8月10日 録音禁止規定の障害
Source :Employees Secretly Record Managers for Litigation (SHRM)
最近は、日米ともに、セクハラ、パワハラが話題になると、必ずと言ってよいほど、後から録音された音声が出てくる。世間では、これを動かぬ証拠と見做すこととなり、加害者とされた側の反論は難しくなる。

職場におけるハラスメントを訴える場合、録音された音声は従業員にとってはとても頼もしい。逆に管理職や上司にとっては厄介なものとなる。従って、アメリカ企業は訴訟リスクを軽減するために、事前申請で認められていない限り、従業員の録音を認めないとの社内規定を設けようとする。

ところが、そうした社内規定にとって障害となることがいくつかある。
  1. 州 法

    まずは、州法の壁である。アメリカの州法では、一般的に録音可能な場合は、その関係者の許諾が必要としている。しかし、州によって許諾を得るべき範囲が大きく異なる。38州+D.C.では、関係者のうちの一人でも認めていれば録音可能となる(one-party)。一方、11州では関係者全員の許諾が必要となる(all-party)。
    関係者のうち一人ということは、当事者が認めていれば録音可能ということであり、職場の場合には、従業員当人の意思で録音することが認められていることになる。このようなone-partyの州法では、職場で録音禁止規定を入れても、違法と判断される可能性が高まる。

  2. NLRB

    NLRBは、Whole Foods Market事件で、事前許可なく従業員が録音機器を利用することを禁止する社内規定を違法と判断した。ところが、昨年末、Boeing事件でこの判断を覆し、録音禁止規定は一般的には認められるとの判断を下した。NLRAは、その構成員が保守化するに伴い、判断を企業側に寄せつつあるようだ。

  3. 第2控訴裁判所

    第2控訴裁判所は、上記Whole Foods Market事件で、録音禁止規定は違法であるとの判決を下している。

  4. 労働省(DOL)

    労働省は、職場における録音は、内部通報者を保護する観点から認められるとの判断を示している。

  5. SEC

    SECは、広範囲にわたる録音禁止規定については問題視している。少なくとも、政府・監督機関への連絡について録音禁止規定の対象とすることには反対している。これも内部通報者を保護するためである。
ここまでは、当局の判断に拠るものだが、いくら録音禁止規定を社内的に設けたとしても、従業員がハラスメントの音声を録音し、世の中に出てしまえばそれを打ち消すことはまずできない。

職場における従業員の録音が増えていくにつれて、司法判断も徐々に形成されていくことになるとみられている。

※ 参考テーマ「人事政策/労働法制

8月9日 AHPsへの州規制
Source :State regulators draw sharp limits on Trump administration's association health plans (Modern Healthcare)
さる6月、連邦政府はAHPsに関する最終制度設計を公表した(「Topics2018年6月20日 AHPs規制緩和」参照)。これに対して、州政府の保険長官達が緊急措置やガイドラインを定めることにより、事実上AHPsの活動を制限しようとしている。また、12州の司法長官(いずれも民主党)は、連邦政府の規則の施行を差し止めるよう、訴訟を起こしている。

保険長官達は、AHPsの運営は州規則やACAに沿ったものとし、ERISAによる上書きを認めないようにと考えている。

そこまで神経質になるのは、AHPsが実際に運営を始めれば、その保険料の安さに釣られて、健康な人ほど既存のExchangeや小規模グループ保険市場から移ってしまい、Exchangeが大きな打撃を受けることが予想されるからだ。実際、VT州BCBSは、AHPsの開業に伴って、2.9%の追加保険料を要望している。

もう一つ、AHPsの悩ましい点は、州際業務が認められていることだ。州保険長官としては、他州で営業許可を得ている保険プランをどうやって監督すればよいのか、実務上の大問題を抱えている。

困ったことに、連邦政府労働省は、こうした州政府からの要請や規制に関する問い合わせに対して応答していないそうだ。おそらく、中間選挙が終わるまでは応答しないのではないかと見られており、なし崩し的に州がルールを定めたり、AHPsの営業が始まったりしてしまうかもしれない。そうなると、残された解決方法は訴訟しかなくなってくる。これは市場にとっては、時間がかかり、予見可能性が小さく、不安定要素となる。

※ 参考テーマ「医療保険プラン

8月8日 共和党の長期戦略
Source :As Supreme Court Nears Solid Conservative Majority, GOP Reaps Reward From 'Long Game' (NPR)
連邦最高裁判事の指名承認について、民主党の抵抗は空しい結果に終わるとの見方が広まっている(「Topics2018年7月10日 Kavanaugh判事を指名」参照)。ということは、連邦最高裁で保守派判事が多数派の時代が長く続くことになる。こうした事態について、上記sourceは、『共和党の長期戦略の勝利』と評価している。

この数十年間、リベラル派は個別案件の結果重視でやってきた。人権、投票権、人工中絶、オバマケア、同性婚と、個別事件で勝利を勝ち取ることで、連邦最高裁に対する信認を高めてきた。その結果、リベラル派は現状に満足している。

ところが、保守派は、1973年の"Roe v. Wade"で人口中絶が認められて以来、司法がリベラル的な価値を促進する機関となってしまっていることを憂い、次世代の裁判官達が保守的な思想を共有することに重点を置いてきた。

例えば、共和党の大スポンサーであるKoch兄弟は、毎年$300〜400Mを政治活動に投じているが、それは立候補者の支援だけではなく、政策立案や、司法関係のためにも使われている。

また、保守派シンクタンクであるFederalist SocietyとHeritage Foundationが、連邦最高裁判事の候補者リストを作成している。資金面でも政策面でも、保守派は一致して連邦最高裁を保守化することにかけてきたのである。

さらには、若手の弁護士達に、体系的に保守派思想を教育し、保守派弁護士の新世代を生み出し続けている。

もちろん、共和党自身の地道な努力も見逃せない。2016年の大統領選では、総投票数こそ48%対47%でクリントン氏に負けたものの、大統領選挙そのものでは勝利した。その結果を州別に、さらにはカウンティ別にみると、実はアメリカ地図は真っ赤に染め上げられている(Washington Post)。また、州レベルでみると、州知事、州議会ともに共和党が押さえた州は26ある一方、両方とも民主党が押さえた州は6しかない(「Topics2016年12月3日 2016年秋選挙の総括」参照)。この状態で、センサスに基づいて定数見直し等が行われれば、さらに共和党有利な状況ができ上がる。つまり、保守派強化のためのエコシステムが確立されてしまっているのである。

おそらく、保守派にとっては、45年前の"Roe v. Wade"をひっくり返すことが射程に入ってきているのだと思う。そして、その先頭に立っているのがトランプ大統領だ。こうした側面があるからこそ、国内のトランプ支持派が強固なのだ。

なお、Koch兄弟は自由貿易推進論者であり、最近、トランプ大統領の保護主義的政策を批判して、両者は全面的に敵対している(CNN)。

※ 参考テーマ「政治/外交」、「司法

8月7日 高齢者破産急増
Source :'Too Little Too Late':Bankruptcy Booms Among Older Americans(New York Times)
上記sourceでは、1991年と2016年(25年間)を比較して、高齢者による破産申請が急増していることを紹介している。 高齢者破産の急増の背景についてもいくつか指摘している。
  1. 公的年金の全額受給までの年齢が引き上げられている。

  2. DB型企業年金からDCへと移行している。

  3. Medicareの自己負担が重くなっている。2013年時点で、Medicare自己負担は平均的な公的年金受給額の41%を占めていた(Kaiser Family Foundation推計)。

  4. 収入の40%以上をローンの返済に充てている高齢者家族の割合は13%を超えている。中でも、住宅ローンの返済が残っている高齢者の割合が高まっている。
  5. 最近の新たな現象として、子供の学生ローンを肩代わりしているケースが増えている(「Topics2015年 5月17日 学生ローン残高の実態」参照)。
しかし、タイトルにある通り、高齢者が破産申請をして借金がなくなったとしても、そこから生活を立て直すには、収入も少ないし、何よりも残された時間が短い。アメリカは高齢者に厳しい社会になりつつあるようだ。

※ 参考テーマ「社会保障全般」、「人口/結婚/家庭/生活