ワクチン接種義務付けか保険料上乗せか、という議論である。
まず、ワクチン接種の義務化である。United Airlinesは、ワクチン接種を厳しく義務づけた(「Topics2021年9月11日 民間企業接種義務化大統領案」参照)。9月27日が接種証明書の提出期限であった。その結果は次の通り。一方の保険料上乗せ措置は、Delta航空である(「Topics2021年8月27日(1) FDA正式承認の効果」参照)。ワクチン未接種の場合、毎月の保険料に$200が上乗せされる。実施は11月からだが、既に82%の従業員が接種済みとのこと。8月25日時点では75%だったので、1ヵ月で7%ポイント上昇した。10月中にどこまで上昇するか、だ。
- 期限までに接種証明書を提出した、もしくは免除を申請したのは、全従業員約67,000人の99%以上。
- 宗教上または健康上の理由で免除申請したのは、約2,000人(3%未満)。当初の計画では、10月2日から無給の自宅待機の予定だったが、その開始日は延期する。
- 期限までに接種証明書を提出しなかった、もしくは免除を申請をしなかったのは、593人(1%未満)。彼らは解雇となる。
また、保険料上乗せ措置の効果を聞き取り調査した結果が公表されている(Affordable Health Insurance)。対象は、まだワクチン接種をしていない勤労者1,000人である。ポイントは次の2点。同じ航空業界でも、対応が異なっているところがアメリカらしい。
- 保険料上乗せ措置が導入されたらワクチン接種すると回答したのは43%。ただし、党派色が明確に出ている。
- 上乗せ金額は、$100でも充分効果がありそう。
※ 参考テーマ「人事政策/労働法制」、「人口/結婚/家庭/生活」
Source : | KFF COVID-19 Vaccine Monitor: September 2021 (Kaiser Family Foundation) |
2ヵ月を経て、ワクチン接種の動向が公表された(「Topics2021年8月6日 ワクチン接種動向(7月)」参照)。これらの数字を見ると、無理に接種義務化を制度化しても、ワクチン接種促進効果は低いとみられる。
- 少なくとも1回接種した割合は、7割に達した。しかし、そのスピードは相変わらず鈍い。 ちなみに、2回接種を終えた割合は、54.68%となっている。
- ワクチン接種に積極的な属性と消極的な属性は相変わらず。
- バイデン大統領が打ち出した、企業に対する従業員ワクチン接種義務については、6割近くが支持している(「Topics2021年9月11日 民間企業接種義務化大統領案」参照)。 ただし、これも党派別の分かれ方が際立っている。
- 勤務先からワクチン接種を義務付けられている人の割合は19%にとどまる。また、半数は接種義務を嫌がっている。
- 勤務先からワクチン接種を義務付けられた場合、接種するというのは12%のみ。毎週テストを受けるというのが56%、離職するというのが30%。(「Topics2021年9月24日 接種義務化と人手不足<」参照)
※ 参考テーマ「人事政策/労働法制」、「人口/結婚/家庭/生活」、「労働市場」
Source : | Retail Jobs Are Treated As A Temporary Bridge To Something Better. But Why? (NPR) |
上記sourceでは、アメリカ国民の中には、小売業、スーパーマーケットの仕事は『腰掛』というイメージが強い、と紹介している。
当websiteとしての関心事項は、その中で引用されているデータ類である。小売業者の人手不足は本当に深刻のようだ(「Topics2021年8月15日(2) Target:大学教育支援」参照)。
- 小売業における離職率は、全体の離職率にくらべて急速に上昇している(「Topics2021年9月9日(1) 失業者数/求人数低下続く」参照)。
- 小売業の平均時給は、既に$18/hに達している。
※ 参考テーマ「労働市場」
Source : | States With the Most and Least Student Loan Debt (Route Fifty) |
学生ローン債務残高は、2020年に$1.73Tに達したそうだ。数字を確認する度に増えていく。それもそのはずで、GDP成長率の6倍の勢いで増加している。また、債務を抱えている人は4,320万人で、一人平均$39,351の債務残高を抱えている。上図を見てもわかる通り、一人当たり債務残高も急速に伸びている。
source:Student Loan Debt Statistics
上記sourceは、学生ローンの状況を州別に評価したレポートを紹介している。評価ポイントは、①債務残高と②贈与、学生の就業機会の多さ、とのこと。それによると、一番恵まれているのはUtah、最悪はWest Virginiaだそうだ。
※ 参考テーマ「教 育」
Source : | The Census Bureau’s First Ever Data on LGBTQ+ People Indicates Deep Disparities (Nextgov) |
センサス庁調査は、調査対象の属性として初めて"LGBTQ"を採用した調査結果を公表した(Week 36 Household Pulse Survey: August 18 - August 30)。もちろん、まだまだデータの蓄積がなく、また、サンプル数も十分かどうかわからないため、これで全てを語ることができるという訳ではない。それでも、アメリカ社会におけるLGBTQの実態が少しでもわかってくることは望ましい。
調査結果のポイントは次の通り。なお、調査時点は8月18~30日。こうやってみると、LGBTQ、特にTの生活状況がより厳しいことがわかってくる。
- 調査時点前4週間の間に、本人または家計構成員が失業した人の割合(調査対象は18歳以上)
(Employment Table 1. Experienced Loss of Employment Income, by Select Characteristics: United States)
- LGBTQ:22.9%(4,734,111/20,671,325)
- Transgender:32.3%(786,970/2,437,406)
- Non-LGBTQ:15.2%(32,460,955/212,943,229)
- 調査時点前1週間の間に、食料に困ったことのある人の割合(sometimes or often)
(Food Table 1. Food Sufficiency for Households, in the Last 7 Days, by Select Characteristics: United States)
- LGBTQ:12.0%(1,850,244+625,784/20,671,325)
- Transgender:23.3%(446,132+121,931/2,437,406)
- Non-LGBTQ:6.7%(11,485,878+2,774,185/212,943,229)
- 18歳以上の無保険者割合
(Health Table 3. Current Health Insurance Status, by Select Characteristics: United States)
- LGBTQ:12.9%(1,937,880/15,022,571)
- Transgender:17.4%(250,333/1,440,184)
- Non-LGBTQ:8.9%(14,475,893/161,809,613)
上記sourceでは示されていないが、せっかくのセンサス調査なので、LGBTなどの割合を出してみた。今後の参考としておこう。
※ 参考テーマ「LGBTQ」、「人口/結婚/家庭/生活」
Source : | The child tax credit encourages parents to work, study finds (CNBC) |
今年7月から始まった拡大子供税額控除(Expanded Child Tax Credit, ECTC)の効果を調査した結果が公表された(HUMANITY FORWARD)(「Topics2021年7月17日 拡大子供税額控除」参照)。ポイントは次の通り。ECTCの政策効果は充分評価されているようだ。
- ECTCを受け取った親の94%は労働を継続、または増やした。労働を縮小したまたは転職に利用したのは6.4%にとどまる。幼児を持つ親たちは、労働を縮小した割合が倍になった。
- 72%が、年払いよりも月払いを評価している。
- 使途先を見ると、一番は緊急用の貯えとなっているが、毎月の必需品への使用割合も高くなっている。
※ 参考テーマ「人口/結婚/家庭/生活」、「政治/外交」
Source : | New York City passes protections for food delivery drivers (Bloomberg) |
New York Cityが、食事配達員に関する規制を定めた。主な内容は次の通り。配達員の75%が、コロナ感染拡大の中で失業したために参入したという。また、NY市の配達員の時給中位数は、チップを除いて$7.94/hと、NY州最低賃金$15/hのようやく半分超に過ぎない。また、配達員の65%が配達元レストランのトイレを使えないと回答しているそうだ。
- 配達元となるレストラン等に、配達員にトイレ使用を認めるよう求める。
- 配達毎の最低支払金額を定める。
- 配達員がチップ全額を受け取ることを保証する。
- 配達員が配達区域、ルートを自分で定めることを認める。
- 賃金の支払い頻度を、週一回以上とする。
- 銀行口座開設を必要としない賃金支払い方法を選択できるようにする。
- 配達員が賃金を受け取る際の手数料負担を禁止する。
食事配達員はgig workersであり、その法的位置づけを巡って、CA州、NY州でせめぎ合いが続いている(「Topics2021年6月11日 "Network Workers"法案」参照)。今回のNY市の規制は、法的位置づけそのもの以前のレベルで、コロナ禍の中のエッセンシャル・ワーカーとしての尊厳を確保するための措置と考えられる。いわば前哨戦という性格だ。
※ 参考テーマ「人事政策/労働法制」
Source : | Vaccine mandate adds another wrinkle to warehouse, distribution hiring crunch (HR Dive) |
昨日、『(ワクチン接種義務化が)労働力不足を助長するという論法はちょっと弱そうだ。』と書いてしまったが、早計だったかもしれない(「Topics2021年9月23日 州司法長官が接種義務化に反対」参照)。
こうした労働力不足への懸念が広がっている一方で、Tyson FoodsのCEOは、『(ワクチン接種義務化は)短期的には人手不足という痛みを伴うかもしれないが、長期的には職場の安全衛生を確保する姿勢が痛みを上回るベネフィットをもたらす』と発言している。 連邦政府(OSHA)から具体的なルールが公表、施行されるまで、企業の判断は揺れ動くことになろう。
- あるアンケート調査結果によると、労働者の半分は接種義務化に賛成しているが、1/4は反対している。しかも、反対しているのはマイノリティが多い。
- 相変わらず消費需要が高く、物流産業では慢性的な人手不足に陥っている。これから、年末の需要高に向けて、雇用を増やしたいと思っている。
- Amazon、Walmartは、ともに接種義務化には踏み切っておらず、推奨するにとどまっている。
- トラック運転手も不足している。ワクチン接種義務化を嫌って、小規模企業(従業員100人未満)または独立ドライバーへの転職が増える可能性がある。
※ 参考テーマ「人事政策/労働法制」、「人口/結婚/家庭/生活」、「労働市場」
Source : | 24 states vow to challenge Biden's vaccine mandate (HR Dive) |
Biden大統領の意向を受けて、OSHAは民間企業におけるワクチン接種義務化のルールを検討している。タイムラインは明示されていない(「Topics2021年9月11日 民間企業接種義務化大統領案」参照)。
この動きに対して、9月16日、24州の州司法長官が連名で、方針を変更しなければ法的措置を講じる、と表明した。そんなことをすれば、従業員が離職し、労働力不足に拍車をかけることになる、という主張だそうだ。
一方、United Airlinesは、既に従業員に対してワクチン接種を義務付けている。そのCEOは、CNNのインタビューで、「従業員67,000人のうち、接種義務化を忌避して退職したのは一桁台しかいない」と発言している。
労働力不足を助長するという論法はちょっと弱そうだ。やはり、ワクチン接種の義務化そのものと、大統領/連邦政府権限に関する論争にする必要がありそうだ。
※ 参考テーマ「人事政策/労働法制」、「人口/結婚/家庭/生活」
Source : | Two Nationals minor league coaches who were fired for refusing vaccine file complaints with EEOC (DailyMail) |
Washington Nationalsの二人のコーチがワクチン接種を拒否したために解雇された。二人は、チームが宗教上の理由を真面目に検討しておらず、差別を受けたとして、9月17日、EEOCに訴状を提出した。
話は逸れるが、管理人がWashington, D.C.に留学していた頃(2001.4~2003.3)は、このチームはワシントンになかった。しかも、今ホームグランドにしているNationals Park周辺は、治安が極端に悪く、決して近づいてはいけない、と言われていた地域だ。隔世の感がある。
Nationalsは、MLBの中でも逸早く選手、スタッフにワクチン接種を義務付けた。しかし、コーチの一人はカトリック、もう一人は福音派で、二人は、ワクチンの製造/検査過程で堕胎された胎児の組織を使用していることを理由にワクチン接種を拒否し、宗教上の理由から接種義務の免除をチームに求めていた。また、週3回の陰性検査と感染防止策には完全に従っていたと主張している。
一方のチームは、個別の接種義務免除申請には真摯に対応しているとコメントしている。
ちょっと興味が惹かれたのは、彼らは何時間もの祈りの後に接種拒否を決心したと述べているところである。コストの問題ではなく、精神の問題であるということなのだろう。
今後、EEOCからどのような見解が示されるのか、企業の実務としては大変重要なポイントとなる。
※ 参考テーマ「人事政策/労働法制」、「人口/結婚/家庭/生活」