5月10日 NC州憲法改正:同性婚禁止 
Source :Gay marriage: North Carolina voters approve constitutional ban (Los Angeles Times)
昨日言及した、NC州の州民投票結果だが、圧倒的な多数で、同性婚を禁止する州憲法改正案が承認された。上記sourceの報道時点では、承認が61%に達している。

その州憲法改正案は、次のようになっている。
"Marriage between one man and one woman is the only domestic legal union that shall be valid or recognized in this state."
これは、かなり厳しい制約がついているように見える。実際、ここまで厳しく定義している州は、3州しかないそうだ。しかも、この文言では、異性カップルでも結婚していなければ、法律上はカップルとして認められないようにも読める。

大変な州憲法改正が行われたものだ。

この結果、州憲法で結婚の定義を異性婚と定めた州は、29となった。また、次の図の通り、南部はすべて州憲法で結婚を男女間のものと定めていることになる(NCSL)。
同性婚を認めようとする流れと、それを食い止め、むしろ厳格に異性婚を定義しようとする流れがぶつかり合っている。

※ 参考テーマ「同性カップル

5月9日 閣僚の同性婚承認発言 
Source :Vote on gay marriage to test Obama (Financial Times)
Obama政権の閣僚3人が同性婚を認めるべき、との発言を行っている(New York Times)。3人とは、Biden 副大統領、Donovan 住宅長官、Duncan 教育長官である。

彼らのこの時点における同性婚承認発言は、2つの狙いがあると報じられている。
  1. なかなか同性婚の立法化に動こうとしないObama大統領の一歩先に行くことにより、政権が前向きであることを示すとともに、Obama大統領自身の決断を促す。

  2. 8日にNC州で、同性婚を州憲法で禁止する憲法修正案が州民投票にかけられる。これに対して、世論に同性婚の法定化の重要性を訴え、牽制球を投げる意味合いがある。
NC州は、12のswing statesの内の一つであり、大統領選において非常に重要な州なのである。つまりは、すべてがObama大統領の決断を促すための発言なのである。

ちなみに、ギャラップ社が実施した同性婚の法制化に関する世論調査の結果は次のようになっている。
大統領選まで6ヵ月となり、いよいよ同性婚は大きな争点の一つとして浮上しそうである。

※ 参考テーマ「同性カップル

5月8日 自治体の雇用悪化 
Source :Employment woes deepen for US states (Financial Times)
これまで「薄日」と表現していた労働市場だが、少し黒雲が広がりつつあるようだ。失業率こそ少しずつ下がっているものの、非農業部門の雇用者数の伸びが、4月は11.5万人と、増勢が鈍化している。加えて、長期化する失業状態から就職を諦め、労働市場から退出している人口も増えている。労働参加率が低下(63.58%)している訳だが、仮に、4月の労働参加率が3月と同様(63.77%)であれば、失業率は8.4%に上昇していた、との推計も出されている(第一生命経済研究所「米国 雇用統計(12年4月)」)。
実際、上のグラフからもわかるように、実感失業率は変わっておらず、何らかの理由で希望通りに職に就けない人は増えているのである。

もう一つ、黒雲の要素となっているのが、政府部門の雇用である。

総体で見ても、政府部門の雇用縮小が続いており、全体の雇用者数の伸びの足を引っ張っている。連邦政府については、本格的な財政健全化に向けた動きが出ていないため、大きな動きはない。

州政府については、厳しく財政均衡が義務付けられている場合が多く、ようやくそれに向かった取り組みが始まりつつある。また、主要な収入源は、所得税と小売税であり、両方とも大きな打撃を受けたものの、回復しつつある。何とか底が見えたという状況とみられる。

問題は、地方自治体である。地方自治体の主要な収入源は、約3分の2が固定資産税であり、州政府からの補助金も大きい。これらの収入により、教職員の給与を賄っている。固定資産評価額は、実際の不動産価格の下落から遅れて動くが、いよいよ、その実勢価格に近付き始めている。また、州政府の財政健全化措置が、補助金に波及しつつある。

地方自治体としては、行政サービスを縮減するか、固定資産税・手数料をあげるか、という選択肢を迫られるが、これまでの歴史をみると、税収引き上げ措置が採られる可能性は低い。そうなると、行政サービスの縮小、特に教職員の雇用抑制・解雇等に影響が及んでくる可能性が高まってくる。

リーマンショックに伴う金融資産・不動産の大幅減価、バランスシート調整に伴う大波が、地方自治体の雇用に到達しつつある。

※ 参考テーマ「労働市場

5月7日 FRBの懸念 
Source :Public Pensions Under Stress (Federal Reserve Bank of Cleveland)
地方政府職員年金の積立不足が大きな課題となっている。Cleveland FRBも重大な関心を持って見守っているようだが、なかなか事態が改善しないことに苛立ちを見せている。州政府等の地方政府は年金改革に取り組んではいるものの、加入者の拠出金額の引き上げ、受給者の受取額の引き下げにまで踏み込まなければ、積立不足の解消にはつながらない、と述べている。

では、なぜFRBがこの問題に関心を寄せているのか。上記sourceの最後に、まとめて記されている。
  1. 規模の大きな年金プランが破綻し、金融システムに影響を与えることは、すぐには起きないだろうが、可能性がないわけではない。

  2. 低金利の状況が続けば、年金資産の運用担当者は、よりハイリターン/ハイリスクの運用に傾く。結果、株式市場にマイナスの影響が及んだ際の年金プランの脆弱性は高まる。

  3. 年金受給権に対する保護が強すぎて、年金プランの持続性を確保できるような改革ができない場合、地方政府は、最終的に税収で年金給付を賄わざるを得なくなる。そうなった場合、経済全般に及ぼす影響は大きい。
地方政府年金を含めた公的年金に対し、中央銀行がこれだけ関心を寄せていることを表明できる環境は、羨ましい限りである。

※ 参考テーマ「地方政府年金

5月6日 Cashoutに関するアドバイス 
Source :Ford's retiree cashout: A trap for the unwary (CBS News)
FordのCashout提案(「Topics2012年5月2日 "De-risk":Ford年金プラン」参照)に関し、専門家は、企業にとってのメリットを3点挙げている。
  1. 年金給付債務に伴うFordの財務諸表の変動リスクを抑えることができる。

  2. PBGCに対する保険料支払いを減らすことができる。

  3. 低コストで給付債務を減少させることができる。
一方、受給者にとって一時金で受け取るメリットは、夫婦ともに健康に自信がなく、長生きする見込みがない場合くらいしかない、としている。余程よく専門家と話し合ってアドバイスを得ることを推奨している。

まあ、普通はそうだろうな。うまい話はそうそうある訳ではない。Fordがよほど魅力的な提案をしない限りは。

※ 参考テーマ「DB/DCプラン

5月5日 Silver Planの負担感 
Source :Patient Cost-Sharing Under the Affordable Care Act (Kaiser Family Foundation)
2014年1月に創設される予定の"Exchange"では、個人、小グループ向けに、4段階の保険プランを用意することが決められている(「Topics2010年9月19日 Tax Creditsと"Exchange"」参照)。その4段階の保険プランとは、保険給付割合で区別されている。
Plan 保険給付割合
Platinum 90%
Gold 80%
Silver 70%
Bronze 60%
ただし、PPACAでは、各段階の保険プランとも、加入者の自己負担に一定の上限を設けている。具体的には、HSAを併用できる高免責額保険プランの免責上限額と同じ金額である。PPACA可決当時(2010年)は個人プランの場合$5,950(家族プラン$12,100)だったが、現在は、個人プランの場合$6,050(家族プラン$12,100)である("Summary of New Health Law" - KFF, P.5)。

そこで、上記sourceでは、自己負担の上限額が、HSAが認められる免責額の最高値となった場合、免責額がどのように設定されるかを試算している。ただし、自己負担上限額は、2014年時点で$6,350と仮り置きしている。結果は次の通り。
当然のことなのだが、自己負担の上限額が同じに設定されているため、保険給付率の低いプランほど、免責額の負担が重くなる。Bronze 1の場合は、免責額負担がSilver 1の倍以上になっている。これがGold、Platinumとなれば、免責額の設定も相当低くなっていく。

Exchangeが創設されても、まだまだ保険購入を難しいと感じる層が残されるということである。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル

5月4日 MSPの姿とは 
Source :Multi-State Plans Under the Affordable Care Act (George Washington University)
医療保険改革法(PPACA)では、各州に"Exchange"の設置を義務付けているが、その際、複数の州で共通の"Exchange"とすることも可能としている(「Topics2010年3月31日(1) 医療保険改革法に署名」参照)。

上記sourceでは、連邦・州政府当局へのインタビューを基に、複数の州で共通に運営されることとなる"Exchange"において提供される医療保険プラン(Multi-State Plans, "MSP")の姿について、紹介している。ポイントは次の通り。
  1. MSPは、州政府の認可を受け、OPMが運営・監督する保険プラン。提供される各州で認可を受ける必要があり、各州法の要請に適合しなければならない。

  2. OPMは、現在のFEHBPと同時並行で運営する。ただし、保険料収入、保険給付、リスク管理など、MSPとFEHBPは別建てで管理・運営されなければならない。

  3. OPMが承認すれば、MPSは全州で提供可能となり、州政府が"Exchange"の選択肢から除外することはできない。

  4. MSPは、各州政府の適性検査を免除される。加えて、"Exchange"における保険料引き上げに関する各州政府の適性審査も免除される。

  5. PPACAは、MSPと州政府が認可する保険プランとの間の"level playing field"を求めている。

  6. MSPを提供するために、OPMは、保険会社(機関)と1年間の直接契約を結ばなければならない。このため、OPMとしては、全米で事業を展開している保険会社との契約を望んでいる。

  7. OPMは、次の2種類の保険プランを提供しなければならない。

    1. 非営利組織が提供する保険プラン
    2. 人工中絶を保険給付対象としない保険プラン

    これに対し、NAICは、現在FEHBPを提供している非営利組織にMSPの提供を認めてはならない、との意見を表明している。組織のガバナンス基準が、民間保険会社との間で大きく異なるためである。

  8. MSPは、どの州でも同一の内容としなければならない。州ごとにプラン内容を変えてはいけない。

  9. MSPは段階を追って全米に提供される。

    • 2014年:60%の州
    • 2015年:70%の州
    • 2016年:85%の州
    • 2017年:全 州

  10. このようなMPSができると、次のようなことが可能となる。

    1. 全米を通じて完全ポータブルな医療保険プランとなる。

    2. "Exchange"の設立が遅れた州で、実際に設立されるまでの間、代替的な保険プランとして提供される。

    3. 保険会社間の競争が少ない、独占的・寡占的な保険市場を抱える州で、重要な選択肢として提供される。
PPACA以前、医療保険の州際購入の是非を巡って延々と議論していた頃とは、隔世の感がある。しかし、MSPが実現し、州の壁が低くなってくると、医療・医療保険市場には大きな影響がもたらされるのではないだろうか。特に、医療保険を巡る連邦政府と州政府の管轄問題は、大きく変質する可能性が高い。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル」、「無保険者対策/州レベル全般

5月3日 自宅勤務の課題 
Source :The perks and perils of telecommuting (The Washington Post)
上記sourceでは、アメリカで情報通信技術が発達したお蔭で自宅勤務等のフレックスワークが可能になっている様子が紹介されている。その中で、今回、認識を新たにした点についてまとめておく。
  1. 物理的に離れた場所で勤務することで、職場の仲間と情報を共有できない可能性が高まる。それだけでなく、いわゆる"on-the-job"の教育・訓練が不足するのはやはり問題である。これは、定期的に職場に出てくるだけでは得られない。やがてははっきりとした能力の違いになって表れることになろう。

  2. 上記sourceには書いていないのだが、自宅勤務者と職場にいる職員達が、お互いに何をしているのか、何をしようとしているのか、という情報がシェアできない。自宅勤務者と職場のボスとの間ではシェアできても、その情報を職場の職員が得られない。また、職場の職員とボスとの間で共有されている情報を自宅勤務者は知らない、ということが起き得る。この問題は、最終的には、人事評価に関する不信感を招きかねない。

  3. 最後近くに出てくる"Remain open to a diversified workforce."というフレーズは、よく肝に銘じておきたい。この仕事は職場、あの仕事は自宅、と線を引いてしまうと、そこからいろいろな課題が発生してくる。常に、これは自宅勤務でできないか、という問いかけを続けることが重要なのだろう。
※ 参考テーマ「Flexible Work

5月2日 "De-risk":Ford年金プラン 
Source :Ford offers retirees lump sum to buy out pensions (USA TODAY)
Ford's lump-sum offer is a first for a U.S. pension plan (Pensions & Investments)
Fordが、決算報告の一部としてDBプランのリスク軽減策を公表した。そのポイントは次の通り。
  1. Ford退職者の年金受給権と引き換えに、一時金(lump sum)を支払う。

  2. 対象者は、@約9万人の退職者とA中途退職者。いずれも労組員を除くサラリー従業員。

  3. 一時金を受け取るかどうかの選択は、一回限り。

  4. 一時金支給に必要な資金は、年金資産から支出する。

  5. 目的は、給付債務の減額と、バランスシート上の変動抑制である。
平行して、同社は年金資産の配分先を見直し、こちらの面でもリスクを低減させようとしている(「Topics2012年2月29日 Fordの年金リスク管理」参照)。

同社の年金プランのバランスシートは次のようになっている。
給付債務年金資産積立比率
アメリカ$48.8B$39.4B80.7%
全世界$74B$58.6B79.1%
おおよそ2割の積立不足が存在している。これを年金から一時金に振り替えることで、縮小していこうということである。

専門家によれば、こうした試みはアメリカ大企業では初であり、その背景には、PPAの完全実施があるのではないか、という。PPAでは、一時金払いの際に利用する割引率を、財務省30年債券から社債イールドカーブに置き換えることとし、2008年から2012年の5年間かけて移行することとしていた(「Topics2006年8月9日 Pension Protection Act of 2006 概要」参照)。つまり、今年は100%社債イールドカーブを利用することになっていた。通常、財務省証券と社債イールドカーブの間のスプレッドは125〜150ベーシスほどあり、今年に入って、目一杯のスプレッドを利用できる、逆に言えば、最も一時金を低く抑えられる年になったということである。

こうした判断がFord社にあったとすれば、このような提案が大手企業各社から続くことが予想される。年金よりも一時金の方がリスクを抑えられ、同時にその振り替えコストも低くなったからである。

最後に、企業側はこのような振り替えによりリスクを低減できるが、その分、一時金を選択した退職者、元従業員にリスクが寄せられることになることを忘れてはいけない。

※ 参考テーマ「DB/DCプラン」、「企業年金関連法制

5月1日 誰が"full-time worker"か 
Source :Which employees are considered full-time for purposes of the health care reform employer mandate? (BNA)
医療保険改革法では、企業に"Play or Pay"ルールを課している。50人以上の"full-time worker"を雇う企業には、医療保険プランの提供を義務付けており、もし提供しない、または充分な内容の保険プランを提供しない場合には、ペナルティが課される。施行は2014年1月1日からである(「Topics2010年3月27日 医療保険改革法:企業への影響」参照)。

また、同法では、"full-time"とは、平均週30時間の労働時間、と定義している。

さらに、IRSDOLは、次のように細則を示している。 やはり、同法の本格施行となる2014年は、企業にとってかなりの事務負担が発生することは間違いなさそうだ。

(9月11日追記)
さらに詳しいガイドライン(Notice 2012-58, Notice 2012-59)がIRSから公表されている。解説記事も掲載しておく。

※ 参考テーマ「無保険者対策/連邦レベル