Source : | A remedy for beggar states (Washington Post) |
先に紹介した通り、州政府・自治体にとって、職員年金問題は2011年の大きな政策課題として認識されている(「Topics2010年12月28日(1) 2011年州政府・議会の課題」参照)。まずは、自治体の事例から見て行こう。上記2市は、ほんの一例である。Northwestern UniversityのKellogg Schoolの推計によれば、Pittsburgh Cityの年金は、あと5年もすれば基金が枯渇する。さらに今後10年間に、10自治体の年金基金が枯渇するとの推計になっている。また、San Francisco Cityの積立不足は、家計あたりに直すと4万ドル弱で全米3位の高額となる。ちなみに、1位はChicago、2位はNew York、4位はBostonとなっている。
- Pittsburgh City
同市のカウントダウン・ボードは、依然として秒読みを続けている(「Topics2010年10月28日 Pittsburgh市のカウントダウン」参照)。PA州への強制移管を回避するためには、現在の積立比率29.3%を50%まで引き上げなければならないが、そのために必要な資金$220Mの調達方法が定まっていない(Pittsburgh Post-Gazette)。
市長は、駐車場とパーキング・メーターをリースすることでキャッシュを調達しようとしている一方、市議会側は、駐車料金を引き上げて、今後30年間の引き上げ分を年金基金に積み立てることを約束するという手法を提案している。市長側は、『議会の決定だけでそのようなことができないし、そもそもキャッシュを積まなければ積み立て比率を引き上げたことにならない』と反発している。
- San Francisco City
11月の中間選挙の際、市職員にという提案(Proposition B)が市民投票にかけられたが、市民はこれを否決した。
- 最高で給与の10%を年金基金に拠出する
- 被扶養者の医療プラン保険料の半分を職員が負担する
それでも、州以外の自治体の場合は、『破産(bankruptcy)』を宣言(Chapter 9)することにより、年金給付や保険料負担を見直すことが可能である。実際、上記sourceによれば、来年は200近い自治体が破産宣言をするものとみられている。
ところが、州政府については、破産宣言をしようにも法律上の規定が存在しない。また、州政府は"too big to fail"とも言われている。従って、いずれは苦境に陥った州が連邦政府に救済を申し入れてくるものと考えられる。これまでも、リーマン・ショック後のObama政権下で、連邦政府による州政府への財政支援策が講じられてきた。
しかし、それらの措置はやがて期限切れとなり、失効していく。さらに、来年からは連邦議会下院は共和党が多数党となり、そうした州政府への支援策は難しくなる。年金について言えば、既に、今期連邦議会において、Devin Nunes下院議員(R, CA-21)は、"Public Employee Pension Transparence Act"(H.R.6484)という法案を提出していた。
同法案は、という内容であった。
- 州政府・自治体に、割引率等の前提条件を含めて職員年金の給付債務の情報公開を求める
- これに従わない州・自治体には、連邦税が免税となる地方債の発行を認めない
- 職員年金の給付債務については全額州・自治体が責任を持ち、連邦政府は救済策を講じない
もちろん、連邦議会下院が新しくなることにより、同法案は廃案となる。しかし、共和党が多数を占める次期下院において、同様の法案が提出される可能性は高く、いずれかの州・自治体が連邦に救済を求めても、下院は応じないであろう。
州政府・自治体の職員年金は、来年いよいよ正念場を迎える。
※ 参考テーマ「地方政府年金」
Source : | Why the Individual Mandate Matters (Urban Institute) |
医療保険改革法の柱の一つである「個人の保険加入義務」に違憲判決が出され、今後の展開に注目が集まっている(「Topics2010年12月14日(1) 保険加入義務化に違憲判決」参照)。そうした中、興味深い分析が公表された。
上記sourceは、Urban Instituteが試算したもので、仮に2010年に医療保険改革法が導入され、そこで個人の保険加入義務を課した場合と課さない場合の比較考量を行っている。ポイントは次の通り。もちろん、保険加入義務だけがなくなるということは想定しにくいが、同法の所期の目的である無保険者の大幅削減はまず不可能となってしまうことは間違いない。やはり、この訴訟の行方がもたらす影響は大きい。
- 当然のことながら、保険加入義務が課されない場合、無保険者割合はあまり下がらない。特に、Exchangeを通じた保険加入が大幅に低下してしまう。
- また、低所得者層の無保険者解消効果もかなり低下してしまう。
- 無保険者が大幅に増えることから、個人の保険料負担も大幅に減少する。
- 若い世代の健康な国民が加入せず、フリーライダーも残ってしまうため、加入義務をなくすと保険料は跳ね上がってしまう。
※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」
Source : | Arizona's unmarried partners set to lose health benefits (The Arizona Republic) |
AZ州では、2009年、歳出削減のために、州政府職員の医療保険プランについて、給付対象となる家族を限定した。これにより、給付対象から外されたのは、
- 婚姻関係にある配偶者
- 19歳未満、または全日制の学校に通っている23歳未満の子供
であった。
- 同性カップルのパートナー
- 異性カップルのパートナー
- 23歳以上の子供
しかし、その後、医療保険改革法により、26歳未満の扶養対象となっている子供は保険加入対象にしなければならなくなった。また、今年7月に、連邦地方裁がAZ州の措置は憲法違反との判決を下したため、同性カップルのパートナーにも保険を提供せざるを得なくなっている。
その結果、異性カップルのパートナーのみが保険対象から外されるという結果となってしまった。もちろん、法律の専門家によれば、異性カップルのパートナーが訴訟を起こせば勝てるとみているが、そうした動きは起きていない。
さらには、異性カップルのパートナーに対し、婚姻関係にある配偶者と同様に医療保険プランを提供している州政府は少なく、上記sourceによれば、California, Connecticut, Illinois, Iowa, Maryland, New Jersey, New Mexico, New York, Oregon, Rhode Island, Vermont, Washingtonの12州のみということである。
同性カップルへのベネフィットばかりが注目されがちだが、こうしたところで差別とも言えるような実態になっていることに、もっと配慮が必要であろう。
※ 参考テーマ「同性カップル」
Source : | Top 11 Issues of 2011 (National Conference of State Legislatures) |
NCSLが選定した、2011年の州政府の課題トップ11のリストである。その他には、「住宅差し押さえ」、「薬物乱用」、「医療過誤訴訟」などが挙げられている。
- 財政収支の改善
- 州政府年金の改革
- 雇用の創出
- 医療保険改革の施行
- 高等教育の再編
- 選挙区割りの見直し
- 失業率の引き下げと失業給付の財源確保
- 治安の維持
- 教育達成度の改善
- 移民問題
- 輸送・インフラの整備
いずれも当websiteではお馴染みのテーマである。要するに、アメリカ社会の問題は州政府が直面する政策課題でもある訳だ。来年は、州政府の動向が一層注目される年となりそうだ。
※ 参考テーマ「政治/外交」
Source : | Seven States to Increase Minimum Wage on New Year's Day (Keystone Research Center) |
上記sourceによれば、物価スライド等により、来年1月1日付けで7州の最低賃金が引き上げられる予定である。7州とは次の通り。この結果、連邦政府が規定した最低賃金($7.25/h)を上回るのは、17州+D.C.となる。
- Arizona
- Colorado
- Montana
- Ohio
- Oregon
- Vermont
- Washington
確かに、最低賃金を実質的に確保することはよいことなのだが、これだけ失業率の高い環境の中で本当に正当化されるのかどうか、検証が必要なのではないだろうか(「Topics2010年11月20日(2) 最低賃金の目減り」参照)。一度、最低賃金の水準と失業率の水準の相関関係を確認しておく方がよさそうだ。
※ 参考テーマ「最低賃金」
Source : | Immigration overhaul effort seems dead (Los Angeles Times) |
来年から始まる第112回連邦議会の下院では、共和党が多数党となる。上記sourceでは、その下院共和党が目指すであろう移民政策の特徴が示されている。こうしたスタンスが国民の支持を得られるのかどうか。少なくともObama大統領は、不法移民に合法的な地位を賦与する道を開こうと国民に呼びかける考えである。
- 不法移民の雇用を減らすために、"E-Verify"を活用する
- ヒスパニックの票を獲得するためには必ずしも移民制度改革を行う必要性はないと考えている
※ 参考テーマ「移民/外国人労働者」
Source : | Individual Mandate Penalties for Tax Year 2011 (Department of Revenue, MA State) |
今月17日、MA州の保険未加入者に対するペナルティ(2011年)引き上げの提案が行われた。ここで、MA州における保険加入義務化が図られてからのペナルティの推移をまとめておく。低所得者層のペナルティは据え置き、中所得者層以上についてはさらに引き上げ、保険加入を求める、というメッセージである。
年 FPL 150.1〜200 FPL 200.1〜250 FPL 250.1〜300 FPL 300.1〜 (18-26歳) FPL 300.1〜 (27歳以上) 2008 $17.5/M ($210/Y) $35/M ($420/Y) $52.5/M ($630/Y) $56/M ($672/Y) $76/M ($912/Y) 2010 $19/M ($228/Y) $38/M ($456/Y) $58/M ($696/Y) $66/M ($792/Y) $93/M ($1,116/Y) 2011 $19/M ($228/Y) $38/M ($456/Y) $58/M ($696/Y) $72/M ($864/Y) $101/M ($1,212/Y)
ところで、連邦法に基づく保険加入義務付けが2014年に実施された場合、連邦と州の二重のペナルティが課されることになるのだろうか?(医療保険改革法案比較表参照)
※ 参考テーマ「無保険者対策/MA州」
Source : | Shining a Light on Health Insurance Rate Increases (HHS) |
「保険料の不合理な引き上げ」を抑制するための具体的なルール案が公表された(「Topics2010年8月18日(3) 州政府の権限強化が必要(2)」参照)。ポイントは次の通り。このルール案はパブリック・コメントにかけられた後、6ヵ月以内に施行される予定である(Kaiser Health News)。
- 2011年に保険料を10%以上引き上げようとする場合には、それだけの引き上げが必要な理由を保険会社が説明・公表することを求める。
- 対象は、個人・小規模企業向け保険プランであり、大企業の保険プランは対象としない。
- 州政府がその説明をレビューするシステムを設ける。州政府が実施できない場合には連邦政府が代わって行う。
- 2011年以降については、州毎の説明責任を求める引き上げ率を設定する。
保険料の急騰(「Topics2010年12月18日 保険料に潰される」参照)に対処できないことに、Obama政権は焦りを感じているのかもしれない。しかし、今回の医療保険改革法に医療コストそのものの抑制策が含まれていない以上、保険料に関する規制で抑制するのは難しいのではないだろうか。
※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」
Source : | U.S. Census Bureau Announces 2010 Census Population Counts Apportionment Counts Delivered to President (Census Bureau) |
2010年センサスの第一次発表があった。ポイントは次の通り。これにより、連邦議会下院の議席数の割り当てが変更となる。Census Bureauが大統領に提出した議席数割り当ての変更案は次の通り。 下院議員一人当たり約71万人を代表することになる。今後のスケジュールは次の通り。
- 2010年4月1日時点のアメリカの人口は、3億874万5538人。
- 2000年時点にくらべ、9.7%増となったが、これは1940年以来の低い伸び。
- 最大の人口を抱える州はCA州(3,725万人)、最も少ないのはWY州(56万人←わが杉並区54万人とほぼ同じ!!)。
- この10年間で最も人口数が増えたのはTX州(430万人増)、最も伸び率が高かったのはNV州(35.1%増)。
ということで、いよいよ1012年大統領選挙に向けての戦いが始まったのである。
- 2011年1月:第112連邦議会開催後の第1週に、大統領より提示
- 2011年2〜3月:州毎の詳細データを公表。これらに基づいて、隔週で"redistricting"を開始
- 2012年11月:新しい大統領選挙人割り当てに基づく大統領選挙、連邦議会下院議員選挙(+上院議員選挙)
- 2013年1月〜:新選挙区に基づく第113連邦議会開催
上記新割り当てを見てもわかる通り、共和党が強い州で人口が伸び、下院議席数が増えている。具体的に議席数の増減のあった州の状況を確認しておく。これらを見ていて気付きの点をいくつか。
州 議席増減数 現有議席配分 州知事 州議会 ゲリマンダリングの可能性 TX州 +4 民主党:9/共和党:23 共和党 上下とも共和党 ◎ FL州 +2 民主党:6/共和党:19 共和党 上下とも共和党 ◎ AZ州 +1 民主党:3/共和党:5 共和党 上下とも共和党 − GA州 +1 民主党:5/共和党:8 共和党 上下とも共和党 ◎ NV州 +1 民主党:1/共和党:2 共和党 上下とも民主党 − SC州 +1 民主党:1/共和党:5 共和党 上下とも共和党 ◎ UT州 +1 民主党:1/共和党:2 共和党 上下とも共和党 ◎ WA州 +1 民主党:5/共和党:4 民主党 上下とも民主党 − IA州 -1 民主党:3/共和党:2 共和党 上:民主党/下:共和党 − IL州 -1 民主党:8/共和党:11 民主党 上下とも民主党 ◎ LA州 -1 民主党:1/共和党:6 共和党 上下とも民主党 − MA州 -1 民主党:10/共和党:0 民主党 上下とも民主党 ◎ MI州 -1 民主党:6/共和党:9 共和党 上下とも共和党 ◎ MO州 -1 民主党:3/共和党:6 民主党 上下とも共和党 − NJ州 -1 民主党:7/共和党:6 共和党 上下とも民主党 − PA州 -1 民主党:7/共和党:12 共和党 上下とも共和党 ◎ NY州 -2 民主党:21/共和党:8 民主党 上下とも民主党 ◎ OH州 -2 民主党:5/共和党:13 共和党 上下とも共和党 ◎ ※ 参考テーマ「人口/結婚/家庭/生活」、「政治/外交」
- 議席数が増えた州では、共和党の勢力が強く、ゲリマンダリングも可能な場合が多い。この面でも、今回の議席数の変更は、一般的に共和党に有利に働くものと思われる。
- 地図を見ても判る通り、メキシコ国境に近い州の人口が増えている。これはヒスパニックによる増分が貢献していることを意味している。一般的にヒスパニックは民主党支持者が多いため、単純に共和党有利とは言い切れない(New York Times)。
- 議席数を減らした州では、民主党主導によるゲリマンダリングが可能なため、単純に民主党が議席数を減らすことにはつながらない。ただし、MA州のように、共和党下院議員が一人もいない州では、民主党が議席数を減らすしかない。
- 大統領選挙人(Electoral College)は、各州に、連邦議会の議席数(下院議席数+上院議席数2)が割り当てられる(選挙人総数は、下院議席数435+上院議席数100+Washington D.C.の3人で、538人)。この面でも、共和党が優勢な州に選挙人が多く割り当てられることになり、2012年の大統領選は、Obama大統領にとってはより厳しい環境となりそうである。
Source : | CalPERS Adopts Landmark Investment Plan (CalPERS) |
リーマンショックで大きく傷んだファンドの建て直しを検討していたCalPERSが、新たなポートフォリオ目標を公表した。ポイントは次の通り。そして、新ポートフォリオ目標達成までの時間軸も示されていない。市場の状況に応じて投資することが基本だから、としている。
資産カテゴリー 具体的な投資対象 投資の狙い ポートフォリオ目標 目標との乖離幅 流動性 現金、連邦債 デフレリスク対応、資産売却回避 4% +/- 3% 成 長 株 式 市場の成長を取り込む 63% +/- 7% 所 得 物価連動債、社債 確実な利回りを確保する 16% +/- 5% 実物資産 不動産、インフラ、森林 長期の投資リターン、インフレ対策 13% +/- 5% インフレ対策 商品先物、物価連動債 インフレ対策 4% +/- 3%
要するに、投資の手の内はまったく見せないのである。それにしても、株式のウェイトが圧倒的に高い。これまでにも、年金支給額の64〜75%は投資収益で賄っていたという。
$220Bにも達する資産をこれほどまでに積極運用しているのだから、リスクを取れる資金となる。裏を返せば、リスクを伴う事業に投資する資金はいくらでもある、ということになる。こういったところにアメリカ企業の活力の源泉があるとも言えよう。
※ 参考テーマ「地方政府年金」