12月9日 残業代新ルールの行方 
Source :Trump Faces Choice on Overtime Appeal (SHRM)
11月22日、連邦地方裁判所(TX)は、施行延期の仮処分を下した(「Topics2016年11月24日 残業代新ルール施行延期」参照)。これに対して連邦労働省は、「不当な仮処分である」として、連邦地裁の仮処分を取り消すよう、第5控訴裁判所に訴えている。

この第5控訴裁判所の判決は、どうも大統領就任日(2017年1月20日)を跨ぎそうなのである。連邦労働省自身が提出した審議スケジュール要望が、既に1月20日以降の日程を含んでいる。仮に、この要望通りとなれば、控訴裁判所の判決は2月に入ってからしか出ないことになる。

現在、第5控訴裁判所は、連邦労働省の訴えを小委員会で審議している。仮にこの小法廷が地裁の仮処分を取り消す判決を下したとしても、21州+経済団体の原告側は、大法廷での審議、つまり第5控訴裁判所の判事全員による審議を要求する。判事は全員で15名おり、そのうち10名が共和党大統領により指名された判事である。大法廷で連邦労働省の主張が通るとは思えない。

そうこうしている内に、1月20日、ホワイトハウスにトランプ氏が入ってしまえば、そもそも連邦労働省の意義申し立てを取り下げる可能性が高い。折しも、労働省長官にはAndrew Puzder氏指名された。Puzder氏は、レストランのチェーン店のCEOである。その職業経験からいって、残業代対象者を大量に増やしたいと思っている筈がない。ついでに言ってしまえば、この業種出身ということであれば、最低賃金引き上げにも消極的だろう。

さらに、残業代新ルールは大統領令に基づいて施行されようとしている(「Topics2016年5月20日 残業代対象者新ルール」参照)。トランプ大統領は、選挙戦中から新ルールの中小企業への適用に反対していた。トランプ大統領、Puzder労働長官のもとで、Obama大統領が発した大統領令そのものを取り消すことは充分に考えられる。

本当にそうなってしまうと、本来の12月1日施行に対応してきた企業は困ってしまう(「Topics2016年11月24日 残業代新ルール施行延期」参照)。施行日に間に合うように人事政策や雇用形態の見直しを行ってきたのに、肝心の新ルールが施行されないかもしれないのだ。

やはり、連邦議会での立法を通さず、大統領令で社会のルールを変えようとするのは、問題が大きい。

※ 参考テーマ「人事政策/労働法制

12月6日 半数が一時金を検討 
Source :Nearly Half of Corporate Pensions Considering Lump-Sum Payouts (PLANSPONSOR)
上記sourceによると、調査対象となったDBプランのうち、約半数が一時金での支払いを検討している。低金利の中で年金財政の健全性を確保するためには、給付債務の削減が至上命題となる。そのための有力な手段が一時金払いなのである。

専門家は、こうした流れを決定付けたのは、PBGC保険料の引き上げと、今後もそれが続くのではないかとの懸念だと指摘している。ただでさえ給付債務を減らさなければならないのに、PBGC保険料の負担まで上がってしまう。その両方を一挙に解決できるのが一時金払いという訳だ。

こうした傾向が出てくるであろうことは、PBGC保険料の大幅引き上げが決まった2012年から既に指摘されていた(「Topics2012年10月17日 一時金払い選択制への移行加速」参照)。

当時の引き上げスケジュールよりも、さらにPBGC保険料は引き上げられることになっており(「Topics2015年11月13日 PBGC保険料スケジュール」参照)、その動きが加速されているということのようだ。

※ 参考テーマ「DB/DCプラン」、「PBGC/Chapter 11

12月5日 PPACA改正は3段階で 
Source :GOP Embraces Repeal-Now, Replace-In-Three-Years Strategy On Health Law (Kaiser Health News)
共和党は、公約であるPPACAの廃止、制度改正を次の3段階で考えようとしているそうだ。
  1. 大統領就任初日(2017年1月20日):大統領令など連邦政府の裁量で制度変更できる部分を宣言する。

  2. 連邦議会再開後速やかに:PPACA廃案を決議する。ただし、施行は3年以内との期限を設ける。

  3. 3年間:民主党の一部の理解を求めながら、制度の代替案を法制化する。
以前から紹介している通り、共和党は連邦議会上院で60人を確保できていないため、財政措置を伴うPPACAの即時廃止は難しい。そうした現実を踏まえて、3年間で民主党とも協議しながら成案を得るという戦略だ。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

12月3日 2016年秋選挙の総括 
Sources : Election 2016 (Washington Post)
List of United States state legislatures (Wikipedia)
2016年11月の大統領選等により、2017年1月からのアメリカ政治の勢力図がどうなったのか、総括しておく。
民主党共和党独立・その他
大統領(選挙人)232人306人
(得票率)48.0%47.0%
連邦議会上院48人51人未確定1
連邦議会下院194人240人
州知事15人33人独立1, 未確定1
州議会1332ねじれ 5
州議会議員3,180人4,164人39人
特に、州知事−州議会の党派関係を見ると、次のようになる。
州知事
民主党共和党独立系
州議会民主党6州7州
共和党6州26州
ねじれ3州1州1州
連邦、州ともに、共和党の政策が通りやすい状況になっているのである。しかも、これに連邦最高裁の保守派が加わる可能性が高い(「Topics2016年11月10日 連邦最高裁人事」参照)。長い間、共和党が自ら有利になるよう地道に選挙区割りをやってきた成果でもあろうが、アメリカ社会は確実に保守化している(「Topics2010年9月29日 ゲリマンダーリング6例」「Topics2010年12月23日 Redistricting開始」参照)。メディアはニューヨークやカリフォルニアといった、民主党色の強い地域社会ばかりに目を奪われすぎているのかもしれない。

※ 参考テーマ「大統領選(2016年)」、「政治/外交

12月2日 Medicaidに危機感 
Source :Medicaid Block Grant Would Slash Federal Funding, Shift Costs to States, and Leave Millions More Uninsured (Center on Budget and Policy Priorities)
HHS長官にPrice下院議員が指名されることに対し、早速、多方面から反応が表明されている(「Topics2016年12月1日 HHS長官にPrice下院議員」参照)。上記sourceは、Medicaidの財政不足から無保険者が大量に生まれると懸念している。
  1. Ryan下院議長、Price下院議員ともに、Medicaidに関する連邦政府負担は包括払い(Block Grant)にすべきと主張している。

  2. 包括払いの算定式は、どこかの時点の実績から、インフレ率等により伸び率を決めていくことになろう。

  3. かつてRyan-Priceが提案していた法案に基づいて試算すると、そうした方式で定めた連邦政府負担は、現行法よりも大きく削減されることになる。
  4. 一方で、州政府の裁量を大幅に認めることになるので、州政府は、加入者の範囲、給付内容、診療報酬などを裁量的に決定するようになる。

  5. 連邦政府負担が大幅に減る中で、加入者範囲が限定されれば、無保険者が再び急増することになる。また、診療報酬が低下することで、Medicaidに参加する医療機関、医師が減少することも考えられる。
さすがに上図のような削減をすれば、共和党の州知事だって猛反発するだろう。ただ、州政府の裁量権拡大と連邦政府負担の削減のバランスをどう取るか、ということが課題になることは間違いないだろう。

※ 参考テーマ「無保険者対策/州レベル全般」、「無保険者対策/連邦レベル

12月1日 HHS長官にPrice下院議員 
Sources : Tom Price, Obamacare Critic, Is Trump’s Choice for Health Secretary (New York Times)
Trump picks Rep. Tom Price for HHS secretary, Verma for CMS (Modern Healthcare)
11月29日、トランプ氏は、HHS長官にTom Price下院議員CMS局長にSeema Verma氏を指名する意向を表明した。

連邦議会上院で彼らの指名が承認されれば、今後、この2人が医療行政をリードしていくことになる。上記sourcesでは、Price下院議員のこれまでの政策主張(信条)を紹介している。
  1. PPACA(オバマケア)

    ずっと廃止を訴え続けている。それだけでなく、総合的な代替案を法案としてまとめてきた。主な項目は次の通り。
    1. 個人、家族の保険加入を支援するため、年齢別保険料補助金制度を導入する。

    2. 上記補助金により、個人がMedicare、Medicaid、Veteransから脱退し、民間保険を選択することを認める。

    3. HSAへの拠出限度額を引き上げる。

    4. ハイリスクの人々の保険加入を補助するため、連邦政府から州政府に対して一定額を拠出する。

    5. 保険プランの州際販売を認める。

    6. 診療報酬の出来高払い方式を改め、診療の質で支払額を決める方式に移行する。

    7. 一定の集団で構成する医療保険組合の設立を認める。

  2. 医療行政における州政府の役割を重視

    Medicare、Medicaidで連邦政府から受け取った拠出金については、州政府の裁量によって支出することを認める。

  3. 医療過誤訴訟から医師を守りやすい制度にする。

  4. 中絶・避妊治療に対しては否定的。

  5. 同性婚に対しても否定的。
PPACAの関係では、Ryan下院議長と考え方が極めて近いと言われており、連邦議会下院共和党との連携はうまく取れそうである。いずれにしても、PPACAを抜本見直しするのであれば、正念場は連棒議会上院である。

なお、トランプ政権の重要ポストに指名された人物のリストは、NPRのサイトでアップデートされている。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル