1月10日 地方政府年金財政の悪化要因 
Source :How Did State/Local Plans Become Underfunded? (Center for Retirement Research at Boston College)
上記sourceは、2001〜2013年にかけて、全米150の地方政府年金プランの積立比率が悪化した要因を分析している。2001年は地方政府年金の積立比率は概して高く、100%を超えることも稀ではなかった時代である。一方、リーマンショックを経た2013年は、積立比率は大きく悪化し、州財政を脅かす存在になっている州も出てきている。

例えば、積立比率が高い方の事例として、ジョージア州教職員年金プランでは、積立比率が悪化した要因として、運用実績が悪かったことが最大で、それに拠出が不足していたことが加わっている。
一方、積立比率が低い方の事例として、ニュージャージー州教職員年金でも、積立比率が悪化した要因として、運用実績が悪かったことと拠出不足が大方を占めている。
これを、150プラン全体を積立比率によって3分類して集計してみたのが次の表である。
運用実績と拠出不足がほとんどの要因であることに変わりはない。ただし、積立比率が高い方のプランは、拠出不足の部分が小さく、積立不足の縮減に向けて努力を積み重ねてきたことが伺われる。年金財政の悪化を防ぐためには、運用の改善に頼るよりも、負担を増やす、給付を削減するといった辛いが地道な制度改正が、結局は必要なのだと思う。

※ 参考テーマ「地方政府年金

1月9日 最低賃金引き上げの悪影響 
Source :Did Your State Raise Its Minimum Wage Today? (Daily Signal)
1月1日付けで、19州が最低賃金を引き上げた(Minimum Wage Laws in the States - Department of Labor)。さらには、今年中に、Delaware, Minnesota, New Yorkの3州とD.C.も引き上げる予定である。

最低賃金の引き上げは、民主党の低所得者対策という側面と、労働市場のタイト化という側面が合わさった現象である。しかし、その政策効果はネガティブなものとの研究成果(University of California, San Diego)が紹介されている。 労働組合の単純な政策要求には疑問が付けられている。

※ 参考テーマ「最低賃金

1月8日 フルタイム週40時間法案 
Source :Opening Republican salvo on Obamacare draws fire on both sides (Reuters)
連邦議会両院の多数を握った共和党が、PPACAの縮小、骨抜きを目指した動きを開始した。第1弾は、企業が医療保険プラン提供義務を負う対象者の縮小で、フルタイマーの定義を、PPACAが定める30時間から40時間に引き上げようという法案(H.R. 30)である。

下院は1月8日にも本会議投票を行う見込みである一方、上院では1月6日に同様の別法案(S.30)が提出されているものの投票の予定は立っていない。

下院法案がもたらす影響について、CBOは次のように推計している(Cost Estimate)。 フルタイマーの定義を巡っては、従来から議論が行われているところである(「Topics2013年7月11日(2) フルタイマー定義法案」参照)。共和党は以前からフルタイマーの定義を週40時間に引き上げることで、企業の負担となるペナルティの範囲を小さくしようとしている。

これに対し、民主党ならびにリベラル系のシンクタンクは、『週40時間にペナルティの加減を置いてしまうと、週労働時間を削減することでペナルティを回避しようとする動きが一気に実現する惧れがある』として強硬に反対している(Center on Budget and Policy Priorities)。

Obama大統領は、連邦議会が可決した場合でも拒否権を発動する旨を示唆しており、法案の提出と拒否権の発動を繰り返す事態がしばらく続きそうである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「政治/外交

1月7日 IL州:自動加入年金プラン法案成立 
Source :Mandatory Retirement Plans in Illinois (Ogletree, Deakins, Nash, Smoak & Stewart, P.C.)
Illinois州(IL州)知事は、1月4日、Illinois Secure Choice Savings Program Act (S.B. 2758)に署名した。これにより、同法案は成立した。

同法は、「自動加入年金プラン」の提供を企業に義務付けるもので、一応、全米では初の試みとなる。同法で示された年金プラン制度(Illinois Secure Choice Savings Program)の概要は次の通り。
  1. 制度の運営主体は州政府。

  2. 年金プランの基本形は、Roth IRA

  3. 提供義務付けの対象となる企業(含む非営利組織)は、
    1. 従業員25人以上で、
    2. 退職給付プランを提供していない
    企業。

    ただし、従業員25人未満の企業でも提供可能。

  4. 18歳以上の従業員は、本人が非加入を選択しない限り、自動的にプランに加入。

  5. 掛け金は給与の3%(変更も可)で、天引きによる拠出。

  6. 従業員本人が投資対象を選択。投資対象の選択肢は、デフォルト・ライフサイクル・ファンドを含めて運営理事会(後述)が選定。

  7. 企業は天引きのための仕組みを用意するだけで、企業拠出なし。受託者責任、年金プランの管理・投資責任は負わない。

  8. プラン提供を怠った企業には罰金を課す。従業員一人当たり、初年度$250、翌年度以降$500。

  9. Illinois Secure Choice Savings Board(運営理事会)

    1. 構成メンバーは7人:the state treasurer, comptroller, director of the Office of Management and Budget or their designees, and four appointees made by Gov.-elect Bruce Rauner(Pensions & Investments

    2. 法案成立後24ヶ月以内に制度を開始するよう準備を進める。

    3. IRSに対して税制上の措置の確認を取る。

    4. 連邦労働省にERISA対象となることを確認する。

    5. 仮にIRS、労働省から確認を取れなかった場合には、制度の開始を取りやめる(遅らせる)こともできる。
同プランへの加入が可能となる従業員数は、200万人以上とみられている。

冒頭に、「一応、全米では初の試み」と記したのは、訳がある。

似たような年金プラン制度は、既にCA州でも法制化されている。こちらも具体的な制度設計は運営理事会に任されているのだが、未だ成案に至っていない(「Topics2013年5月19日 CA州版国民年金基金:制度設計進まず」参照)。

ただし、両者の間には決定的な違いがある。IL州の年金プランは、完全に個人型DCプランであるのに対し、CA州のプランは個人勘定は設けるものの、運用は勘定資金を統合して行う。いわばCash Balance型のDBプランである。CA州のプランは州政府(=CalPERS)に給付債務が発生するという点で、決定的に異なる。

そうした意味で、「全米初」の自動加入年金プラン制度が法制化された、ということになる。今後は、2年間の間に行う具体的な制度設計が課題となる。

※ 参考テーマ「DB/DCプラン」、「地方政府年金

1月6日 納税還付で混乱必至 
Source :Half of Obamacare subsidy recipients may owe refunds to the IRS (Washington Examiner)
先に、今年の納税申告書を巡る事務で混乱をきたすとの見通しを紹介した(「Topics2014年12月28日 PPACAと納税申告書」参照)。その見通しは広まっているようで、上記sourceは納税申告支援サービス会社の推計を紹介している。 本当に大変な事態になりそうだ。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

1月4日 GOP vs DEM 
Sources : Republicans in state governments plan juggernaut of conservative legislation (Washington Post)
Congressional Democrats have a list of resolutions for Obama (Los Angeles Times)
昨年11月の中間選挙の結果を受けて、2015年の連邦議会、州知事、州議会が動き出す(「Topics2014年11月6日 中間選挙後の政策動向」参照)。共和党の圧勝であったが、特に州知事、州議会での優位が目立っている。 上記source(Washington Post)によると、共和党は州政府・議会レベルで政策を動かしていこうとしている。数多くの分野で課題が挙げられているが、当websiteの関心分野については、次の通りである。 対する民主党の戦法は定まらないままだ(上記sourceのLos Angeles Times)。民主党内は、次のような2つの考え方に分かれているそうだ。 前者は、リベラル派に多く、連邦議会民主党内で力が増している勢力の主張である(「Topics2014年12月12日(1) 2人の女性議員の反乱」参照)。共和党が自己主張を強くしてくることが予想されることから、民主党もよりそのスタンスを前面に出すべきだ、という考え方だ。

一方、後者は、そうしたリベラルな政策を民主党が採ることで、中間所得層の民主党離れが起きているとの分析に立脚している。その考え方を端的に示しているのが、上記sourceで紹介されているシューマー上院議員(D-NY)(上院民主党第3位)の次の発言である。
"医療保険改革に突き進んでいくとの決断が、今の民主党の混迷につながっている。民主党が医療保険改革を優先しようとすればするほど、中間所得層は『民主党は我々の方を向こうとはしない』と考えたのだ。"
企業提供保険プランに加入している60%近くの勤労者にとって、PPACAは他所事だったということなのである。

こうした民主党内の路線対立は深刻で、大統領選が行われるまでのあと2年で修復することができるのかどうか。ヒラリー・クリントン氏が大統領選に立候補を躊躇する最大の課題になっているのではないだろうか。

※ 参考テーマ「政治/外交」、「労働組合」、「無保険者対策/州レベル全般」、「無保険者対策/連邦レベル」、「SCHIP」、「地方政府年金」、

1月2日 AZ州:Medicaid拡充策は最高裁へ 
Source :Arizona Supreme Court Allows Challenge to State’s Medicaid Expansion (New York Times)
Arizona州(AZ州)は、2013年、州知事(共和党)のイニシアティブと民主党議員達からの協力により、州議会でMedicaidを拡充する法案を可決し、州知事が署名した(「Topics2013年7月2日 AZ州:Medicaid拡充決定」参照)。

拡充策のための財源は、連邦政府からの拠出と、AZ州の医療機関に対する課税(assessment)であった。これに対して、共和党の州議会議員36人が、この医療機関への課税(assessment)が本当の意味での税であるなら、州議会の議決は単純な過半数ではなく、3分の2の賛成が必要であったと主張し、州裁判所に訴えていた。12月31日、州最高裁は、本件の審理を行うことを判事の全員一致で決定した。

これにより、州最高裁の最終判決によっては、同州のMedicaid拡充策は州議会での再審議が必要になるかもしれない。しかも、当時の州知事は2014年で任期が終了し、同じ共和党出身の新知事が1月5日から就任することになっている。新知事は最善策を検討しているとし、しばらくは様子見の姿勢のようだ。

同州のMedicaid拡充策により、25万人がMedicaidに新たに加入しており、それらの人々が再び無保険者に転じる可能性も出てきたことになる。保守色の強い州でのMedicaid拡充策はなかなか安定しそうにない。

※ 参考テーマ「無保険者対策/AZ州

1月1日 2017年保険料急騰? 
Source :Expect a Big Premium Hike in 2017 (National Center for Policy Analysis)
先に、2015年Exchange保険料の伸びが抑制されたことを紹介した(「Topics2014年12月26日 2015年Exchangeプランの全体像」参照)。その保険料抑制に貢献した要素として、保険会社のリスク分散措置が挙げられていた。

PPACAに定められた保険会社のリスク分散措置は、次の2つである(NCPA)。
  1. Reinsurance

    Exchageプラン加入者の医療費が一定規模(2015年:$45,000)以上に達した場合、一定規模を上回った額の80%を保険会社に還付する制度。ただし、$250,000以上は還付対象とならない。財源は、企業提供プランのSelf-insured plansを含めた全ての医療保険プランに対する特別課税による税収と、一般財源との組み合わせで、2014年$12B、2015年$8B、2016年$5Bが目標額となっている。

  2. Risk Corridors

    保険プラン毎の損失補てん制度。財源は一般財源で、上限は設定されていない。
なるほど、Reinsurance制度は2014年、2015年と手厚く準備されており、そのお蔭で保険料の伸びを抑制できた部分もあるだろう。

問題は、両制度とも2016年までの3年間の措置であり、2017年から撤廃されるということである。その影響を、上記sourceでは、次のように推計している。 こんな状況になってしまえば、PPACAとは何だったのか、という疑問が膨らんでしまう。保険会社もそれほど愚かではないと思う。そもそも2015年に参入する保険会社が増えているということは、これらのリスク分散措置がなくなっても充分やっていけるとの目算があるからだろう。2年間だけ参入してリスク分散措置がなくなった途端に市場から退出するようでは、保険会社としての信用問題となりかねない。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般