上記sourceは、SEIという投資顧問会社が行った、アンケート調査の結果概要である。調査対象は、$40M〜$3.5Bのプラン資産を有するDBプランを運営するアメリカ企業(139社)、カナダ企業(163社)の責任者である。つまり、北米大企業のDBプラン責任者である。これらの結果を受けて、SEIは、
その責任者達の回答概要は、次の通り。
- 42%の企業が、依然としてDBプランを継続するとしているが、従来の運営手法からは大きく異なる道を摸索している。
- 企業年金保護法(PPA 2006)の成立(「Topics2006年8月9日 Pension Protection Act of 2006 概要」参照)を受け、81%が、DBプラン運営のアウトソーシングを検討している。
- 29%の企業が、2007年末までに、DBプランを閉鎖、凍結、または廃止すると回答している(「Topics2006年9月4日 2007年はDB凍結続出?」参照)。もし、これが現実となれば、回答企業の52%が、2007年末までに、DBプランを閉鎖、凍結、または廃止することになる。
- 61%の企業が、新しい積立基準は、企業の長期戦略に影響を与えると見ている。
- 11%の企業が、プラン設計の変更は株主、債権者の理解を得やすくなっていると感じている。
- プラン内容の変更を検討していると回答した企業のうち、
- 68%が、コスト抑制を目的としている
- 46%が投資リスクの抑制を目的としている
- 22%が、従業員の引き留め効果を求める必要がない
- 14%が、取締役会が再評価を求めている
- 11%が、福利厚生の従業員間の公平性確保を狙っている
- 8%が、変更は外部関係者から容認される
- 8%が、親会社からの変更を求められている と回答している。
8日、Division of Health Care Finance & Policy(DHCFP)が、企業に求める"Fair Share Contribution"の免責基準を決定した。
内容は、6月30日に示された実施案と同じである(「Topics2006年7月3日 MA皆保険法の実施案」参照)。
Fair Share Contribution
- 従業員に対して医療保険プランを提供していない事業主について、"Fair Share Contribution"の拠出を求める。
- 対象は、11人以上の正規従業員を持ちながら、「医療保険プランを提供していない」事業主。
- 「医療保険プランを提供している」事業主の定義(つまり、Fair Share Contributionの免責要件)
- 第1要件
- 10月1日から9月30日までの間の1年間で、次の値が25%以上となる。
(事業主が提供する医療保険プランに加入している正規従業員の勤務時間数)÷(全正規従業員の勤務時間数)×100- 正規従業員とは、週35時間以上勤務する従業員。1年間のうち一定期間のみ正規従業員であった場合には、正規従業員であった期間の勤務時間を計算する。
- 年間16週以下の勤務の季節従業員は、正規従業員に含めない。
- 年間90日以下の勤務の臨時雇従業員は、正規従業員に含めない。
- 独立契約者は、正規従業員に含めない。
- 第2要件
- 第1要件を満たさない場合、年間90日以上勤務した正規従業員について、保険料の33%以上を事業主が負担している。
専門家からは、大・中規模企業は、ほとんどクリアできるのではないか、との見方が示されている(Business Insurance)。
一方、事業主課徴金、保険プラン加入者記録届についての決定は見送り、さらに検討を続けることとなっている。
今月後半を待たずに、12日、来年のMedicare保険料が発表された。かなりマスコミが騒ぎ始めたことで、早めに公表したのではないかと思われる。概要をまとめておくと次のようになる。
(2007年)
Medicare 保険対象 加入資格 保険料 免責額> Part A 入院 強制 $410/M : 30 quarters未満 免責額 $992 : 60日以内 Part B 外来診療 任意 $93.5/M 免責額 : $131/Y
なお、Part Dの保険料は、0.1%の上昇にとどまる見通しである。
Medicare Part B 基本保険料 年 保険料($/M, 月額) 上昇率(%) 2007 93.50 5.6 2006 88.50 13.2 2005 78.20 17.4 2004 66.60 13.5 2003 58.70 8.7 2002 54.00 8.0 2001 50.00 9.9 2000 45.50 0.0 1999 45.50 3.9 1998 43.80 0.0 1997 43.80 3.1 1996 42.50 -
Medicare Part B 付加保険料 2005年の所得 2007年 付加保険料 保険料合計 $80,001-$100,000 $12.5 $106.0/M $100,001-$150,000 $31.2 $124.7/M $150,001-$200,000 $49.9 $143.4/M $200,001- $68.6 $162.1/M
上記の数字を見ていて、7月の推計として示されていた伸び率にくらべると、随分低い伸び率に抑えられているというのが第一印象である。ちょうど半分の伸び率である。上記sourceの説明を読むと、前提として、国民一人あたり医療費の伸びが6%と見込まれている。2ヶ月の間に、ここまで伸び率の修正を行うほどの変化が起きたとも思えない。穿った見方をすると、当局が鉛筆を舐めたのではないか、と疑いたくなるくらいだ。
ちなみに、CMSの推計によれば、付加保険料を課されるのは、Medicare加入者の約4%にあたるとされている。また、これは報道ベースであるが、付加保険料を嫌って、2007年には9,000人、2010年までに30,000人がMedicareから離脱するとの推計も示されている(Washington Post)。
Medicareは、大きく3つに分かれている。
(2006年)
Medicare 保険対象 加入資格 保険料 免責額または自己負担> Part A 入院 強制 - : 40 quarters以上
$216/M : 30-39 quarters
$393/M : 30 quarters未満免責額 $952 : 60日以内
自己負担 $238/D : 61-90日
自己負担 $476/D : 91-150日
自己負担 全額 : 150日超Part B 外来診療 任意 $88.5/M 免責額 : $124/Y
自己負担 : 免責額超過分の20%Part D 処方薬 任意 $35/M(平均) 免責額 : $275/Y
自己負担 : 免責額超過〜$2,200の25%、$3,500超過分の5%
そのうち、Part Bの保険料については、当該年度のPart B医療費全体を推計し、そのうちの25%をカバーできるように設定される。残りの75%は公費(税金)で賄われる。2007年保険料の正式発表は、今月後半に予定されているが、今年7月のCMS推計では、$98.40/Mとなっている。
Medicare Part B Premium 年 保険料($/M, 月額) 上昇率(%) 2007 98.40(?) 11.2(?) 2006 88.50 13.2 2005 78.20 17.4 2004 66.60 13.5 2003 58.70 8.7 2002 54.00 8.0 2001 50.00 9.9 2000 45.50 0.0 1999 45.50 3.9 1998 43.80 0.0 1997 43.80 3.1 1996 42.50 -
上述のような計算方法となっているために、Part B保険料は、医療費の高騰をもろに反映する仕組みとなっている。伸び率こそ鈍化してきたものの、2桁増が4年続き、たった6年間でほぼ倍増したことになる。
これだけでも相当な負担増なのに、2007年はこれだけでは済まないのである。2003年12月8日に成立したMedicare改革法(「Topics2003年12月9日 Medicare改革法に大統領署名」参照)に基づき、高所得者層には付加保険料が課されることになっているのである。上記sourceで示されている概要は、次の通り。
2005年の所得 2007年 → 2009年(保険料合計) 付加保険料 保険料合計 $80,001-$100,000 $13(基本保険料の13.3%) $111.5/M → 基本保険料の1.4倍 $100,001-$150,000 - - → 基本保険料の2倍 $150,001-$200,000 - - → 基本保険料の2.6倍 $200,001- $72(基本保険料の73.3%) $170.5/M → $375(基本保険料の3.2倍)
現在、Part Bの加入者は4,000万人いるが、こうした付加保険料を課される人の割合は、推計機関によって異なっている。Medicareを所管するCMSは2%としているが、CBOは5%、SSAも4〜5%とみている。
さらに、現在の法律では、上表の所得区分をCPIで調整することになっているが、Bush大統領は、この調整措置を廃止するよう提案している。ということは、この所得区分にひっかかる人、つまり高所得者層の数がさらに増えることになる。
もっと悪いことに、こうした付加保険料が課されることが、あまり知られていない。11月頃に通知するということだが、実際に年金給付から天引きされて初めて知る、ということが多いと思われる。
この付加保険料に対するアメリカ国内の評価をまとめておく。なお、情報sourceは、上記source+Kaisernetworkである。
上記反対派のd.で示されているように、法案成立当時はほとんど議論されていなかった。管理人も、恥ずかしながら、まったく気づかないまま上記sourceを読んで、驚いている次第である。
- 賛成派
- Medicareのコストが増大する中で、高所得者に更なる負担を求めるのは理にかなっている。
- Medicareは、財政的に持続可能性を確保できていない。
- 給付水準を削減するのでもなく、保険料を引き上げるのでもなく、Medicareの財政強化を図ることができる。(一部の民主党員)
- 高所得者層には近年大幅な減税が行われており、追加的な負担は十分可能である。(Sen. Dianne Feinstein, D-CA)
- 医療費コストが急増し、高齢化も進む中で、フロリダのリゾートで暮らす百万長者の老人を、引退したバス運転手と同じように扱うわけにはいかない。(Robert Moffit, Director, the Center for Health Policy Studies at the Heritage Foundation)
- 反対・懸念派
- 高所得者達がMedicare Part Bから離脱し、民間保険プランに移行するのではないか。それによって、Medicareには、中低所得者、不健康な高齢者ばかりが残ってしまうのではないか。
- 中所得者層に大きな打撃を与える懸念があり、付加保険料は廃止すべきである。(Rep. Nita M. Lowey, D-NY)
- 付加保険料は、財政の問題ではなく、政治の問題として重要である。所得に応じた負担という考え方は、社会保険の世界では極めて異質であるからだ。多くの高所得者がPart Bの代替となる保険プランを探し出し、他の高齢者と同じプランに加入することはなくなるだろう。(Theodore R. Marmor, Prof. at Yale)
- 付加保険料は、公開の議論が行われることなく法案に盛り込まれた規定である。Medicare改革法案の上院案でも下院案でも入っていなかったのが、共和党優位の両院協議会で付け加えられたのである。(McClatchy/Bee)
- 高所得者層の人々は、現役時代にも多額の保険料を支払ってきている。高齢者となっても多額の負担をすべきではない。また、そうした層の就業意欲を削ぐことになる。(AARP、Medicare Rights Center、Senior Citizens League)
- 将来、中所得者層にも付加保険料を求めるために、所得基準をより厳しくする可能性がある。多くの加入者が離脱することになれば、Medicareは福祉プログラムとなり、コスト増に歯止めがなくなる。(Maria Freese, Director, National Committee to Preserve Social Security and Medicare)
また、社会保険料の中に所得再分配の考え方を入れることは、アメリカでは異質かもしれないが、世界的にはむしろ常識ではないだろうか。医療の皆保険制度の中でも議論されているように、universalな制度にしようとすればするほど、この考え方はつよくなっていくと思う。実際、アメリカでも、公的年金制度では、給付乗率を逓減させることで、再分配の要素を強めている。
久し振りに、Chapter 11と年金プランの廃止に関するトピックである。
ERISAでは、Chapter 11に入ってしまった再建中の企業が、破産裁判所に対して、『年金プランを廃止しなければ、債務を返済し、Chapter 11後のビジネスを継続できない』ことを示せれば、年金プランを廃止することを認めている(29 USC §1341(c)(2)(B)(A)(W))。29 USC §1341(c)(2)(B)(A)(W)これは、通称、『再建基準(reorganization test)』と呼ばれている。
(ii) Reorganization in bankruptcy or insolvency proceedings The requirements of this clause are met by a person if -
・・・・・・・・・・・・・
(IV) the bankruptcy court (or such other appropriate court) determines that, unless the plan is terminated, such person will be unable to pay all its debts pursuant to a plan of reorganization and will be unable to continue in business outside the chapter 11 reorganization process and approves the termination.
Kaiser Aluminum Corp.は、2002年2月から2003年1月までChapter 11のもとで再建手続きを進め、その間に、年金プランをPBGCに移行している。それは、PBGC引き受けプランの中でもかなり大規模なものであり、2005年時点でも、歴代9位の規模となっている(「Topics2006年6月30日 PBGCに負わせた負担」参照)。
当初、Kaiser Aluminumは、7つの年金プランのうち6つについて廃止したいと提案していた。ところが、Delaware破産裁判所で審議中に、PBGCから反対動議が提出された。PBGCは、『個別年金プランごとに再建基準に照らし合わせて見るべきである。そうすれば、企業側から提案されている6つのプランのうち、大規模な2つのプランは再建基準を満たし、廃止することが適切だが、残りの4プランは再建基準を満たしていないことになる。』との主張を行ったのである。
破産裁判所は、6プラン全部をまとめて『再建基準』に合致していると判断し、すべてのプランの廃止が必要と認めた。その際、PBGCの主張は、『債務者は、労組と公平に交渉しなければならない』という破産法の基本を侵害している、と判断した。
また、PBGCの控訴を受けた連邦地方裁判所(Delaware)も、破産裁判所の判決を支持した。
第3控訴裁判所もまた、破産裁判所、連邦地方裁判所の判決を支持し、次のようにコメントした。まあ、勝ち目のない争い、ほとんど言いがかりのような訴訟を挑むほど、PBGCは危機感を持っていた、と解釈してあげればいいのだと思うが、PBGCは完膚なきまでに論破されてしまった。また、アメリカ社会における破産法制の定着度を思い知る事例でもある。
- 破産裁判所、地方裁判所の判断は、実務的なものである。
- PBGCの主張通りに判断しようとすると、個別プランが再建基準に適合するかどうかを判断する順番を決めなければならず、それは事実上不可能である。
- 複数のプランについて判断する方法は、ERISAではまったく規定されていない。
- PBGCの手法では、「債権者のエージェント」という破産裁判所の伝統的な役割を捨てなければならなくなる。
- 破産裁判所が、どの従業員集団が優先されるべきか、という判断をせざるを得なくなる。
- 再建中の企業の年金プランを再建基準に則って廃止するかどうかを判断する権限は、PBGCではなく、破産裁判所にある。