12月10日 医療保険改革に専念 Source : Sen. Edward Kennedy To Step Down From Seat on Senate Judiciary Committee To Focus on Health Care (Kaisernetwork)
上記sourceによれば、来年早々からの第111連邦議会(2年間)で、Kennedy上院議員は、HELP委員長に専念し、医療保険改革に全力で取り組む覚悟とのことである。しかも、注目のBaucus上院議員(財政委員長)と共同で、一本の改革法案を提出する可能性もあるという(「Topics2008年11月22日 医療保険改革を推進する有力議員達」参照)。
Obama新大統領のもと、連邦議会で合意を取り付けることができるのかどうか、年初から注目である。
※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」
12月9日(1) UAWが半分負担か Source : Tough Terms for Detroit Bailout (BusinessWeek)
Big 3への緊急融資の大枠について合意が成立した模様だ。明日の10日(水)にも議会で審議、投票が行われる見通しである。
詳細はまだ明らかにはなっていないようだが、厳しい再建計画の策定と経営監視の枠組みが設けられることになろう。その中で、UAWに対しては、医療給付債務に関する"debt equity swap"が求められることになりそうだ。具体的には、医療給付債務の半分をUAWが負担するかわりにBig 3の株式を取得する、というものである。また、UAWは経営を監視するために取締役のポストを要求しているそうだ。
このような構図には、既視感がある。航空業界の年金プランである。航空業界の場合には、結局、再建は短期間で破綻し、最終的に年金プランはPBGC行きとなった。
最後にいつもの株価動向。 ⇒ GM Ford
※ 参考テーマ「PBGC/Chapter 11」、「VEBA/Legacy Cost」
12月9日(2) PPA改正に冷淡 Source : White House says no to pension relief (Financial Week)
金融危機、経済情勢の悪化に伴い、要積み立て額は膨張し、その財源となる企業利益は収縮している。こうした情勢を背景に、プランスポンサー等は、PPAの要件緩和を連邦議会に働きかけている(「Topics2008年11月17日 金融危機とDB(1) - 民間企業」参照)。
このような動きに対して、大統領府ならびにPBGCは、非常に冷たい対応を取っているという。理由は簡単で、現状でさえ、積み立て不足に陥っているのに、要件を緩和すれば、積み立て不足は増大かつ恒常化し、受給権の保護が覚束なくなるというものである。
PBGCについては、そうした状態のまま「倒産→DBプランの廃止」ということになれば、新たな給付債務を背負うことになり、そうした債務引き受け額をなるべく小さくしておきたい、との思惑が働いている。加えて、GMの推移も気になるところであろう(「Topics2008年9月16日 Delphi救済策」参照)。
企業側の動きも、所管する政府の対応も、立場としては当然であろう。そこにどのような判断をすべきなのか、連邦議会の見識が問われるところである。
※ 参考テーマ「企業年金関連法制」、「DB/DCプラン」、「PBGC/Chapter 11」、「VEBA/Legacy Cost」
12月8日 鍵を握らされたUAW Source : UAW Concessions Are Critical to GM's Survival (BusinessWeek)
今週後半、Big 3(正確にはFordを除く)に対する緊急融資を連邦議会が承認することになりそうだ、との観測記事が出ている(BusinessWeek)。Pelosi下院議長が承認に傾いていることに加え、やはりChapter 11は回避しなければならないというコンセンサスが醸成されつつあるようだ。
財源は、環境対策用に用意されていた融資枠$25Bの中から、$15Bが供出されるようだ。ただし、GM、Chryslerが要請していた金額は合計$19Bであり、若干不足する可能性がある(「Topics2008年12月4日 Big 3の救済要請」参照)。
一方、本格的な支援策の実現のためには、もっと厳しい再建策が必要との見方が広がっており、そうした再建策が可能となるかどうかは、どこまでUAWが譲歩するかにかかっているようだ。
具体的には、Big 3の医療保険プランの見直しである。上記sourceでは、GMの医療保険プランについて、次のような現実を伝えている。
- UAW組合員、退職者が実際に負担している保険料、自己負担等は、医療費全体の5%に過ぎない。他の産業の労組加入員は、普通30%前後の負担をしている。
- GMが設立を約束したVEBAには、退職者医療に関するGMの給付債務$47Bのうち、68%にあたる$32Bを拠出することになっている。UAWならびにその加入員がいくらかでも負担を増せば、その分、GMの負担は軽減され、再建の可能性は高まる。
特に、後者のVEBAについては、GMがChapter 11に入ってしまえば、簡単に立ち消えになってしまう。また、企業年金の受け皿になるPBGCのような公的プランも存在しない。それこそ、なかったことになってしまいかねない。
UAWとしては、まだまだ譲歩の姿勢は示していないものの、現実の選択肢は狭まりつつある。
※ 参考テーマ「VEBA/Legacy Cost」
最後にいつもの株価動向。 ⇒ GM Ford
12月5日 医療保険改革のコンセンサス Source : Consensus emerging on universal healthcare (Los Angeles Times)
上記sourceによれば、ワシントンの関係者の間では、医療保険改革に関するコンセンサスができ上がりつつある様だ。その主な項目は次の通り。
- 企業が提供する保険プランは存続させる。
- 連邦政府による単一の保険プランというアイディアは、検討課題からはずされつつある。
- 個人にインセンティブを付与することで保険プランを購入させるという考え方も否定されつつある。
- 医療コストの抑制と、診療の質に応じた報酬が必要である。
- 医療保険改革には、多額の税の投入が必要である。
こういったコンセンサスが本当にできているのであれば、プロ民主党の連邦政府単一保険、プロ共和党の自由市場主義のいずれも圏外に去ったことになる(「Topics2008年1月8日 医療保険改革の対立軸」、「Topics2008年3月11日 医療保険改革の対立軸(2)」参照)。国務長官として入閣予定のClinton上院議員は、さぞかし複雑な想いであろう。
一方、解決すべき課題も集約されつつあるという。
- 無保険者を民間保険プランまたは政府保証プランに加入させる手段はどうするのか。
- 政府保証プランが拡大することにより、医師、医療機関は収入が減少するのではないかと懸念している。
- 同様に、政府保証プランを拡大することに対し、保険会社は顧客を失うのではないかと懸念している。
- 医療コストの抑制のための政策手段は何か。
- 診療の標準化はどうやって進めるのか。
総論賛成・各論反対は、大きな改革につきものであり、上記のようなコンセンサスもどれだけ強固なものなのか、今後の動向は依然不透明ではある。しかし、Clinton政権時代の医療保険改革議論と異なるのは、連邦議会の中で超党派の動きが先行していることである(「Topics2008年11月22日 医療保険改革を推進する有力議員達」参照)。こうした動きにObama新大統領がうまく乗っかることができれば、ひょっとして、大きな動きにつながるかもしれない。
また、UAWには申し訳ないが、Big 3の医療保険プランの破綻が、案外、強力な追い風になるかもしれない(「Topics2008年12月4日 Big 3の救済要請」参照)。
※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」
12月4日 Big 3の救済要請
Big 3の救済要請およびUAWの譲歩案が出揃った。
これらを見て、コメントをいくつか。
- Big 3からの金融支援要請総額は、$34B。その内訳は次の通り。
| 直接融資 | 融資可能枠 |
GM | $12B | $6B |
Ford | - | $9B |
Chrysler | $7B | - |
これを見ると、他の2社とは異なり、Fordは、万が一の場合に備えて、融資可能枠の設定のみ求めている。この点は、同社のPress Releaseでも何度も強調しているところであり、直近の手許流動性が危機に瀕している訳ではない。
- UAWは、次の2点で譲歩を決定した。
- "Job Bank"の廃止(「Topics2006年1月25日 Fordのレイオフ対策」参照)
"Job Bank"は、BusinessWeekによれば、『悪名高き羽根布団』と評されるほどであり、廃止はやむを得まい。一方で、この制度は、完全失業までの緩衝材となっていた側面もあり、今後、Big 3のリストラが進むと、ストレートに失業者として吐き出されてくることになる。
- VEBAへの拠出の延期(参考テーマ「VEBA/Legacy Cost」)
UAWは、きっちりと利子をつけて返してもらう、と主張しているが、拠出の延期がいつまでなのか、何も言明していない。逆からみれば、無期延期、なし崩し的な退職者医療プランの廃止、ということになる可能性もある。
- UAWは、Big 3との間の労働協約の見直しにも応じるとしている。Big 3側は、トヨタのアメリカ工場の労働者と同じレベルまで人件費を抑制したいとしている。BusinessWeekによれば、UAW加入の労働者とトヨタ向上の労働者の人件費は、次のようになっている。
| 時間給 | 福利厚生を含めた時間あたり人件費 |
G M | $29 | $76 |
Toyota | $25 | $58 |
福利厚生を含めたレベルで比較すると、GMの方が3割も高い。これだけのレベルダウンを実現するのは、並大抵のことではない。医療保険の保険料や自己負担の見直しも当然入るだろうし、退職者医療プランの見直しも含まれるだろう。
上記2.-Aとあわせ考えてみると、やはりこれを期に、Big 3は、退職者医療プランを廃止に持っていこうとしているのではないかと思われる。
最後にいつもの株価動向。 ⇒ GM Ford
12月2日 受託者がブロック-GM 401(k) Source : State Street puts brakes on GM participants (Pensions & Investments)
GMの財政危機を踏まえ、GMの401(k)プランを運営管理しているState Streetが、プラン加入者によるGM株の購入を停止させた。
現在、State Streetは、GMのホワイトカラー向けプランで$11.7B、ブルーカラー向けプランで$8.6Bの資産を管理している。そのうち、GM株は$1.4Bに達しているそうだ。GMとしては、急落した自社株の買い支えを期待していたようだが、State Streetは、それを拒否した。加入者の利益が第一、というのがその理由だ。
Enron以来問われ続けてきた受託者責任のあり方について、一つの解法が示されたのではないだろうか。
※ 参考テーマ「受託者責任」
12月1日 Wyden上院議員も
Source : Sen. Wyden, 14 Other Senators Send Letter to President-Elect Obama Touting Healthy Americans Act (Kaisernetwork)
医療保険改革の分野で、上院の実力者であるWyden上院議員も、Obama大統領に手紙を送付したそうだ。"Healthy Americans Act"(S. 334)で示された骨格を、皆保険制度のモデルとして検討すべき、ということである(「Topics2008年5月19日 Healthy Americans Act」参照)。
これで、上院大御所のKennedy、Baucus、そしてWydenの3人が、Obama新大統領に意思表明をしたことになる。