8月20日 29ersの増加 
Source :ObamaCare Is Lowering Part-Time Workers' Hours (National Center for Policy Analysis)
上記sourceによると、週労働時間別に見た雇用の動向に異変が生じているらしい。ポイントは次の通り。
  1. 過去1年間で、雇用者数は220万人増加、1.6%増となった。

  2. ところが、第2四半期の週30〜34時間の雇用者数は、前年同期に比べ、月平均146,500人減少、1.4%減となっている。

  3. 対照的に、週25〜29時間の雇用者数は、前年同期に比べ、月平均119,000人増加、2.7%増となっている。
こうした状況から、上記sourceは、PPACAの影響が出現していると結論付けている。『30時間の壁』、29ersの増加である。今後、労働市場政策として、大きな課題としてあがってくることと思う。

※ 参考テーマ「労働市場」、「無保険者対策/連邦レベル

8月19日 Exchangeへの移行の財政効果 
Source :Detroit, Chicago Propose Moving Retirees To Exchanges in Attempt to Save Millions (AIS Health)
財政状況の厳しい自治体において、その改善策として具体化しそうなのが、退職者の医療保険をExchangeに移行させ、給付債務を縮減していこうとする案である(「Topics2013年7月31日 給付債務回避にExchangeを」参照)。上記sourceでは、その財政効果を説明している。
Exchange現行制度
2014年2014年2023年
Detroit$27.5〜40M$140.7M$233.7M
Chicago$132.9M$194.4M$540.7M
効果が顕著であることは明らかである。

ただし、大量の退職者が流入してくるExchangeの方は予想外の動きとなるため、必ずしも歓迎ということにはならない。高年齢者が大量に入ってくれば、今の想定保険料では賄い切れないかもしれない。翌年の保険料の大幅引き上げにつながるかもしれない。

そうした課題とのバランスで今後決定されていくことになると思う。

※ 参考テーマ「自治体退職者医療/GAS 45」、「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般」」

8月18日 MA州:Pay More, Less Benefits 
Source :Mass. Residents Paying More, Getting Less From Health Insurance (Kaiser Health News)
PPACAの一歩先を行くMA州の皆保険制度だが、2009〜2011年の2年間で、保険料が上昇し、給付水準は下がったそうだ。
平均で見ると、この2年間で保険料は9.7%上昇したものの、給付水準は5.1%低下している。中でも、個人、小規模グループ保険のギャップが大きい。

因果関係から言うと、
医療費が高騰する⇒保険料の急騰が見込まれる⇒給付水準を見直す⇒保険料の上昇率は抑制されるものの上昇は続く
という流れだろう。

医療費が高騰を続ける原因はいくつもあるだろうが、上記sourceでMA州特有のものとして挙げられているのが、住民が好んで高いコストの医療機関にかかっている、という事実である。近くにコミュニティ病院があってそこで十分診療が受けられるのに、高い医療機関にまで出かけていく、というのだ。確かに、昔のイメージかもしれないが、公立の病院に行くと最低限の医療しか受けられないので民間病院に行くのだ、という感覚がある。

MA州で使われた医療費を医療機関別に分類してみると、Partners HealthCareという医療機関グループ単独で、28%もの医療費が使われているのである。

このPartners HealthCareは、最も医療分野で稼ぐ機関であると同時に、最大の雇用主でもある。ここで、以前にも紹介したが、アメリカ社会の医療費の高騰と雇用増は裏腹の関係にあるということが如実に現れているのである(「Topics2012年8月3日 雇用の牽引役」参照)。 MA州では、今年10月から、保険会社のwebsiteでどこの医療機関にかかると費用はいくらになるか、といった情報を掲載するというが、どこまで効果があるのか。

一方、こうした状況に不満を抱いているからかどうかはわからないが、MA州の看護師協会が、2014年の州民投票にかける案件を申請した(Mintz Levin)。
  1. 医療機関の営業利益率に一定の上限を設ける。

  2. 医療機関のCEOの報酬を、当該医療機関のフルタイマーの最低賃金の100倍以内に制限する。
明確な理由まではわからないが、医療機関やその経営者が儲けすぎ、現場の医療従事者にも配分を、という思いが背景にあるのだろう。

この案件申請は、今後、州政府機関の審査を経て、2014年の州民投票にかけられるかどうかが決まってくる。いろいろな形で医療費を抑えようという動きが出ている。

※ 参考テーマ「無保険者対策/MA州

8月17日(1) Medicaid拡充の努力 
Source :States Debate Medicaid Expansion (National Center for Policy Analysis)
PPACAの本格始動直前で、Medicaid拡充を決定した州の数に変化はない(「Topics2013年7月2日 AZ州:Medicaid拡充決定」参照)。
Exchange & Medicaid (2013.7.1.現在)

State Health Insurance Marketplaces (CMS)
Health Reform's Medicaid Expansion (Center on Budget and Policy Priorities)
しかし、各州では依然として、拡充に関する議論が継続されている。上記sourceでは、Indiana, Michigan, New Hampshire, Ohio, Pennsylvania, Tennesseeで活発に行われていると報じているし、Health Reform's Medicaid Expansion (Center on Budget and Policy Priorities)の分析によれば、 で議論が進んでいるという。

このように、本格実施を間近に控えても議論が継続されるのは、PPACAではMedicaid拡充の決定に期限を設けておらず、州政府さえ決断すれば、四半期ベースで連邦政府が認可する可能性があるためである。

従って、既にMedicaid拡充はしない方向と見做されている州でも、拡充の議論は継続している。そのような州の代表例として、Missouri州(MO)の情報をまとめておく。
  1. MO州議会では、Medicaid拡充の可否について議論が継続している。

  2. 現状、87.5万人がMedicaidに拡充している。これは、(連邦、州合わせて)年間$8.5Bのコストとなっている。

  3. PPACAにそって加入資格を緩和した場合、さらに26万人が追加加入するとみられている。

  4. 無保険者を減らすためにMedicaid拡充が必要だとの意見も多いが、Medicaidの抜本改革が前提条件であるとの意見も根強い。

  5. 抜本改革が必要との意見の代表例は次の通り。
    • 処方薬の濫用が多い。
    • 検査の重複や不必要な救急診療が多い。
    • それらの結果として、1%の患者が医療費全体に25%を費消している。
    • 高齢者、障害者は、医療費の60〜70%を費消しており、出来高払い制から包括払い制に移行すべきだ。
やはり、目の前の人参だけでは不足しており、抜本的な制度改正をしておかないと、将来の負担増に耐えられないという不安感が勝っているのだろう。

※ 参考テーマ「無保険者対策/州レベル全般」、「無保険者対策/その他州

8月17日(2) 逆境の中のExchange 
Source :Guerilla Outreach: How Exchanges Are Being Promoted in States Hostile to Obamacare (AIS Health)
これまで何度も紹介してきているように、州立Exchangeを創設することを決めている州は18州しかなく、7州は共同設立、残りの26州は設立に直接は関与せず、連邦政府が設立することとなっている(Exchange & Medicaid (2013.7.1.現在))。26州の多くはPPACAに反対する共和党知事が存在しており、州政府として派手にExchangeをプロモートすることは難しい状況にある。

上記sourceは、そうした逆境の中でも地道な広報活動が行われていることを報じている。 州政府の力を借りなくても、こうした広報活動が自発的に行われるのはアメリカ社会らしい。

※ 参考テーマ「無保険者対策/州レベル全般

8月17日(3) FL州:再入院抑制の努力 
Sources : Florida hospitals reducing readmission rates (AP)
Hospitals reduced readmissions, surgical complications (Miami Herald)
FL病院会は、2008年から5年計画で、病院での診療の質を高める活動を行ってきた。その結果、FL州の病院の再入院は、5年間で約15%低下したという。その他の指標でも、好結果をもたらしたと述べている。

一方、PPACAの規定により、2011年から、Medicareでは、再入院率が高いと診療報酬の一部がカットされる(「Topics2012年8月26日 Medicare病院にペナルティ」参照)。そのペナルティを課された病院数でみると、FL州は167病院と、TX, CA州に次いで3番目に多くなっている。

このギャップは何によるものなのか。FL病院会は、再入院の定義が異なることを挙げている。

※ 参考テーマ「無保険者対策/その他州

8月17日(4) CA州:医療従事者の権限強化策 
Source :Bills on nurse practitioners, pharmacists advance in Assembly (Los Angeles Times)
Nurse practitioner(NP)などの権限を強化する法案の審議が、CA州議会下院で進んでいる(「Topics2013年6月2日(3) CA州:上院がNP役割拡大法案を可決」参照)。 当然、医師会は猛然と反発し続けているが、PPACAのもと、無保険者縮減を目指す州政府・民主党は、保険者加入の急増に対応する方を優先しようとしているようだ。

※ 参考テーマ「無保険者対策/CA州」、「無保険者対策/州レベル

8月16日 高免責額プランの問題点 
Source :High-deductible plans increase bad debt, hospitals say (FierceHealthPayer)
HSAが順調に普及している(「Topics2013年3月17日 HSAは順調に増加」参照)。その裏返しとして、高免責額の保険プランが広まっていることを意味する。上記sourceでは、これが主に次のような問題を起こしている、と主張している。
  1. 医療機関の不良債権(回収できない債権)が増えている。病院経営にとって悪影響がある。

  2. 受診を先延ばしすることで、症状が悪化しているケースが増えている。低所得層が高免責額保険プランに加入した場合、初年度には救急診療が30%、入院が23%減少し、翌年度には増加に転じている。

  3. 高免責額のプランでは、やはり受診抑制的になるため、医療サービス分野の雇用が以前ほどは伸びない。
保険料抑制を目的に導入が進んでいる「HSA+高免責額」では、受診抑制はある程度仕方ないと思うが、シビアなケース、低所得層への配慮が必要との意見が強く、上記sourceでは、所得別の免責額制の導入が提案されている。アメリカの場合、民間の保険プランの中で所得再分配機能を強化することはかなり厳しいと思う。

※ 参考テーマ「医療保険プラン」、「HSA

8月15日 WA州:4社承認、5社否認 
Source :State rejection of 5 companies’ health plans draws criticism (The Seattle Times)
WA州のExchangeにおいて提供される個人保険プランが公表された。上記sourceによると、4社のプランが承認され、そのほかに申請していた5社のプランは否認された。否認の理由は次の通り。
  1. 充分な医療提供ネットワークが形成されていない

  2. 州の保険規制に合致していない
この決定に対して、批判があがっているそうだ。主な批判は次の2つ。
  1. Exchangeの個人保険プランに参入できる保険会社が4社しかなく、競争制限的である。19のcountyでは、選択肢は一社のものしかなくなる。

  2. 否認された保険会社の中には低所得層向けのMedicaid保険プランを提供しているところがある。低所得層がExchangeを通じて保険加入しようとすると、所得変動によってMedicaidから民間保険プランに変更しなければならなくなると、今までかかってきた医療機関から変わらなければならなくなる。
WA州は、Exchangeは州立、Medicaidも拡充することとなっており、PPACAにおいては優等生のはずである。それでもこのような課題を抱えてしまっている。本当にPPACAの本格実施は前途多難である。

※ 参考テーマ「その他州

8月14日 自己負担上限も1年先送り 
Source :A Limit on Consumer Costs Is Delayed in Health Care Law (New York Times)
またもPPACAの重要な規定が1年先送りされることが明確になった。

PPACAでは、医療保険における自己負担額(免責額、窓口負担など)の上限を設けている。 ところが、このほど、労働省高官の発言で、これが1年先送りされることが明らかになった。上記sourceによると、それらしきことは労働省のwebsite("FAQs about Affordable Care Act Implementation Part XII"のQ2)で2月から示されていたが、近日、確認を求められて、高官が明らかにしたそうだ。

企業が提供する保険プランなどでは、保険給付の分野別に管理していて、それぞれのプラン毎に自己負担を設けている。このため、すべてを統合して自己負担額を管理するためには、システムの統合が必要になるが、それが2014年には間に合わないという事情が理由として挙げられている。

そこで、連邦政府としては、『2014年に限って、個別の保険プラン毎に設定される自己負担上限額が上記の規定を満たしていればよし』とすることにした。この結果、2014年は、医師の診療に関する自己負担の上限額が$ 6,350/Y、処方薬に関する自己負担の上限額が$ 6,350/Yという形もあり得る、ということになるそうだ。

自己負担の上限は、"affordable"のための大切な要素であったはずなのに、これも連邦政府の裁量で1年先送りにされてしまうことになる。最も影響を受けるのが、慢性疾患を患っている患者で、高額の治療や処方薬の自己負担を抑制することができなくなる。

このように本当に大事な事項の変更は、websiteに書き込んだり、政府高官がインタビューで回答する形ではなく、大統領やHHS長官が正式に国民に向けて説明しなければいけないのではないだろうか。ゴルフ三昧の日々を満喫している場合ではないような気がする。

(8/15追記)

一夜あけてみると、The White Houseは、13日付で次のようなメッセージを発信していた。
  1. Exchangeで提供される個人保険プランでの上限は、2014年からPPACAの規定通りになる。

  2. 企業で提供される保険プランでも、その上限は、2014年からPPACAの規定通りになる。

  3. ただし、企業提供プランの中で、複数の保険給付管理システムを併用している場合には、2014年に限って、個別の保険プラン毎にPPACAが規定する上限値が適用される(上述のケース)。

  4. それも、2015年になれば統一されて、Exchangeと同様、統合された自己負担上限額が適用される。
特に何も反論している訳ではない。PPACAは2014年から予定通り上限額を規定するのであり、適用されないのは例外措置である、と言いたいのである。騒ぎの大きさに驚いて、慌てて言い訳メッセージを掲載したようである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「医療保険プラン

8月13日 地方政府労組への圧力 
Source :Health Care Law Raises Pressure on Public Unions (New York Times)
PPACAの規定では、2018年1月1日以降、給付内容が高い医療保険プランについては、40%の付加税をかけることとしている。いわゆる"Cadillac tax"である。
  1. 課税対象となる給付水準
    • 個人プラン:$10,200/Y(2018年以降は物価スライド)
    • 家族プラン:$27,500/Y(2018年以降は物価スライド)

  2. 課税対象:上記給付水準以上の給付額

  3. 税 率:40%
民間企業では などの理由から、Cadillac taxの課税になるケースは少ないと見られている。逆に、これまで賃金上昇の抑制とセットで医療保険プランの充実を図ってきた地方政府の方が、Cadillac taxの課税対象になる場合が多くなるのではないかとみられている。

実際、上記sourceで紹介されているNY Cityの場合は次のようになっている。
個人プラン($/Y)家族プラン($/Y)
2012年5,61515,745
2013年7,12818,249
この2年間の上昇が同じように今後5年間続くとすると、簡単に上記の課税対象水準を超過してしまう。NY Cityでは、課税負担額が2018年に$22M、2022年には$549Mに達すると試算している。

このような状況を受けて、各地方政府は、労働組合に対して、課税額を圧縮するために給付内容を見直すよう求め始めている。給付内容を下げるためには、保険給付の対象を減らす、自己負担額を増やす、償還対象となる医療機関を限定する、などの措置を講じなければならない。

地方政府職員労組は、年金プランでも医療保険プランでも、ベネフィットの圧縮を求められることになる。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般」、「医療保険プラン」、「労働組合

8月12日 地方政府年金:破綻回避策私案 
Source :A Plan to Avert the Pension Crisis (New York Times)
元Los Angeles市長と、元Los Angeles Times記者が、地方政府年金の破綻回避策を提案している。これを基に、連邦政府・議会は真剣に制度作りに取り組むべきだと主張している。

プログラム提案のポイントは次の通り。
  1. プログラムに参加する地方政府には、給付債務をカバーするための債券の発行(連邦政府の保証付き)を認める。

  2. プログラム参加地方政府は一定の負担を拠出する(=保険料を負担する)。こうすることで、連邦政府の負担はなくなる。

  3. これにより、プログラム参加地方政府は、低コストで長期の資金を手に入れられる。

  4. 一方で、参加地方政府は、年金プラン、退職者医療プランについて、一定の改革を約束しなければならない。

  5. 少なくとも、単一の投資利益率を仮定して、現行の給付水準を引き下げなければならない。

  6. 給付内容の交渉については、労働組合との交渉枠組みを利用する。
要するに、地方政府版の支払い保証制度を設けるべき、ということである。Chapter 9の要件は厳しく、給付水準の引き下げは政治的に難しいため、モラルハザードは心配ない、としているが、やはり、モラルハザードが懸念される。

というのも、地方政府は、このプログラムに『任意』で参加するのか、『強制的』に参加させられるのか、が明確になっていないことにある。

任意であるとすると、健全な地方政府は参加しないだろう。危機的状況の所ばかりが集まれば、拠出金(=保険料)は莫大なものとなる。

強制参加ということであれば、地方政府の自治はどうなるのか。連邦政府が州政府、自治体の権限を奪うことにならないか。また、年金プラン等の健全化に努めてきた地方政府の自助努力はどこで報われるのか。財政が健全な地方政府から不健全な地方政府への所得移転が起こることになることは間違いない。

簡単に実現するとは思えない提案である。

※ 参考テーマ「地方政府年金」、「自治体退職者医療/GAS 45

8月11日 FBIの逮捕履歴 
Source :Growing use of FBI screens raises concerns about accuracy, racial bias (Washington Post)
未だによく理解できていないのだが、アメリカでは雇用するかどうかを決める際に、FBIの逮捕履歴に照会することがあるらしい。昨年はそのFBIへの照会が1,700万件にのぼり、10年前の6倍にまで急増しているそうだ。もちろん、9/11の影響である。

上記sourceによれば、州法または連邦法によって認められている場合には、雇い主はFBIに採用候補者の逮捕履歴を照会することができる。港湾労働者、国勢調査調査員などが例示されている。

ところが、このFBIの逮捕履歴には問題があるという。 こうした問題を抱えている理由として、責任の所在が不明確であることが挙げられる。
  1. FBIは、『データは州からもらっているだけで、そのメンテは州の責任である』としている。

  2. 州によるデータのメンテも様々で、不完全なものが多い。
こうした結果、就職できなかった人達がたくさん出ているという。移民記録の件でも、E-Verifyが不完全なために使えない、と言われている。ここでも、システムを構築したものの信頼できる制度になっていない、という事例が起こっている。

※ 参考テーマ「労働市場