10月31日 IFRSに関する意見表明 Source : Statements

10月24日、上院で国際会計基準に関する公聴会が開催された。そこには、IASBからSir David TweedieFASBからRobert HerzSECからConrad Hewittという、錚々たるメンバーが出席し、意見表明を行った。上記sourceは、その3人の発言原稿である。 これらを読んでみての感想をいくつか。
  1. Tweedie議長は、「IASBの目的は世界で使用される唯一かつ高品質で、原則ベースの会計基準を目指している」としながらも、「アメリカ基準をIFRSへ移行させるかどうかについてはSECが判断すること」として、明言を避けている。この辺りが政治的感覚がある、といわれる所以である。

    少なくとも、現時点では、IFRSはEUの基準であり、アメリカ議会がそれをすんなりと受け止めるはずはない、ということを百も承知なのである。

  2. Herz議長は、「アメリカ基準から、今後さらに改良されたIFRSに移行することは、効果的であり、論理的でもある」としている一方で、完全に移行するには様々な課題を解決しなければならない、とその実務的困難さについても理解を示している。

    また、移行の際には、タイムスケジュールを明確にし、アメリカ基準とIFRSが長期間並存することのないようにすべき、と釘をさしている。

  3. Hewitt主任会計士の発言の中で、"Globally Accepted Accounting Standards"という言葉が何回か出てくる。現在のアメリカ基準は、"U.S. Generally Accepted Accounting Principles"と呼ばれている。つまり、Hewitt主任会計士は、"GAAP"から"GAAS"への移行を示唆しているように思われる。

    また、発言の最後に、最近の2つのパブリック・コメント(「Topics2007年6月24日 外国企業のIFRS」「Topics2007年8月24日 アメリカ企業にIFRS(2)」参照)の総括のような発言があるので参照されたい。

10月30日 Chrysler妥結 Source : UAW Members at Chrysler Approve Four-Year Contract With VEBA (Kaisernetwork)

上記sourceのポイントは2つ。第1は、ChryslerとUAWの間で、VEBA設立が合意に至った。UAWの組合員の賛成票が過半数を上回ったからだ。内容は、「Topics2007年10月17日 VEBAの概要」の通り。

第2は、FordとUAWの協議はまだ続いているとのこと。

最後にいつもの株価動向。 ⇒ GM  Ford

10月27日 医療コスト増大の影響 
Source : Rising Health Care Costs are Changing the Ways Americans Use the Health Care System (EBRI)

上記sourceは、我がEBRIのレポートである。医療コストの増大が、医療のみならず、他の分野でも影響を及ぼしていることを検証している。

ポイントは次の通り。
  1. 医療の分野での影響

    1. 健康管理に気を遣うようになった。

    2. 処方や費用について、医者とよく相談するようになった。

    3. 症状がひどい時だけ医療機関に行くようになった。

    4. 医療機関に行くのを待って、しばらく様子をみるようになった。

    5. 処方薬の採り方を間引くようになった。

    FIG1

  2. 金融資産への影響

    1. 年金プランへの拠出額を減らした。

    2. 貯蓄額を減らした。

    FIG3

  3. 医療保険政策

    1. 連邦政府、州政府などによる皆保険の提供よりも、企業による保険プラン提供の方が現実性が高いとの意識が強い。

    2. 企業に医療保険プラン提供を義務付けることに賛成なのが、91%を占める。

      FIG13

    3. 従業員規模別の義務付け範囲についての賛成割合は、右の通り。

      従業員規模にかかわらず全企業に義務付ける42%
      従業員30人以上の企業に義務付ける18%
      従業員50人以上の企業に義務付ける12%
      従業員100人以上の企業に義務付ける10%
      従業員1,0000人以上の企業に義務付ける5%
      企業に義務付けるべきではない9%


これを読んでの感想を2点。
  1. 医療コストが退職後の所得確保に影響をもたらしているとすると、公的年金の制度設計や企業年金の制度設計にも政策議論が及ぶ可能性が出てくる。一方で、従業員に関する人件費という意味では、同じ懐の中の配分の話であり、ある程度は自然の成り行きともいえる。その辺りのバランスをどう判断するのか、というのが政治の役割になろう。

  2. 企業による医療保険プランの提供に期待を抱く国民が多いとすると、Clinton提案(「Topics2007年9月18日 Clinton提案」参照)への支持率は高いものとなろう。また、退職所得確保のためにも、減税によるマッチングというClinton提案(「Topics2007年10月13日 減税でマッチング:ヒラリー提案」参照)も、またタイムリーなものである。

10月26日 下院SCHIP拡充修正法案可決 
Source : Just the Facts: Top Five Reasons the Democrats' "New" Schip Bill Is Actually More of the Same (The White House)

25日、下院でSCHIP拡充修正法案(HR 3963)が可決された。しかし、大統領拒否権を覆すのに足る2/3の賛成票は得られていない。投票結果のこれまでとの比較は下の表の通りとなっている。
SCHIP拡充法案
HR 976
第1回(9/25)賛成反対棄権
民主党22084
共和党451515
合 計2651599
第2回(10/18)賛成反対棄権
民主党22922
共和党441542
合 計2731564
SCHIP拡充修正法案
HR 3963
第3回(10/25)賛成反対棄権
民主党222110
共和党4314116
合 計26514226
民主党の賛成票が減っている点、両党とも棄権が大幅に増えている点、などをみると、今回の投票について党派の締め付けはそれほど強くなかったことが窺われる。

また、これだけ短兵急にやられると、嫌気がさした議員も多かったであろう。

棄権も反対の意思表明と考えれば、第1回目の投票結果とほとんど変わっていない。つまりは、党派間での意見調整はまったく進展していないことの証でもある。

一方、Bush政権の方は、修正法案は何も変わっておらず、このまま大統領府に送られてくれば、再び拒否権を発動すると表明している。上記sourceでは、その理由を5点挙げている。

  1. 貧困状況にある子供の医療保険を提供するという、SCHIP本来の目的から逸脱している。

  2. 大増税が必要となる。

  3. 民間保険でカバーされている子供たちを、使い勝手の悪い公的医療保障プランに移行させようとしている。

  4. 不法移民までカバーしようとしている。

  5. 制度の運営責任の一部を、州政府から連邦政府に移そうとしている。
しばらくは、こうしたジャブの応酬が続くのであろうが、長引けば長引くほど、共和党議員にとって苦しくなるのは目に見えている。

10月25日 SCHIP拡充修正法案 
Source : House Democrats Plan To Vote Thursday on Revised SCHIP Legislation That Tightens Language on Income Limits, Undocumented Immigrants (Kaisernetwork)

下院民主党は、SCHIP拡充修正法案を25日にも投票にかけるつもりのようだ(「Topics2007年10月19日 共和党は茨の道へ」参照)。選挙区で民主党の対応が好評を得ており、この風を弱めてはいけない、との判断から、修正法案の投票も早めたいということだそうだ。

修正法案を提示されて、熟読する余裕もないうちに投票を迫られる共和党議員は、たまらないだろう。

上記sourceによれば、主な修正点は次の2点。
  1. SCHIPの受給資格を、FPL300%未満に絞る。
  2. 市民権の認定について、州の大幅な裁量を認める。
これに対して、下院共和党、Bush政権は、次の諸点について、さらなる修正を求めている。
修正事項
修正要望
下院共和党受給資格要件FPL200%未満
市民権の確認不法移民の排除
民間保険民間保険を通じたSCHIP加入を
阻害するような事項は含めない
Bush政権受給資格要件一定条件をもとにFPL300%未満
たばこ税たばこ税増税反対
まだまだ両者の開きは大きいようであり、しばらくは政治ショーが繰り広げられることだろう。

10月24日 個人破産申請が急増 Source : More Debtors Use Bankruptcy To Keep Homes (WSJ.com)

今話題のサブプライム問題である。資金繰りが苦しくなって返済がままならなくなった個人が、何とかマイホームを保持するために、破産申請を多用しているそうだ。

ただし、没収手続きが一時的に止まるだけで終わるケースが多く、Chapter 7を利用した場合には、ほぼほとんどが家を失っているし、Chapter 13の場合でも、保持できたケースは少ないとのことである(Chapter 7と13の違いはここ)。

クレジット・カード破産よりも破産規模は大きいであろう。アメリカ経済、消費への影響が大きくないことを祈るのみである。

10月23日 シュワ知事が共和党候補に苦言 Source : Schwarzenegger urges Republicans to seize centre (Financial Times)

シュワ知事が、FTとのインタビューに答えて、「共和党候補は、医療保険改革、教育にもっと焦点を当てて、中間派をひきつけなければいけない」と苦言を呈した。共和党の候補者達は、保守層の得票を確保するために、同性婚、中絶、移民などの社会問題に焦点を当ててキャンペーンを張っているが、これでは本番の大統領選を戦えないぞ、という訳だ。

確かに、Clinton上院議員の医療保険改革提案(「Topics2007年9月18日 Clinton提案」参照)、確定拠出年金改革提案(「Topics2007年10月13日 減税でマッチング:ヒラリー提案」参照)は、中間派、特に勤労世帯を充分に魅了するだろう。

上記sourceで引用されて入るシュワ知事の発言が泣かせる。
"Every decision has to based on what is the best for the people, how can I serve the people, rather than how can I serve my party."
本当にシュワ知事は大統領の資質を備えた逸材なのかもしれない(「Topics2004年9月2日 シュワちゃんのDream」参照)。"シュワ大統領"を見てみたかったものである。

最後に、シュワ知事は、Bloomberg氏を支援するという。民主党が圧倒的に強いNY市で市長を務め、党派を越えた活動をしている、という点がポイントだ。そのBloomberg氏は、共和党籍を抜いて、独立系候補として立つ。この二人の動向が、2008年大統領選にどのような影響をもたらすのか、興味深いところである。