12月29日 議会共和党が先制 
Source :Incoming Congress immediately will pick up Obamacare repeal (Modern Healthcare)
連邦議会共和党は、年明け早々からPPACAへの攻撃を開始すると紹介されている。ある共和党下院議員のメモによると、1月9日の週には、PPACAの条項を無効にするようなBudget Resolutionを下院本会議にかける予定らしい。そうすると、その前の週には上院がBudget Resolutionを本会議で審議、可決するかもしれない。

そうしたスケジュールを可能とするのは、議会ルールとして設けられているBudget Reconciliationという法案審議手法を利用するからである。Budget Reconciliationの主な手順は次の通り(Introduction to Budget "Reconciliation" by Center or Budget and Policy Prioritiesを参照)。

  1. 指定された各院委員会で審議すべき項目を盛り込んだ"Budget Resolution"を両院で審議、可決する。上院でfilibusterは使えない。大統領署名は不要で、法律ともならない。

  2. 可決された"Budget Resolution"にそって、具体的な政策変更とそれに伴う歳出の増減をBudget Reconciliation法案として審議する。

  3. 上院での審議時間は基本的に20時間に限られ、過半数の賛成で可決される。上院でfilibusterはここでも使えない。

  4. 法案に盛り込むことが可能な項目は、
    • 歳出入、債務に影響を与えるもの
    • 公的年金以外の義務的支出(mandatory spending)(裁量的支出(discretionalry spending)は対象外)
    • 総歳出額を増やさないもの
    に限られる。

  5. 上下両院で可決された法案は、大統領署名後、発効する。
上記sourceによると、法案にはPPACAを構成する などが盛り込まれ、それらに関する歳出を3年猶予するという内容になるらしい。その間にPPACAの代替案を検討、執行するという考えのようだ。

上下両院とも多数を握っている共和党は、新大統領が就任する前に実行することで存在感を示したいそうだが、果たしてそんな付け焼刃の修正を国民は納得するだろうか。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

12月28日 AMAの内部対立
Source :Trump's Health Secretary Pick Leaves Nation's Doctors Divided (New York Times)
トランプ新大統領のHHS長官指名が全米医師会(the American Medical Association, AMA)の内部対立を引き起こしている。

HHS長官に指名されているのは、Tom Price下院議員だ(「Topics2016年12月1日 HHS長官にPrice下院議員」参照)。医師出身の現役下院議員が指名されたということで、AMAは即日、強く支持すると表明した(Press Release)。

このAMAの支持表明に対し、医師会メンバーが猛反発し、反対署名活動や脱退する医師まで出ているそうだ。争点は、PPACAに対するPrice議員の姿勢である。

Price議員はPPACAの廃止を訴えている。今回、トランプ新大統領から指名されたのも、その実現のためということは明白だ。一方、AMAは、法案審議段階からPPACAを支持しており、2014年からのEXchange本格稼働においてもその施行に協力してきた。EXchangeが軌道に乗り、無保険者が大幅に減少したと評価する医師達が大勢いるのだ。

上院での承認はすんなり行くようだが、その後、就任してからが大変そうだ。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

12月27日 連邦裁判官の空席数
Source :Trump to inherit more than 100 court vacancies, plans to reshape judiciary (Washington Post)
上記sourceによると、トランプ新大統領が任命すべき連邦裁判官の空席数は103にものぼる。オバマ現大統領が新大統領に就任した際の空席数は54だった。実に倍以上の空席数を引き継ぐことになる。

オバマ大統領は、任期の8年間に329人の連邦裁判官を任命した。これはブッシュ大統領の8年間の任命数326を上回っている。その結果、オバマ大統領就任時、13の連邦控訴裁判所のうち、民主党指名裁判官が過半数を占めていたのは一つしかなかったが、今は9つにもなっている。また、オバマ大統領は、意図的に裁判官のダイバーシティを進めてきた。

それでも、2015年以降、連邦議会上院で共和党が多数派になってからは任命のペースは極端に落ちてしまった(「Topics2014年11月6日 中間選挙後の政策動向」参照)。最後の2年間はほとんど進まなかったといってよい。

トランプ大統領は、選挙期間中から連邦裁判官の任命を重視している。特に、連邦最高裁判事の指名については、亡くなったScalia判事と同じ価値観を共有している判事を任命すると述べている(「Topics2016年2月16日 連邦最高裁判事の指名問題」参照)。また、保守支持層の中には、連邦最高裁判事を指名するためにトランプ氏に投票した人が多いと言われているそうだ。

まさに彼らの狙いが的中し、トランプ新大統領と共和党に大きなチャンスが巡ってきたのである。上記sourceで紹介されている専門家の見立てでは、2020年までに となる。連邦裁判所の勢力図が大きく、しかもスピーディに変わっていく可能性がある。

ただし、同じ専門家が留意事項も指摘している。連邦議会上院の慣習で、州内の裁判官指名については、同州で選出されている上院議員同士で合意が必要とされている。この慣習に従うとすれば、新上院では、28州に少なくとも一人の民主党議員がいるため、それほど簡単に指名の合意はできないかもしれない。

連邦裁判所は、最高裁、控訴裁判所、地方裁判所の各レベルで赤く染まっていくことになりそうである(「Topics2016年11月10日 連邦最高裁人事」参照)。

※ 参考テーマ「司法

12月26日 CalPERS:予想利益率引き下げ
Sources : CalPERS board gives green light to cut assumed rate of return to 7% (Pensions & Investments)
CalPERS moves to slash investment forecast. That means higher pension contributions are coming. (Sacramento Bee)
12月21日、CalPERSは、3年間かけて予想利益率を引き下げると発表した。 外部のコンサルタント会社からは、今後10年間の予想利益率は6.21%との見通しを示されていたが、それよりは少し高めの設定である。

一方、現在のCalPERSの積立比率は68%、実績利益率は2014年度0.6%、2015年度2.4%と、かなり厳しい状況である。実績利益率が予想利益率を下回り続ければ、CA州政府の拠出を増やすか、CA州政府職員の拠出を増やさない限り、財政状況は悪化していくことになる。

それでも、政治的には州民(税)や職員の負担増をできる限り回避したい。そうした動機が働くのだろう、州政府職員年金は、一般的に高めの予想利益率を設定しているようだ。 問題の先送りが州政府年金プランでも行なわれているようだ。

※ 参考テーマ「地方政府年金

12月22日 NC州:トイレ法で大混乱
Source :North Carolina Limits on Transgender Rights Appear Headed for Repeal (New York Times)
LGBTが使用できるトイレを巡って対立を続けてきたNorth Carolina州(NC州)の州議会とCharlotte Cityが協議して、問題を決着する方向に動いていた(「Topics2016年3月30日 トイレ問題を巡る攻防」参照)。

NC州『トイレ法』は州内外から厳しく批判されており、投資の取り止め、イベントの中止、転地などが相次いでいた(「Topics2016年4月4日 NC州法に経済界猛反対」「Topics2016年4月8日 NC州への投資取り止め」参照)。また、NC州と連邦政府との間で訴訟合戦にもなっていた(「Topics2016年5月11日 NC州法:訴訟合戦」参照)。

こうした批判を追い風にして、11月8日に行なわれた州知事選では、Roy Cooper氏(D)が現職のPat McCrory知事(R)に勝ったとされている。同日行なわれた大統領選ではクリントン氏(D)が、連邦議会上院議員選挙でも民主党候補者が敗れている。民主党候補者が勝ったのは、知事選だけである。さらに、NC州で民主党候補者が共和党現職知事を破ったのは、実に1850年以来とのことである。

余談だが、選挙結果が出た後もMcCrory現知事(R)がなかなか敗北宣言を出さず、クレームを連発していたため、州議会共和党議員の主導で、州知事の権限を大幅に制限する法案を成立させてしまったそうだ。

来年1月1日に州知事に就任するRoy Cooper氏(D)は、Charlotte市が差別禁止条例を取り下げることを条件に、『トイレ法』の廃案を州議会共和党に持ちかけていたようである。

州議会共和党幹部としてみれば、『トイレ法』に終止符を打つことで、Cooper新知事(D)の政治的な勢いを少しでも和らげることが可能となる。一方の新知事、Charlotte市側は、共和党が多数を握る州議会で、知事戦での公約を確実に果たすことができる。そこで、この取り引きが成立したということらしい。

この取り引きにそって、12月19日、Charlotte市議会は全員一致で自ら認識する性別に従ってトイレを利用することを認めた市条例を撤廃した。一方のNC州議会は、12月21日に特別会議を開いて、争点となっている『トイレ法(H.B.2)』を議論することとしていた。

ところが、Charlotte市議会の議決直後、Roy Cooper氏(D)は、「州議会共和党幹部達は、特別会議で『トイレ法』を完全撤廃することを確約してくれた」との声明を公表した。つまり、水面下の取り引き内容を明らかにしてしまったのである。

NC州議会のTim Moore下院議長(R)Philip Berger上院議長(R)は、Cooper氏の声明に対して猛烈に反発し、 とのコメントを示した。

実際、12月21日に州議会特別会議は開催されたが、上院は『トイレ法』廃止法案を否決、下院に至っては何も議決しないまま閉会となった(Washington Post)。Charlotte市条例は廃止、『トイレ法』は存続することになり、新任知事と州議会の圧倒的多数を握る共和党との間には、州知事就任前から深い溝ができてしまった。

NC州の政治的混乱はしばらく続きそうである。

※ 参考テーマ「LGBT

12月21日 処方薬輸入の広がり
Source :Faced With Unaffordable Drug Prices, Tens Of Millions Buy Medicine Outside U.S. (Kaiser Health News)
連邦法上、処方薬の輸入は原則禁止である。しかし、11月にKaiser財団が実施した世論調査では、外国から処方薬を輸入したことのある家計は8%だった。数にしてみれば、およそ1,900万人のアメリカ成人が処方薬を輸入した経験を持っていることになる。しかも、違法であることを知っていれば"Yes"とは答えないだろうから、実際はもっと高い数字になるものと思われる。

これだけ処方薬輸入が実質的に広がっている背景の一つが、処方薬価格の高騰であろう。今年1年間は、処方薬価格の高騰に明け暮れたといっても過言ではない。高くなっている処方薬に代えて外国から輸入している国民が増えているのだろう。上記sourceでは、そうした経験者の実例や、その動機が紹介されている。

トランプ次期大統領は、処方薬輸入に関して具体的には言及していないようだが、製薬会社は絶対反対だ。新政権はどのようなスタンスを採るのであろうか。

※ 参考テーマ「処方薬輸入