着いた議論であろうか。と、最後まで読んでみたところ、この論文の筆者がカナダの大学の先生(Eike-Henner W. Kluge, PhD)である事がわかった。やはり、カナダの医療に関する倫理観(「Topics2007年11月8日 カナダ人の倫理観」参照)には、一目置くべきところがあるようだ。

実は、政策論議とは、詰まるところ、価値観論争なのではないかと思う。すべての政策提言は、一定の価値観に基づいたものになっているはずであり、政党とは、まさにそういう価値観を体系的に政策に打ち出そうとする集団であるべきだろう。

そう考えてみると、日本の政党(特に二大政党)に、どこまで社会的な価値観を打ち出す力があるだろうか。政策項目を並べ挙げるだけのマニュフェストは意味がない。そのうしろにある、価値観・目指すべき社会像をしっかりと打ち出してもらいたい。政策は、単にその応用編にすぎないのである。

11月18日 加州下院委員会可決 Source : Assembly Panel OKs Democrats' Health Care Overhaul Proposal (California Healthline)

14日、加州下院の医療委員会(Health Committee)が民主党案(「Topics2007年11月7日(1) 加州議会の譲歩」参照)を可決した。上記sourceによれば、シュワ知事は、医療保険加入義務が完全ではないことにこだわりを見せているらしい。

次のステップは、今月26日、下院での投票となる。

11月16日(1) SEC IFRS採用を決断 Source : SEC Takes Action to Improve Consistency of Disclosure to U.S. Investors in Foreign Companies (SEC Press Release)

16日、SECが決断を下した。外国企業が純正IFRSで作成した財務諸表については、アメリカ基準への差異調整表なしで受け容れる、という内容だ(「Topics2007年6月24日 外国企業のIFRS」参照)。しかも、SEC理事の投票結果は、満場一致であったという。

同時に、SECでは、アメリカ企業によるIFRS採用についての意見聴取を行うため、12月13、17日に円卓会議を開催することも公表した(「Topics2007年7月26日(3) アメリカ企業にIFRS」参照)。

純正IFRSを採用した理由として、「IFRSを世界で唯一の基準として開発していくため」としている。並々ならぬ決意が伺われる。Cox議長の思いは、『世界制覇説』に立っているのかもしれない(「Topics2007年6月28日 純正IFRSの意味」参照)。

11月16日(2) Fordも正式妥結 Source : Ford Says Cost Gap Almost Gone (AP)

仮妥結の内容がUAW組合員により承認され、FordUAWの間も正式妥結となった(「Topics2007年11月7日(2) Fordも仮妥結」参照)。全体で79%の賛成票が入ったようで、かなり友好的な妥結である(Detroit Free Press)。 VEBAに関する妥結内容は、次の通り。
  1. 移行する退職者医療給付に関する債務は、$23.7B
  2. 拠出額($13.2B)の内訳は次の通り。
    1. 現金:$2.7B
    2. 現存VEBAからの移管:$3.8B
    3. 転換社債:$3.3B
    4. 劣後債:$3B
    5. 後日払い:$400M
  3. 拠出割合は56%に達する。
  4. 年間キャッシュ・フローは、年間$1B改善する。
最後にいつもの株価動向。 ⇒ GM  Ford


11月13日 FASBのポジション 
Source : Comment Letter on SEC's Concept Release on Allowing U.S. Issures to Prepare Financial Statements in Accordance with IFRSs (FAF&FASB)

SECのコメント募集(「Topics2007年8月24日 アメリカ企業にIFRS(2)」参照)に対して、FASBならびにその運営母体であるFAFがコメントを提出した。大事なコメントレターだと思われるので、少しだけ丁寧にまとめておきたい。
  1. 総 論

    1. アメリカ上場企業が改善された国際会計基準に移行するという提案を、強く支持する。

    2. 会計基準を検討する際、投資家を第一に考えることは当然だが、その他のステークホルダーに関するコスト・ベネフィットも慎重に考慮する必要がある。

    3. 本レターで述べているポイントは、次の4点である。

      1. 全アメリカ上場企業が、改善版IFRSに移行すれば、投資家にとっては最も望ましい姿となる。その際、企業にIFRSとアメリカ基準の選択を認めると、無用な混乱を招くことになる。

      2. 関係者が一丸となって、アメリカ上場企業のIFRS移行のための計画または青写真を描く必要がある。青写真では、具体的な移行目標年月とIFRSの適用範囲を定める必要がある。

      3. SECは、IASBが基準設定主体としての継続性、独立性を確保できるよう、国際的な協調体制を模索すべきである。
         @充分かつ安定した基金とスタッフの質の確保
         AIFRSを採用した各国における統一的な運用

      4. 外国企業による差異調整表の廃止は、極めて困難で微妙な問題である。差異調整表の廃止は、次の2点を前提条件とすべきである。
         @IFRSへの移行に関する青写真について、アメリカ国内の関係者が合意する。
         AIASBが設定主体としての独立性を確保、強化するために必要な手段について、世界の主な関係者が合意する。

    4. IASBが採択したIFRSを使用している企業ついてにのみ差異調整表を廃止するというSECの考え方を、強く支持する。

  2. 国際会計基準への移行のための青写真

    1. 理想的な国際会計制度

      国際会計基準のみならず、国際資本市場を巡る様々なインフラについても、整備が必要である。具体的には、
      • 独立性、安定性の高い基準設定主体による統一的な高品質の会計基準と、それに対するタイムリーな解釈を提供する国際団体
      • 財務諸表・注釈を超えた開示項目について、IOSCOのような機関で検討
      • 監督、執行、内部統制規制などに関する国際的な協力
      • 統一的で質の高い監査基準
      • 市場参加者に対する教育訓練体制

      しかし、現実を見ると、これまでのFASB、IASBの努力にも拘らず、アメリカ会計基準とIFRSのコンバージェンスは実現していない。また、IASBの調査によれば、両者間の差異調整表は、大きな違いを示している。さらには、アメリカ基準、IFRSともに、さらなる改善が必要とされている。従って、現在のコンバージェンス実現へのアプローチが、適切であるとは考えられない。

    2. 理想的な制度への移行

      1. アメリカ企業によるIFRS採用を強く支持する。それは、IFRSが世界の会計分野で通用する言語となりつつあるからである。また、カナダ、日本(?)、韓国などの国々では、自国の会計基準をIFRSに置き換えようという計画が公表されている。従って、投資家が望むような比較可能性と高品質性を持った財務諸表を実現するには、IFRS改善版への移行を計画することが、最も理に適っていると考える。

      2. 移行のための青写真を設定することで、財務諸表を巡るインフラ整備に要する期間も確保することができる。

      3. 現存するIFRSに直ちに移行することは勧められない。財務諸表を巡る様々なインフラ整備が必要となるし、その整備には数年を要する。さらに、今のIFRSには改良が必要である。従って、アメリカ基準からIFRSへの移行については、「改善−採用」という2段階方式を提案する。

         @IFRSの改善
         AFASBによるIFRSの採用

    3. 独立性の高い国際会計基準設定主体としてのIASBに必要な国際協調

      SECその他の国際的に重要な機関同士が協力して、IASBを長期に安定させ、さらに、その技術力、独立性、法的地位を高めるよう、大きな変革をしていかなければならない。

      第1に、IASBの財政とスタッフの確保が重要である。今後、IFRSを唯一の高品質の会計基準としていくためには、今の資金調達や人材確保メカニズムでは充分ではない。SECやIOSCOが中心となって、資金調達メカニズムを改善する必要がある。ただし、IFRS移行のための青写真作成は、この資金調達メカニズムの完成を待つ必要はない。

      第2に、IASBが設定したIFRSを利用することについて、国際的な合意が必要である。EUは、企業がIFRSの一部を採用しないことを認めているし、今後、一部の会計基準が完全に否決される可能性すらあるといわれている。

      各国の金融当局が、IFRSのローカル版を極力排除することに同意する必要がある。

    4. 改善されたIFRSへの移行の意味

      近い将来における差異調整表の廃止は、困難であり微妙な問題である。今のところ、賛否両論あり、SECが決定することではあるが、もし廃止するのであれば、唯一かつ高品質の国際会計基準が最終目的であり、それに向かって引き続き前進することが重要と考える。

      差異調整表を廃止するためには、完全移行のための青写真、青写真実現に向けた関係者の協力、IASBの資金調達、IFRSの承認問題などを解決しておくことが望ましい。差異調整表の廃止は、単一の国際会計基準に向けた長い道のりの一歩に過ぎないことを強調しておくべきである。

      なお、IASBが設定したIFRSを採用した企業についてのみ差異調整表をなくすべきとのSECの考え方を強く支持する。

  3. IFRS移行のための青写真作成の際に検討すべき事項(例示)

    1. まず、アメリカ基準とIFRSの間に違いのある分野を選定し、改善を図ると同時に、アメリカがIFRSを採用する分野を選定する。さらには、現行アメリカ基準を維持、改善する分野についても検討する。

    2. 基準設定のためのデュープロセスを変更する。

    3. アメリカ上場企業のIFRS完全移行後のFASBの役割について検討する。例えば、
      • 非上場企業、非営利団体その他の諸機関が利用するアメリカ基準の設定主体となる。
      • IFRS採用のための教育機関、またはIASB活動におけるアメリカ固有の課題を提起する団体となる。
      • IASBのアメリカ支部となる。

    4. 会計に関連するアメリカの国内政策との整合性について検討する。

    5. IFRSがよりルール・ベースとなっているため、判断すべき事項が多くなる。完全移行を成功させるためには、判断の多用を認め、なるべくガイダンスを作成しないようにすべき。

    6. アメリカ基準版XBRLとIFRS版XBLRの比較可能性を確保する(「Topics2006年12月12日 XBRLがもたらす影響」参照)。

    7. アメリカ上場企業がIFRSに完全移行する期限日を設定する。アメリカ基準とIFRSの選択制は好ましくないが、国際的な企業が2、3年先行してIFRSに移行することは自然である。
要するに、課題は山積しているが、アメリカ上場企業のIFRSへの完全移行に向けて、関係者一丸となって準備を始めよう、というメッセージと受け止めた。また、差異調整表が簡単になくなるのではないか、との楽観論も否定している。

それにしても、日本のIFRSに関する立ち位置がFASBに理解されていないとは、驚きを禁じえない。

FASBの意見が採用されれば、独自の会計基準に拘る先進国(または先進国の基準設定主体)は、日本(ASBJ)だけになるのではないだろうか。