9月29日 CO-OP:4件目の破綻 
Sources : Can Health Insurance Co-ops Survive? (Pew Charitable Trusts)
New York health co-op ordered to close down (Washington Post)
厳しい状況が伝えられている"Consumer-Oriented and -Operated Plan (CO-OP)"だが、Pew Charitable Trustsは『健闘している所もある』と紹介している。 ところが、9月25日、その中のHealth Republic Insurance of New Yorkが、個人保険プランについて今年末での営業停止を命じられてしまった。グループ保険も順次縮小される見込みだ。

これで、破綻したCO-OPsは4件目となる(「Topics2015年9月20日 CO-OPs:新規参入は厳しい」参照)。 NY CO-OPは、2014年末時点で最大の加入者数を誇っていただけに、それが営業停止となった衝撃は大きい。営業停止命令の理由は、財政の継続可能性が損なわれたことにある。最大の加入者数で成り立たない保険の仕組みには、何かしら問題があると思われても仕方ない。

※ 参考テーマ「CO-OP

9月26日 独立系PBMの行く末 
Source :How the national drug debate is changing the pharmacy benefit business (Modern Healthcare)
    2012年時点のPBM上位5社

  1. Express Scripts (acquired Medco Health Solutions)
  2. CVS Health (formerly CVS Caremark)
  3. Prime Therapeutics, a PBM owned by and operated for a collection of state Blue Cross Blue Shield plans
  4. United Health / OptumRx
  5. Catamaran Corporation (SXC + Catalyst)
処方薬価格の急騰を受けて、その抑制策が大統領選の争点になりつつある。逸早く、クリントン氏は処方薬価格の抑制策を公表した(「Topics2015年9月23日 クリントンの薬価抑制策」参照)。

既存の薬価決定メカニズムの中で、価格抑制に動くことが期待されているのが"Pharmacy Benefit Management (PBM)"である(「Topics2015年7月18日 Pharmacy Benefit Management」参照)。

上記sourceでは、PBMは、経営戦略の違いにより、2つのグループに分類できるということを紹介している。
  1. 伝統的な経営戦略:ひたすら処方薬の取扱規模の拡大を目指し、ジェネリックの利用やメール注文を増やすことで処方薬の購入コストを引き下げる。

  2. 新たな経営戦略:規模の追求はせず、診療給付と処方薬給付の効率的な統合を目指す。
前者の代表格は、PBM業界の第1位、Express Scriptsで、2012年にMedco Health Solutionsを買収するなど、積極的な規模拡大路線を採ってきている。

一方、後者の代表格は、第2位のCVS Health、第4位のUnited Healthである。CVS Healthは、その名の通り、薬局チェーンCVSのグループ企業である。また、United Healthは、元々医療ベネフィットの管理運営会社であったUnited HealthcareがPBMも手掛けていたOptumRxを買収・統合した企業である。

現在、大手保険会社AetnaとHumanaが統合しようとして物議を醸している(New York Times)が、Humanaが内部に持っているPBMを核に、より幅広い医療ベネフィット管理運営会社を作ろうと計画している。

いずれもPBM以外の分野の企業がPBMに乗り出してきている。保険会社や薬局チェーンは、PBMが保有している処方箋やデータを分析して、より効率的な処方や、診療と医薬品の組み合わせができるようになると考えている。

こうなってくると、Express Scriptsのような独立系PBMは、医療全体に関わる効率性の観点で劣後に置かれかねない。専門家は、いずれExpress Scriptsも薬局チェーンなどと経営統合に進むのではないかと見ている。

存在を知ったばかりのPBMだが、大きな転機を迎えているようだ。

※ 参考テーマ「医薬品

9月25日 医療コスト抑制努力 
Source :Smaller Hikes in Health Premium Rates Forecast for 2016 (SHRM)
大企業が提供する医療保険プランのコスト上昇率は、2015年とほぼ同様の水準に落ち着きそうである。

上記sourceは、医療保険プランの制度設計を変更しなければ、2016年のプランコストはどうなるかという調査の結果を紹介している。いずれの保険プラン類型も2015年、2016年と大きく変わらないが、唯一、処方薬については2桁の伸びが予想されている。

Selected Medical, Prescription and Dental Plan Cost Trends

Year

PPOs

POS Plans

HMOs

MA HMOs

Rx

Dental POs

2015 projected

7.8%

7.5%

6.2%

3.9%

8.6%

4.7%

2016 projected

7.8%

8.0%

6.8%

3.5%

11.3%

3.5%

PPOs—preferred provider organizations / POS plans—point of service plans / HMOs—health maintenance organizations / MA HMOs—Medicaid Advantage program HMOs for retirees / Rx—prescription drug carve-out plans (data captured for both retail and mail-order delivery) / Dental POs—dental provider organizations.

Source: 2016 Segal Health Plan Cost Trend Survey.

特に、特殊処方薬、バイオ技術処方薬のコスト上昇率は18.9%と予想されており、その高騰振りは一際目立つ。

これに対して、企業側は医療保険プランの制度変更等により、上昇率の抑制を試みている。別の調査(Mercer)によれば、2016年の従業員一人当たり医療コストの上昇率は、何も制度変更をしなければ6.4%(改定値:6.3%)となるところを、制度変更により4.2%(改定値:4.3%)まで抑制できるとみている。実現すれば、5年連続で上昇率が5%を下回ることになり、過去に較べれば相当に落ち着いた水準とはなるが、所得、物価の上昇率を上回っていることに変わりはない(改定値は12/4に追記:SHRM

Source: Mercer’s National Survey of Employer-Sponsored Health Plans.
こうした企業の努力は、2018年の"Cadillac Tax"を回避せんが為である。

※ 参考テーマ「医療保険プラン」、「無保険者対策/連邦レベル

9月23日 クリントンの薬価抑制策 
Source :Hillary Clinton taking on drug industry (POLITICO)
クリントン氏の薬価抑制策が明らかになったそうだ。詳細はこれから順次公表されていくようだが、骨子は次の通り。
  1. 慢性病や重篤な状況にある患者の処方薬自己負担に、月額$250の上限を設ける。

  2. "Biologics"の専売特許期間を12年から7年に短縮する。

  3. ジェネリック販売延期契約の法的禁止(「Topics2007年1月18日(2) Genericsを巡る密約」参照)

  4. 処方薬輸入の解禁

  5. Medicareによる処方薬価格交渉の解禁(「Topics2007年4月19日(2) 処方薬価格交渉法案は暗礁に」参照)

  6. Medicare低所得者に対する処方薬の大幅割引

  7. NIHなどによる基礎研究を利用した製薬会社に研究開発支出を義務付ける。
参照項目を見てもわかるように、PPACA法案化以前に議論されていた政策課題が多く含まれている。つまり、クリントン氏が大統領候補選に出ていた頃のアジェンダをもう一度引っ張り出してきているのである。

当然、製薬会社の猛反発は必至だ。それでも、中間層の再興を訴えるクリントン氏は引かない構えなのだろう。

※ 参考テーマ「医薬品」、「医療保険プラン」、「処方薬輸入」、「Medicare」、「無保険者対策/連邦レベル」、「大統領選(2016年)

9月21日 UAW/Fiat労働協約案 
Source :U.A.W. Contract With Fiat Chrysler Would Give 2nd-Tier Workers Big Raise (New York Times)
Big 3とUAWの労働協約は4年ごとに更新される。現在、2015年改定案が仮調印され、組合員の承認投票にかけられようとしている。主な特徴は、次の3点となっている。
  1. 勤続年数が短い工場労働者の時間給を大幅引き上げ

    2007年の労働協約で導入された賃金の二層化で生じたギャップを大幅縮小することを目的としている。

    • Entry level:(現在)$16〜19/h ⇒ (更新直後)$17〜24/h ⇒ (2018年)22〜25/h

    • Veteran level:(現在)$28/h ⇒ (協約期間3年目)$30/h

    Fiatにはエントリーレベルの動労者が40%以上もいて、同業のGM、Fordに比べて倍の割合になっている。

    加えて、
    • 労働協約締結時ボーナス:一律$3,000
    • 労働生産性向上目標達成時ボーナス:最大$13,000
    も約束されている。

  2. Fiatグループの医療給付を一つの共済組合にまとめる

    UAW加入の工場労働者、ホワイトカラー、退職者の診療・処方薬給付をまとめ、一種の共済組合契約を結ぶことで、購買力を高め、医療コストを抑制する。UAW会長は、GM、Fordとの労働協約でも同様の規定を導入し、次の段階では、3社の共済組合を統合することも検討していると公言した。

  3. 国内投資の継続を約束する

    4年間の契約期間中に約$5.3Bの国内投資をすることを約束している。
中でも2.は面白い試みであり、注目していきたい。

※ 参考テーマ「労働組合」、「医療保険プラン