1月31日 MD州についていけない 
Source :Maryland's bold payment reforms blaze a path, but will others follow? (Modern Healthcare)
先日紹介した通り、クリントン氏サンダース氏は医療保険制度改革で対立している(「Topics2016年1月28日 『単一保険制度』とは」参照)。クリントン氏は、サンダース氏の「単一保険制度」の創設を批判する一方で、MD州の医療機関に対する償還手法について、賛同を示している。

MD州は、診療報酬制度において独自の道を歩んでいる。 2014年改革による一定の効果は出ている。MD州の一人当たりMedicareの伸び率は、連邦レベルを大きく下回り、マイナスとなっている。

しかし、上記sourceは、いくらクリントン氏が賞賛しても、連邦レベルでの施策のモデルにすることはできないとしている。なぜなら、公定診療報酬制度はMD州以外にはないからである。公定診療報酬を連邦レベルで広げていくことの難しさは、誰よりもクリントン氏が熟知しているはずだ。

※ 参考テーマ「無保険者対策/MD州」、「大統領選(2016年)

1月30日 労組組織率下げ止まり 
Source :UNION MEMBERS -- 2015 (BLS)
2015年の労働組合加入率&組織率が公表された。加入率11.1%、組織率12.3%で両方とも昨年と同じ水準であった(データ)。ようやく長期低下傾向が下げ止まった形になったが、中長期的なトレンドは変わるまい。
フルタイマーとパートタイマーについても加入率&組織率をグラフ化してみたが、やはりパートタイマーの組織率は極端に低い。また、公的部門の加入率は35.2%であるのに対し、民間部門はわずか6.7%しかない。労組は、一般国民から距離の遠い存在になってしまっている。

※ 参考テーマ「労働組合

1月29日 IA州:Medicaid民営化 
Source :Medicaid official: Iowa is ready for privatization in March (AP)
Iowa州は、Medicaidの民営化を計画している。Medicaid保険者として3機関を指定し、Medicaid診療を提供する医療機関、医師はこの3機関のいずれかと契約することにより、診療報酬を受け取ることができる。

3月1日からの施行を目指しているそうだが、見通しはそれほど楽観的なものではない。
  1. 医療機関の契約率が現時点で45%にしか達していない。

  2. 連邦政府は当初の1月1日施行に対して、準備不足を理由に延期命令を出し、未だに施行承認を出していない。

  3. IA州議会で、準備ができずに施行すると混乱が起きるのではないか、との懸念が広がっている。
州政府当局は強気の見解を繰り返しているらしいが、公的医療保証制度の色彩が濃いMedicaidの民営化は、アメリカといえども難しいようだ。ちなみに、IA州はPPACAの規定に則ってMedicaid対象者の拡充を行っている(Kaiser Family Foundation)。

※ 参考テーマ「無保険者対策/IA州」、「無保険者対策/州レベル全般

1月28日 「単一保険制度」とは 
Source :Democratic Candidates Debate ‘Single-Payer,’ But What Does That Mean? (Kaiser Health News)
いよいよ大統領選挙戦が本格化する。民主党候補者指名争いでは、クリントン氏サンダース氏が有力と言われている。その両候補の間で意見が対立しているのが、「単一保険制度("single-payer")」の創設である。

サンダース氏はずっと"Medicare for All"を訴えている。Medicareのように65歳以上の高齢者がすべて加入できるような医療保険制度を、アメリカ全国民に提供したい、という主張である。

これに対して、クリントン氏は、ビル・クリントン大統領時代に挫折を経験していることから、「単一保険制度」を批判している。

サンダース氏は、Vermont州(VT)選出の連邦上院議員であり、VT州といえばつい最近まで単一保険制度の導入を具体的に進めていた州である。しかし、当websiteで紹介した通り、一昨年、VT州は単一保険制度の導入を断念している(「Topics2014年12月20日 VT州:単一保険制度創設を断念」参照)。州レベルでも導入できなかった制度を連邦レベルで導入しようという提案は、なかなか受け容れられないように思う。

それはさておき、上記sourceでは、「単一保険制度("single-payer")」とは何か、を議論している。定義としては、次のように記述している。
  1. 一つの組織(普通は政府)が、特定の住民の医療費を支払う。

  2. 通常は、診療報酬、診療方法を決定する。
「単一保険制度」は「社会化医療制度(socialized medicine system)とは異なる。「社会化医療制度」は、単一保険制度に加えて、自ら医療機関を有し、医師、看護士等を雇用して医療サービスを提供する制度、としている。「社会化医療制度」の典型例は"Veterans Health Administration(VHA)"、「単一保険制度」の典型例は"Medicare"である。Medicareは、民間の医療機関で診療サービスを提供し、政府は診療報酬を支払うだけである。

Gerard Anderson教授(Professor at Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health)によれば、先進国で「単一保険制度」を有しているのは、カナダと台湾のみである。

日本の医療保険制度を見ると、確かに診療報酬は全国一律で決められているものの、保険者は1,000を超え、医療機関も民間中心である。地方政府レベルで上記1.を考えれば、国民健康保険、協会けんぽなどがあるが、診療報酬の決定(上記2.)は国に委ねている。その意味で、日本には上述の「単一保険制度」はないと言える。日本の医療保険制度に似ているのは、アメリカでは唯一MD州である(「Topics2012年11月1日 MD州の医療費抑制策」参照)。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「医療保険プラン」、「大統領選(2016年)」、「無保険者対策/VT州」、「無保険者対策/MD州

1月25日 州政府版EITC(3) 
Source :States Can Adopt or Expand Earned Income Tax Credits to Build a Stronger Future Economy (Center on Budget and Policy Priorities)
CBPPによる定点観測のようなレポートである(「Topics2015年2月23日 州政府版EITC(2)」参照)。2015年には動きがあった。
  1. CA州が還付給付付きのEITCを導入した。また、ME州が還付給付なしから還付給付付きに転換した。この結果、還付給付付きのEITCを導入している州が一つ増えて、23州+D.C.、還付給付なしのEITCを導入している州が3州となった。
    Figure 3
  2. MA, NJ, RI各州が、連邦政府EITCへの上乗せ割合を引き上げた。
アメリカ南部、ロッキー山脈沿いでなかなか普及しないようだ。

※ 参考テーマ「労働市場」、「解雇事情/失業対策」、「最低賃金

1月24日 NJ州:仕切り直し案 
Source :New Jersey Pivots on State-Run Retirement Plan Design (NAPA Net)
州知事の条件付拒否権発動に伴い、NJ州退職貯蓄プランの仕切り直し法案が公表された(「Topics2016年1月13日(1) NJ州退職貯蓄プランはお預け」参照)。ポイントは次の通り。
  1. 法案名:New Jersey Small Business Retirement Marketplace Act

  2. 退職貯蓄プランのマーケットを設立する。

  3. 参加企業資格:従業員100人未満 かつ 従業員の過半数がNJ州内で雇用されている。

  4. マーケットは、3種類のプランを提供する。
    1. SIMPLE IRA
    2. 給与天引きIRA
    3. MyRA「Topics2014年2月9日 MyRA提案の欠陥」参照)

  5. マーケット参加企業は、最低2種類のプラン選択肢を提供しなければならない。

  6. マーケット参加企業に参加費は課されない。
さて、NJ州はどれくらいのスピードで制度設計ができるだろうか。

※ 参考テーマ「地方政府年金

1月22日 CA州:成案まであと一歩 
Source :State plan for automatic IRA may surface soon (Calpensions)
CA州退職貯蓄プランが、成案まであと一歩のところまできたそうだ。制度創設法案成立から約3年半である(「Topics2012年9月5日 CA州年金改革法案可決」参照)。今のところの検討状況は次の通り。 オプション2はかなり問題含みの提案ではあるが、州議会民主党幹部達の元々の案はcash balance型であり、こちらに近い。

今後の日程は次の通り。 なお、州立退職貯蓄プランの州毎の動向については、次の2つのサイトが便利である。 ※ 参考テーマ「地方政府年金

1月21日 Direct Primary Care 
Source :Would Paying Your Doctor Cash Up Front Get You Better Care? (NPR)
"Direct Primary Care"という医療契約が増えてきている。保険会社との償還契約を結ばずに、契約者(=患者)個人と直接契約を結び、基礎的な医療を提供する契約のことを言っている。

実は、この契約モデルについては、既に当websiteで紹介したことがある(「Topics2013年7月7日 現金主義の医者が急増」参照)。その頃と較べると、社会の認知度がかなり高まっているようである。 さらに、NJ州政府は、今年から、州政府職員に"Direct Primary Care"を選択肢として提供している。約80万人が対象となっているが、州政府としては初年度1万人程度の参加を期待している。このNJ州政府の試みに、CA, TX, PA, NE州などが関心を持って注目しているそうだ。また、Medicare Advantageとの連携も広まっているらしい。

※ 参考テーマ「医療保険プラン