9月10日 企業ペナルティの現状
Source :IRS Lowers 2022 Employer Health Plan Affordability Threshold to 9.61% of Pay (SHRM)
今回はお勉強タイム。PPACAに定められた企業へのペナルティについて、再確認、アップデートしておく。 企業ペナルティには2種類あり、その概要と数値をまとめると、次のようになる(「Topics2010年3月27日 医療保険改革法:企業への影響」参照)。
 A penaltyB penalty
概 要 従業員50人以上の企業で保険プランを提供していない場合、フルタイム従業員がExchangeで保険料補助金を受け取ると、その人数分のペナルティ(ただし最初の30人分は免除)が課される。 保険プランを提供していても、従業員の保険料負担が所得の一定割合以上になっている場合または企業が保険プラン費用の60%未満しか負担していない場合、Exchangeで保険料補助金を受け取ったフルタイム従業員の人数分のペナルティが課される。
2014年(初年)フルタイム従業員一人当たり$2,000/Y所得の9.8%以上
フルタイム従業員一人当たり$3,000/Y
2021年フルタイム従業員一人当たり$2,700/Y所得の9.83%以上
フルタイム従業員一人当たり$4,060/Y
2022年フルタイム従業員一人当たり$2,750/Y(推計)所得の9.61%以上
フルタイム従業員一人当たり$4,120/Y(推計)
上表のB penaltyの「所得の一定割合」については、"affordability threshold"と呼ばれ、2020年9.78%、2021年9.83%、2022年9.61%(IRS)と、毎年変動する。これは、保険料の伸びと所得の伸びを比較考量して決定するためである。2021年は、コロナ感染症拡大に伴って救急医療が減ったことから、企業提供医療保険プラン保険料の伸びが国民所得の伸びを下回った。そのため、2022年の"affordability threshold"は低下することになる。

一方、「所得の一定割合」の『所得』についても、代用が認められている。『所得』は「家計所得(household income)jであり、企業が従業員の家計所得を知ることは困難だからだ。代用が認められる数字は、3通りある。
  1. 従業員の給与(Employees' W-2 wages)

  2. 従業員の時給(Employees' rate of pay):「時給×130時間」または「月給」

  3. 個人のFederal Poverty Level(FPL):2021年は$12,880/12(=$1,073/M)
ペナルティが適用されるのはフルタイム従業員50人以上の企業なので、圧倒的に3.のFPLが重要になる。桁外れに低額だからだ。

※ 参考テーマ「医療保険プラン」、「無保険者対策/連邦レベル

9月9日(1) 失業者数/求人数低下続く
Source :Job Openings and Labor Turnover Summary (BLS)
9月8日、BLS7月末の求人数を発表した。7月末の求人数は1,090万人となり、増勢は続いている(「Topics2021年8月11日 求人数増加続く」参照)

BLS
7月の失業者数/求人数は0.8と低下が続いた。

BLS
自発的失業(Quits)も、5月末は一旦減少したものの、6月末に続いて7月末も増加した。
Quits level, Total nonfarm - 2019~2021年

Quits level, Total nonfarm - 2007~2021年
※ 参考テーマ「労働市場

9月9日(2) Starbucks労組結成の動き
Source :Buffalo-area Starbucks employees move to form a union (HR Dive)
8月30日、StarbucksのNY地区14店舗で働く80人の従業員が、労働組合結成のための投票をしたいとの申請をNLRBに提出した。申請団体は、"Starbucks Workers United"。

求人をしても求職者が集まらない状況は、労組結成にとって最善のタイミングである(「Topics2021年9月9日(1) 失業者数/求人数低下続く」参照)。

当然のことながら、AFL-CIO新会長Liz Shuler氏は、この動きを支持すると表明している。

また、連邦議会では、Protecting the Right to Organize Act (PRO Act)(H.R.842)の審議が続いている(「Topics2021年3月12日 "PRO Act"下院可決」参照)。ただし、下院可決後、上院に回付されたが、具体的な審議は進んでいない。

Amazonの事例に続き、大企業の労組結成がどうなるか、注目されている(「Topics2021年8月4日 Amazon労組再投票か?」参照)。

※ 参考テーマ「労働組合

9月4日 雇用増幅急落
Source :U.S. Hiring Slows Sharply As Latest Coronavirus Surge Slams The Brakes On The Economy (NPR)
8月6日、労働統計が公表された(BLS)。8月の雇用増は23.5万人となった。6、7月と大幅増が続いていたが、急ブレーキがかかった(「Topics2021年8月8日 7月も雇用大幅増」参照)。業種別で見ると、レストラン/バー、小売りで雇用減となった。一方で、物流関係の雇用は増加している。
失業率は5.2%と、7月から0.2%ポイント低下した。
パンデミック発生以前に較べて、依然として530万の雇用が回復していない。
長期失業者(27週以上)の割合は37.4%と、先月の39.3%から若干低下したが、相変わらず高止まりしている。
加えて、労働市場参加率も61.7%と、完全に横ばい状態が続いている。
明らかにデルタ株への変異に伴うコロナ感染症拡大の影響である。

Johns Hopkins University & Medicine
また、リスクレベルは、全米が真っ赤になってきている。一か月前の8月初旬と比較すれば一目瞭然だ。
9月3日8月初旬

Brown School of Public Health
今後の雇用に影響をもたらすだろう。

※ 参考テーマ「労働市場

9月3日 失業給付削減でも雇用が増えない
Source :Millions Will Lose Unemployment Benefits. That Doesn't Mean They'll Return To Work (NPR)
間もなく、失業給付上乗せ給付が終了する(9月6日)(「Topics2021年3月8日 コロナ経済対策法案上院修正可決」参照)。この上乗せ給付については、労働市場参加率が低迷している(「Topics2021年8月8日 7月も雇用大幅増」参照)、旺盛な求人を満たすことができない(「Topics2021年8月11日 求人数増加続く」参照)などの一因と指摘されてきた。

そのような考え方をもとに、7月までに既に25州が上乗せ給付を独自の判断で停止した(「Topics2021年6月13日 失業保険上乗せ給付停止」参照)。ところが、上乗せ給付を停止した州の労働市場を分析したところ、上乗せ給付が雇用増にほとんどつながっていないことがわかったという(Summary)。
  1. 上乗せ給付を停止した州では、4月の時点で上乗せ給付を受け取っていた人の35%が8月時点で給付を失った。その一方で、4月の時点で上乗せ給付を受け取っていた人の4.4%が就職した。
  2. 上乗せ給付を停止した州では、8月6日時点で、給付削減額が$4Bとなった。消費支出は$2B減少する一方、所得増は$270Mにとどまった。
今の労働市場では、失業給付削減、新規採用者の賃上げなどの金銭的な労働インセンティブは、労働供給増加要因にならない。

※ 参考テーマ「労働市場」、「解雇事情/失業対策

9月2日 ワクチン義務化:企業の動向
Source :Littler Survey: Employers Increasingly Consider Vaccine Mandates as COVID-19 Delta Variant Spreads (Littler Mendelson P.C.)
ワクチン接種義務化に関連する企業の動向が公表された。調査対象は企業内弁護士1630人で、調査時期は8月4~12日。残念ながら、ファイザーワクチン正式承認の前である(「Topics2021年8月24日 ファイザーワクチン正式承認」参照)。

ポイントは次の通り。
  1. 現状では、63%の企業がワクチン接種を「推奨」している。既に「義務化」しているのは5%(←1月調査:1%未満)。

  2. しかし、デルタ株による感染拡大を受けて、「義務化」を検討しているのが46%に達する(←1月調査:9%)。絶対に「義務化」しないとしているのが22%。
  3. 「義務化」を既に導入している、または検討している企業のうち、接種を拒否すれば解雇する方針を採用または検討しているのは33%。ワクチン接種しないのであれば定期的に検査を受けるよう求めるのが35%。
  4. ワクチン接種義務化に関する懸念事項としては、①従業員からの反発、②企業文化への悪影響が挙げられている。一方、リーガルリスクについては大きく減退している。
  5. 企業の最大の関心事項は、職場の安全性の確保である。職場への出勤を遅らせている企業の割合は40%。従業員1万人以上に限ると、50%に達する。

  6. 従業員に対してワクチン接種情報の任意提出を求めている企業は68%。新規採用者に求めているのは61%。
  7. ワクチン接種義務化を検討するにあたって重要となるのは、同業他社の動向よりも、連邦政府・州政府の動向。
最後の、連邦/州政府の動向が重要という点は、少し意外であった。だとすると、バイデン大統領の呼びかけは効果を持つということになる(「Topics2021年8月1日 連邦職員にワクチン接種要請」参照)。

※ 参考テーマ「人事政策/労働法制」、「人口/結婚/家庭/生活

9月1日(1) ワクチン拒否と失業給付
Source :Workers fired for refusing vaccination unlikely to qualify for unemployment (Marketplace)
上記sourceで雇用関係の法律の専門家は、『ワクチン接種を義務付けた企業で、接種拒否を理由に解雇された労働者は、失業給付を受けるのが難しくなる』と説いている。

就業規則で職場の衛生管理のために手洗いを義務付けているところで、自分は手洗いは嫌いだからやらない、と言っているようなものだという。ワクチン接種拒否は、就業規則違反に基づく解雇になりかねない(Termination for Cause)。

このような案件で司法判断が下された例は一つしかないそうだ。判決は企業側の主張を認めたものだった。つまり、就業規則違反に基づく解雇が認められたということだ。

そして、就業規則違反に基づく解雇となってしまうと、失業給付を受けられなくなる可能性が高いことになる。労働省の関連サイト(Termination)を見ると、失業給付の要件として、自らの過誤に基づく離職ではないことが挙げられている。

Unemployment Benefits

  • Workers who are unemployed through no fault of their own (as determined under state law), and meet other eligibility requirements, may be eligible to receive unemployment benefits.

  • Unemployment insurance payments (benefits) are intended to provide temporary financial assistance to unemployed workers who meet the requirements of state law.

  • Under the Federal-State Unemployment Insurance Program, each state administers a separate unemployment insurance program within guidelines established by federal law. See Unemployment Insurance.
判例が一つしかない状況で、企業がワクチン接種を義務付けて接種拒否を理由に従業員を解雇するということになると、法廷闘争に持ち込まれる可能性は高い。しかも、当該者は失業給付も受けられないということになると、一般的に従業員が受ける心理的圧迫は相当高くなる。企業がワクチン接種義務付けに慎重になる背景には、こういうこともあるのだと思う。

※ 参考テーマ「人事政策/労働法制」、「人口/結婚/家庭/生活」、「解雇事情/失業対策

9月1日(2) NLRB委員変更確定
Source :The Board (NLRB)
ようやくNLRBのホームページ上で、委員構成の変更の確認ができたので、改めてまとめておく(「Topics2021年8月3日 NLRB/EEOC委員」参照)。
【2021年8月31日時点】
役 職氏 名政 党指名者任 期
Chairman
2021.1.20~
Lauren McFerranDPresident Obama①2014.12.17~2019.12.16
②2020.7.29~2024.12.16
MemberJohn RingRPresident Trump2018.4.16~2022.12.16
MemberMarvin E. KaplanRPresident Trump①2017.8.10~2020.8.27
②~2025.8.27
MemberGwynne WilcoxDPresident Biden2021.8.4~2023.8.27
MemberDavid ProutyDPresident Biden2021.8.28~2026.8.27
General CounselJennifer AbruzzoDPresident Biden2021.7.22~2025.7.21
次の退任者はJohn Ring氏(R)、任期は2022年12月16日までである。

※ 参考テーマ「労働組合

9月1日(3) 公的年金/Medicare基金
Source :Social Security and Medicare Trustee Reports (Department of the Treasury)
8月31日、今年もSocial SecurityとMedicareに関する財政レポートが公表された。ポイントは次の通り(DOT Fact Sheet)。 次期大統領の任期中にMedicare Part Aの基金は枯渇する。早急な制度変更が必要となっている。

※ 参考テーマ「公的年金改革」、「Medicare